ここから本文です

「DEATH NOTE」のコンビ、原作・大場つぐみ、漫画・小畑健が手がけ、週刊少年ジャンプ連載で大ヒットとなった漫画「バクマン。」が実写版映画化され10月3日から公開。漫画家への夢に向かって突っ走る二人の高校生の姿を生き生きと描いたのは、『モテキ』でその才能を日本映画界に知らしめた大根仁監督。漫画通としても知られる監督に、映画作りの裏側について聞いた。

サムネイル

10月3日公開「バクマン。」大根仁監督


バクマン。 特集 本予告 >>


■少年ジャンプの歴史を数分で一気に見せる

――オープニングの「少年ジャンプの歴史」から画面に引き込まれていきます。

 映画を見る人が全員原作を熟知しているわけではないし、今の少年ジャンプは知っていてもその歴史までは知らないかもしれないですからね。入口で「ジャンプとは何ぞや」という説明をした上で、インパクトのある映像と音楽によって短い時間で観客を一気にこの世界に巻き込んでいこうと思ったんです。ナレーション原稿は僕が書きましたが、映像はVFXスタッフに任せて、漫画の誌面をグラフィックに立体化してもらいました。

――主人公の真城最高(もりたか)=サイコーと、高木秋人(あきと)=シュージンのキャスティングは監督ご自身のアイディアだと伺いました。

 原作では中学生時代から始まるんですが、映画は高校2年生の設定で行くことになりまして、高校生が社会に挑んでいく話と考えて、少年性を持ったフォルムの役者ということで選考しました。ストーリー的にサイコーは漫画家になってボロボロに疲弊していきながら目だけは輝いている、という展開なので、目ヂカラの強い俳優をとなった時、テレビの「龍馬伝」で岡田以蔵を演じた佐藤健が浮かんだんです。
 その横にどんな少年がいいか、という組み合わせのバランスで神木隆之介を選びました。漫画オタクで知識もあって原作も好きと聞いたので、この二人ならサイコーとシュージンになれるな、と。

――長大な原作を脚本化するのに苦労なさったということですが...。

 最初に書いた脚本は3時間を超えてしまいました......。ただ原作を削っていけばいい、というわけではないんですよ。一度原作を解体して、再構築していかなきゃならない。それに時間がかかりました。

――サイコーたちの家族やアシスタントなどが映画には登場しませんね?

 家族も最初は入れていたんですけど、むしろ描かずに二人だけの世界で突っ走って行くことができないか、と考えまして。その方が登場人物の関係性がより深く見えるんじゃないかということです。
 アシスタントに関しては、現実的に週刊連載を始めるのにいないのがおかしいのはわかっていました。しかしストーリーも膨らみすぎるし説明も必要になってしまう。途中から急に登場人物が増えるのも、2時間の枠でやるには横道に逸れてしまうと言うか、枝葉が多すぎてしまうんですね。しかもクライマックスのストーリー(倒れたサイコーを助けるために漫画家仲間が集まってくる)が成立しなくなる。この映画では漫画を描くということに関してのディテールでうそはついていないんですが、物語の流れのためにあえて大きなうそをついたという決断です。僕の好きな「まんが道」(藤子不二雄の自伝的漫画)の時代には二人だけで連載漫画を描いていたこともあったので、ありえない話ではないということで...。

――原作で使われる亜城木夢叶(あしろぎ・むと)というペンネームも使われません。

 原作ではこのペンネームは中学生時代に考えたものなので子供っぽい印象があります。それに漫画は読むものですが、映画はセリフを聞くものですから、「あしろぎ・むと」と耳で聞いた時に、原作を知らない人に「亜城木夢叶」という字面は浮かばず、違和感があるんじゃないか、ということで本名のままで行くことにしました。
 このペンネームを考えた見吉香耶(みよし・かや=原作に登場するシュージンの彼女)が映画にはいない、というのも理由の一つです。見吉も最初に書いていた頃には出すつもりもあったのですが、サイコーとシュージンのドラマとして考えていく上で前に進みづらくなってしまうんですよね...。

■佐藤健演じるサイコーの予期せぬ涙の理由は......?

――漫画を描くシーンがプロジェクション・マッピングを駆使したダイナミックな表現なのにも驚きました。

 漫画家さんたちに取材をしていく中でいろいろ聞いたのですが、傍から見ると机に向かって紙にペンを走らせているだけでも、ノっている時の頭の中は完全に漫画に入り込んでいて、その躍動感はすごいんだそうです。それをどう映像的に表現するか、人物が漫画の中に入っていく様子を描きたいと思ってああいう方法を取りました。漫画家たちがペンを剣のように持って切り結ぶシーンも同じく人気を競い合うバトルを表しています。
 俳優さんたちには実際にペンを握って線を引いてもらっています。一部、原作者の小畑さんが作画を担当した部分もありますが、大部分は俳優たちが漫画家の実際の動きを学び、所作を習得して演じたものです。前にも言いましたが、漫画を描く、という部分に関してはうそはありませんから。

――クライマックスでサイコーが泣くシーンは予定になかったそうですが?

 確かに脚本にはなかったです。この日はサイコー(佐藤健)と新妻エイジ(染谷将太)が対峙(たいじ)するシーンを朝から何十回もいろいろなテイクで撮影していて、最後に寄りを撮ったんです。その時、急に涙が流れてきて......。健が言うには「朝からずっと『下手くそ!』と言われ続けたのがくやしくなって」自然に出たらしいんですが、表情だけで行くつもりだったので、現場では「いやいや、それではサイコーが弱すぎるよ」と言って「もう一回撮らせて」となったんですね。健も「すみません、泣くつもりはなかったんで」とリテイクしたんですが、編集でつないだら圧倒的に泣いている方が良かったという...。でもその場では「その涙、いただき!」という感じではありませんでした(笑)。

――ところで、監督はいつもDカメ担当のカメラマンとしてもクレジットされていますが...。

 別にカメラのプロでもテクニックがあるわけでもないんですけどね。自分がカメラを回していることによって、プロのカメラマンでは切り取れない、自分独特のサイズがあるんですよ。それにモニターの前ではなく、なるべく役者の近くにいてあげたいというのもありまして。ただカメラ横に立っていてもサイズが決められないし、だったらカメラを担いでいればいいかなと。そうすることで役者に対しても言うことの説得力が違ってくるんです。自分が撮る画の中に魂を込めたい、という思いでもあります。
 それに僕の映画にはコンテやカット割りがそもそもないんです。コンテがあるとスタッフはそっちばかり見てしまい、「それをどう効率よく撮るか」という作業に集中してしまう傾向にあります。プロなんだから当たり前ではあるんですけど、コンテではなく役者を見て欲しい。現場でスタッフが台本ではなく芝居に向かっているというのが僕の理想なんですよ。そこで生まれてくるものを大事にしたい。編集でさまざまな素材を組み合わせていく中で、自分が最初に想像していなかったものが生み出されてくるのが楽しいんです。

――脚本もご自身で書かれることが多いですね?

 別に監督・脚本にこだわっているわけではないんですが、自分の書いたものだと直すのが楽、というのはありますね。どうしても撮影は実際のロケ場所に左右されてしまうことがありますから。『バクマン。』でもサイコーとシュージンが「この世は金と知恵」(彼らがジャンプに連載する漫画)のアイディアを思いつく場所は、シナリオ段階では学校の屋上だったんです。しかしロケハンに行ってみるとその学校は地下に体育館があって、外に抜ける窓がないという密室感のある面白い建物だったので、これはいいシーンになると、セリフも芝居も変えていきました。現場で役者のセリフに違和感を感じた時にもすぐ修正できますからね。そういう柔軟性を持たせるためにも、自分で脚本を書いています。人が書いたものだと、その通りに撮りたくなっちゃうんで(笑)。

――常にいろいろなアイディアを出しているわけですね。

 バラエティ番組や深夜番組をやっていた頃は、予算がない、スケジュールがない、キャストが弱いという制約だらけで、現場の発想と演出のアイディアで乗り切るしかなかったんです。それがベースとして体にしみついていますから、幸いかなり自由にやらせてもらえるようになった今でも、基本は変わりません。もがきながらやっていたことが、今になって役に立っているということでしょうか。

映画『バクマン。』は、少年ジャンプ連載の人気漫画(原作・大場つぐみ、漫画・小畑健)で、少年ジャンプを舞台にした漫画家たちのドラマというメタフィクション的作品の映画化。高校の同級生で高い画力を持つサイコー(佐藤健)と、文才があり巧みな物語を作るシュージン(神木隆之介)がコンビを組み、プロの漫画家を目指す。彼らの目標は少年ジャンプの頂点に立つこと。だがその前には若き天才漫画家・新妻エイジ(染谷将太)が立ちはだかり...。監督は『モテキ』の大根仁。他に小松菜奈、桐谷健太、新井浩文、皆川猿時、宮藤官九郎、山田孝之、リリー・フランキーらが出演。10月3日から公開。

サムネイル
10月3日公開「バクマン。」大根仁監督


(プロフィール)
大根仁(おおね・ひとし)
 1968年生まれ、東京都出身。堤幸彦監督のADとしてキャリアをスタートし、数多くのテレビドラマやバラエティ、ミュージックビデオを手がける。テレビドラマでは「劇団演技者。」(04)「週刊真木よう子」(08)「湯けむりスナイパー」(09)などを監督。テレビドラマ「モテキ」(10)が話題となり、映画版『モテキ』(12)で劇場用監督デビューし、日本アカデミー賞話題賞を受賞。『恋の渦』(13)に続き、本作が3作目の監督作。現在、電気グルーヴのドキュメンタリー映画を製作中。
座右の銘:「過ぎたるは及ばざるが如し」

(取材・文/紀平照幸)
(写真:トレンドニュース)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

Facebookコメント
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。
PR

最新記事

rss

もっと見る

本文はここまでです このページの先頭へ