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『ほしのこえ』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』など作品を発表するごとに話題を集める気鋭のアニメーション監督・新海誠。人物の心情に寄り添った、美しくも鮮烈なビジュアル表現と、観る者それぞれの心に染み入る物語が織りなす"新海ワールド"は、国内のみならず海外でも大きな話題を集め、多くの人たちに多大なる影響をおよぼしてきた。

そして、最新作『君の名は。』の2016年8月公開が決定。新たな"新海ワールド"がどのような作品になるのか、今からファンの期待も高まっているが、来る8月に備えて、まずは新海監督の過去作をチェックしてみようという人も多いのではないだろうか。そこで今回は、新海監督に自身の過去作の見どころ、思い出などを改めて語ってもらった。

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新海誠監督 最新作『君の名は。』の2016年8月公開が決定

■苦闘しながらも作り上げた新海監督の原点『雲のむこう、約束の場所』

『雲のむこう、約束の場所』(2004)
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:天門
声の出演:吉岡秀隆、萩原聖人、南里侑香

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『雲のむこう、約束の場所』(2004)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films

『雲のむこう、約束の場所』無料配信>>

フルデジタルで作り上げた個人制作短編『ほしのこえ』を2002年に発表し、鮮烈なデビューを飾った新海監督が、初の商業長編作品に挑んだ2004年公開の本作。原作・脚本・監督・撮影・美術を新海自身が手がけた同作は、日本が南北に分断された、もう一つの戦後の世界が舞台。国境のかなたにそびえる塔と彼女への憧れを胸に抱いた2人の少年は飛行機を作るが、果たして彼らはいつかの放課後に交わした約束の場所に立つことができるのか...という物語が展開される。

◆【新海監督のコメント】
 この作品は自分にとっての初の長編映像作品となりました。この作品を一言でいうと、大変だったということに尽きますね。僕はこの作品の前に個人制作短編の『ほしのこえ』という作品を発表していて。会社勤めをしながら、勢いで二十数分の映像を作ったのですが、幸運なことに多くの人に観てもらうことができました。『ほしのこえ』が短い作品だったので、今度は本格的なアニメ映画をやりたいと思って。『ほしのこえ』では1人だったので、その2倍、3倍という規模の作品でも、あと何人かいればできるんじゃないかという単純な気持ちで始めてしまったんです。

そんなわけで勢いで短いパイロット版(試作版)を作り始めちゃったんです。吉岡秀隆さん、萩原聖人さん、南里侑香さんに声も入れてもらって。背景は僕が描いて、田澤潮さんが作画をやって。そこまでは楽しかったんですが、それからの道のりが長く険しくて大変だった(笑)。実際に本編の制作を始めようと思っても、全然できなくて。今までは脚本といってもノートにメモをしただけだったし、きちんとしたものを自分で書いたことがなかった。なんとか脚本を書き上げた後も、それをどう絵コンテに落としたら良いのかもよく分からない。自分にとっての面白いアニメを妄想してプロットを作ったまではいいけれど、それをゴールまで持っていくノウハウも技術もなかったから、非常に苦労しました。最後はスタッフも大幅に増やしてもらって、色々な方に迷惑をかけつつなんとか完成までこぎ着けましたが、自分がいかに無謀だったかを痛感しました。

でも今振り返ってみると、あの作品には自分の初期衝動が詰まっていたとも思うんです。悩んでいること、言いたいこと、誰かに言って欲しいこと、見たい風景、そんな自分の大事なものをかき集めて、当時の実力なりにではあったけれど精いっぱいそれまでの人生を詰め込んだ作品でした。

例えば、僕は高校までは長野県の高原で育ちましたが、そこでの原風景を突き詰めていったのが『雲のむこう~』だったのだと思います。その後、上京し東京の風景を見て感動した気持ちもここには詰まっています。実は現在制作中の最新作『君の名は。』は、この映画で語り尽くせなかったことをもう一度語り直している部分もあります。そういう意味で『雲のむこう~』は今でも大事にしているテーマやモチーフがたくさん入った作品だし、僕の作品の原点だと思います。

また、今に繋がる僕たちの背景美術チームの原型が出来たのもこの作品でした。11年前、デジタルで絵を描いた経験のない美大出身者たちを集めて、ゼロからデジタル美術のノウハウを組み立てていったんです。日本のアニメーション映画で背景美術を全てデジタルで行ったのは、この作品がほぼ初だったのではないでしょうか。
何年か前のエピソードなんですが、映画祭で上海に行った時、現地のアニメーターたちが『雲のむこう~』でデジタル美術を学んだと言っていました。DVDをキャプチャした背景を模写して研究したのだと。そういう話を聞くと、当時の苦労がすこしは報われたような気持ちになります。

■多くのファンが聖地巡礼に向かった人気作『秒速5センチメートル』

『秒速5センチメートル』(2007)
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:天門
主題歌:山崎まさよし「One more time, One more chance」
キャスト:水橋研二、近藤好美、尾上綾華、花村怜美

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『秒速5センチメートル』(2007)
(C) Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

『秒速5センチメートル』無料配信>>

2007年に公開され、熱狂的ファンを獲得した新海誠監督の劇場公開第2弾作品が『秒速5センチメートル』だ。小学校の卒業と同時に離ればなれになった貴樹と明里の再会の日を描いた「桜花抄」、その後の貴樹を別の人物の視点から描いた「コスモナウト」、そして彼らの魂の彷徨(ほうこう)を切り取った表題作「秒速5センチメートル」という3本の連作アニメーション作品となっている。徹底的なロケハンをもとに紡ぎだされた風景描写は、多くの人々を驚嘆させ、多くのファンがロケ地に聖地巡礼に向かった。

◆【新海監督のコメント】
これで僕を知ってくださった方や今でも好きだと言ってくださる方も少なくないので、ありがたい作品だなと思います。とにかく『雲のむこう~』の反省もあって、もう少し自分の手の届く範囲で作品を作り上げようと思ったので、尺も『雲のむこう~』より短くし、三部作のオムニバスという形をとりました。ビジュアルは今観ても見どころがあると思いますし、日常の風景を徹底的に描き直すというのは、当時のアニメーションの美術としてはややめずらしいことだったのではないかと思います。

自分が作品を作る時はいつも、観た人を励ましたいなという思いを込めています。『雲のむこう~』の時は、「人の記憶」がその先の人生を励ましてくれるんじゃないかということを考えていましたし、『秒速~』では、「風景」が人を励ましてくれるといった思いを込めました。だから自分たちが暮らしている風景を徹底的に美しく描く必要があったし、それはある程度やれたと思うんです。ですから『秒速~』に関してはビジュアル的な達成感はありました。

ただ、反省点もあって、今だから言えるんですが、制作の最後の方にはちょっと息切れしたんです(笑)。本当は最終話にあと10分程度、なにかドラマを描きたかった。『秒速~』は60分程度の決して長くはない作品なんですが、当時は完走しきる力がなかったんだと思います。それでも公開後はたくさんの観客の支持をいただけて、今でこそあの形が作品としてのベストだったんだと納得は出来ていますが、「もっと良い映画が作れるはずだ」という気持ちは残りました。

山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」を主題歌に出来たことは、本当に幸運でしたね。もともと自分が大好きな曲だったんですが、ダメもとで山崎さんにお願いしたら許諾をいただけて。いつまでも色褪せない本当の名曲ですよね。曲に乗せた最後のシークエンスは、今でも自分で観返したりすることもあります。
それから、作品制作中は想像もしていなかったのですが、この作品の聖地巡礼をしてくださる方も多くて。種子島のロケハンの際に僕が泊まっていた旅館も、いつの間にか「新海監督が泊まった部屋」という感じになっていて(笑)。その部屋には交換ノートが置いてあるそうなんです。今でも夏に、種子島から「監督の泊まった部屋に来ています」という絵はがきが届くことがあります。本当にありがたいことだと思っています。

■新海作品初の本格ジュブナイル作品『星を追う子ども』

『星を追う子ども』(2011年)
原作・脚本・監督:新海誠
作画監督・キャラクターデザイン:西村貴世
美術監督:丹治匠
音楽:天門
主題歌:熊木杏里「Hello Goodbye & Hello」
声の出演:金元寿子、入野自由、井上和彦

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『星を追う子ども』(2011年)
(c)Makoto Shinkai/CMMMY

『星を追う子ども』無料配信>>

新海誠初の本格ジュブナイル・アニメーション。日本アニメーションが制作した世界名作劇場などに影響された親しみやすいキャラクターデザインと、少女を主人公とした冒険譚(たん)が新たな"新海ワールド"を切り開いた。ある日、父の形見の鉱石ラジオから聴こえてきた不思議な唄を忘れられない少女アスナ。彼女は地下世界アガルタから来たという少年シュンと心を通わせるも、少年は突然姿を消してしまう。「もう一度あの人に会いたい」と願うアスナはアガルタの地へ冒険の旅に出る...という物語だ。

◆【新海監督のコメント】
とにかくこの作品では、僕のことや、アニメに詳しくないような何も知らない人が何の前知識がなくいきなり観ても、楽しかったと思ってもらえるような作品にしたかったんです。

それからもうひとつ。日本のアニメーションの伝統的な作り方の現場を学びたかったということがあります。まずは紙とえんぴつの世界。それまでは、絵コンテもデジタルで描いてきたんですが、この時はとにかくB4の紙にえんぴつで描くことに注力しました。描き終わっていく紙の束が厚くなっていくのがうれしかったことを覚えていますね。デジタルってどこか効率を重視するところもあると思うんですが、紙とえんぴつの場合は、それ一つが単体で、紙に定着した作品のようになるので、コンテの熱量はこれまでの作品とは違ったかもしれないですね。

この作品あたりから客層がガラッと変わった印象があります。年齢も変わったし、性別もファッションも変わった気がします。単純に言うと客層が若くなったし、女性が格段に増えた。カジュアルに拡散した感じはありますね。サイン会をやっても、女の子がたくさん来てくれるようになりました。『秒速~』の公開時とはまったく違いますが、それは作品がファンタジーという面も関係あるかと思います。
当時、中学生だった僕の姪(めい)が、この作品で初めて面白いと言ってくれたんです(笑)。中学生だったんで、ちょうど響く年齢だったというのもあるでしょうが、ジャニーズのアイドルを好きなような子が、普通にファンとして観てくれたのはうれしかったですね。
そういう子たちが、僕の過去作をさかのぼったり『言の葉の庭』を観てくれたりしてくれた。そういう意味でもやって良かったなと思いますね。

それとこの作品で最初に思い出すのは東日本大震災ですね。制作の最後の追い込みの時に震災が起こりました。もう、ほとんど完成間際だったので、もちろん内容を直接的にリンクさせたわけではないんですが、今振り返っても、その印象が強いです。
この作品では、端的に言えば「産まれてきたこと、それ自体が救いだ」ということを描きたかったんです。そのメッセージをどういう語り口に乗せるべきかと考えていった結果、「地下に潜って死者に会いに行く」というプリミティブな神話のような構造を持った作品になりました。
作品の公開は震災後でしたが、他の地域からはすこし遅れて東北でも上映させていただくことが出来ました。当時は観客からいただく感想も震災に関連したことが多かったですし、生とか死といった匂いの強い作品だったとあらためて思います。

■新海作品最大のヒット作となった『言の葉の庭』

『言の葉の庭』(2013)
原作・脚本・監督:新海誠
作画監督・キャラクターデザイン:土屋堅一
美術監督:滝口比呂志
音楽:KASHIWA Daisuke
エンディングテーマ:「Rain」〈作詞・作曲〉大江千里〈歌〉秦 基博
声の出演:入野自由/花澤香菜

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『言の葉の庭』(2013)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films

『言の葉の庭』無料配信>>

新海監督の劇場公開作としては現時点での最新作であり、最大のヒット作が『言の葉の庭』だ。"デジタル時代の映像文学"で世界を魅了する新海誠監督による、少年が年上の女性に抱くひと夏の淡い思いを描いた恋物語。地雨、夕立、天気雨、豪雨など、さまざまな雨をていねいに表現したアニメーションが、登場人物の心の変化や揺れる思いにそっと寄り添っている。秦基博が本作のために大江千里の『Rain』をカバーし、普遍に届くメッセージを現代の感性で歌い上げていることも話題となった。

◆【新海監督のコメント】
この作品は新宿周辺が舞台となっているんですが、『言の葉の庭』が新宿のバルト9で上映されていた時は近くを通るとファンの方によく声をかけられたりしました(笑)。モデルとなった場所に集まっていた外国人の方と友達になったという話を聞いたりして。そういう話を聞くとうれしいですね。

今までなかば意識的にやってきたんですが、『秒速~』まではデザインも含めて、観客と置き換えられるような、あえてキャラクター性の薄い人を登場人物にしていたように思うんです。でも、『言の葉の庭』の時はキャラクターがより明確になった。そういう意味では普通のアニメやドラマに近いものに寄った作品だなという気持ちがあります。

僕は今まで「ギャップ」を物語の原動力にしてきたんです。例えば『ほしのこえ』だったら「宇宙と地球のギャップ」だったし、『雲のむこう~』は「現実と夢のギャップ」「東京と地方のギャップ」だった。『星を追う子ども』は、「地上と地下のギャップ」「生と死のギャップ」でした。それを『言の葉の庭』では、自分たちの身近な話題に引き寄せて、「社会的立場のギャップ」にしたんです。「生徒と教師」という立場の違いや、男女の年齢差を物語の推進力にしようと。それはきっと自分が年を重ねてきて、周りに自分より年下の人が増えてきたからかもしれません。そういう身近なテーマを扱っただけに、感想も男女問わず20代・30代の社会人の方から多くいただけたことが印象に残っています。

『言の葉の庭』は今までの作品制作の反省を踏まえて、とにかく完成度を高めることに注力した作品でした。尺が短かったということもありますが、それはある程度実現できたのではないかと思っています。物語面でもビジュアル面でも制作体制の面でも、きちんとやりきれたという感触がある。だからこそ、『言の葉の庭』の次の作品では違ったチャレンジが必要だと思いました。
だから現在制作中の『君の名は。』(2016年8月公開予定)はまた違った作品になると思います。『言の葉の庭』のように完成度を高めることもひとつの方向ですが、それでは観客も自分たちももう、どこか満足できないような気がするんです。次の新作は今までとはまた手触りの違う、大きなジャンプのあるものにする必要があります。現在スタッフ一同全力で制作中ですが、自信作だと胸を張れるものが出来上がりつつあります。ぜひ、楽しみにしていて下さい。

『君の名は。』(2016年8月公開予定)予告編映像>>


<プロフィール>
新海誠
しんかいまこと

1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人で制作した短編作品「ほしのこえ」でデビュー。新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」をはじめ多数の賞を獲得。2004年公開の初の長編映画『雲のむこう、約束の場所』では第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞した。その後、2007年に『秒速5センチメートル』、2011年に『星を追う子ども』を発表し、大きな話題を集める。2013年に公開された『言の葉の庭』では、自身最大のヒットを記録。ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭にて長編アニメーション部門のグランプリを受賞した。
座右の銘:「千里の道も一歩から」。

(取材・文/壬生智裕)
(写真:トレンドニュース)

トレンドニュース「いま、おもう」 ~大切な作品~
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。これまでも、これからも――ずっと大切な作品たち。改めて作品への思い入れや当時の苦労話、今の自分にとってどのような位置づけとなっているかを自身に語っていただくことで魅力を伝え、新たな視聴者との出会いのきっかけとしたい。

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