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深夜ドラマとしてテレビ放映され、放送コードぎりぎりのエロ描写が話題を呼んだ青春コメディー『みんな!エスパーだよ!』が映画化。さらにスケールアップした童貞の妄想が炸裂(さくれつ)、エスパーたちの熱い戦いの結末は? このテレビ版の総監督と映画版の監督をつとめた園子温にインタビュー。話題作を連発する彼が、この先に目指すものとは......。

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9月4日公開『映画 みんな!エスパーだよ!』園子温監督


■ヘアヌードよりもパンチラのほうがエロい!?

――テレビドラマで大きな話題となった作品の映画化ですが、ドラマの続きではなく、新たに最初から語り直していますね。

「一見(いちげん)さんお断り」の作品にはしたくなかったんです。テレビを見ていない人が置いてきぼりをくらうようなことは避けようと思いました。

――では、そもそものテレビドラマの企画のスタートは?

 製作会社から僕のところに話が回ってきて、総監督として全体を指揮して、できれば全話監督してほしいということだったんですが、スケジュールの関係でそれは無理。しかし、ロケハンからキャスティングまですべて自分がやって、その上で数本を他の監督に引き継いでもらうことはできました。

――当時から、映画化は視野にあったんですか?

 いえいえ。ドラマの放送中は局の人に散々怒られていました。ホント、毎回廊下に立たされているような気分で...(笑)。しかし、放送後にギャラクシー賞(日本の放送番組に対する最高栄誉賞)を受賞(テレビの『みんな!エスパーだよ!』は2013年7月の月間賞と同年の奨励賞をダブル受賞する快挙!)したら、それまで「なんてエロいことをやりやがったんだ!」と言われていたのが、「よく考えたら、いいドラマだった」という風に変わりまして(笑)、それで映画化の流れになったんです。

――園監督で主演が染谷将太さんといえば『ヒミズ』のコンビです。そのイメージの変化には驚かされました。

 当時、『ヒミズ』の影響で染谷くんには深刻な役が多かったので、笑える役もできるという幅を作ったら面白いかな、と思って彼に出てもらいました。『ヒミズ』の色が付き過ぎてしまった染谷くんを解放させる狙いがあったのは確かです。

――舞台を、監督ご自身の故郷である愛知県の豊橋に設定されたのは?

 自分も高校時代、主人公の嘉郎と同じ境遇で、悶々(もんもん)とした学生生活を送っていたんです。僕は全然モテなかったし、女子とデートしたことすらなかった。そういう意味でうちの田舎は僕の寂しさがつまっている場所でもあるんです。そこで撮ることで、より僕自身が嘉郎に寄り添える、シンクロできると思ったのが大きな理由です。もし彼がもっとかっこいい、プレイボーイの役柄だったら、豊橋にこだわらなかったし、三河弁もしゃべらせなかったでしょうね。

――今回の映画で新ヒロインにモデルの池田エライザさんを起用した理由は?

 オーディションで100人以上の女性に会いまして、もちろんカワイイ子ばっかりだったんですが、その中でも彼女は特に会話が面白かったんです。他の子にはないインテリジェンスを感じたので選びました。

――もうひとりのヒロインはテレビ版から続投の真野恵里菜さん。最近の園監督作品には必ず出演していますが、彼女は監督にとってどんな存在なんでしょうか?

 彼女はもはや親戚の娘さんみたいなところがあって、空気みたいに自然で、グループでピクニックに行くといつもいる人って言うか......、不思議な感じですね。まあ、これで『みんな!エスパーだよ!』も終わりだし、そろそろ卒業させてあげようかと思っていますが。

――映画版はグラビアアイドルなどの女優陣が新たに加わっていますね。

 ヒロイン以外は知り合いだったり、グラビアを見ていいなと思った人、そして将来の見込みのある人に出てもらいました。特に同級生・神谷秋子役の冨手麻妙という子は、芝居が面白いので、もうちょっと育ててあげたいなと考えています。今後の新作で主演させるかもしれません。

――テレビに比べてサービスカットが大増量されていますが、その中での監督のこだわりは?

 パンチラはあるけど裸はない、乳首も見せないということですね。これは指定を考えてのことではなく(映画はPG12)、最初からの狙いです。僕の世代というのはGOROやプレイボーイのグラビアで興奮していたわけで、見えない部分を自分の妄想力で補うことによってエロスを開発していったんです。ヘアヌードなんかより、エロはそっちの方が面白いと思っていますから。裸よりも、雨に濡(ぬ)れて服が肌に貼り付いているとかのほうがグッとくるじゃないですか?

■座右の銘:「質より量」の理由は?

――今年に入って公開された作品は、この『映画 みんな!エスパーだよ!』を含め、『ラブ&ピース』以外はすべて原作もの、しかもエンターテインメント性を前面に出した作品ばかりですね。

 ちょうど『みんな!エスパーだよ!』のテレビドラマを作っていた頃は、3.11を題材にした映画が続いていて、自分自身深刻になっていた時期だったんです。だからドラマでちょっと明るくなってみようかと、心を軽くするために作りました。でも、そのあとエンタメ映画をがんがん作ってしまったから、もういいかなと。この『映画 みんな!エスパーだよ!』が最後のお笑い作品になると思います。それだけではなく、こうしたエンタメ志向の映画や原作ものももう作らないつもりです。まあ、原作ものは『新宿スワン』がヒットしたんで続編を作る話があれば、もう1本だけやるかもしれませんが、それでラスト。日本では原作は神々しく崇められていて、「ここが違う」とかにこだわる原作ファンが多すぎます。もう面倒くさいので、さわりたくないんです......。

――それにしても今年は4本も監督作品が公開される、ものすごいハイペースですね。

 来年公開予定の『ひそひそ星』も、もう完成しています。意図的にペースを上げているとかじゃなく、僕には映画に対する概念が他の人と違うところがあって、僕にとって映画1本は音楽で言う1曲みたいなものなんですよ。ミュージシャンなんかは何曲も同時に作ってレコーディングするじゃないですか。小説家にしても、年に短編1作しか書かない人はそんなにいないですよね。映画だけが特別な因習に囚われているんじゃないかな......。よく「座右の銘」を聞かれると「質より量」と答えるんですが、量はじつは質を凌駕(りょうが)するのではないか、と思える瞬間があるんです。質を気にしつつやっていると自分を超えることはできないんじゃないかと。大量にやることによって、自分の等身大を超えた新しいものが生まれることがある。それは僕が詩をやっていたせいだと思うんですが、詩人って文章をものすごく書くんですよ。最初の1行に半年かける人もいますが、僕はとにかく書く。そして書いている時には気がつかなかったけど、しばらくたって読み返すと、その中に「ここすごいな」というところがあって。そういう発見をするためにも「質より量」なんです。

――音楽の話が出ましたが、これまでの映画では監督が作詞作曲した歌が効果的に使われていますね。

 バンドとかはやっていないんですが、そもそもは音楽をやりたいと思っていたんです。たまたま映画の世界に入ってしまいましたが、どこかで音楽と携わっていきたいと思い、劇中で何かしら曲を作ってきました。今回の映画は自分では作っていませんが、曲の選び方は「ここは60年代風に」など細かくセッティングしています。音楽をやっていたおかげで、映画における音楽の重要性がいろいろとわかっているので任せきれないんですよ。だからタイアップ曲を押し付けられるのは、絶対にイヤですね。

――監督の映画ではいつも、登場人物が走るのを延々と追いかけて撮り続けるシーンが印象的です。

 映画って時間の芸術なので、端的に言って最も効果を出すのは何かが走っている姿なんですよ。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』なんて、ずっと走っていたじゃないですか。それが映画の原点なんです。特に人物が走っているのを追いかけることほど盛り上がるものはないですね。もちろん、あんまり走らせると役者さんが大変なので、全速力で走れるのは1テイクか2テイクぐらいです(笑)。今回の染谷くんは1カットでOKでした。

――最後に、今後のご予定をお教えください。

 次の映画のオリジナル脚本を書いています。年内にあと3本撮る予定です。前にも言ったようにオリジナルはエンタメに振り切った作品ではないのですが、コーエン兄弟の『ノーカントリー』がエンタメと言えるか? という程度にはエンタメな映画だと思いますよ。

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9月4日公開『映画 みんな!エスパーだよ!』園子温監督


映画 みんな!エスパーだよ! プロモーション映像>>


■『映画 みんな!エスパーだよ!』
 ある夜、宇宙からの光が愛知県東三河地方に降り注ぎ、それを浴びた特殊な条件を満たす者だけが超能力に目覚めた。人の心が読めるようになった高校2年生の童貞・鴨川嘉郎(染谷将太)は、超能力研究所の浅見教授(安田顕)に見いだされ、幼なじみの平野美由紀(池田エライザ)、喫茶店店長・永野(マキタスポーツ)らとエスパー軍団を結成する。嘉郎は教授の娘・浅見紗英(真野恵里菜)に恋心を抱いていたが、その頃、謎の悪のエスパー軍団の魔手が街に迫り...。テレビドラマとして2013年に放映され、大きな話題を呼んだ青春コメディー(原作は若杉公徳の人気コミック)がパワーアップして劇場版に。監督はテレビで総監督をつとめた園子温。ほかに深水元基、柾木玲弥、神楽坂恵、高橋メアリージュン、柄本時生、冨手麻妙、サヘル・ローズらが出演。9月4日公開。

(プロフィール)
園子温(その・しおん)
1961年生まれ、愛知県出身。17歳で詩人としてデビュー。85年の『俺は園子温だ!』でぴあフィルムフェスティバル入選、87年『男の花道』で同グランプリ、90年『自転車吐息』がベルリン国際映画祭正式招待。以後も『愛のむきだし』(08)『冷たい熱帯魚』『恋の罪』(11)『ヒミズ』(12)『地獄でなぜ悪い』(13)などで国内外の高い評価を受けている。14年は『TOKYO TRIBE』、15年は『新宿スワン』『ラブ&ピース』『リアル鬼ごっこ』と立て続けに話題作を発表。『ひそひそ星』(16)が公開待機中。

(取材・文/紀平照幸)
(写真:トレンドニュース)

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