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真梨幸子氏の人気小説「殺人鬼フジコの衝動」が「フジコ」というタイトルでHulu、J:COMで11月13日から連続ドラマ化される。狂気の連続殺人鬼・フジコを演じるのは実力派女優・尾野真千子だ。爽やかなヒロインから、個性の強いバイプレイヤーまで幅広い演技力で定評のある尾野が「最初は本当に嫌だった」と語った本作への率直な思いや胸の内を明かした。

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連続殺人鬼役に挑んだ尾野真千子 ドラマ「フジコ」(Hulu製作)


■連続殺人鬼役なんて最初は絶対嫌だと思った

 公開されたポスタービジュアルは、右手と頬が血に染まり、こちらに何かを訴えかけるような尾野の姿が映し出されている。その目の奥には狂気というよりは物悲しさ、絶望感が宿っているように感じられる。嫌な気分になるミステリー、通称「イヤミス」の名作として話題になった原作。尾野演じる主人公は連続殺人鬼だ。

 「現実に起きた残酷な事件の動画などがインターネットを通じて配信されている時代じゃないですか」と尾野は昨今の世相を切り出すと「そんな中『フジコ』の台本が来たわけですよ。そりゃ最初は『本当に嫌だ。やらない。今じゃない』って思ったんです」と正直な胸の内を明かす。

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連続殺人鬼役に挑んだ尾野真千子 ドラマ「フジコ」(Hulu製作)


 しかし尾野は本作に出演した。心境に変化が生じたのだ。そのきっかけとなったのが、2013年に公開され日本アカデミー賞優秀作品賞など、多くの賞を受賞した映画『凶悪』だった。「実話がモチーフになっていますが、私自身が作品を面白く見ることができたんです。リアルなものではなく『こういう世界なら作れるかもしれない』という感覚。私が嫌だと感じたことが、作品を通して伝わったらいいなって思うようになったんです。実際出来上がったものを見たら伝わるものもあったし、素直に泣けた。参加したことが自分の財産になったって思いました」。

 とは言うものの、主人公には最後まで共感できなかったという。「(共感や納得が)できないというよりしたくないという気持ちですね。だってどんな理由があるにせよ、殺人鬼に共感したくないし、撮影の間は納得もしなければ共感もしませんでした」と心情を吐露。俳優にとって、感情移入できない役を演じることは難しい。尾野も「不安ばかりでしたよ」と苦笑いを浮かべた。

■演技派女優のルーツは「人見知り」!?

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連続殺人鬼役に挑んだ尾野真千子 ドラマ「フジコ」(Hulu製作)


 そんな心理状態で臨んだ本作だが、現場では「役に引っ張られないこと」を心掛けたという。「この作品で役に入り込んでしまったら、気分が落ち込んでドツボにはまってしまいますからね。一歩引いたところに立つことによっていろいろと見えてくる部分もあります」と本作へのアプローチ方法を語った。
 もともと尾野は「台本を読み込んで作り込むタイプではない」というが、演じるキャラクターには感情移入しやすい。作品によって大いに違う顔が見える。
 そんな彼女を称して"演技派女優"と呼ぶ人も多いが、「多分人見知りだからかもしれません」と照れくさそうにつぶやくと、「その人によって変わるというか、怖いから人に合わせてしまうというか......。会う人の顔色を見て『この人はこう言ったから、私もこう言おう』とか『こういう空気だから私もその空気に乗ってみよう』とか。小さい頃からそういう感覚が身についているので、自然といろいろな人の気持ちに寄っていけてるのかもしれません」と自身を分析する。

■「映画の宣伝だけに来やがって」とは思われたくない

 尾野のパブリックイメージと言えば、人見知りとは正反対。明るく元気で闊達(かったつ)な印象を持っている人も多いだろう。そのことを投げかけてみると「騙されているんですよ」とニヤリ。「恥ずかしいから、恥ずかしさまぎれに、そういう自分を演じている部分はあります。思ってもいないことを口にしたりね(笑)」。

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連続殺人鬼役に挑んだ尾野真千子 ドラマ「フジコ」(Hulu製作)


 さらに、こう続ける。
 「ちょっと前まではバラエティーに出ることも苦手で、初めて出た番組では『二度と出たくない!』って思うぐらいなにもできなかったし絡めませんでした。今もあまり変わりませんが『(映画の)宣伝だけに来やがって』って思われるのも嫌なので、いつも『今日限りで終わりだ!』という気持ちでやっています」とハニカむ。
 それでも、「だんだんと明るく元気な性格になってきましたね」と自身の変化は自覚しているようで、「話すことの楽しさも分かってきたし、言葉の影響力も大きいんだなって感じるようになりました。話すことって面白いですし勉強にもなります。怖くもありますけれどね......」。

■女優を続けないわけにはいかない

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連続殺人鬼役に挑んだ尾野真千子 ドラマ「フジコ」(Hulu製作)


 「この作品のプロモーションは難しいですよ」としみじみと語る尾野。確かに連続殺人鬼の深部を描いた物語。劇中の尾野は目をそむけたくなるようなシーンに挑んでいるわけだが、「役柄に引っ張られて怖い顔をしていたら『こいつ、もしかして(本当に人を殺すんじゃないか)......』って思われて、大変な方にいっちゃうかもしれないですしね」とおどけるが、「でも実際はなんでもいいの。私はどんなイメージでみられても構わない。怖いと思っても、むかついてくれても構わない」とも語る。

 その真意を問うと、「もちろんかわいいなって思ってくれたらうれしいけど、どう思われてもいい。私が女優を続けてさえいれば、またいろいろな役を見せることができます。そうすれば、この作品で"怖い"、"嫌い"って思われても、次の作品では違う一面を見せられるかもしれない。まだまだやったことがない役はたくさんある。だから女優を続けないわけにはいかないんです」と力強く答えた。

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連続殺人鬼役に挑んだ尾野真千子 ドラマ「フジコ」(Hulu製作)


 「共感しなくていいです」。これから作品を見る人への見どころを聞くと、こう即答した。「きれいごとはいいたくないし、どう感じてもいい。ただフジコのような人は自分のすぐ近くにいるかもしれない。それに気づけば、手を差し伸べることができるかもしれない。フジコはその手が見えなかったのですが、気づく人がいるかもしれない」。尾野の口からは「~かもしれない」というフレーズが連続して続いたが、まさに本作は「かもしれない」という可能性を気づかせてくれる物語なのだろう。

(取材・文・撮影:磯部正和)
(写真:トレンドニュース)

◆尾野真千子(おのまちこ)
1981年11月4日生まれ。奈良県出身。映画監督の河瀬直美に見いだされ、『萌の朱雀』(97年)主演でスクリーンデビューを飾る。その後も着々とキャリアを重ね、連続テレビ小説『カーネーション』(11年)でヒロイン、映画『そして父になる』(13年)では日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞するなど実力派女優として日本映画には欠かせない存在となる。座右の銘は「日々勉強」。

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