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あのhideから届けられた"新曲"、「子 ギャル」が話題を集めている。ご存じの通りhideは1998年に他界しているが、この楽曲は、残されていた当時の演奏音源に、ヤマハのボーカロイド技術によって再現された彼の歌声を載せるという形で、実に丸2年にも及ぶ長期作業を経て完成に至っている。そして実際に聴こえてくるのは、機械じみた歌声ではなく、まさしくhideの歌声そのもの。いかにしてこの奇跡が生まれ得たのか?
ヤマハでボーカロイド事業推進を担当する木村義一、馬場修三両氏、そしてhideの片腕として彼とともに楽曲制作を続け、この曲の音源を最終的な完成形に至らしめたI.N.A.氏に話を聞いた。


hide 未発表曲をボカロで再現 「hideの声」「hide出演」ミュージックビデオを解禁>>


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hide 未発表曲をボカロで再現「子 ギャル」


■植木等 プロジェクトの成功実績が発端に(木村)


今回はまずユニバーサルさんから、「hideさんの声で、曲を復活させたい」というお話をいただきまして。ひとつそこに至った背景として、私どもで植木等さん(2007年に他界)の声をボーカロイドでよみがえらせたことが数年前にあったんですね。それと同じようにhideさんの声で曲をよみがえらせることはできないだろうか、と。それが発端でした。そのお話をいただいたのが、もう今から2年ぐらい前のことになりますね。ただ、正直なところ、当初はかなり難しいんじゃないかと思っていたんです。というのも僕らの場合、もともと、ロックがわりと苦手というか、いわゆるシャウト系の声というのがあまり得意じゃないんですよ。


■ボーカロイドで歌い手の"らしさ"を追求するという困難な作業(馬場)


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ヤマハでボーカロイド事業推進を担当する馬場修三氏


ボーカロイドライブラリ作成のためにはフラットな声のほうがつくりやすいですし、作業にはとにかく膨大な素材が必要になってくるんです。まずはユニバーサルさんからご提供いただいた、hideさんの生の声を全部聴いて、今回の楽曲、「子 ギャル」がどのように歌われるべきか?というイメージを固めて行きました、その上で必要な音素、つまり声の素片のようなものをひとつひとつ「これは使える、これは使えない」と選別しながら集めていって、ひとつのライブラリにしていくという作業を進めていきました。つまり歌詞というものがパズルの下敷きとしてあり、そこに声というピースを当てはめていった、ということです。
ただ、今回のプロジェクトに関しては、通常のボーカロイドのライブラリーを作る作業とはまったく異なる、かなり特殊なアプローチでやらなければならなかったんです。"hideさんらしさ"をいかに出すかということにこだわりたかったので。歌声を作り出すだけでなく、歌いまわしのような部分というのも再現しないとならなかったわけです。


■hideのために駆使されたヤマハの未公開最新技術(木村)


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ヤマハでボーカロイド事業推進を担当する木村義一氏


本来は必要な音素というのが100%、ご本人の声から採れれば良かったんですが、それがどうしてもhideさんの場合は故人ということで叶わない。そこで、不足している部分については別の方法で埋めていくということにトライしました。これは実は、当方でもまだ研究開発中の技術で、"音のはざまに不足しているものがある場合は、その不足しているものを解析して埋める"というものがあるんですね。それを駆使しながら必要な音を埋めていくということも、今回しているんです。「これとこれのつなぎ目だから、おそらくこういう音になるだろう」というのを解析し、予測して、それを音に変換していくというか。そういう技術があることで救われました。そこまでしないとhideさんの歌声は再現できないし、逆にわれわれとしても、あらゆる手を尽くしてなんとか再現したいと思ったわけです。


■コアなファンには存在が知られていた、幻の名曲(I.N.A.)


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この曲の音源を最終的な完成形に至らしめたI.N.A.氏


ここで、今回の楽曲について説明しておかなければいけないと思うんですけど、話は1998年までさかのぼるんですね。この「子 ギャル」は本来、hideにとって最後のオリジナル・アルバムとなった『Ja,Zoo』という作品のなかに入るべき曲だったんです。あのアルバム自体、ご存じの通り、半分ぐらいはhideが亡くなった後に、Spread Beaverのメンバーたちをはじめとする人たちに未完成音源に手を加えてもらいながら、僕が完成させていったもので。そのなかにあって、この「子 ギャル」という曲は、歌詞もできていて、バックキング・トラックもできていたんですけども、歌をまだ録っていなかった。というか、正確に言うと、まだちゃんと歌詞のない「♪ラララ~」みたいな状態でしか歌しか残されていなかったんです。それが理由で、あのアルバムに入れることができなかった。ただ、「子 ギャル」というタイトルは当時から彼が決めていたし、「子 ギャル」という曲だけ完成させられなかったということは、僕自身もときおり発言のなかで触れてきたんです。だからファンのなかでもコアな人たちは、この曲の存在を知っていたはずだと思いますね。


■通常の十倍困難だった作業を助けた、ファンの耳(馬場)


作業のボリューム感というのをお伝えするのはなかなか難しいものがあるんですけど、何でも歌える100%のボーカロイドのライブラリをひとつ作るのに、だいたい4カ月ぐらいかかるものなんです。「子 ギャル」に関しては、これを作るのに、専任で半年という期間をいただきました。通常のライブラリの10倍ぐらいは大変だったと言えるんじゃないかと思います。ただ、僕らのほうで可能なのは、あくまでボーカロイドの合成技術の範囲内のことなので、それさえクリアできればI.N.A.さんに託すことができる、という安心感をもって取り組めたのも確かですね。加えて、実はたまたま同じ部署の隣の席に、筋金入りのhideファンの女性がいまして。彼女から、ものすごくアドヴァイスをもらいましたね。彼女に聴かせては、駄目出しをもらったり。「これでどう?」「いや、こんなのhideじゃない」みたいなやり取りが多々ありました(笑)。実はそれがいちばん大きかったようにも思います。


■ボーカロイド技術がなければ、世に出ることはなかった曲(I.N.A.)


ボーカロイドで作られた歌声の初期段階のものは、とにかくhideが歌ってるようには聴こえなかったので、このままでは世に出せるものにはなり得ないな、というのが最初の印象でした。実を言うと僕自身、この曲を世に出したいという願望はなかったんです。なにしろあくまで音源としては"仮"のものでしたし、彼と一緒に常に完成度の高いものを目指して音楽制作をしてきた身としては、途中段階にある音を公表することは避けたかった。その気持ちが変わってきたのは、やっぱりボーカロイドで作られたものの精度が月日を追うごとに良くなってきて、最初に聴かせていただいたものとは次元の違うものになってきたからで。実際、ここまでのものになり得るとはホントに思ってなかったんです。自分でもビックリしていますね。いまだに、これができたことが信じられないくらいです。


■試行錯誤の連続を経て完成された"新曲"(I.N.A.)


本当にこれは、新曲と呼ぶべきものなんです。実際、レコード会社との最初のミーティングでは"未発表曲を含むベスト盤"みたいな位置付けだったんですけど、結果的にはそうじゃなくて、"新曲入りのアルバム"を作りましょうということになった。僕は今回、ボーカロイドの技術的なことは基本的にヤマハさんにお願いして、ヤマハさんから音源をいただいてから4カ月ぐらい引きこもって、音源全体の屋台組みたいなものに肉付けをしていく作業をしてきたわけなんですね。外壁を作ったり、内装を奇麗にしたりするかのような。その4カ月のうち最初の1カ月ぐらいは、ホントに試行錯誤の連続でした。自分でも何をやってるんだか、よくわからない状態だった。あれこれつなぎ合わせてみたり、差し替えてみたり。なにしろパズルをただ組み合わせていくんではなく、パズルのピースも自分たちで新たに作っていくような作業だったわけですから。設計図に合わないピースをちょっと削ってみたり、ふたつのピースを半分ずつ足してみたり......。わかりやすく言ったら、僕らがやってきたのはそういう作業だったんだと思う。


■ボーカロイドの未来的発展のための重要な第一歩(木村)


今回の素材量と技術では、「子 ギャル 」を完成させるうえではどうにかなりましたけど、例えばそれ以外の曲を作れるかと言うとそうではありません。ただ、これがさらなるボーカロイド発展への大事な一歩ではあるはずだと思っています。今はとにかく、この曲ができて良かったな、という気持ちですよね。本当にそう思います。
何よりぜひ、世間の方々に聴いていただきたいです。


*VOCALOID、ボカロ、はヤマハ株式会社の登録商標です。



hide生誕50周年記念アルバム『子 ギャル』2014年12月10日(水)発売


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MUSIC PRODUCER INA (hide with Spread Beaver)


80年代後半、シンセサイザープログラマーとしてプロデビュー。ジャンルの壁を超えた数々のスタジオワークスを経て91年『X(X JAPAN)』の全国ツアーにマニピュレーターとして参加、その後、数々のレコーディングやライブをサポート。93年からは共同プロデューサー&プログラマーとして『hide』のソロワークスを全面的にサポート。『hide』の楽曲制作は常にhideとINAの二人三脚によっておこなわれ、hideを中心とした多国籍バンド『zilch』への参加を含め、hideのソロワークスには欠かせない存在となる。2013年にはINAプロデュース・リミックス盤『hide TRIBUTE V -PSYBORG ROCK SPIRITS- ~CLUB PSYENCE MIX~』をリリース。2014年ヤマハが新開発したVOCALOID技術とINAのプロデュースワークが融合、奇跡の新曲『子 ギャル』を収録したhide生誕50周年記念アルバムをリリース。


国内外のアーティストやバンドのプロデュース&アレンジ活動を経て、2014年10月、INAを中心としたアーティスト集団による音楽制作ラボ『PiNX RECORDS inc.』を立ち上げる。個性溢れるクリエイターが集まる施設「IID 世田谷ものづくり学校」にスタジオオフィスを構え、音楽レーベルの新しい形を模索しながら活動スタート。また、参加メンバーによる音楽ワークショップ『電脳音楽塾』も展開。DTM&DAW音楽ワークショップをはじめ、音楽業界で働くさまざまな業種の"ものづくり"のプロフェッショナル達によるワークショップなど、幅広い活動を行う。


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「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。 それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通して、"情報"にとどまらない「エンタメの真髄」に迫り、読者の皆様にお届けいたします。



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