ここから本文です

"ハチ"名義でニコニコ動画に投稿したボーカロイド楽曲「マトリョシカ」「パンダヒーロー」から人気を集め、現在はシンガーソングライターとして活躍する米津玄師が、前作『YANKEE』からおよそ1年半ぶりのサードアルバム『Bremen』を今年10月にリリースした。本作では、彼のボーカリスト~コンポーザーとしての表現力や、ロックミュージシャンとしての演奏力が飛躍的に向上しており、凛々しくも繊細な歌詞世界との強烈なコントラストをなしている。
年明けには全国ツアーを控える彼に、これまでの歩みやルーツ、新作への思いなど大いに語ってもらった。

サムネイル

サードアルバム『Bremen』をリリースした米津玄師


■"ボカロP"として人気を博した裏でのジレンマ

――米津さんが、音楽に目覚めたきっかけは?

「小学校5年生のときに家にパソコンが来て、楽しくてインターネットばかり見ていたら、そこで『Flash動画』に出会ったんです。当時2ちゃんねるのアスキーアートなどをモチーフにしたFlash動画に、匿名ユーザーが既存の音楽をつけて、ネット上にアップするのがはやっていて。あれって今思うとニコニコ動画の先駆けだと思うんですけど。それにハマっていろいろ見ているうちに、そこで使われている音楽に興味を持つようになったんですよね。とくに好きだったのが、BUMP OF CHICKENのFlash動画。彼らって物語調の歌詞が多いから、絵がつけやすかったんでしょうね」

――ボーカロイドにハマったきっかけは?

「高校を卒業して、徳島から大阪へ引っ越してすぐに、『初音ミク』というものが発売されるというニュースを見て。それでデモ動画を聴いたら本物の人間みたいだったんですよ。作曲は中学2年生の頃からエレキギターを使って始めていたのですが、これはすごいなと。すでにボーカロイドで作った曲を投稿するコミュニティもでき上がっていて、ここなら自分が作った音楽を聴いてもらえるんじゃないかと思いました」

――ボーカロイドを使った曲を投稿していくなかで、もともと米津さんがやりたかったバンドサウンドとは、どんどん違う方向へ進んでいくことへのジレンマはなかったんでしょうか?

「ありましたね。最初はボーカロイドでの曲作りが楽しくて仕方なかったんですけど、だんだんやることがルーチン化してきて、『果たしてこんなことでいいんだろうか』と。それでいろいろ考えた結果、昔に立ち戻って自分の声で歌おうというところに行き着きました」

■自分だけの美しさを追求した作品の脆弱(ぜいじゃく)さ

――そこで、ボカロP(ボーカロイドで創作活動をするクリエイター)"ハチ"としての活動から、本名"米津玄師"名義でデビューすることになったのですね。

「はい。2012年のファーストアルバム『diorama』は、自分の中の世界観を100%凝縮して、純化したような作品でした。昔から僕は、街の中にあるなんでもない日常を眺めるのがすごく好きだったんです。住宅街を歩いて、ベランダに干された洗濯物とかを見ると落ち着くというか。そういう空間を音楽に閉じ込めたい、頭の中にある理想の街を作り上げたいという思いで作ったアルバムです」

――2014年のセカンドアルバム『YANKEE』は、どのような作品でしたか?

「『diorama』を作り終わったときには、これ以上ないと思ったんですけど、段々気持ちが変化していきました。つまり、自分にしかわからないやり方で、ただひたすら自分だけが思う美しさを追い求めていくのは、ある意味ものすごく脆弱(ぜいじゃく)なものなんじゃないかと。もっと周囲に目を向け、自分がいる場所から1歩進むべきだと思って。それで例えばJ-POPシーンとか、そういうものに歩み寄ってみようと作ったのが『YANKEE』なんです」

■東京五輪を目指す、希望と廃虚の街からイメージ受けた

サムネイル
1月9日より全国10都市をめぐる全国ツアー「米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊」をスタート


――そしてこのたび、サードアルバム『Bremen』がリリースされました。このアルバムは、希望と絶望、ポジティヴとネガティヴ、両方が入り混じっているというか。『diorama』で打ち立てた世界観を、『YANKEE』の方法論でより多くの人に届けようとする意志を感じます。

「実は『YANKEE』を作った後で引っ越しをしたんです。曲ができなくなってきたので、環境を変えてみようと。そしたら、すごい勢いで曲ができたんですよ。なので本作は引っ越しのおかげでできたと言っていいかもしれない(笑)」

――住んでいる街の情景が、そのままインスパイアされたりしていますか?

「されていますね。今住んでいるのは、とても不思議な街なんです。オリンピックのための再開発が進んでいて真新しい。でも建設途中のビルって、コンクリートが剥きだしで墓標のようにも見えるんですよ。オリンピックに向けて再開発を進めている、いわば希望に満ちた場所なのに、それが廃虚に見えるっていうのは、なんだかすごく不思議だなあと」

――しかもその姿は一過性で、数日たてば違う形になっているわけですよね。「希望」に向かっているのか、取り返しのつかない「破滅」に向かっているのか、それすら一瞬わからなくなるような、そんな場所ともいえます。

「その空気はアルバムにも色濃く出ている気がします。アルバムを作る前に頭に浮かんだ光景というのが、『廃虚になった街で、使えなくなった高速道路の上を、まだ生きている街を背に暗い方へと進んでいく人たち』というものだったんです。そのイメージがアルバムの随所にちりばめられています」

――例えば「帰る場所が無くなって随分経ち悲しみにも慣れて それでも僕らの毎日は まだ終わらないまま」(「ウィルオウィスプ」)という歌詞とか、とても印象的です。

「今、多くの人が同じようなことを感じているのではないかと思うんですよね。どう考えても、この先の世界に明るい未来を見いだすことはできないし、帰る場所もない。それでも日常を生きていかなければならないっていう。『Bremen』は、そんな世界の中で、どう生きるべきかを模索したアルバムなのかもしれません」

【公演情報】米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊>>

アルバム『Bremen』収録曲「アンビリーバーズ」>>


アルバム『Bremen』収録曲「Flowerwall」>>


アルバム『Bremen』収録曲「フローライト」>>


アルバム『Bremen』収録曲「メトロノーム」>>



◆ 米津玄師(よねづけんし)
本名。1991年3月10日生まれ。徳島県出身。2009年より"ハチ"という名義でニコニコ動画へオリシナル曲を投稿し、VOCALOIDシーンで大きな注目を集める。2012年には、自身がボーカルを取る"米津玄師"名義のアルバハム『diorama』をリリースし、翌年5月にメジャーソロデビュー。全曲にわたり作詞・作曲・アレンジ・プログラミングを自ら行い、イラスト動画・アートワークも手がけたサードアルバム『Bremen』を今年10月にリリースし、オリコンウィークリーチャート1位、iTunes週間チャート1位、Billboard Japan週間チャート1位の三冠を記録した。「第57回 輝く!日本レコード大賞」優秀アルバム賞を受賞。また来年1月より全国10都市をめぐる全国ツアー「米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊」をスタートする。
座右の銘は「宵越しの金は持たない」

(取材・文/黒田隆憲)
(写真:トレンドニュース)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

Facebookコメント
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。
PR

最新記事

rss

もっと見る

本文はここまでです このページの先頭へ