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8月3日よりサービスが始まった「マンガ図書館Z」は、絶版・未公開作品など、出版社が取り扱わないマンガ作品を電子書籍化して、広告付きで無料配信する無料電子コミックサービスだ。同サービスでは、セリフを自動認識して51カ国語に自動翻訳する機能を搭載した新ビューアーが公開されるほか、電子透かし入りPDFのダウンロード販売、Kindleストアでの有料販売も新たに開始予定となっている。

こちらはプロ・アマ問わず、作家が自由に自分の作品をアップロードして公開できるプラットフォームとなっており、各作品で配信される広告で得た収入は100%作家に還元するシステムとなっている。

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株式会社Jコミックテラス取締役会長に就任した、漫画家・赤松健氏


この「マンガ図書館Z」は、「ラブひな」「魔法先生ネギま!」のヒットメーカー赤松健が代表を務めるJコミの「絶版マンガ図書館」を引き継ぎ、リニューアル化したサービスで、海賊版撲滅、作家の収益を最大化することを目標にしているという。そこで今回は、本サービスを運営する「Jコミックテラス」を株式会社GYAOと共同で立ち上げ、同社の取締役会長に就任した赤松健氏に、本サービスの理念などについて聞いた。

■海賊版撲滅のために始めたサービス

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「株式会社Jコミックテラス」会社設立記者会見(2015年8月3日)


――今回の「マンガ図書館Z」は、海外で出回っている海賊版対策、および作家の収益確保を目的として始めるとのことですが、まずはマンガ界における海賊版の現状から教えていただけないでしょうか?

赤松:海外ではスキャンレーションといって、日本のマンガをスキャンして翻訳するものがあって、海外の人はそういった海賊版で読んでいるわけです。どうしてそんなことをするんだと言っても、「だってこちらで出てないんだもん」と言われてしまう始末で。日本でも8年くらい前には(動画共有ソフトの)Winnyが普及していて。「『ラブひな』をWinnyで読みました。しのぶちゃん、かわいいですね」なんて言われていたこともありましたが、これはまずい状況だなと思っていました。

――Winnyでは漫画家さんにも収益が入りません。

赤松:われわれに収益がないと、次回作につながらないんですよ。だから収益がでるようなシステムにしないといけないなと思っています。「マンガ図書館Z」は、自分の作品を翻訳できたらいいなとか、広告収入を100%作家に還元してもらえたらいいなとか、紙になったらいいなとか、そういった作家の夢を主に実現したサービスので、作家本意の事業なんです。こういう企業は今後も出てこないんじゃないかと思いますね。

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「マンガ図書館Z」トップページ


――「マンガ図書館Z」の新型ビューワーは、51カ国語への自動翻訳に対応したシステムを装備したことが特色です。

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51カ国語への自動翻訳に対応した新型ビューワー


そうですね。ただ、もちろんこれはスキャンレーション対策ではあるわけですが。スキャンレーションをやっている人たちは、実際にはその漫画が本当に大好きで。愛を持って翻訳してくれるから、確かに翻訳はうまいんです。彼らには勝てないですね(笑)。

――しかし海賊版対策であると同時に、世界の人たちに自分の作品を見てもらうチャンスでもあります。

出版社がなぜそれをやろうとしなかったかというと、出版社には校正校閲という部門があるからです。ちゃんと文字は合っているのか。文字の使われ方は正しいのか。ものすごく厳しくチェックしています。だから、マンガのセリフをOCRで読み取って、自動翻訳をするということはやらなかったし、今後もやるつもりはないそうです。となると、うちの独占ですよ。そのコマの絵を見れば、怒っているのか、悲しんでいるのか。セリフの文字が少しくらい違っても内容は分かりますからね。

■マンガ業界の現状

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海賊版撲滅、作家の収益を最大化することを目標にしたサービス「マンガ図書館Z」


――「ONE PIECE」や「進撃の巨人」のようなメガヒットコミックがある一方で、期待したほど売れないコミックが出てきているなど、その売れ行きは二極化しているといわれています。赤松先生は漫画界の現状をどう見ていますか?

赤松:例えば昔は、週刊少年マガジンに載りさえすれば、人気がなくて20週で終わってしまうような作品であっても初版10万部は刷られていました。今は初版2万部なんて作品もあるんじゃないですかね。増刊の方では単行本が出ないことさえ結構あります。初版部数も減っているし、漫画家さんが大変になっているのは事実です。だから僕らは、ベテランがちゃんと生活できて、なおかつ新人も育っていくようなシステム作りに着手して、漫画界を盛り上げたいと思っているんです。

――今回の「マンガ図書館Z」は、新人発掘という側面もあるように思います。

赤松:今の出版界は体力がなくなってきたので、即戦力が必要とされるようになってきました。週刊少年ジャンプは新人発掘主義なので、まだちゃんと一から発掘して育てようという土壌は残っているようですが、かなりの数の編集部はゼロから新人を育てるということをやらなくなりましたね。


――ベテラン作家の現状はどうですか?

赤松:雑誌が少なくなっているので、いす取りゲームのいすが減ってきて、仕事にあぶれるベテラン作家が増えてきました。さらに若い頃から無理をしてきた作家が、脳梗塞などの病気にかかるケースも出てきています。わたしは公益社団法人日本漫画家協会の理事もやっているので、仕事のあっせんや病気のケアなどにも取り組みたいと思っているんです。

――新人作家には、有料でネーム(コマ割り、構成)の直しをアドバイスするといったサービスも予定されているそうですが。その作業を担当するのはどういう方なのですか?

赤松:「マンガ図書館Z」の掲載作家さんで、やる気と時間がある人たちに、ネームの直しをしてくれる先生として登録してもらおうと思っています。訓練をしなければネームの直しはできません。新人か中堅のマンガ編集者よりも、むしろ40代、50代のベテランマンガ家さんの方が、ネームを直す力に関しては高い技術を持っています。やはりそういったことで何十年と飯を食ってきたわけだから。ベテランには仕事をあっせんし、新人に対しては技術をあっせんする場になればいいなと思っています。年内には実現させたいですね。

――そもそも新人作家はデビューしやすい状況なのでしょうか?

赤松:ウェブ連載という形が増えているので、デビューするだけなら、昔よりはいすは増えているのかもしれません。ただ、やはりマンガ家は紙で出版してほしいと思うものなんですよ。だからまずは1巻だけ出版しましょうと。しかし1巻の売り上げが悪いと、連載途中で打ち切って、2巻目以降は単行本が出さないといった例がいっぱいあります。しかも2巻は書籍化しないくせに、1巻の権利は手放さない、なんてケースもあります。それでは作家は怒りますよ。うちでは、そういった未収録分の原稿を単行本化するというサービスはやっていますが、1巻の出版をさせてくれないこともあって悔しいですね。その時は交渉で権利を手放してくれるようお願いはしているのですが。


■マンガ業界に恩返しをしたい

――読者のメリットは?

堂々と無料で読めること(笑)。海賊版をコソコソ探さなくてもよくなりますから、後ろめたさもなくなります。そしてその作品が面白いと思ったら、作家を応援するためにもPDFで買ってほしいんです。そうしたらどんな端末でも自由に読むことができますし、作品を所有もできます。そして印税の40%が作者さんにいきますから。これほどの支援はないと思います。

――やはりファンとしては作家さんを応援したいという気持ちはあるわけですから。支援の形が分かりやすいというのはいいですね。それと人気作家の未発表原稿や、初期作品などが見られるのもうれしいポイントです。

それはうちが得意としているところですからね。時には人気の先生の同人誌なども出てきたりして。本当に楽しいですよね。作家さんが望めばKindleストアでの有料販売を行ったり、プリント・オン・デマンドにしたり。作家さんの好きなように展開ができます。

――将来的に「マンガ図書館Z」をどのような存在にしたいですか?

出版社が取り扱ってるマンガ以外は、すべてうちが取り扱えたらいいなと思っています。

――同業者の作家さんからも、「赤松先生は週刊連載でお忙しい中、しかも赤字覚悟で大変でしたね」と励ましのメッセージが寄せられていました。そこまで赤松先生を駆り立てる情熱の源は何だったのでしょうか?

わたしは大学卒業時に編集者の試験を受けていて、内定も出ていました。だからもともと困っている漫画家さんを助けたり、新人さんの漫画家さんを育てたり、といったことにもすごく興味があるんです。ただ、たまたま出版社の内定を取った時に、新人賞も取ったんで、当時の編集長に「新人賞を取ったんだから、編集者になるなよ」と言われて。それで漫画家になったんです。それだけの話で、本当は編集者志望なんです(笑)。

わたしは漫画業界のバブルの頃に大ヒットを飛ばすことができて。アニメ化されたり、『魔法先生ネギま!』の主題歌「ハッピー☆マテリアル」が毎週のようにオリコンランキングにチャートインしたりと、その恩恵を大幅に受けることができました。だから恩返しをしたいという気持ちが大きいですね。それが1番かな。


赤松健
あかまつけん
1968年7月5日生まれ、愛知県名古屋市出身。1993年に「ひと夏のKIDSゲーム
」で第50回講談社漫画賞新人賞で審査員特別賞を獲得し、漫画家デビュー。美少女ラブ・コメディーに本領を発揮し、第25回講談社漫画賞を獲得した「ラブひな」が大ヒット。その人気を確固たるものとした。そしてその後の「魔法先生ネギま!」も大ヒットを記録した。現在は週刊少年マガジンで「UQ HOLDER !」を連載中。また、2010年には絶版漫画の電子書籍を無料、DRMフリーの広告モデルで配信する(株)Jコミを設立し、代表取締役社長に就任。さらに2015年6月には株式会社GYAOと新会社「Jコミックテラス」を新設し、取締役会長に就任している。
座右の銘「悲観的に準備して、楽観的に対処せよ」

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

(取材・文/壬生智裕)
(写真:トレンドニュース)

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