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いま日本で最も忙しいだろう映画監督・園子温。5月に公開された『新宿スワン(2015年5月)』を皮切りに、『ラブ&ピース(2015年6月)』、『リアル鬼ごっこ(2015年7月)』、『みんなエスパーだよ!(2015年9月)』と立て続けに公開される。そんな中でも、自身が25年前に書き下ろしたオリジナル脚本である『ラブ&ピース』は「僕の集大成なのかもしれない」と思い入れは強い。"鬼才"と呼ばれる園監督が本作に込めた思いとは......。

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2015年6月27日劇場公開 園子温監督『ラブ&ピース』 自身初の特撮を用いた、愛がテーマのラブストーリー


■商業映画デビューは規格外のものにしたい

 1980年代後半から"自主映画界の雄"としてインディーズ系映画界を席巻していた園監督。そんな彼が27歳の時、日本映画の取り巻く環境に対して思うことがありつづったのが、本作の脚本だった。

 「日本映画がジメジメして、スケールが小さい作品が多かった時代だったので、自分が商業映画でデビューするときは、日本映画っぽくない、スケールの大きな規格外のものにしたいと思っていたんです。笑って泣いてハッピーになれる娯楽映画、そんな思いで書いた脚本です」

 園監督の思いが詰まった脚本だったが、世に出るまでに25年もの歳月を要した。「率直に言えば長かったなあと......。諦めていた時期もあったのですが、一応ぶっこんでみようってね。でも毎回いい返事をもらえなかったんですよ」と胸の内を明かす。通らなかった企画が通ったというのは、園監督が積み上げてきた実績が評価されたのではないかと問いかけると、「そういうことでもないんですよ。たまたまプロデューサーが円谷プロの取締役だったりしたので、特撮や怪獣映画への思い入れがあったり......、ある種のめぐりあわせです。僕のキャリアとかはあまり関係ないって思っています」と冷静に分析する。

■『新宿スワン』は老若男女誰もが快適に住めるマンション

 "めぐりあわせ"によって園子温監督のオリジナル作品『ラブ&ピース』が完成した一方で、大人気漫画原作を、綾野剛、沢尻エリカ、伊勢谷友介、山田孝之など錚々(そうそう)たるメンバーで実写化した『新宿スワン』のメガホンも取った。「例えるなら、『新宿スワン』は老若男女が快適に住める、四角い快適なマンション。かたや『ラブ&ピース』はガウディじゃないけれど、へんてこりんな形の建物。僕の中ではまったく分けて考えているんです。でも『新宿スワン』が僕らしくなくて、『ラブ&ピース』が僕らしいわけでもない。どっちも僕らしいんです」。

 その真意を問うと「僕は毎回作品を撮るとき、実験的なアプローチをするんです。今までやってないことをやりたいという気持ちが強い。例えば『愛のむきだし(2009年)』を撮った時に、これから『愛のむきだし』みたいな映画を僕の映画っぽいって言われるのがすごく嫌だったので、それと真逆の『冷たい熱帯魚』を撮った。『冷たい熱帯魚(2011年)』は『愛のむきだし』なくしては存在しなかった。
『新宿スワン』の実験も『冷たい熱帯魚』とまったく同じ。常に実験の繰り返しで映画を撮ってきたんです」と語る。続けて「『ラブ&ピース』は25年前、初めて商業映画を撮ろうと思って書いた台本。何の外連味(けれんみ)もないという意味では、僕の集大成なのかもしれません」と付け加えた。

■CG全盛のなか、特撮へのこだわり

 本作では、「ウルトラマンギンガS」などの田口清隆特技監督が参加。壮大なるスケールで日本の伝統文化である特撮が物語を彩っている。CG全盛の時代、あえて特撮にこだわった。「選択肢にCGはなかったですね。CGに対する反抗とか、そういうことではなく、この映画は特撮でという思いが強かったんです。スーツアクターに怪獣の中に入ってもらって、ミニチュアのビルの中で暴れるというのは、すごく魅力的。それをつまらないものではなく、ちゃんとやれるというのはすごくうれしかったですよ」。

 園監督の思惑通り、特撮によるノスタルジックな部分が、何とも言えない"味"として人々の心に多くの感情を訴えかけてくる。「映画ってよくわからないところがあるんですよね。理路整然とした答えが出ないまま、感動してしまうシーンってある。そういうシーンが一番僕は好きなんです。理詰めで感動するのではないというか......。そういうシーンばかり探しているんです」。

 例として映画『愛のむきだし』のシーンを挙げる。「満島ひかりが、浜辺で聖書を読むシーンがあるのですが、台本的には長いセリフが何ページもあって、まったく感動するものではないのですが、出来上がった映像はすごく感動する。その意味は探りようがないけれど、僕が映画で一番求めているもの」。本作でも理由を説明できないが、心が揺さぶられるシーンが多数存在する。

■「映画はもう飽きた」発言の真意とは?

 以前から「もう映画は飽きたよ」という発言を耳にすることがあった。リップサービスなのか、本心なのか......。「本心なんですよ(笑)。というのも、アメリカを放浪していた時期があったんですが、その当時のことが懐かしくて。そういう時間がまた欲しいというのが本音なんです。出すだけではなく、吸収する時間も必要ですよね。何もなく過ごす時間って大切だなって思うんです」。

 その反動がタレント活動という形に出たという。「旅できないなら、別のアングルのアプローチ方法をすれば、次元の違う"旅"ができるのかなって。だからバラエティー番組にいっぱい出たりしたのですが、そうじゃなかった。だからもうバラエティーはいいんです」。


 今一番したいことは"放浪の旅"だという園監督。しかし映画界が彼を放っておくわけがない。これからも作品を撮り続けることになりそうだが「僕が急に日本からいなくなって、似たような作家がどこかの国で生まれたら、それは名前を変えた僕なので......」とボソリとつぶやく。ファンにとってはたまらなく魅力的な"絵空事"なのかもしれない。

(取材・文・写真:磯部正和)

◆園子温(そのしおん)
1961年12月18日生まれ。愛知県出身。『男の花道』でぴあフィルムフェスティバルグランプリを受賞。PFFスカラシップで制作された『自転車吐息』がベルリン国際映画祭の正式招待作品に選ばれる。その後も『自殺サークル』、『愛のむきだし』、『冷たい熱帯魚』など多数の話題作を世に送り出し注目を集める。2015年5月公開の『新宿スワン』では初週で17万人以上を動員し、興行収入1位を記録。いま最も忙しい映画監督の一人だ。座右の銘は「質より量」。

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