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関智一(与太郎役)、石田彰(8代目有楽亭八雲役)、山寺宏一(助六役)、小林ゆう(小夏役)、林原めぐみ(みよ吉役)など豪華声優陣でのテレビアニメ化も決定した雲田はるこ原作のコミック「昭和元禄落語心中」。昭和の落語界を舞台に、はなし家のいとおしき素顔と業を描き出す同作は、第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞および、第38回「講談社漫画賞」に選出されるなど、評価も非常に高い。そこで今回は原作者の雲田はるこに同作の魅力、さらにはアニメ版について聞いた。

サムネイル

(C)雲田はるこ
「昭和元禄落語心中」作者、雲田はるこ 自画イラスト


――2010年から雑誌「ITAN」で連載がスタートした「昭和元禄落語心中」です。そもそも落語家についてのマンガを描こうと思われたのはどういういきさつだったんでしょうか?

以前に、6代目三遊亭圓生師匠について描かれた色川武大さんのエッセーを読んだのがきっかけです。それまで落語というと、明るく元気な人情話やホームドラマのようなイメージを持っていたんですが、それだけではないんだなと興味を持ち始めました。落語には色っぽい、怖い、悲しいといった側面もあって、そこが意外で、とても惹(ひ)かれました。楽しく、笑えるだけではない落語というものを描いてみたかったんです。

――雲田先生は過去の作品を見ても、切ない感じの作品を多く発表しているように思います。

そうですね。おかしいけれどどこか哀しみがある、というお話が好きなので。その悲哀を表現できる落語家さんとして、昭和の大名人・八雲さんが生まれたわけです。

――落語のリサーチはたくさんされたんですか?

この作品がわたしにとっての初連載。何も分からないままに始まったという感じだったので、描きながら勉強させていただいてます。実は最初は1話だけの読み切りの予定だったんです。でも、編集さんから、これを1話でまとめるのは無理だから、話を広げていきましょうと言っていただいて。それが3話になり、さらには1巻、2巻、3巻と、どんどんと増えていったという感じでした。

――本作の担当編集の方から、着物というのは漫画家さんの技量が出るものであり、うまい人が描くと色気が匂い立つものなんだというお話を聞きました。そういう意味で落語というのは、非常に雲田先生向けの題材だったように思います。

そうですね。着流し(男子が和服を着る際に袴を穿かない様)を描きたい、というのも始めたきっかけのひとつです。ただ正直な話、始めた時は落語ブームも落ち着いてきていましたし、到底ヒットするとは思えませんでした。だから担当さんには申し訳ないんですが(笑)売れなくても、楽しく描ければいいやと。ですからここまで続けさせていただいて、賞まで頂戴して、アニメにまでしていただけるなんて本当に驚きっぱなしです。

――この作品を発表してから、ファン層は変わりましたか?

「昭和元禄 落語心中」を始めてから、落語好きな方や男性読者層も増えてきました。BL(ボーイズラブ)作品だけを発表していたときは女性の読者さんからのお声がけが圧倒的に多かったので。

――「昭和元禄 落語心中」の世界も直接的な描写はなくても、どこかBL的な匂いがほのめかされているように感じたのですが。

「落語心中」においては、どのキャラクターの関係も、それが恋愛的な感情であるかどうかははっきり描かなくていいことだと思っております。人間の感情ってそういうのが曖昧な部分は大きいので。ただ、BLでは男性を魅力的に描くということが必須なので、今までの経験が影響してそういう匂いを感じていただいてるのかな、とは思います。

――どういう層に見てほしいですか?

あまり若い方向けの作品には見えないと思いますが(笑)若い方にもぜひ見て欲しいですね。ちょっと大人の世界というか、そういうのを若いうちから見ておくっていうのはすごく良い事だと思うので。若い方がかっこいい、という風潮よりも、八雲さんのようなご老人が尊敬されて憧れられる世界はすてきだと思います。

――いよいよ2016年1月にアニメ化が決定しました。その話を聞いていかがでしたか?

制作会社さんやアニメスタッフの方々が今までに見たことがない、新しいものを作りたいんだという気持ちで取り組んでくださっていますし、実際に完成したアニメもそうなっていました。また、画の方も、原作に寄せていただくように作っていただいているんで、その辺はうれしかったです。

――原作を描く上で、アニメがいい刺激になるのではないでしょうか?

関智一さんや石田彰さん、山寺宏一さんに小林ゆうさん、林原めぐみさんと本当に豪華な声優さんに集結していただきました。アフレコの現場も見せていただいたんですが、それを見ながら、ああ、あそこをああいう風にやったらいいなとアイデアが思いついて。それを本編に反映させた事も多々あります。影響されやすいんです(笑)。アニメの放送を、連載と同時にやっていただくことで、本編の内容もいい意味で刺激を受けて、変わってくると思います。

――原作は元チンピラの与太郎が、昭和最後の大名人・有楽亭八雲に弟子入りする「与太郎放浪編」から始まり、そしてその回想シーンという体裁で八雲の若き日を描く前日譚(たん)「八雲と助六編」へと続き、さらに与太郎が真打ちに昇進し、助六を襲名する「助六再び編」へと続く、という物語構成となっていました。「与太郎放浪編」は先行して発売されたオリジナルビデオ版でアニメ化されましたが、テレビアニメ版は「八雲と助六編」ということになるのでしょうか?

そうですね。「八雲と助六編」は5巻の途中で終わるんですが、テレビアニメで最初にお願いしたのは、視聴者がモヤモヤする形では終わらせないでくださいということ。納得できる形でやっていただかないと、視聴者さんとしても中途半端だと思うので。(「八雲と助六編」では出番が少ない)与太郎役の関智一さんも続編をやってくれないと出番が少なすぎて困るとおっしゃってました(笑)。ただ、続編をやれるかどうかは反響次第ということもあるので、ぜひともDVD付きをしっかりと買って、テレビアニメを見て、応援していただきたいです。


――この作品は臨場感あふれる落語のシーンが醍醐味(だいごみ)ですが、声優さんが披露した落語はどうでした?

すごかったですね。さすがプロはすごいなと感じました。アニメの中でただ本物の落語を流しても、何か違うと思うので、アニメにそぐう形での落語としては最高峰のものじゃないでしょうか。実は最初にアニメ化のお話をいただいたときにまず考えたのは、声優さんをどうするんだろうということでした。もともとアニメを想定して描いてない事もあって、これに声をあてるのは不可能に近い大変な事だろうなと思っていたんですが、もともと落語が好きだった方や、演じた経験のある方など、人気声優さんということは元より、落語を説得力をもって出来る実力のある方に集まっていただいて、奇跡だと思ってます。各々の声のイメージも、このメンバー以外考えられないですね。

――まさに原作者のお墨付きということですね。

まったくもってピッタリです。落語をアニメにするのはハードルが高いと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、安心して見ていただいて大丈夫だと思います。音声で聞くのもいいですね。ちょうど10月に声優さんの落語が収録されたCDが出るそうなんで、それを聞きながら作業ができたらいいなと思っています。

――作品アイデアはどのように考えているんですか?

お風呂がいいんですよね。けっこう漫画家さんにも、何にもアイデアが思い浮かばないときにはお風呂がいいって方は多いです。そして思いついたことがごちゃごちゃしてまとまらない時は、散歩しながら考えるとよくまとまります。

――煮詰まったときは?

そういうときは、気分転換します。わたしの経験だと、水に触るのがいいんですね。手を洗うとか、顔を洗うとか。歯を磨くとか。そうするとパッと気分が変わります。

――この作品を見て落語に興味を持つ人も出てくると思います。落語初心者のためにおすすめの楽しみ方はありますか?

やはりお気に入りの落語家さんをおひとりで良いので、なんとしても見つけてください。本当は寄席に行くといいんですが、何も知らない状態でいきなり寄席に入るのはハードルが高いと思うので。最初はDVDやテレビ放送でもいいと思います。寄席には、落語家さんカタログを見に行くような気持ちで思い切って入ってしまっても大丈夫です。生で見ると本当に違いますから!「昭和元禄落語心中」がきっかけでひとりでも多くの方に寄席に行ってもらいたい、というのは連載当初からの望みです。

――雲田先生にとって落語の魅力とは?

肩肘張らずに聞けるもの。落語を知ると人生の楽しみ方も多面的になります。普段の暮らしに落語的なものの考え方を取り入れることで、気楽に生きられるんじゃないかと思います。



雲田はるこ
くもた はるこ
栃木県出身。2008年『窓辺の君』(東京漫画社)でデビュー。その後、BL(ボーイズラブ)雑誌で作品を発表。繊細な人間描写で高い評価を得る。2010年から雑誌「ITAN」で「昭和元禄落語心中」を連載開始。2013年には、第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で同作が優秀賞に選出された。

座右の銘:「人生成り行き」

(取材・文/壬生智裕)


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