ここから本文です

"手紙"はめったに送らなくなってしまいましたが、現代はメールにSNSと、文章でのコミュニケーションがかなり盛んな時代です。今も昔も好きな人に思いを伝える文面は悩むもの。
そこで今回は"文章のプロ"である文豪たちのラブレターの中身を紹介します。

サムネイル

■芥川龍之介>>

 僕には 文ちゃん自身の口から
 かざり気のない返事を聞きたいと思っています。
 繰返して書きますが、理由は一つしかありません。
 僕は文ちゃんが好きです。それでよければ来て下さい

恋人・塚本文へと宛てたプロポーズの手紙。『羅生門』や『蜘蛛(くも)の糸』など冷笑的な作品の多い芥川ですが、文へと当てたラブレターではとても実直な印象。上記に当てた手紙でも、自分はお金がないし、体も頭もあまり上等にできていない、さらに家族は年寄りばかりだと訴え、正直もいいところ。それでも「あなたが好きな気持ちしか持ちあわせていないけれど、それでも良かったら結婚して下さい」と結婚を申し込んでいます。

「そうしてkissしてもいいでしょう。いやならばよします」「この頃ボクは文ちゃんがお菓子なら頭から食べてしまいたい位可愛い気がします」と読んでいるこちらが赤面してしまうような甘酸っぱい手紙はほかにもたくさん。皮肉屋も恋人の前では一人の純情な青年だったんですね。

■太宰治>>

 恋愛でも仕様かと思つて、
 或る人を、ひそかに思つてゐたら、
 十日ばかり経つうちに、ちつとも恋ひしくなくなつて困りました

神奈川に住む愛人に青森から「青森は退屈だから(ほかの人と)恋愛でもしようかと思って」とこともなげに言い放つ太宰。でもなんて酷い人だろうと思って読み進めてみると、「ちっとも恋しくなくなって」と"やっぱりお前が一番だよ"という風に繋(つな)げる小憎らしさです。

比喩を使うなどして、よく言えば洒落(しゃれ)た調子で、悪く言えば遠回しに恋人への思いを伝えるこの恋文ですが、最後は唐突に「コヒシイ」と記されています。ここで思わずキュンッ。作中で容姿を自虐することの多い太宰ですが、これはモテるはずだと頷(うなず)くテクニックです......。

■夏目漱石>>

 久々で写真をもって拝顔の栄を得たが
 あいかわらずご両人とも滑稽な顔をしているには感服のいたりだ

ロンドン留学中に妻と娘の写真を受け取ってこの憎まれ口。滑稽な顔なんてけなしつつ、写真を飾ったこと、下宿の主人に「可愛らしいお嬢さんと奥さんだ」と褒められたことを報告しています。なんて素直じゃない! いわゆるツンデレってやつ?

終始偉そうですが、ぽろっと「おれの様な不人情なものでも頻りにお前が恋しい」なんて本音を漏らしてしまうのもかわいいところ。気むずかしい漱石とマイペースな妻・鏡子というちょっと凸凹な組み合わせは、意外にもピッタリハマっていたようです。

■谷崎潤一郎>>

 御主人様、どうぞどうぞ御願いでございます。
 御機嫌を御直し遊ばして下さいませ

春琴抄』『痴人の愛』などマゾヒスティックな作品で知られる谷崎。小説の中だけでなく、現実でも恋人を「御主人様」と呼んでへりくだっています。この手紙、上記の部分なんて実はまだ序の口なんです。この後は「泣けと仰っしゃいましたら泣きます」「御茶坊主のやうに思し召して御使ひ遊ばして下さいまし」とさらに卑屈に......。

谷崎は、派手な女性関係でトラブルも絶えなかったと言います。もしかして叱られたくて浮気を繰り返していたのかも!?

■高村光太郎>>

 私はあなたの愛に値しないと思ふけれど
 あなたの愛は一切を無視して私をつつむ

教科書に載っているので、ご存じの方も多いでしょう。手紙というわけではありませんが、日本文学史に名を残す"ラブレター文学"が「智恵子抄」。妻・智恵子をテーマにした詩をまとめています。結婚する前のものから、結婚生活、肺結核にかかった智恵子の姿、そして死――。一組の男女が結ばれ、死別するまでの約30年間の軌跡は涙なしには読めません。

始めは一筆一筆思いを込めていたとしても、ラブレターはずっと書き続けているとどうしても惰性に近くなってしまいます。数十年もの間、しかも奥さんが亡くなった後でさえ情熱的に気持ちをつづることのできる愛情とはどれほど深いものなのでしょうか。


作風そのままだったり、ちょっと意外だったり......偉人たちの素顔が垣間見えるラブレターの数々。文章の技法に長けた作家だからこそ、ときには自分の弱い部分もそのまま伝えることの大切さを感じていたのかも。
"良いイメージを取り繕うよりも、正直な自分の姿をそのままさらけ出す"なんて、自分がラブレターを書くときにも言えそうですね。

(文/原田美紗@HEW )

Facebookコメント
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。
PR

最新記事

rss

もっと見る

本文はここまでです このページの先頭へ