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映画『Love Letter』『スワロウテイル』の岩井俊二監督が初の長編アニメーションに挑んだ最新作『花とアリス殺人事件』が全国公開中となっている。これを記念して、一般投票により選ばれた映画『リリイ・シュシュのすべて』の復活上映会が新宿バルト9で開催され、ゲストに同作が映画初出演となった俳優の郭智博を迎えたトークショーが行われた。今回は、そのトークショー開始前に、郭が出演する岩井作品『花とアリス』『リリイ・シュシュのすべて』について2人に語り合ってもらった。

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映画『花とアリス』(2004)続編となる『花とアリス殺人事件』が全国公開中。
共演作となる映画『リリイ・シュシュのすべて』上映会トークショーに登壇した(左)岩井俊二監督と(右)俳優・郭智博氏。
写真:トレンドニュース


■先生役は郭の声で聞きたかった

--郭さんといえば、2004年公開の『花とアリス』の宮本先輩役で知られていますが、今回の『花とアリス殺人事件』では、主人公2人の教師役としての出演となっています。『花とアリス』のオープニングでは、中学時代の花とアリスが、電車で宮本先輩を見かけるというシーンから始まっていたと思うのですが、『花とアリス殺人事件』で中学時代の宮本先輩を出そうというアイデアはなかったのでしょうか?

郭「それは僕も聞きたいです(笑)」

岩井「宮本というのはもともと寺の子で、そこに外国人の留学生がいるという複雑な設定なんです。物語のどこかに入れどころがないかなと探ってはいたんですが。なかなか織り込めなかったんですね」

--そこから先生役で出演することになったのは?

岩井「あの先生は郭の声で聞きたいなと思ったんです。今回、平泉成さんにはお父さんとおじいちゃんと両方の声をやってもらっているんですが、それはアニメだからこそできること。これが実写だったら、あそこで郭が先生役で出るのも変ですからね」

--『花とアリス』の続編がアニメで作られると聞いて郭さんはどう思いました?

郭「あの音楽が流れると、やはり『花とアリス』だなと思いますね。撮影当時は毎日、(鈴木)杏と(蒼井)優に虐げられていた......、というのは冗談ですが(笑)。すごく楽しい現場でしたし、『リリイ~』からずっと、カメラマンの篠田昇さんと岩井さんとはまたお仕事をご一緒したいなと思っていたので、その願いがかなってうれしかったですね」

■岩井さんの顔を見ると安心する

--郭さんにとって岩井監督との仕事は?

郭「やはりうれしいですよね。安心します。今日も安心しています(笑)。岩井さんの顔を見ると安心するんですよね」

--反対に岩井監督にとって郭さんはどういう存在?

岩井「このゆるい感じがわりと僕の作風に合うんでしょうね。『花とアリス』をやっていた頃はまだ草食男子という言葉もなかった頃だと思うんですが、宮本は草を食(は)む以前の、草そのものという感じ。あれは自分が作ったキャラクターの中でもあまりないタイプですね。あれだけまったりとした人はいないんじゃないかな。動きも緩慢だし(笑)」

--岩井監督は落語研究会に所属していたこともあったと聞きましたが、そういう意味で、落語研究会に所属する宮本先輩に投影する部分もあったのではないしょうか?

岩井「そうですね。自分の中学時代は落研に入っていたんですが、だいたい中学校でやっていた時はあんな感じで、棒読み。ひたすら暗記したものをただ読むしかなかった。そこにニュアンスをつけるなんて考えられなかったですね。後輩でうまいヤツがいたんですが、自分にはできないなと思いながらやっていましたね」

■衝撃的だった『リリイ・シュシュのすべて』

--郭さんは『リリイ・シュシュのすべて』が初の映画出演作になるのですか?

郭「映画は『リリイ~』が初めてです。あのときはオーディションだったんですが、非常に大人数が集まっていました。」

--いじめ、自殺、援助交際など、14歳の心の闇を鮮烈に描き出した『リリイ~』は、ものすごく共鳴する人と、拒絶反応を起こす人と、両極端だった記憶があります。当時、14~15歳くらいだった郭さんには何か感じるところはあったんじゃないですか?

郭「完成した時に見て、ヤバい映画だなと思いました。いい意味で衝撃的でしたからね。実は最近久しぶりに見たんですが、(気分が)沈みましたね(笑)。映像とドビュッシーの音楽がすごくきれいなのに、(ハードな)物語とのギャップがたまらない。僕は結構暗い映画が好きなんです。」

--この映画の公開時、岩井監督による「自分で遺作を選べるなら、これを遺作にしたい」というコメントがありましたが、今、あらためて自身にとっての『リリイ~』とはどんな映画だったんですか?

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初の長編アニメーションに挑んだ最新作『花とアリス殺人事件』は全国公開中
写真:トレンドニュース


岩井「何だったんですかね......。子供は子供なりに大変な時間を生きているんだということを描きたかったんだと思うんですよね。それは『花とアリス』にも通じていて。あれは明るいんですけど。やはり大人よりもはるかにエネルギッシュな年頃で、バイタリティーもあって、という中で、明るく楽しい青春が過ごせればいいけど、一歩間違えると大人でも介入できないような闇に落ちてしまうこともある。『リリイ~』では、そういう闇を描いたと思うんです」

■『リリイ~』から『花とアリス』へ

岩井:「いじめに関しても、いろんな人の話を聞いたんですが、映像にするのが不可能なくらいすごいことが多くて。あれでもだいぶそぎ落として、まろやかにしたつもりだったんですが、公開した当時は各方面から、吐きそうになったとか、これは見せるべきじゃないとか、お叱りのメールをいただきました。ただ、現実にいじめにさらされている人は、こんなの序の口というくらいに過酷な目にあっていますからね」

郭「でもそういうのって集団心理なんですかね? 一緒にやらないと今度は自分がいじめられてしまうというような」

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『花とアリス殺人事件』では、主人公2人の教師役として出演した郭智博
写真:トレンドニュース


岩井「戦争に近いのかもしれない。よく人間の根源は善なのか悪なのかというところにいきがちなんですが、実は環境によって変わってくるんじゃないかなと思っていて。同じ人間でも、戦争という環境に置かれれば人も殺すしいじめもする。しかし環境が変われば、同じ人間でもボランティアもするし、被災地支援もするわけだし。人間って意識的にいい環境を目指さないと、(悪いことに)巻き込まれてしまう。自分だけは大丈夫だと思っていても、気がつけば加害者側に簡単にまわってしまうこともあり得る。その最たるものが戦争であり、いじめだろうと」

「学校も、同い年の子ばかり集めると、そこにひとつの社会が生まれてしまう。しかもその社会は閉じてしまっている感じがして。気がつくと顔がのっぺらぼうになり、あっさりと非人道的な方向にいけてしまうようになる。もしかしたら学校という装置がそういう風にさせているんじゃないかと思っているんですけどね。それから意外に見落としているのが、校舎というもの。もちろんそこで楽しい思い出を育んでいる人もいるけれど、振り返りたくない思い出になっている人もいる。学校というものは最初からあるものであり、そこから逃れられないものになっているわけで。『リリイ~』以降、学校というものに懐疑的だったんですが、今回の『花とアリス殺人事件』というのは、花を学校に行かせる話なんですよね」

--確かに『花とアリス殺人事件』では、花は引きこもりという設定になっています。

岩井「ある種、学校に行くぞということをポジティブに描いた話なんです。実際にそういうセリフも出てくるし、そのときに妙に響くものがあるというか、ジーンとくるものがあって。やっぱり学校っていいところじゃないとダメだよなぁと。行く甲斐(かい)のあるところじゃないと本当にだめだよなと思うんですよね」


☆映画『Love Letter』や東日本大震災復興支援ソング「花は咲く」の作詞など、多彩な分野で活躍する岩井俊二が2004年に原作・脚本・監督を務めた映画『花とアリス』の前日譚(たん)となる『花とアリス殺人事件』が2月20日より全国ロードショー。同作は岩井監督にとっては初の長編アニメーションとなり、中学時代の"花"と"アリス"という2人の少女の出会いのエピソードを完全オリジナルストーリーで描き出す。

岩井俊二(いわい・しゅんじ)
1963年1月24日宮城県仙台市出身。1988年よりドラマやミュージックビデオ、CFなど、多方面の映像世界で活動を続け、1995年に『Love Letter』で映画監督デビュー後、数々の作品を発表。代表作は『スワロウテイル』『四月物語』『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』『ヴァンパイア』など多数。
オフィシャルサイト「岩井俊二映画祭」>>
◆座右の銘は「目からうろこが落ちる」

郭智博(かく・ともひろ)
1984年9月5日東京都出身。2001年に岩井俊二監督作『リリイ・シュシュのすべて』で映画デビュー。2004年の『花とアリス』で注目を浴びる。主な映画出演作として『青の瞬間』『夜のピクニック』『天国はまだ遠く』『心中天使』『君の好きなうた』『家族X(エックス)』『HOMESICK』などがある。
◆座右の銘は「なるようにしかならない」

(取材・文/壬生智裕)

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