ここから本文です

 個性派俳優・安田顕の初主演映画『俳優 亀岡拓次』。演じた役は数知れず、誰もがどこかで見たはずなのに、名前も覚えてもらえない......そんな脇役専門の俳優・亀岡拓次が撮影の先々で出会うおかしな人々との交流や恋を、『ウルトラミラクルラブストーリー』の横浜聡子監督が映画化した作品だ。この映画の原作者で、5度の芥川(あくたがわ)賞候補歴のある(川端康成文学賞受賞作家)戌井昭人に映画や創作について語ってもらった。

サムネイル

1月23日北海道先行公開、30日から全国公開 映画『俳優 亀岡拓次』 原作:戌井昭人氏
(写真:トレンドニュース)


・「俳優 亀岡拓次」 劇場予告編>>



■自分も亀岡みたいな失敗をやらかすことも......

サムネイル
1月23日北海道先行公開、30日から全国公開 映画『俳優 亀岡拓次』
(C)2016「俳優 亀岡拓次」製作委員会


――亀岡拓次というキャラクターはどのように思いつかれたんですか?

 連載を始めるにあたって、いろんな土地を巡る"旅もの"にしたくて。どうすればいいかな? と思っていたところ、殿山泰司(俳優/エッセイスト)さんのエッセイを思い出しました。そこには、いろんな場所に行って面白い体験をする話が書いてある。そうだ、俳優を主人公にすれば、ロケをきっかけにあっちこっちに行くストーリーが書けると考えたんです。

――亀岡の中には、ご自身も反映されているんでしょうか?

 その時々ですね。自分の体験もあれば、誰かのエピソードを拾ったものもあります。たとえば、亀岡の2冊目「のろい男」に北海道の話がありますが、あれはほぼ自分の体験そのまま。丸一日スケジュールが空いちゃったので、札幌の街をウロウロして、テレビ塔で記念写真を撮ったり。「亀岡だったらどうするか?」と思って歩くことはよくやりました。小説で舞台にしている場所は、基本的にはすべて自分が行ったことのある場所なんです。映画で麻生久美子さんがおかみをしている居酒屋も、あんな感じの店が長野に実在します。ただし麻生さんみたいな女性はいなくて、おっさんばかりでしたが(笑)。

――映画でも小説でも料理が印象的に描かれています。

 食べるのが好きなんでしょうね(笑)。どこか地方へ行ったら、これは食べなきゃとか、買い食いしたりするのが好き。その時の味はけっこう覚えていて、食い物の話をすると、その街の雰囲気も思い出します。

――亀岡はかなり欠点があって、失敗の多いキャラクターですが、そのあたりご自身は......。

 僕もしょっちゅうやっちゃいます。以前、引っ越したばっかりでボーッとしていた時、お湯を沸かそうとして、電気ケトルのティファールを直接コンロの火にかけてしまったことがあります。「なかなか沸かないな」と思っていたら、プラスティックの焼ける匂いがして溶けていたという......(笑)。けっこうドジを踏むんです、自分も。

――映画化のお話が来た際には脚本も、という話はなかったのですか?

 それはまったくなかったです。誰かに全部お任せする形が良かったので。実際に上がってきた脚本を読んだら、とても面白くて、「こうして欲しい」という要望は出していなかったのですが、麻生さん演じる安曇(あずみ)が出てくる小説第一話のエピソードを大切に広げてくれたのもうれしかったですね。

サムネイル
1月23日北海道先行公開、30日から全国公開 映画『俳優 亀岡拓次』
(C)2016「俳優 亀岡拓次」製作委員会


――映画をご覧になって、小説にはない部分で感心されたところはありましたか?

 やはり横浜(聡子)監督は映画の現場をよくご存じの方ですから、その部分が広がっていましたね。駅に着いた亀岡をスタッフが車で迎えに来るところや、なかなか撮影が進まなくて周りがワサワサしてくるところなどは、現場の空気を知っている人ならではだと思いました。

――小説が出版された時に書評で褒めていただいた山崎努さんとは、映画で共演もなさっています。

 好意的な書評をしてくださったので、「出てくれるといいな」と思っていたのでうれしかったです。現場でご一緒する前に対談したりもしていたので、撮影の時にも「おい! 原作者、来い!」と呼ばれたり(笑)。本当はひっそりと出演したかったんですけどね......。楽しい方で、現場を楽しんでいる感じがすごくしました。

――亀岡役の安田顕さんとは......?

 そこが初対面です。ご挨拶したら、僕の小説を読んでくださっているそうで、「サインください」と言われて「安田さんへ」なんて書いたりしていました(笑)。ちょうどその時は死んだような目をしていて、前日朝まで撮影だったと聞いていたから疲れているんだろうな、と思っていたら、帰り際にあいさつした時には目がパチっと開いていて。「そうか! あれは役に入っていたんだ。酔っぱらいの役に成りきっていたんだ......」と感心しましたね。

サムネイル
1月23日北海道先行公開、30日から全国公開 映画『俳優 亀岡拓次』
(C)2016「俳優 亀岡拓次」製作委員会


■電車の中や喫茶店での人間観察から小説のアイディアが出ることも

――ところで、小説家になられたきっかけは?

 文学座の研究所を出て、「鉄割アルバトロスケット」というパフォーマンス集団を立ち上げました。大人のサークル活動みたいなもので、それだけでは食えないからバイト生活です。そんな先の見えない暮らしでふらふらしていた時、「脚本が書けるなら小説を書いてみろ」と出版社の社長さんに声をかけられたのがきっかけです。

――小説を書かれる時には全体の構成などは考えるのですか?「ひっ」(2012年)「どろにやいと」(2014年)など独特なタイトルも多いですが。

 書き出しの時にはどこへ向かうのか、ゴールはまったく見えない状態です。探りながら書いていると、途中から見えてくる感じ。思い入れがある部分だけが長くなっちゃったりすることがあります。自分でも「ここはやたらに飛ばしているな」と思うこともあります(笑)。タイトルも最初にあることはないですね。途中で考えます。落語のタイトルみたいに作為のないものにしたいんですよ。だから本文に出てくる言葉から拾ったりしています。

――題材は、やはりご経験や人間観察ですか?

 人間観察はよくしますね、電車の中とか、喫茶店で隣のテーブルにいる人の会話とか。使えそうだな、と思ったものは覚えています。映画にも出てくる宇宙飛行士とオムツの話もニュースで見てイメージに残っていたので、いつかは使おう......と。亀岡シリーズを書いている時は、どうしてもそのつもりになっちゃうんでしょうね。大森立嗣監督の現場に行った時には「おまえ、何か亀岡のネタを拾えたか?」と言われちゃいまして......。よっぽどキョロキョロ見てたんじゃないかな(笑)。

――亀岡シリーズには映画のタイトルが数多く出てきます。架空のものも多いですが、実在のものには、やはり戌井さんの思い入れが?

 はい。亀岡は『ブリット』が好きということにしていますが、自分は『カッコーの巣の上で』。『真夜中のカーボーイ』とか『タクシー・ドライバー』などアメリカン・ニューシネマっぽいものが好みです。最近の映画では『欲望のバージニア』や『君が生きた証』が良かったかな。
 日本映画では『社長』シリーズに『駅前』シリーズ、『県警対組織暴力』など、古いものが好きですね。この時代の映画って、今見直すと古さを感じる以前に「どこなの、この国?」という別世界感が半端なくって、現在進行形で楽しめるんですよ。

――最後に、今後の作家としてのご予定は?

 1月6日に出た「小説すばる」に「ゼンマイ」という中編小説が掲載されています。これが最新作ですね。亀岡シリーズに関しては、具体的な予定はないのですが、いつか50代になった亀岡を書いてみたいとは思っています。


『俳優・亀岡拓次』は、脇役専門の俳優・亀岡拓次を主人公にした連作短編小説(戌井昭人原作・文藝春秋社刊)の映画化。37歳独身、どんな役でも演じきる"最強の脇役"だが、私生活では一人お酒を楽しむ地味な日々。そんな亀岡が恋をした? 監督・脚本は『ウルトラミラクルラブストーリー』の横浜聡子で、これが映画初主演の安田顕のほか、麻生久美子、宇野祥平、新井浩文、染谷将太、三田佳子、山崎努らが共演している。1月23日から北海道先行公開、30日から全国公開。

サムネイル
1月23日北海道先行公開、30日から全国公開 映画『俳優 亀岡拓次』
(C)2016「俳優 亀岡拓次」製作委員会


戌井昭人(いぬい・あきと)
1971年生まれ。東京都出身。玉川大学卒業後、文学座研究所を経て97年からパフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」を主宰。2008年「鮒のためいき」で小説家デビュー。「まずいスープ」「ぴんぞろ」「ひっ」「すっぽん心中」「どろにやいと」で芥川(あくたがわ)賞候補になり、「すっぽん心中」で川端康成文学賞を受賞。亀岡拓次シリーズには「俳優・亀岡拓次」と「のろい男 俳優・亀岡拓次」の2作がある。
「座右の銘」:「生きていることは恥ずかしいこと」

(取材・文/紀平照幸)
(写真:トレンドニュース)


トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
>> 戌井昭人が出演する、GYAO配信番組「ぶるぺん」

話題作「俳優亀岡拓次」の意外なモデル ぶるぺん(00:03:06)>>


芥川賞5回ノミネートの作家から見た又吉は ぶるぺん(00:03:35)>>


その他の出演番組>>

・芥川賞ノミネート作家の舞台作品が......
・芥川賞ノミネート作家の小説デビュー秘話
・人気作家がシティーボーイズと共演した訳
・芥川賞5回落選で受賞へのこだわりは?
・情熱大陸出演者が舞台裏の本音をポロリ ぶるぺん

Facebookコメント
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。
PR

最新記事

rss

もっと見る

本文はここまでです このページの先頭へ