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長崎県の五島列島にある中学校の合唱部に、東京でピアニストとして活躍していた美しい臨時教師がやってくる......。新垣結衣主演、『アオハライド』の三木孝浩監督がタッグを組んだ現代版『二十四の瞳』ともいうべき珠玉の映画『くちびるに歌を』が2月28日より全国公開される。今回は、本屋大賞にノミネートされ、読書メーターおすすめランキング第一位にも輝いた本作の原作小説を書いたベストセラー作家、中田永一に、自身の小説が映画化される思い、これまでと違うスタイルで執筆された原作小説について聞いた。

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原作:中田永一(映画『くちびるに歌を』が2月28日より全国公開)
写真:トレンドニュース


■アンジェラ・アキの「手紙」に感動しました

--もともと「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を歌うアンジェラ・アキさんが五島・若松島の中学生と交流する様子を追ったドキュメンタリー番組がヒントになって、この原作小説が書かれたと聞きました。中田さんもこの曲がお好きだったそうですね。

この企画のお話をいただいたときに、CDをいただいたんです。この曲を聴いて、感動しました。僕が10代の時はダメダメな感じだったんですが、そのときの僕は深夜ラジオを聞いて救われたような気がしていたんです。それと同じように、この「手紙」という曲のメッセージが、10代の自分を肯定してくれるように感じたんです。この曲で救われる子たちの姿がありありと浮かびました。

--原作と映画版では、登場人物のキャラクターが違うように感じたのですが。

映画化に際してのリクエストは全然なかったですね。自由にやってくださいという感じで。メガホンをとった三木孝浩監督は、この小説が映画化されるのかまだはっきりとしない段階で、五島列島にロケハンに行ってくれたようで。熱意がありがたかったですね。

--三木監督とはどのようなお話しをされたのでしょうか?

実は三木監督とは2回くらいしかお会いしていないので、ほとんどお話はしていないんです。原作者が何か言うのもあれじゃないかなと思っていて。むしろいろいろ作り替えてもらった方がうれしいですね、特に今回は原作以上のものに脚色されていて。本当にすばらしかったです。

--映画版では、新垣結衣さんふんする柏木先生はほとんど笑顔を見せない、ミステリアスなキャラクターに変わっていました。

あれはミステリー的な演出という感じで、すごく良かったです。原作では柏木先生というキャラクターは曖昧に描いていたので、地に足の付いた人物に描いていただいたのがありがたかったです。

■原作小説は映画のゴール地点に向かうための、途中のステップ

--中田さんの小説が映画化されるのは『吉祥寺の朝日奈くん』『百瀬、こっちを向いて。』に続いて、この『くちびるに歌を』が3本目になります。ご自身の小説が映画化されるのはどのような思いなのでしょうか?

自分にはあまり関係がない世界のように感じています。映画化されるといっても人ごとというか。自由に作り替えてくださいという感じでお任せです。原作者があまりあれこれ言うのもあれなので、自由に作ってくださいと言っています。ただし今回は、執筆依頼があった段階で、映画化を目標にしましょうという形で依頼されたので、これまでの作品とは違う感じで映画を受け止めていたような感じがします。

--すると、今回は本作の映画化プロジェクトの一員という気持ちが大きかった?

そうですね。企画が始まった時には、映画が完成形といったイメージがあって。原作小説は、映画のゴール地点に向かうための、途中のステップというイメージでした。ですから僕はバトンを、監督さんと脚本家さんに渡したととらえていました。ですから、無事にゴールテープを切ってくれてありがとうという感じですね。

--中田さんは映像のシナリオ本から物語作りを学んだとのことですが、それだからこそ映像化されることも多いのかなと思いました。ご自身では映像化との親和性をどう感じていますか?

僕自身は短編を書くことが多いというのもあるのかもしれません。映画にする時も、物語の要素を削るよりも、脚本家が膨らます方がやる気がでるのかもしれないですしね。

--実際に完成した映画をご覧になってどうでした?

とても感動して、すごく泣いてしまいました。映画では、いくつも泣いてしまうポイントがありましたけど、特に(合唱部員の)桑原サトルくんの身体性にやられてしまいました。彼だけが周囲の子たちと体の作りが違う感じがしたんです。演じている子が小学生というのもあったと思うんですが、そのたたずまいだけで無視できない感じがするんですよね。とにかくアイデアが満載で、すてきな脚色をしてくださったなと思います。

--小説とは違って、映画ならではの描写だなと思った点はありますか?

小説では合唱の歌声が聞こえてくるわけではないので、映画を見たときには、やっと歌声を聞けたんだなという感じがしました。冒頭の発声練習のシーンから感慨深くて。そういえば、これは合唱の映画だったんだっけと思いました(笑)。

■本作で初めての"取材"。楽しんで書けました

--これまでイマジネーションをふくらませて小説を書いていた中田さんですが、今回の小説では取材を重ねてそのエピソードを織り込んだとのことですが。

これまでは執筆のための取材が苦手だったので、自分の頭の中で完結する物語というか、取材が必要になるような題材は避けていたのです。でもこれからは取材をして書くようなことも経験した方がいいのかなという気がしていました。それで、自分も知らないような合唱や五島列島などについて調べたんですが、そうすることが意外と楽しくて。外部の人との対話で得たことを踏まえたエピソードが作られるようになって。地に足のついた安心感があったんですよね。小説を書くときの座り心地が良かったというか、楽しんで描けましたね。取材にして勉強したものをうまく反映させると、してやったりというか。楽しかったです。

--ちなみに小説家の乙一さんは中田さんの友人だそうですが、この作品について何か言っていましたか?

試写会に行きたがっていましたね(笑)。でも彼は最近、『花とアリス殺人事件』の小説版の仕事で忙しかったみたいなので、試写には行けなかったみたいですよ。


☆長崎県の五島列島の中学の合唱部に、東京でピアニストとして活躍していた美しい臨時教師・柏木がやってくる。コンクール課題曲の練習の為、柏木は生徒たちに"15年後の自分"へ手紙を書く課題を出す。そこには15歳の彼らが抱える悩みがつづられていて......。現代版『二十四の瞳』ともいうべき『くちびるに歌を』が2月28日より全国ロードショーとなる。原作は、「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の作者アンジェラ・アキが五島列島の中学校を訪ねたテレビドキュメンタリーをもとに、中田永一が書きおろしたベストセラー青春小説。


中田永一(なかた・えいいち)
1978年福岡県出身。2008年に「百瀬、こっちを向いて」で単行本デビュー。2009年には「吉祥寺の朝日奈くん」を発表し、映画化もされる。さらに「くちびるに歌を」で第61回小学館児童出版文化賞を受賞。同作は2012年本屋大賞第4位にも選ばれた。その他、主な作品として近著に中村航との合作による「僕は小説が書けない」など。山白朝子や乙一(おついち)という別名義での活動もおこなっている。
◆座右の銘は「急がばまわれ」

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