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恋愛マンガの旗手として絶大な人気を誇るジョージ朝倉の『ピース オブ ケイク』が多部未華子主演・田口トモロヲ監督で映画化。恋愛も仕事も流されるままに生きてきた25歳の志乃が出会う新しい恋を描いたこの作品で、初の恋愛映画に挑む田口監督はどのようなアプローチを試みたのか?

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9月5日(土)公開 映画『ピース オブ ケイク』田口トモロヲ監督


■25歳はまだ本当の自分がまだ見えていない時期

――これまで『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』と男子メインの映画を撮ってきた田口監督にとって、初の女性目線の恋愛映画になりますね。

 最初に話をいただいた時は、正直、「僕でいいのかな?」と思いました。しかし原作を読んでみて、自分も影響を受けてきたカルチャーと似通ったものを感じたんです。そこを切り口にして入っていけば、「ド恋愛」を描きながらも何か違うものが出てくるんじゃないか、原作の魂みたいなものを見せられるんじゃないかと考えまして......。

――キャスティングがまた絶妙でした。

 プロデューサー側の提案と僕の希望を混ぜて決めたんですが、ヒロインの志乃に関しては多部未華子さんで満場一致でした。ともかく彼女が映画の中心ですから、多部さんに決めてから、彼女のキャラに合わせて他の配役を決めていった部分もあります。彼女が志乃と役と同じ25歳だったというのも大きかったです。原作は今より少し前の時代の話なんですが、現在進行形の話にしたかったので、今を生きる25歳としての同時代感覚を彼女がもたらしてくれれば、と考えました。
 男側メインキャストの京志郎は綾野剛くん。いつもエッジの効いたクールな役が多いので、間の抜けた、太い幹のようなキャラを演じてもらうのも意外性があって面白いと思ったんです。
 松坂桃李くんはオカマの天ちゃんという役ですが、これも「オカマの役はやったことがない」と言うから、ならばぜひにと(笑)。彼はちゃんと自分で研究して現場に入ってくれました。もし彼の方から依頼があれば、そうした所作のコーチを付ける用意もあったんですが、まったく必要ありませんでした。
 志乃に言い寄る川谷役の菅田将暉くんは、自分の中に役と同じ要素のまったくないキャラだったから苦労していたみたいです。そこはヒントを与えました。「川谷はラブハンターなんだ!」って(笑)。
 峯田和伸(銀杏BOYZ)くんをずっと俳優として使い続けているのは、単純に彼のことが好きだからです。今回は千葉(小劇場の劇団の座長)という彼にジャストマッチした役がありましたし、彼の歌も生かせますからね。

――この映画で描かれている25歳の恋愛について、どうお考えですか?

 面倒くさい時期ですよね(笑)。誰もが経験する通過儀礼のようなものじゃないですかね。自意識過剰で自分しか見えていないから、周りが客観的に見られない。志乃なんかは、京志郎に同棲(どうせい)中の恋人がいることを知って逃げ出すという、普通だったら彼のことをあきらめるタイミングで「私、彼のことが好きかも......」なんて言い出す。ここらがジョージ朝倉さんの原作のうまいところで、こじらせ、妄想、暴走という感情をリアルに描いているんですよね。「いるよなぁ、こういうヤツ」って思わせてくれる。キャラクター作りにうそがないんです。そういうひとつひとつの感情表現をキュートに映画化したい、と思って作りました。あと、男子目線にはならないように注意しましたね。「どうせ、男から見た女子でしょ?」とは言われたくなかったので......。人間目線とでも言うんでしょうか、そこは平等な描き方を心がけました。

■映画で描かれるカルチャーに関してはうそがない

――主人公たちの周辺の描き方も生活感があふれてリアルでした。

 今回映画化するにあたって最初に考えたのが「東京の恋愛」を描きたい、ということでした。東京にはどんな文化があるのか、どういう風景になるのか。原作から立体化していくにあたって、そのあたりを脚本の向井康介くんと練り上げていきました。それがレンタルビデオ屋であり、小劇場であり、阿佐ヶ谷ロフトであり、熱海の秘宝館(笑)だったわけです。で、主人公たちの収入とかからするとビデオ屋からそう遠くない所に住んでいるはずだ、ということで中野から高円寺、阿佐ヶ谷あたりという中央線沿線と下北沢が舞台になりました。とにかく等身大でリアルな映画にしたかったので、映画の中のカルチャーに関してうそのないようにしました。芝居に関わっている人がこの映画を観て、「こんなことないよ」と言わないように描けていればいいなと思っています。

――劇中に登場するお芝居の中身にもこだわったそうですね?

 あの劇中劇のシーンはマンガのビジュアル通りのシーンにしたかったんです。だったら実際の劇団の人にやってもらうのがいいだろう、ということで「劇団鹿殺し」の方々にお願いしました。マンガでは一部しか登場しない舞台の、その前後のシーンがどうなるかも考えてお芝居を作ってもらって......。原作のジョージ朝倉さんに喜んでもらえればいいなぁって思って。

――ところで俳優である田口さんが映画監督も始めたきっかけは何だったんですか?

 友人のみうらじゅんと飲んでいた時に、彼の書いた『アイデン&ティティ』が今度映画になると聞かされて、「面白そうだね、僕も出してよ」なんて話していたんです。ところが次に会ったら、「その話はなくなった」と言われて、酔った勢いもあって「じゃ、僕が撮る!」と手を挙げてしまったのが始まりです(笑)。

――俳優が監督を始めたことで、その後の演出や演技に変化はありましたか?

 俳優としては、自分の見えていないところでもこういうことが行なわれているんだ、ということを把握して演技ができるようになりました。監督としては常に「オープンマインド」を心がけています。映画の撮影は、キャリアの違う人たちが出会って数カ月の「祭り」をするようなものですから、完走させるためにどんなことにも柔軟に対応していかなきゃならない。自分が俳優ですから、出演者たちが萎縮しないように自由な意見が言える場を作っていきたいなと思っています。基本は俳優を尊重し、もし方向性が外れたら修正する、という感じです。

――今後、手がけてみたい企画はありますか?

 今、もくろんでいるのはロックの話です。自分が経験してきたパンク・シーンの話を作りたいですね。

――田口さんはミュージシャンでもあるし、ナレーターとしても活躍中。マルチな才能をお持ちですよね。

 その時その時に興味を持って面白そうだと思ったことをやってきたら、意外にやれたということです。僕が20代の頃はまだ時代が混沌(こんとん)としていて、今のようにシステマティックに分類されていなかったから、それが可能だったのかもしれませんね。いろいろやってきたから今の自分があるんです。妄想を言えば、ロンドンかニューヨークに生まれてミュージシャンになりたかったんですが(笑)。

ピース オブ ケイク 特集 本予告>>


映画『ピース オブ ケイク』
 恋愛も仕事も流されるままに生きてきた25歳の志乃(多部未華子)は、心機一転、引っ越し&転職を決意。新居で隣人の京志郎(綾野剛)と出会って心のときめきを感じる。なんと彼は志乃の新しい勤め先のレンタルビデオ屋の店長でもあった。急速に接近していく二人だったが、京志郎には同棲(どうせい)中の恋人がいて......。
等身大の恋愛下手な女性の揺れる心を描いたジョージ朝倉の人気マンガを、田口トモロヲ監督が映画化。他に松坂桃李、木村文乃、光宗薫、菅田将暉、柄本佑、峯田和伸らが共演している。9月5日(土)公開。

田口トモロヲ
 1957年生まれ、東京都出身。俳優、ミュージシャン、ナレーター、映画監督と幅広く活躍。かつては漫画家として活動していたことも。俳優としては『鉄男』(89)『うなぎ』(97)『御法度』(99)『世界で一番美しい夜』(08)『少年メリケンサック』(09)『探偵はBARにいる』(11)などに出演。監督作は『アイデン&ティティ』(03)『色即ぜねれいしょん』(09)に続き、本作が3本目となる。
座右の銘:「ピース オブ ケイク(たやすいこと)!」

(取材・文/紀平照幸)
(写真:トレンドニュース)

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