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「あまりに怖すぎて手元に置いておくことすら怖い」と言われた小野不由美の小説に、ミステリーの映画化の名手・中村義洋が挑んだ話題作『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』(2016年1月30日公開)。約10年ぶりの原点復帰とも言えるこの分野で、じわじわと怖さが忍び寄る恐怖演出を見せた中村監督に、その原点について聞いてみた。

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中村義洋監督『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』(2016年1月30日公開)


残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋― 劇場予告編 >>


■原作者からの指名でホラー映画に復帰

――監督としては久々に観客を怖がらせる作品を作ったわけですが、どのようなきっかけでやられることになったのですか?

 原作者の小野不由美さんが、「中村監督なら映画化もアリ...」みたいなことをおっしゃってくれたそうなんです。こうした傾向の作品を作るのは10年ぶりぐらいなんですが、その頃の作品を見てくれていたということで、それがうれしかった。今までで一番うれしい依頼だったんじゃないですかね。

――その小野さん自身を思わせる「私」に竹内結子さんを起用したのは...?

 原作を読んでいる時から直感で竹内さんが頭に浮かんだんです。小野さんは全然メディアに出ていらっしゃらない方なので具体的なイメージがない。写真がないから想像するしかないわけです。彼女に体温の低そうな、淡々とした演技をしてもらったのも原作通り。余計なものを足したりはしませんでした。

――ドキュメント・タッチなのも原作を思わせます。全体の構成は、ある事件の原因を調査して過去に向かってさかのぼっていくミステリーですね。

 原作に惚(ほ)れ込んで作っていますから、あまりいじらないようにしています。ところどころテロップが入るのもそうですね。もともとミステリー的な構成が好きだったというのもあります。昔やっていた『ほんとにあった!「呪いのビデオ」』というシリーズでも、大きなネタはほとんど、ここでやったような"過去にさかのぼる"ものだったんです。ミステリーの本を読むのも好きで、原作を読んだ時もその部分が自分にマッチしていると感じました。だから「僕に」と言っていただけたのもわかるような気がします。

――監督は原作ものを多く手がけていらっしゃいますが、その場合に心がけていることは何かありますか?

 無理はしない。ダメだな、のれないな、というものは引き受けないことです(笑)。ここ数年は、読んで「おおっ!」と思った原作しかやっていないので、そんな時は何も気を遣う必要がないですから。
 原作を読むのは、基本、映画化のオファーがあってからです。ただその時も、どんな映画にしてやろうかなんて考えながら読んだりはしません。一応、読書は好きなので、純粋にストーリーを楽しみながら読むようにしています。

■リアルな美術と配役で恐怖を表現

――タイトルにもある"部屋"や"家"が重要なポイントになりますね。

 ロケハンには苦労しました。撮影に入る前に制作部には「今回は大変だけど、ゴメンね...」とあらかじめ言っておいたのですが(笑)、なかなかいいロケ場所が決まらなくて...。クランクインした段階でもまだ三分の一は決まっていない、という状況でした。
 クライマックスに出てくる部屋のリアルなセットは美術部のお手柄です。「よくぞあそこまでやってくれた」という出来栄えで、見ているだけで心底怖くなる。本当に助かりましたね。

――この映画は特殊メイクやスプラッター描写に頼らずに怖さを表現しているところに特徴があると思います。

 特殊メイクは撮影時には少しやったんですが、最終的な本編にはあまり使いませんでした。それよりも"幽霊"的な登場人物たちのキャスティングに時間をかけることにしたんです。素顔そのものが怖く見える人を探して、何度もキャスティングしました。だから特殊メイクの必要がなかったとも言えます。
 これまでハッピーエンドの映画ばかり撮ってきて、久々にこういう世界に戻ってくると、ギアの入り方の違いに気付きますね。いろいろなことを、かなり意図的にやらないとホラーは成立しないんです。コメディにしても感動させるシーンにしても、ある程度は役者さんの作る「間」にお任せできる部分がある。しかしホラーは、こっちが作る「間」に役者さんを無理やりハメていく必要があるわけです。セリフや効果音のタイミング、ほんの少しのことで怖くなったり、そうでなかったりします。作業自体は面倒くさいんですが、10年前と比べると、それが段々楽しくなってきた。ちょっといじるとこんなに変わるんだ、ホラーってこんなに面白いんだということを再発見したんです。コントロールすることの面白さ、と言いますか。放っておくと何も起きないだけに相当に神経を使いますが、うまくいくとすごい空気が生まれます。また、こうした分野の映画も撮ってみたくなりました。

――主人公の「私」は心霊現象については懐疑派ですが、監督ご自身はいかがですか?

 完全に懐疑派ですね。子供の頃は怖がりで、テレビの「あなたの知らない世界」とか心霊写真に夢中で、霊は本当にいると思っていたんですが、映像の仕事をするようになって、実際の心霊スポットに行っても全然出ない。何も起こらないし、何も写らないんですからね(笑)。だから作り手としては、少年時代の自分の視線を思い出したりしながら、いろいろ研究しています。しかし観客としては怖い映画を見るのは大好きです。心霊系の作品も『女優霊』や『リング』が出てきた頃は興奮しましたね。
 ......とはいえ、この映画でもクランクインの前にはちゃんとお祓いはしましたよ。それも、かつてないほどの人数が参加したという...(笑)。いや、普通はあんなに来ないんですけどね(笑)。

■映像作家としての原点は『マルサの女』

――そんな監督が映画好きになった原点は何ですか?

 伊丹十三監督の『マルサの女』です。テレビで高校3年生の時に出会って、ビデオに録ったのを受験勉強の合間に繰り返し見ました。僕は歴史好きでもあったんで、最初はそっち方面に願書を出すつもりだったんですが、気が付いたら映像学科・美術学科志望に変わっていたんです(笑)。全員分のセリフを覚えて、すべて言えるほど。それでメイキング本とかも読んで、なるほど世の中にはこういう仕事もあるんだ、と思ったのがきっかけですね。

――次回作は時代劇の『殿、利息でござる』(2016年5月14日公開)、これも初の試みだとか。

 本格的な時代劇をやるのは初めてです。しかしテレビの時代劇が好きで、特に「必殺」シリーズはマニアだったりするんで、一度はやってみたかった世界。原作が史料を基にした実話なんで、あんまり遊びは入れていないんですが、実際に撮影に入ってみると、カツラ待ちの時間がある以外は普段やっていることとあまり違わないな、という感覚です。

――この『残穢』に続いて竹内結子さんを起用していますが?

 それぞれ別の企画として進行していたので、今回の流れというわけではありません。もともと原作には女性が登場しないんですよ。でも、それって映画的にどうだろう? やっぱり出さなきゃダメだよね、という話になって、原作者の磯田道史さんと相談して映画オリジナル・キャラの飯屋のおかみという役を作ったんです。それが竹内さんにぴったりだったと。

――今後、手がけてみたい分野はありますか。

 何でもやってみたいんですが、いまだに「ちょっと会ってください」と言われて見知らぬプロデューサーに会いにいく時のワクワク感がたまらなく好きなんです。相手は自分の作品を見てオファーをくれているわけだから、「(その上で)何を出してくるんだろう? オレに何をやらせたいんだ?」という...。それを聞くのが、いつも楽しみです。

――最後に「座右の銘」を教えてください。

「映画はLIVEだ!」かな? 僕、基本"天気待ち"とかはしないんですよ。雨なら雨でやっちゃう。いろんなアクシデントに遭うこともありますが、それもまた映画だと思っていますから。当初の構想とは外れてしまうことがあっても、その時にしかやれないことをやろうと心がけています。

『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』は、小野不由美の山本周五郎賞受賞作「残穢」を『予告犯』の中村義洋監督が映画化した作品。怪談雑誌に読者投稿を基にした連載を持っている作家の「私」(竹内結子)のもとに、女子大生の久保さん(橋本愛)からの手紙が届く。今住んでいる部屋で奇妙な"音"がするというのだ。好奇心を抑えきれず「私」が久保さんとともに調査を開始すると、そのマンションの過去の住人たちが引っ越し先で数々の事件を起こしていることが判明する。なぜ、この部屋ではなく別々の場所で怪異は発生するのか? 二人は作家の平岡(佐々木蔵之介)、心霊マニアの三澤(坂口健太郎)らの協力を得てその土地や住人たちの過去をさかのぼっていくが、その先に待っていた戦慄(せんりつ)の真相とは...。2016年1月30日公開。

(プロフィール)
中村義洋(なかむら・よしひろ)
1970年生まれ、茨城県出身。成城大学在学中に製作した短編がぴあフィルムフェスティバル準グランプリを受賞。卒業後は崔洋一、伊丹十三などの助監督につく。99年からOVA『ほんとにあった!「呪いのビデオ」』で構成・演出・ナレーションを担当。『仄暗い水の底から』『ラストシーン』(01)の脚本を経て、監督作『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)で注目され、有望な若手監督に与えられる新藤兼人賞金賞を受賞。主な監督作に『チーム・バチスタの栄光』(08)『ゴールデンスランバー』『ちょんまげぷりん』(10)『映画 怪物くん』(11)『ポテチ』(12)『奇跡のリンゴ』(13)『白ゆき姫殺人事件』(14)『予告犯』(15)がある。新作は2016年5月公開予定の時代劇『殿、利息でござる』。

(取材・文/紀平照幸)
(写真:トレンドニュース)

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