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『CASSHERN』『GOEMON』で独自の世界を作り上げた紀里谷和明監督の最新作は、クライヴ・オーウェン、モーガン・フリーマンというハリウッドの名優を起用した映画『ラスト・ナイツ』。日本の「忠臣蔵」を題材にしながらも、いつの時代、どこの国でも通用する男たちの熱い魂を描き出したこの作品を、5年の歳月をかけて製作した監督の"視線の先"にあるものは......。

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11月14日(土)公開 『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督


映画『ラストナイツ』最終予告編 / 11月14日 全国ロードショー>>


■テーマを普遍的にするために、あえて無国籍な映画に

――前2作(『CASSHERN』『GOEMON』)は、実に映像クリエイターが手がけたデジタルアート的な作品という印象でした。それらと比べると、この『ラスト・ナイツ』はずいぶん落ち着いた作風に変わったように感じられます。

 自分の中では変化したつもりはないんです。芸術には形を超えた自由さが必要だと常々思っているので、デジタルを駆使してカラフルにした映画も、モノトーンの本作も、僕の中では何も違いがないですね。例えて言えば、オーケストラの作曲家がたまにはシンセサイザーやピアノの曲を書いたようなもの。まだ監督作が3本しかないので違いが目立つのかもしれませんね。実際はCGのカット数だけで言ったら、今までで最も多いんですよ。

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(C)2015 Luka Productions


――今回の企画の発端については? 当初から海外進出を考えていたのでしょうか。

 2004年に『CASSHERN』を作った時、海外からのオファーをたくさんいただきまして、その時にアメリカのエージェントと契約して、以来アメリカに住んでいます。そのエージェントを通じて持ち込まれた脚本だったので、つまりアメリカに住んでいるアメリカの監督として来た話です。こちらから海外で撮ろうと映画を探していたわけではないんです。ほら、ハリウッド映画を見る時に、監督がどこの国の人だとかあまり気にしないじゃないですか? でも日本人だけは「日本人が!」ということにこだわってしまうんですよね。洋画とか邦画とか、日本人が撮ったとか、そういう括りが存在しない世界が理想なんですが。

――日本の「忠臣蔵」を題材にした話ですが、無国籍の歴史ファンタジーに仕上がっています。

最初から「忠臣蔵」という題材にとりたてて興味があったわけではありません。数百本もの脚本を読んできた中で、飛び抜けて良かった脚本が、忠臣蔵をベースに書かれた物語だったんです。もともとの脚本では日本人が登場する日本の話だったのですが、それだと映画のテーマである"忠誠心"や"義"といったものが、日本特有のものと思われて終わってしまいます。そうじゃない、普遍的なものとして描く必要があったわけなんです。と言っても、ただ西洋に変換して白人ばかりにしても面白くないですからね。だったら世界中の俳優を集めてやってやろうと。

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11月14日(土)公開 『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督


――この国際的なキャスティングはどのように?

 主演級の俳優に関してはある程度のイメージがありましたが、選ぶ基準は好きか嫌いかです(笑)。クライヴ・オーウェンとモーガン・フリーマンは同じエージェンシーに属していましたので、話はしやすかったですね。他のキャストについてはキャスティング・ディレクターに「とにかく芝居がすごい人を集めてくれ」と。みんな知っている俳優ばかりを集めることができたのでうれしかったです。
クライヴとは役作りについて何度も話し合いました。彼もディスカッションが好きな俳優だったので。ただ、脚本を読み込んだ段階でキャラは決まってくるので、そこはお任せです。モーガンも、会った時にはもう役を作ってきてくれましたからね。日本からは伊原剛志さんに出ていただきましたが、それは"漢(おとこ)"のキャラが必要だったからです。最近はあまりいないんですよね、"漢"を感じさせる俳優が。しかも殺陣ができて英語がしゃべれて、となると......。伊原さんとは十年来の知り合いで、ぜひ一度は一緒にお仕事がしたいと思っていたので、お願いしました。

――この作品の製作中には同じ題材を取り上げた映画『47RONIN』(2013年製作)が作られましたが、その影響は?

 ありましたね。脚本は面白いんだけど企画が重なりたくない、という理由でプロジェクトに協力してもらえなかったり苦労もありましたが、映画に限らず"創る"という作業には何だって苦労がつきものです。でも自分がやりたいことをやっているわけですし、それを乗り越えるのは当然ですよね。

■これから映画作りをめざす人々に必要なものとは?

――お話を伺っていると、紀里谷監督にはプロデューサー的な感覚が備わっているように思われます。

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「ラブストーリー・クリエイター・スクール」特別講師として紀里谷和明監督が登壇(11/28)


 これからの映画監督は演出だけでなく、ビジネス、会計、法務の能力も持っていないと厳しいんじゃないでしょうか。自分が作りたい映画を作る、しかもCGを使わないでやろうとすると、ものすごくお金がかかるわけです。それは日本のマーケットだけではとてもペイできない。となると、世界に出て行くという選択肢しか残されていないんですよ。もちろん、全部を自分でやろうとすると時間がかかります。そこは新しいシステムを構築して短縮しようとはしているところなんですが......、それが嫌なら、自分のやりたいことを封印して言われた企画を撮る、雇われ監督に徹するしかないですよね。でも僕はそれはやりたくなかったですから。

――そして、それを実践なさってきたわけですよね。

 ハリウッドの何百億には及びませんが、2004年に『CASSHERN』を6億円で作ったんです。当時の評論家には酷評されました。しかし、ちゃんと興行的には成功して出資者には利益を出してお返しできましたし、10年以上たった今も覚えていてくれるファンがたくさんいます。お金の問題でのハリウッドとの格差を埋めるために、「人が今まで見たことがないものを作ろう」としたことが結果を出して、ハリウッドからのお呼びがかかったことにもつながったわけです。逆に「映画とはこういうものだ」という思い込みにとらわれて、同じような映画を作り続けている体制の方に問題があるんじゃないですかね。

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「ラブストーリー・クリエイター・スクール」特別講師として紀里谷和明監督が登壇(11/28)


――紀里谷監督は、11月28日から開講される女性映像クリエイター(脚本、監督)を発掘・育成するスクール「ラブストーリー・クリエイター・スクール」で特別講師として講義されることになっています。若いクリエイター志望の人々に、何を語りたいですか?

 自分の体験を話しながら質疑に答えていく予定ですが、まず第一には「やりたいことがあるんだったら、待っていないですぐにやるべき」ということでしょうね。脚本家になりたいんだったら、すぐに書き始めればいい。映画監督になりたければ、撮ればいい。今はスマホで撮影も編集もできちゃう時代ですから。要はやるのかやらないのか。逆に、やりたいことがあるんだったら何でやらないの? と問いたいぐらいです。あとは、"日本"とか"ハリウッド"といった概念を捨てること。邦画とかJ-POPとかのジャンル分けも同じですね。日本も世界の一部なんですから、もっと幅広い対象に向かって、自分の作りたいものを届けていくんだ、ということです。

――配信などの新しいメディアについてはどうお考えですか?

 大賛成です。しかし今はインフラは整備されてきましたがコンテンツがまだまだ。道路は作ったけど車があまり走っていない状態で、せっかく環境が整ったのに、横並びで同じような番組しかやっていないのでは意味がない。ここでしか見られないオリジナル・コンテンツが求められているわけで、これからはコンテンツの時代だと思います。ただ、興行との住み分けが難しい......。いずれはクリエイターたちが自ら作品を配信していくこともあるかもしれませんね。


『ラスト・ナイツ』は、とある封建国家を舞台にした物語。高潔な心を持つ領主バルトーク卿(きょう)(モーガン・フリーマン)は、悪徳大臣ギザ・モット(アクセル・ヘニー)の奸計(かんけい)にはまり、いわれなき反逆罪に問われて死刑を宣告される。その斬首を命じられたのが、バルトークの忠実な家臣だった騎士団長ライデン(クライヴ・オーウェン)。断腸の思いで敬愛する主人の首を落としたライデンは、身分を剥奪され領土を追放された仲間の騎士たちと、主君の仇(かたき)を討つべく大臣の命を狙うのだが......。日本の「忠臣蔵」をモチーフに描かれたヒューマン・ドラマ大作。紀里谷和明監督のハリウッド・デビュー作で、モーガン、クライヴの他にもアン・ソンギ、伊原剛志、クリフ・カーティス、アイェレット・ゾラーといった世界各国から集められた実力派俳優たちが共演。11月14日(土)から公開される。

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(C)2015 Luka Productions


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(C)2015 Luka Productions


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(C)2015 Luka Productions


(プロフィール)
紀里谷和明(きりや・かずあき)
1968年、熊本県生まれ。15歳の時に単身渡米し、デザイン、音楽、絵画、写真、建築などを学ぶ。ニューヨーク在住時に写真家として活動を開始、数多くのミュージックビデオを手がけて映像クリエイターとして脚光を浴びた後、2004年に『CASSHERN』で映画監督デビュー。『GOEMON』(09)を経て『ラスト・ナイツ』が監督3作目にあたる。

座右の銘:「諸行無常」(形あるものはすべて壊れゆく。世の中はすべて幻で、夢を見ているようなもの。その中で何をするかといったら、自分の好きなことをやって、したいように生きたらいい、という思いから)

(取材・文/紀平照幸)
(写真:トレンドニュース)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

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