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 コマ撮りアニメーション(ストップモーション・アニメーション)が、この何年かの間にブームと言ってもいいほどの盛り上がりを見せている。静止している物体を1コマごとに少しずつ動かして撮影することで、まるでその物体自身が動いているかのように見せるこの撮影技法。映画におけるSFXの技術としては、CG(コンピューターグラフィックス)に取って代わられてしまったものの、映像作品の一ジャンルとしては、作り手の苦労が想像できる手作り感満点の、どこかぎこちない表現が愛され、今もなお多くの作品が作られている。『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』『ウォレスとグルミット』といった作品のヒットが記憶に新しいところだが、そうした商業ベースの作品ばかりでなく、アマチュア、あるいはプロの作家による非商業作品も続々と動画サイトなどで発表されており、才能あふれる新しい作家も誕生している。
 今回ご紹介するコマ撮りアニメクリエイター、勝山聡子さんもその一人だ。

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※キャプチャー画像は『ひきだし犬』冒頭の1シーン


 先頃、自身の作品『ひきだし犬』全4話をYouTubeにアップした勝山さん。口がひきだしになっている不思議な犬と人間の少女の交流をユーモラスかつシュールに描いたこの作品は、アマチュアの域を超えた完成度が国内外で評価され、『崖の上のポニョ』も出品されたスイスのファントッシュ国際アニメーション映画祭他、数々のフィルムフェスティバル、コンペティションでノミネートおよび上映歴を持つ。今後、ネットを通してさらなる注目を集めることだろう。



 制作には膨大な時間と手間を要するといわれるコマ撮りアニメの世界。作品が完成に至るまでには、一体どのような苦労があるのだろうか。
 そこで今回、勝山さんに『ひきだし犬』の制作裏話や、コマ撮りアニメの魅力などをうかがった。

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■まず、『ひきだし犬』ってどんなところから思いついた話なんでしょうか?

 初めてちゃんと作る作品だったので、人と動物を動かしてみたくて、女の子っていうのはすぐに決まったんですけど、動物を何にするか考えているとき、庭に犬小屋があれば、キャラクターが外に出て動きがつけやすい。
 じゃあ、犬にしようとなったんですけど、普通の犬じゃつまらないと思ったとき、昔、通っていた美大の授業で作った、おなかのひきだしからやさしさを出すお化けのフィギュアが部屋に飾ってあって、なるほど、これ(ひきだし)を口にしたらいいんじゃないかって。
 それから、口がひきだしだったら何ができるだろう? 何か出てくるだろうって、最初の頃は普通に食べ物が出てきていたんですけど、段々出てくるだけじゃつまらないから、そうだ、逆に何か入れようって。それで3話目では、ひきだしに水を入れてみました。
 初めてちゃんと作るパペットアニメだったので、いろいろなことを試したかったんです。水の表現とか、粘土を使うとか、上から何かをつるとか、そういうやってみたいことを組み合わせて、いろいろ話を考えていきました。


■なるほど。試してみたい表現があって、それを生かすにはどういう物語にすればいいかというふうに考えていったわけですね。4話通して、女の子と犬の関係がべたべたしていないところがいいなと思いました。

 はじめから仲良しだったらおもしろくないと思ったんです。じゃあ、女の子と犬の関係性をはっきりさせようと思って、一応、裏設定をいろいろ考えたんです。
 実は物語の舞台はパリなんです。あの女の子は一人っ子で、親の転勤で引っ越してきたばかりなんですけど、友だちができなくてちょっとふてくされている。
 一方、あの犬はお母さんは普通の犬なんですけど、お父さんはタンスなんです(笑)。野良犬だったお母さんがタンスの中で一晩寝てしまったら、あの犬が生まれたんですけど、「なんだこいつ気持ち悪い」ってお母さん犬から捨てられてしまった、かわいそうな犬なんです。愛情に飢えている犬とふてくされている女の子。実際に話に出てこなくても裏側の設定をちゃんと作っておいたほうが後々矛盾がないと思って、いろいろ考えました。

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※キャプチャー画像は、ひきだし犬と女の子


■制作期間は4話で2年間ということですけど、実際の撮影はどれぐらい?

 1話の撮影に3、4か月かかってます。


■1日の撮影で、どれぐらい撮れるんですか?

 そんなに動かないシーンなら20秒ぐらい撮れるんですけど、大体10秒ぐらい。


■1日10秒! 1話が大体5分ぐらいだから、えっと......気が遠くなりますね(笑)。

 でも、楽しいんですよ。


■女の子が本を読もうと思って、本を手にとって、ベッドに座ると、本が逆さまだからそれを直すというシーンがあったんですけど、そういうシーンを入れなければ、撮影も楽になるわけじゃないですか。でも、きっとそういうところが見せどころなんですよね?

 そういうアクションをちょっと入れることで自然になるんです。撮影では、読んでいた本を机の上に置いて、それを自然に持ってきたらどうなるかということを考えるんですよ。そしたらああなっちゃったんで、しかたないから動かしました(笑)。

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※逆さまになっていた本を直すというくだりはあってもなくても物語には関係ないように思えるが、そういうアクションを加えることで、人形の動きが自然になる


■人形を動かす前に、まず自分で動いてみたりするんですか?

 そうです。だから、人の動きにすごく詳しくなりましたよ(笑)。横に移動するとき、人はどうやって動くんだろう? あ、一歩後ろに下がるんだとか、後ろ向きに歩く時と前に歩く時とでは、足の動かしたかたはどう違うんだろうとか。
 実は、最初作ったお人形の足が短かったんです。いざ歩かせようと思ったら、一歩が短かった。これはダメだと思って、下半身を作り直して、これで歩けるようになったぞ。じゃあ歩かせるにはどうすればいいんだろうって、ずっと一人で歩きまわったり、顔の表情も眉毛と口だけで表現しなきゃいけないので、どういうところに置いたらびっくりしているように見えるだろうと考えたり。特に犬の表情が大変でしたね。口が四角で固定されていて、眉毛もないので、感情を目だけで表現しなきゃいけなかったんです。悲しそうに見える角度とか、ちょっとずつ動かして探しました。


■雨漏りの水滴が天井からぽたっと落ちるシーンはどうやって撮ったんですか?

 釣り具という昔からコマ撮りアニメで使われている道具があって、それで糸を垂らして、入れ歯安定剤で作った水滴をちょっとずつ下げていって、それを撮影するんです。うまい角度で撮れると、糸が映らなくてそのまま使えるんですけど、糸が写ってしまった場合は後から消します。水の表現は、すごくおもしろかった。水滴がぴちょんとはねるところも小さい丸をたくさん作って、それが段々くっついていって一個になるんですけど、「あ、水っぽい」ってひとりでよろこんでいました。

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※撮影していておもしろかったという雨漏りのシーン。天井から垂れる水滴は入れ歯安定剤で作った。水滴がはねる動きにもこだわった


■水滴がカップの中にたまっていくというシーンも大変だったのでは?

 水滴が水面に落ちて、ぴちょんとはねる映像をスローモーションで見て、できるだけ再現しようと思いました。水滴が真ん中に落ちて、周りが盛り上がって、段々外に広がっていって、真ん中がちょっと盛り上がって消える......コマで見てもらうと、そうなっているはずです。大変だったと言うよりは、楽しかったですね。


■楽しくないシーンもあるんですか?

 あります。ひたすら歩いているシーンですね。後から聞いたら、歩くシーンはできるだけ歩かないように撮ることがコツだそうです。そう言われてから、いろいろな作品を見てみたら、確かにそんなに歩いていない。あるいは足が映っていない(笑)。こっちからこっちまで歩かせるってすごく時間がかかる割りに、同じ動作の繰り返しで単調すぎてつらかったです。


■その他に見せどころや、このシーンは表現として力を入れたところってありますか?

 水を吸った犬が膨れていって、最後にはしぼむシーン。最初は風船に皮を貼り付けて、中に空気を入れてちょっとずつしぼませようと思っていたんですけど、全然うまくいかなくて、3か月ぐらい悩んで、結局、膨らんだ状態としぼんだ状態を作って、中間はCGで処理しました。でも、そのシーンはどうしてもやりたかったんです。時間があったら、ちょっと膨らんだ犬、もうちょっと膨らんだ犬って、いろいろな大きさの犬を作って、それを撮影するというやり方でできたと思うんですけど、時間が足りなかった。1話目の犬の口から犬小屋が出てくるシーンはちょっとずつ形が違う犬小屋を作りました。あのシーンにはそれなりによくできたと思います。


■2話目には黒い粘土のキャラクターも出てきますね?

あの子は「粘土君」って言うんです。粘土も使いたかったんです。むにょっとした質感を表現したかった。粘土と言うよりはゲルっぽいってイメージなんですけど、犬の口からぴよっと出てきた後、ちょっとプルンとするんです。しかも地面に落ちたときぴちゃって音がしている(笑)。あいつはぴちゃぴちゃした生き物なんです。そういうところにもこだわっています。粘土にもいろいろあるんですけど、柔らかくて動かしやすいやつは、色がすごく着く。(セットの)地面や犬の口が真っ黒になってしまうんです。だから、色が着かないように硬めの粘土を使いました。多少汚れるんですけど、柔らかいやつよりはまだましなので。ただ、硬い。だから、粘土君はゲル状の割にはちょっと体が硬い子になっています。実は、粘土君が出てきたシーンの後、犬の口がちょっと黒いんです。がんばって拭いたんですけど、落ちなくて(笑)。

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※粘土君はぴちゃぴちゃした生き物。ゲルのイメージで、ぷるんいう動きにこだわった



■女の子が折り紙を折るシーンもありましたね。

 かわいいかなと思ったのと、一応、海外のコンペティションに出品することを考えていたので、折り紙って日本的かなと思って、入れてみました。でも、折り紙のシーンはそんなに大変ではなかったです。紙は素直に従ってくれる。普通に折れば、折り目がつくので、水滴みたいにちょっとずつ形を変える必要もないので。もちろん、小さいから折るときはピンセットでの作業になるんですけど、幅が1ミリもない女の子の眉毛を、手で切ることと比べたら、折り紙は楽なほうでしたね。

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【後編】はこちら>>

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