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テレビ番組でのお笑い芸人たちの派手な活躍は言うにおよばず、一般社会における日常会話でもボケとツッコミが自然と交差する昨今。"笑い"がより身近な存在となる中、社員のコミュニケーション能力のアップなどを目的に、社内研修に「漫才」を取り入れている会社も出てきているという。「漫才研修」の講師である杉本雅彦氏に"笑い"の今を直撃した。

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漫才研修の講師であり、構成作家の杉本雅彦氏
写真:トレンドニュース


■プロを目指していない人を対象とした『漫才研修』とは

 「もともとは、お笑い芸人志望の方が通うタレント養成学校で講師をしていました。その後、若手漫才ブームが起こり、直接ネタに触れていなかった一般の方の間でもお笑いに関心を持たれる方も多くなってきて。そうした中で、『一般の方にも趣味で気楽にお笑いを楽しめる場があっても面白いんじゃないか?』と......」

 こう振り返るのは、神奈川・横浜市にある中古カー&バイク用品買取・販売店「アップガレージ」の本部で行われている「漫才研修」の講師を務める杉本雅彦氏。現役の放送作家として数多くの人気バラエティー番組やお笑いライブに携わり、養成学校の講師として今をときめく人気芸人の成長を間近で見続けてきた人物だ。
 杉本氏が初めてプロを目指さない素人に漫才を指導したのは、2010年の「漫才合宿」でのこと。企画を務める株式会社スロウカーブが主催した1泊2日のツアーは山梨県の河口湖でおこなわれ、上は50歳過ぎから下は18歳まで幅広い年齢層が参加し、その顔触れも会社経営者や現役の市議会議員、医者、主婦、学生とじつに多種多彩だったという。

 「正直はじめは『どんな人が集まるんだろう?』と思っていたのですが、フタを開けてみれば本当にいろいろな方々が参加してくださって。改めて『これだけ幅広い方たちが漫才に興味があるんだな』と。じつは今、『漫才研修』の会場となっている『アップガレージ』さんの会長も、そのツアーに参加していて。とても喜んでくださり、『うちの社員にもぜひ漫才を体験させたい!』、『企業向けに漫才の研修プログラムを作れないかな?』というお話をいただいた事が"研修"という形式になったきっかけです。カリキュラムを作り、始めてみたところ、そこから波及して他の会社からもオファーをいただくようになりました」

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社員研修の一貫として企業向けにおこなわれる、漫才研修プログラム
写真:トレンドニュース


■"笑い"は話術という大きな武器に

 古くは昭和を代表するコメディアンの一人の小松政夫しかり、最近では「M-1グランプリ」や「THE MANZAI」で活躍しているお笑いコンビ「トレンディエンジェル」の斉藤司しかり、売れっ子芸人の中には営業畑で働いていた元サラリーマンも多い。"お笑い"が以前にも増して一般社会に浸透している現代では、ビジネスの場においても、家庭においても、恋愛においても、話術を磨き、相手を笑わせることは他者とコミュニケーションをはかるうえで、大きな武器となる。さらに、人前で「漫才」をやるという非日常的な体験が生み出すものも大きいという。

 「他人を楽しませることは、どんな仕事でも大事なことだと思うんです。サービス業はもちろん、営業もそうですし、社内の人間関係においても人に好かれるという部分では役に立つこともあるんじゃないかな、と。企画のプレゼンとか、打ち合わせとか、人前で話をする時にどんな風に話したらいいのか、緊張しないためにどうしたらいいのかとか......。"お笑い"の中でも、とくに漫才はコントと異なり、そもそも自分自身がしゃべる芸なので、一般生活においても生かせる部分は大きいと思います。『アップガレージ』の会長さんがおっしゃるには、『意外とみんな自分の"領域"を決めていて"できない"と思い込んでいる。でも、"意外とやれる"、"できるんだ"という体験を持ち帰ってくれるだけでもいい』と。僕もそういうプラスの面があるんだ、と気づかされました」

■笑いの構造 人はなぜ笑うのか?

 午前9時から午後6時までおこなわれる研修では、「そもそも人はなぜ笑うのか?」のテーマを主軸に、「笑いの基本は"フリ"と"オチ"」や「予想をさせて(=フリ)で、予想を裏切る(=オチ)ことで笑いが生まれる」、「どうやって他人の興味をひきつける(=ツカミ)か?」など杉本氏が"笑い"の構造を分かりやすく解説し、実際に漫才を実践することで表現力も培う。

 「お笑いには"フリ"と"オチ"という基本構造があって。"フリ"に対して、予想を裏切る"オチ"があるから笑いが成立するのですが、では、笑わせるために"どうフル"かというところを工夫するのが作業となるわけです。研修では1日のうち2回ネタをやる機会があって、昼間に1回やってみて、夕方にオリジナルのネタをやるのですが、2回目で大きな違いが出る人もいて。はじめは会社の研修ということで『嫌だな』、『恥ずかしいな』と消極的な方もいると思うのですが、実際に漫才をやっているうちに、技術的なことももちろんなのですが、『他人を笑わせることって楽しい』と感じて、照れや恥ずかしさがなくなります」

 前述の「漫才合宿」を受けたことをキッカケにプロを目指した参加者もいたそうで、「最初に会った時はものすごく内気で人見知りな方で、正直『大丈夫かな?』と思ったのですが、漫才の体験を受けるうちに何か気持ちが吹っ切れたみたいで、合宿後にはプロを目指すべく、今度は僕が講師をしていた芸人志望の養成学校にも来てくれるようになったのですが、うれしかったですね」

■お笑い業界の今

 最後に、芸能界から一般社会へと「漫才」の魅力を伝道する杉本氏に、お笑い業界の今を聞いてみた。

 「『ボキャブラ天国』が終わったあたりから、若手にはちょっとツライ時代があったんですけど、そういう時代でさえお笑い番組はなくならなかったし、今もお笑い番組がない日は1日もないですからね。お笑いが消えることは絶対にないと思います。」

 そのうえで、タモリ、ビートたけし、明石家さんまの"BIG3"をはじめ、大御所と呼ばれるベテラン芸人たちが君臨し、世代交代が進まないと言われている業界の現状に関しては、こう語る。

 「若い芸人さんにとっては売れるのも大変だし、売れ続けていくのはもっと大変。よくイスの奪い合いなんて言いますけど、イスの譲り合いというのもあると思うんです。昔のように一人の芸人さんが、5個も10個もバラエティのレギュラー番組を抱えるというよりも、さまざまな芸人さんが、バラエティはもちろん、さまざまな番組で活躍していくんじゃないでしょうか。例えば、極端なイメージでいうと、実力のある芸人さんがそれぞれ3つずつ番組に出ていくみたいな感じになるんじゃないかな、と。
それに、最近では小説家としても活躍なさっている『ピース』の又吉(直樹)さんや映画監督としても実績を持つ劇団ひとりさん、サッカー番組のMCを務めている『ナインティナイン』の矢部(浩之)さんじゃないですけど、お笑い芸人さんがお笑い以外の分野にも進出しています。数年前からお笑いだけではダメで、お笑いプラスアルファと言われていて。芸人さんである以上ネタが面白いのは前提として、これからはプラスアルファを持った人がますます活躍の幅を広げていく時代になるんじゃないでしょうか」

 トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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