ここから本文です

「ふぞろいの林檎たち」や「岸辺のアルバム」など、日本ドラマ史に残る名作を数多く生み、日本を代表する脚本家として今なお大きな影響力を持つ山田太一。このたび、女性向け映像クリエイタースクール「ラブストーリー・クリエイター・スクール」にて1月30日に特別講師を務めることが決定した。細やかな人間描写や独特の台詞回しによって、ありふれた日常の中にある「ひずみ」や「葛藤」を描く山田が、次世代の映像クリエイターたちに求めることとは?

サムネイル

脚本家・作家、山田太一 2016年1月30日に登壇「ラブストーリー・クリエイター・スクール」


■現実だけじゃツマラナイ

――脚本家を目指す人たちに対し、一番言いたいことはズバリなんでしょうか。

「テレビドラマであれ映画であれ、脚本家を目指すのであれば、いい作品をたくさん見ること。それに尽きると思いますね。いい作品を浴びるように見る。それは"売れている作品"ということではもちろんありません。日本では単館公開されただけで、全く話題にもならなかった映画の中にも素晴らしい作品はいくらである。そういうものを、とにかく見ることですよ。そうすると、自分にフィットする作品というのが必ず見つかるから。そこからがスタートだと思います」

――もともと小説家を目指していたそうですが、映画もたくさんご覧になっていたのですか?

「学生の頃はよく見ていましたね。恵比寿の映画館で、1日5本流れていたりして、そこに1日入り浸っていました。当時の映画館は冷房なんて付いていないから、真夏はとにかく暑くて。1本映画が終わるごとに、お客さんみんなで窓を開けて換気したりしていましたよ(笑)。そのときは、まさか自分が映像作家になるなんて思ってもみなかった。だって、映画なんて大勢のスタッフと一緒に作るものだしお金もかかるし。たった一人でそこを目指す発想は、全くなかった。"物語"を作ろうと思うと、さしあたっては小説っていうことになるんですよね」

――「物語」を作りたいと思ったのはなぜでしょうか。

「現実だけじゃツマラナイと思うからかな。映画にしても小説にしても、ある意味では現実逃避できるようなファンタジーが好きだったんですよ。でも、大学を卒業して映画会社の松竹に入社してみると、市井の人の物語っていうのかな、それを題材にするものが多かったんですよね。例えば小津安二郎さんも、ちょっと婚期の遅れた女性の話を何度もお作りになっていたでしょう?(笑)『へえ、こういう物語の作り方もあるんだ』っていう意味では、とても教えられましたね。そのあと、いろいろな成り行きがあってテレビの世界へ行くことになるのですが、テレビドラマもそんなにスペクタルなものはできないわけですよ、予算の関係もあるし。あと、映画よりもマスメディアとして大勢の人に見てもらうわけですから、身近な話の方が「親しみやすい」ということもある。となると、やはりホームドラマや、ほのぼのとしたコメディタッチのものが求められるわけです。ただ、そこで自分が作るのだったら、同じようなことをしても仕方がないので、"ほのぼのとしていないホームドラマを作ろう"と思ったわけです(笑)」

――例えば?

「ありふれた家族を題材にしつつ、そこでの関係性になるべく踏み込んで平凡ではない作品を作るにはどうしたらいいのか、いつも考えていましたね。それと同時に、その頃は与えられた企画の原作の脚色をいくつかやっていましたね。とりわけ印象に残っているのは、中村きい子さんの『女と刀』。ものすごく刺激を受けました。今の若い人が読んでも、きっと気に入ってもらえる素晴らしい小説です。それを当時、30分の連続ドラマに脚色していたのですが、常に"原作に負けまい"っていう気持ちで挑んでいました。いろいろ勉強になりましたね」

――ドラマとして脚色するにあたって、特にどのあたりが難しかったですか?

「単純明快なキャラクターは簡単に描けるのですが、普通の人の機微を描くのは難しい。とくに、クスッと笑っちゃうようなユーモアは大変ですよね。そのときは精一杯やったつもりでしたが、原作のきい子さんが、新聞の取材で『もう少し笑いがあるとよかった』って話していて(笑)。もう全くその通りだと思ったんだけど、でもできないんですよね、余裕がないんですよ、若い頃は。バカなことをやってゲラゲラ笑わせるっていうのは簡単なんだけど、普通の人が出てきて、なんとなく笑っちゃう、しかも演技じゃないところでっていうのが出来るかどうかが、作家としての第一関門じゃないかな」

サムネイル
脚本家・作家、山田太一 2016年1月30日に登壇「ラブストーリー・クリエイター・スクール」


――そこをクリアできるようになったのは?

「だんだん客観的になってくることでしょうか。人は誰しも、思うように人生を歩けないことが多いでしょう。登場人物もだんだん諦めることを覚えてきます。他人に対しても、『なにコイツ、変なヤツだな』とか思っても、その人の身になって考えてみると、その人にも事情があって、『無理もないな』って思えることもある。どんなに脚光を浴びて、チヤホヤともてはやされている人でも、実はとても孤独だったり、悲しい気持ちを抱えていたり。脚本家っていうのは、そんなふうにいろいろなタイプの人間を単純でなく登場させなくちゃつまらないでしょう? それもありふれたカタチではなく、いろいろな人のいろいろな側面を客観的に観察し、ありふれた言葉ではない表現で描いていくことが必要で。そういうことを意識してやっていくうちに、だんだん(ユーモアのセンスも)鍛えられてくるんじゃないかって少し思います」

■もう"脚色仕事"はやらないと決めた

――最近のテレビドラマについてはどのような思いがありますか?

「とにかく原作ありきのドラマが多いでしょう? 既存の小説やマンガやゲームを脚色したような。それで、脚本家にオリジナルの話を書かせなくなっている状況というのは、非常に悲しいですね。今、20代~40代でオリジナルの小説やテレビドラマを書こうと思っても、組織の支援なんてもちろんない。相当ハンデを背負った状態じゃないですか。それでも『書こう』と思っている人を、僕は本当に貴重な存在だと思っているんですよ。彼らが(自分の脚本を)売り込みにくると、ちょっと馬鹿にしたり、『こんなモノ持ち込まれてもね』なんて偉そうにしている連中がいますが、まったくもって愚の骨頂。ディレクターやプロデューサーっていうのは、書き手のいいところを見つけて褒めてあげて、原稿料なんて安くていいから試しに使ってやれば、段々うまくなっていくんだから。......ならない人もいるかもしれないけど(笑)。とにかく、そういう書き手を彼らはなぜ大事にしないんだろう、もっとちゃんと育てればいいのに、っていつも不思議で仕方ないんですよね」

サムネイル
脚本家・作家、山田太一 2016年1月30日に登壇「ラブストーリー・クリエイター・スクール」


――先生も若いころは多くの脚色ドラマを手掛けてこられましたが、そこで学んだこともありましたか?

「確かに僕は、若い頃に優れた原作の小説をいくつか脚色し、それが糧になっている部分はいろいろあると思います。ただ、あるときから『もう、脚色仕事はやらない』って決めたんですよ。なぜなら自分でやるべきこと、やれること、やりたいことをハッキリさせておかないと、脚本家としての自分自身の輪郭がなくなってしまうと思ったんです。それで僕は、『犯罪モノは(他にやる人がたくさんいるから)書かない』、『オリジナルの話しか書かない』ということを決めた。別にこちらが『決めた』って言っても、クライアントが仕事を回してくれなければそれまでなのだけど(笑)」

――自分自身に制限を課すことで、より表現を研ぎ澄ませていくということでしょうか。

「そうです。自分の輪郭もハッキリしてくるから、クライアントも仕事を頼みやすくなりますよね。長いこと僕は、そういうやり方できたことで、状況もよくなっていったと思います。まあ、これからスクールに通い始める人は、最初からできることを限定してしまうのは良くないと思いますが(笑)。ただ、やりたいことは何なのかハッキリさせておくことは、とても大事だと思います」

――では最後に、先生の座右の銘をお聞かせください。

「座右の銘というほどでもないですが(笑)、何かを考えているときに、『そんなこと言えりゃ簡単だよ』っていつも自分に言うんです。例えば、今世界中でテロがある。それに対してさまざまな議論がなされていますが、自分で何か書きたいことを思いついたとします。それに対して『そんなこと言えりゃ簡単だよ』って突っ込むことで我に返る。常に一歩引いたところから、自分を観察している感覚に近いのかな。脚本家に限らないけど、そういう視点が大事なのかなと思いますね」

サムネイル
脚本家・作家、山田太一 2016年1月30日に登壇「ラブストーリー・クリエイター・スクール」


◆ 山田太一
1934年 東京浅草生まれ。脚本家、作家。早稲田大学卒業後、松竹大船撮影所入社。演出部で木下恵介監督の助監督に。65年、脚本家として独立。「岸辺のアルバム」(1977年)「早春スケッチブック」(1983年)「ふぞろいの林檎たち」(1983年~1997年)、そして近年ではテレビ朝日開局55周年記念ドラマ「時は立ちまらない」など数多くの名作テレビドラマの脚本を手がける。そして小説家としても88年、長編小説「異人たちとの夏」で山本周五郎賞、2014年、エッセイ集「月日の残像」で小林秀雄賞を受賞。著書に「飛ぶ夢をしばらく見ない」「冬の蜃気楼」「終わりに見た夢」「空也上人がいた」他多数。戯曲に「日本の面影」「黄金色の夕暮」他多数。

(取材・文/黒田隆憲)
(写真:トレンドニュース)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

Facebookコメント
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。
PR

最新記事

rss

もっと見る

本文はここまでです このページの先頭へ