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『リング』の中田秀夫監督が『クロユリ団地』に続いて贈る新作ホラー『劇場霊』(11月21日公開)。監督が約20年前に放った衝撃のデビュー作『女優霊』を彷彿(ほうふつ)とさせるタイトルで、今回は新作舞台劇の上演が迫る劇場で次々と巻き起こる怪奇現象を描いている。今や日本ホラー映画界の第一人者となった監督に、その裏側を聞いた。

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11月21日公開『劇場霊』 中田秀夫監督


劇場霊 プロモーション映像 劇場予告編>>


■ホラー映画における新しいステップを踏み出せた

――企画の出発点をお教えください。

『クロユリ団地』に続いて秋元康さんの企画です。秋元さんって、ズバッとお題をおっしゃる方で、前作の時は「団地って怖いよね」という言葉から始まったんです。今回も「劇場って怖いよね」と言われて......。自分も前に『MONSTERZ モンスターズ』を撮った時に地方の劇場をいくつか見て回って、その時に古い劇場には実際の幽霊譚がそこかしこにあるということを知っていましたんで、劇場ホラーで行こうということになりました。

――今回は恐怖の対象が人形ですね。

 劇場に地縛霊がいました、ということでも映画は撮れるでしょうが、20年ホラーに付き合ってきた自分としては、それだけでは面白くないな、と。劇場を舞台にするのだから、恐怖の対象そのものも演劇で使われているものであるべき、という考えから人形にたどりつきました。幽霊という「そこにいないはずのものが見えることの怖さ」がいわゆるJホラーの心霊実話的なものだとすれば、今回は「物理的にそこにいてもいいものなんだけど、怖い」ということを追求してみたんです。
人形が意志を持って動き出し、モンスター化する。古典的な恐怖映画で語られていたテーマを2010年代にどう怖く見せるか、ということですね。正直、ホラー映画を何本も作ってきて、自分で自分のやってきたことを繰り返すのは嫌だな、と考えたこともあるのですが、これでまた新たなステップを踏み出せたんじゃないかと思います。次にホラーのお話をいただいても、また別の新しいことができるな、と感じられるようになりました。

――『劇場霊』というタイトルからは、どうしても『女優霊』を連想してしまいます。

 それはプロデューサーの策略ですね(笑)。実際にフランスでは「『女優霊』をリメイク」という報道もされてしまいました。まあ、あちらではリメイクという言葉のニュアンスが日本とは少し違うんですけど......。ただ、『女優霊』の舞台になった映画の撮影所と今回の演劇の劇場には共通する点は多いんです。
まだ自分が助監督だった時代に、深夜の撮影所に忘れ物を取りに行ったことがあるんですね。その日は一日中撮影がぶっ通しであったので、その熱がまだスタジオにこもっていて、映画の登場人物の感情や吐息、念のようなものまでが残っている感じがしました。それがとても怖く感じたんです。演劇の場合も同じで、表では虚構の世界を演じている俳優たちの、ライバル心やねたみ、嫉みといったドロドロとした裏側の感情が満ちている。芝居が「虚」を演じるものだとすれば、人形も中身はからっぽ、つまり「虚」ですよね。そこに何か邪悪なものが入り込んでくる隙間があるんじゃないか、とも考えました。

■ホラーのヒロインに必要な資質とは?

――主演女優はAKBグループの中から選ばれる、という企画で、大々的にオーディションが行われました。その中から島崎遥香さんがヒロインの座を射止めたわけですが、その決め手は何だったのですか?

 最初は300人ぐらいがオーディションに参加したのかな? そこから30人、10人と絞っていきました。じつはホラー映画のヒロインの基準は、演技力だけじゃないんです。正直に言うと、演技力だけなら彼女より上の方もいらっしゃいました。島崎さんが突出していたのは、そのフォトジェニックさですね。表情全体から醸し出す不安感、それが一転してネコ科を思わせる彼女の雰囲気が肉食獣のようなものに変わるところ。これがホラー・ヒロインとして映えるんです。もちろん、演技の方でもがんばってくれました。

――彼女に限らず女優さんたちはさまざまな恐怖の表情や叫びを見せます。どのような演技指導を?

 スケジュールの都合上、順撮りができないので、「不安曲線」という、今どのぐらい怖がっているのかの状態を表したもので説明しました。だいたい5段階に分けて、「今は1だよ」「ここは3」と声をかけるわけです。困ってくると「ここは2.5で」なんて言ったりもしますが(笑)。このやり方は島崎さんには「わかりやすい」と好評でした。
彼女とは監督と女優として意気投合できたんじゃないですかね。もともと僕は女優さんにはしっかりと演技指導するほうで、「ここは、こういう風に叫んでほしい」とか「こんな感じで美しく震えて」という思いが強いんです。ホラー映画は作りこまれた世界なので、自然なお芝居よりは少し持ち上がったものが必要になる。リアリズムでは弱くなることがあるんですよ。もっとも男優さんに関しては、間違ってなければ大丈夫と言っちゃいます。不均衡ですね(笑)。

――今回は演劇の舞台裏を描いたバックステージものとしても見ごたえがありました。

 もともと好きなんです。『スタア誕生』とか『アメリカの夜』とか。自分でも『ラストシーン』というバックステージものを撮りましたし。最近はソフト化される時にメイキングが付けられてしまうからあまりはやらなくなったジャンルですが、助監督の時から「映画の外も映画的で面白いな」と思っていたんで、今回はそれがメインテーマの映画ではないけれども自分の偏愛ゆえに入れてみました。

――この作品ではデジタルではなくフィルムにこだわったとか?

『リング』からずっと組んでいる撮影の林淳一郎さんから「フィルムの方がいいよね?」と言われたのがきっかけです。
確かにデジタルに比べてフィルムの方がコストはかかるし、せっかくフィルムで撮っても上映時はDCPに変換されてしまうんですが、それでもやる価値はある、ということになりました。フィルムだと画面の色艶や質感が違いますし、特にホラー映画における「黒」の表現が優れているんです。さらに、ダリオ・アルジェントの映画じゃないけど、今回は赤や青、黄色といった原色をしっかり出したかったというのがあって、もちろんデジタルでも色を強めるのは可能なんですが、どうしても人工的になってしまうんです。先日香港での上映会でフィルム上映された『リング』を見て、同じ事を感じたのですが、やはり画の豊かさという点ではフィルムが優れているのだと思います。

――デビュー作の『女優霊』から20年、ご自身で変わったなぁと思われることはありますか?

 それが意外なほどに変わっていないんです。「何か新しいことをやってやろう」という気持ちは同じ。経験は積みましたが、その引き出しを使って何かしようという考えはありません。もちろん『女優霊』の時代にはデジタル撮影なんてまったくなかったので、そういう技術的な違いはありますが、「シンプルなことで人を驚かせたい、怖がらせたい」という思いや理想は変わりませんね。

――そんな中田監督がホラー以外で手がけるとしたら、どんな題材を?

 香港映画祭で上映作品の選択を任された時に選んだのが、古い映画ですが成瀬巳喜男監督の昭和29年作品『流れる』でした。女優好きなので、主役級の女優(田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子など)をずらりと並べ、その悲喜こもごもを描くというのには憧れます。今ではラブロマンスというと少女マンガの映画化になりがちで、そういう作品にも魅力はあるんですが、こんな大人のメロドラマも撮ってみたいですね。

――『クロユリ団地』『劇場霊』と、ホラーではオリジナル作品が続いていますね。

 原作ものを撮っていると、「オリジナルっていいよね。この縛りがなければなぁ...」なんて言っていますが、いざオリジナルを撮影すると「原作もののよりどころがほしい...」と言ったりします(笑)。ないものねだりの極致です。でも、その苦しみの連続が映画作りなんですよね、きっと。


『劇場霊』は、AKB48の島崎遥香主演で『リング』の中田秀夫監督が贈るホラー映画。実在の女貴族の呪われた生涯を描く舞台劇「鮮血の呼び声」に出演することになった若手女優の水樹沙羅(島崎)。配役をめぐり女優同士が舞台裏で火花を散らす中、劇場に小道具として運び込まれた球体関節人形の周囲で怪奇現象が発生する。次々に繰り返される惨劇。その人形に隠された秘密とは? やがて沙羅にも恐怖の影が忍び寄り......。共演は足立梨花、高田里穂、町田啓太、小市慢太郎ほか。11月21日から公開。

■中田秀夫(なかた・ひでお)
1961年生れ、岡山県出身。東京大学卒業後、にっかつ撮影所で助監督として経験を積み、テレビドラマの監督を経て96年の『女優霊』で映画監督デビュー。『リング』(98)『リング2』(99)の大ヒット後、ハリウッドに招かれてリメイク版『ザ・リング2』(05)を自ら監督した。その他のおもな監督作に『ラストシーン』『仄暗い水の底から』(02)『インシテミル』(10)『クロユリ団地』(13)『MONSTERZ モンスターズ』(14)などがある。
座右の銘:「三日会わざれば刮目して見よ」

(取材・文/紀平照幸)
(写真:トレンドニュース)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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