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国民的アニメ『映画ドラえもん』シリーズ36作目となる『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が3月5日より全国公開となる。1989年に公開された『ドラえもん のび太の日本誕生』を新たに生まれ変わらせた本作は、家出をしたのび太たちが、7万年前の日本へとタイムスリップし、史上最大の冒険を始めるアドベンチャー作品となっている。

本作のメガホンをとったのは2014年公開の『映画ドラえもん 新・のび太の大魔境 ~ペコと5人の探検隊~』でデビューを果たした新鋭・八鍬新之介監督。今回は、叙情的で丁寧な描写に定評がある八鍬監督に、新作ドラえもんの見どころ、そのこだわりなどについて聞いた。

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八鍬新之介監督 『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』(3月5日全国公開)


「映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生」 劇場予告編>>


■「ドラえもん」の現場の熱量はすごかった

――八鍬監督がシンエイ動画に入社されたのが2005年ということで、リニューアル後のドラえもんと共に歩んできたキャリアだと思うのですが。

僕は制作進行として入社しましたが、アニメの作り方を全く知らない状態でした。最初は専門用語などもまったく分からず、手探りの状態でしたね。

――リニューアル後、初のドラえもん映画となった『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』の公開が2006年3月だったので、入社されたときはちょうど映画の制作中だったのでは?

当時はテレビシリーズのリニューアル直後ということもあって、会社全体がドッタンバッタンしていましたね。とにかくわけもわからずテレビも映画も両方手伝うという感じでした。特に『のび太の恐竜2006』の時は現場の熱量がすごかったです。スタジオジブリ出身の方など、それまで「ドラえもん」に関わったことがなかった人たちがたくさんスタッフとして入ってきたので、お互いにライバル意識を持ちながら、細部までこだわって作画されていて、本当に壮絶でしたね。とにかくアニメーターが絵を手放したがらない(笑)。「ドラえもん」はこんな壮絶な現場で作っているのか、と衝撃を受けました。

――その後、演出の仕事に移動されたそうですが。

制作の仕事を覚えるのに1年かかりました。演出の勉強を始めたのは2年目からです。次回予告の組み立てをしたり、ミニコーナーの演出を任せてもらったり。あとは練習用のコンテを描いて、監督たちにアドバイスをもらいながら、何度も描き直すという作業をしていました。もちろん並行して制作の仕事もしっかりやっていましたよ(笑)。

――「ドラえもん」で演出の練習をするというのもぜいたくな環境だと思うのですが。

テレビシリーズの「ドラえもん」は一話完結で組み立てられているので、他の話数とは切り離して練習できるのは良かったですね。もともと原作の起承転結がはっきりしているので、絵コンテを描いたことがない人間にとってはやりやすかったかなと思います。

――監督デビュー作となった『映画ドラえもん 新・のび太の大魔境 ~ペコと5人の探検隊~』のオファーがあった時は相当なプレッシャーだったそうですが。

演出に移ってから5年目ぐらいで言われたのですが、監督と聞いて「え?」という感じで。一度はオーケーをしたものの、その後、気分が悪くなりました(笑)。ポッと出の新人監督の作品にスタッフが集まるのかな? という不安が大きかったですね。

――結果的にスタッフはどのようにして声をかけたのでしょうか?

制作の時に知り合った方や、テレビの演出をしていた時に知り合った方などに声をかけました。もちろん前年までの映画スタッフの方々にも引き続きお願いしました。

■「日本誕生」は完成度の高い原作

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八鍬新之介監督 『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』(3月5日全国公開)


――そして今回は人気の高い「のび太の日本誕生」をやらないかと言われたわけですが。

『新・のび太の大魔境』の時は子どもの頃に見たことがない作品だったので、わりと客観的にアプローチできたんですが、『日本誕生』の場合は子どもの頃の記憶が染み付いていましたし、原作の中でも、構成としての完成度が高い作品なので、どこを新しくしたらいいんだろうと悩みました。

――そういったところで原作および前作を引き継いだ部分はどういったところだったのでしょうか?

前半の部分ですね。子供たちが親や勉強の抑圧から家出をして、7万年前の日本に行き、いろんなひみつ道具で気持ちが開放されていくところが、子供の頃に見て一番楽しかったシーンなんです。だから、そこはしっかりと今の子どもたちにも伝えたいと思いました。一方で後半の方には少し手を加えました。「のび太の自立と成長」というテーマが際立つようにしたかったんです。ただ、藤子・F・不二雄先生の原作はパズルのように複雑に組み合わさっている作品なので、少しでも変更を加えると全体がバラバラに崩れてしまう危険性があるんです。だから新しい要素を追加するのは、とても難しかったですね。

――ドラえもんの現場はどのような方が作られているんですか? 職人タイプといった方が多いのでしょうか?

職人タイプですね。皆さん、最後まで粘って必死にやってくださる方ばかりです。たとえば石槍ひとつとっても、納得いくまで描き込んで、絵を離さないですね。こちらとしても「そんなに凝らなくていいよ」と言ってしまうと、現場の士気を下げてしまうので、納得いくまで作業してもらうようにしています。

――とはいえ、八鍬監督は制作進行出身でもあるので、絵を描く方の気持ちと同時に、時間管理をされる方の気持ちもよく分かるのでは?

そうですね。他の監督よりはよく見える方だと思います。ただ、結局は絵コンテが早く上がってさえいれば、どうにかなるんです。だから今回は『大魔境』の時よりも1カ月半ほど早く絵コンテを描いたんです。しかし、どうやら内容が非常に重たかったらしく、作画にいつも以上の時間がかかってしまって・・・。結局終盤はドタバタしてしまいましたが、その分、画面的にはすごくいい物になったと思います。

――「ドラえもん」は昔ながらのセルアニメの味わいを残しているようにも思うのですが。現場ではどれくらいデジタルが導入されているのでしょうか?

絵を書く人はみんな鉛筆と消しゴムで描いているんですが、それに色を付ける段階から絵をスキャンして、デジタルでペイントしていきます。美術も以前は画用紙に筆で直接、背景を描いていたのですが、今は一からパソコンで描いていますね。ただ、今回はオープニングとエンディングで手書きの背景やイラストを使用しています。今のアニメ業界のスケジュールを考えると、手描きはとても贅沢なことなんです。撮影処理に関しては、CGを使うとどうしてもCG然としたリアルな画面になってしまうので、「手描きの画面に溶け込むようなCGにしてください」というリクエストをお願いしています。「ドラえもん」には極端なリアリズムはマッチしないと思うので。

――監督が思う「ドラえもん」の魅力とは?

普通の子ども向け漫画があまり扱わない感情を扱っているのが魅力です。後悔や郷愁など、扱っている感情の幅が広くて豊かだと思ったんです。どこか児童文学に近い要素があるんじゃないでしょうか? もちろんギャグ漫画としての魅力もあるのですが、自分の中ではそういう位置づけです。

■「ドラえもん」を作って良かったなと思うこと

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八鍬新之介監督 『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』(3月5日全国公開)


――長編「ドラえもん」の魅力はどうですか?

F先生が長編のドラえもんを作る時に90分以上にこだわったというのは、やはり登場人物の成長をしっかり描いた映画にしてくれという事だと思うんです。たとえば自分勝手で乱暴者だったジャイアンが、みんなのために犠牲を払うカッコいい男へと変わっていくのもそうです。そういった短編では収まらない人間ドラマをF先生は長編に託されたと思うので、自分もその辺を一番大事にしたいなと思っています。

――『映画ドラえもん 新・のび太の大魔境 ~ペコと5人の探検隊~』はジャイアンにフォーカスした物語でしたが、今回はどのキャラクターにフォーカスされているのでしょうか?

今回は、「のび太とママ」という親子関係。それから「ペガ・グリ・ドラコとのび太」の親子関係という、二つの親子関係を軸に組み立てました。のび太が3匹の親を経験することで、ママが自分に抱いていた気持ちを理解し、大人へと一歩を踏み出すという構造になっています。

――「ドラえもん」を作っていて良かったなと思う瞬間はどんな時ですか?

公園を歩いていた時に、保育園の子どもたちがドラえもんの話をしていて。「そうか、この子達は全員見てくれてるんだ」と思ったら、すごい作品だなと。世界中の子どもたちが見てくれるアニメなんてほとんど奇跡ですからね。そういった作品に携われるのは、作り手として幸せなことだと思います。それから「ドラえもん」に励まされているという子どもたちから手紙をもらったりすると、やりがいがあるなと感じます。

――大人たちの反響は

家族でいつまでも見られるような作品を目指して作っているんで、大人の方からの反応がくるとうれしいですね。

――今回の作品で気に入っている点、良くできたなという点を教えてください。

敵役のギガゾンビです。1989年公開版はわりとコミカルな部分もあったんですか、今回はクレバーな強敵にしてやろうと思って。声優さんもプロの方から選んでいいということだったので、大塚芳忠さんにお願いしました。今までで一番の悪役にできたと思います。

――最後に座右の銘を教えてください。

「人間を描く」ということですね。どんなに緻密なストーリーであっても、人間が描けていなければ空虚になってしまうので、その言葉は物を作るときには常に自分の中心にあります。

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八鍬新之介監督 『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』(3月5日全国公開)


■プロフィール
八鍬新之介(やくわ しんのすけ)

1981年北海道出身。大学卒業後、シンエイ動画に入社。「ドラえもん」班に配属となり、以後、制作進行、演出、絵コンテなど、一貫して「ドラえもん」に関わる。2014年の『ドラえもん 新・のび太の大魔境 -ペコと5人の探検隊-』で監督デビュー。2016年の『ドラえもん 新・のび太の日本誕生』は2本目の監督作となる。

主題歌を担当する山崎まさよし コメント映像>>


みんなで踊ろう ウンタカダンス映像>>



(取材・文/壬生智裕)
(写真:トレンドニュース)

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