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さまざまな分野で活躍する人たちに密着し、紹介していく人気ドキュメンタリー番組「情熱大陸」。1998年の放送開始以来、今年で19年目を迎えた同番組は、4月10日で放送900回目を迎える。そしてその記念すべき記念番組に登場するのは、フィギュアスケーター・羽生結弦だ。
そこで今回は同番組の福岡元啓プロデューサーに「情熱大陸」の企画・キャスティング・密着方法、そして長寿番組に育った秘訣(ひけつ)、そして海外展開など、番組作りの裏側について聞いた。そこからは、伝統を大事にする反面、マンネリをとことん嫌い、新風を吹き込ませることをいとわないアグレッシブな姿勢と、「人との縁」がきっかけで番組を進化させてきたというユニークな歴史が浮かび上がってきた。

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今年で19年目を迎える「情熱大陸」 番組プロデューサーの福岡元啓氏


■『情熱大陸』の魅力―― 密着の切り口、キャスティング

――『情熱大陸』の魅力の一つとして、密着の切り口があると思うのですが、その切り口はどのように考えているのでしょうか?

福岡「密着といっても、ただ側にいて撮影するだけでは、単なる事実の積み重ねでしかありません。事実を並べてもその人の人生が分かることにもならない。そこが難しいところで、やはりそこで"こういう人なんじゃないか"という取材者目線が入ってくる。そうやって初めて番組が成立するんです。本でいうところの読み物になっていくというか、ストーリーができあがる。そこが僕らの試されるところでもあります。自分たちでいつもの王道パターン、「情熱大陸っぽさ」を作り上げてしまうと、すぐに終わりを迎えてしまうような気がするんです。正直言ってテレビってやはり面白くてナンボだと思っています。時には担当するディレクターを他業界からアサインしたり、自分の作法とは違う異色の回をいれています。」

――キャスティングも重要になってきます。

福岡「1カ月におよそ100本、1年でおよそ1200本の企画がやってきて、その中から選ぶのですが、企画を選ぶのは本当に大変です。毎週ですからね。年末年始もほぼ休みはありません」

――いわゆる誰もが知る有名人が出る反面、名前はあまり知られていなくても、すごい業績を残した人も取り上げられています。

福岡「昔から情熱大陸が好きと言ってくださる人は、認知度の低い方の回のほうが好きだと言ったり、一方で皆さんが今見たいというような人気者の回がいいという方もいますし、ファンの皆さんのご要望も多種多様です(笑)。でも、もちろんできる限りそれに全部応えていくようにしたいと思っています。1年で52回しかないですからね」

■「情熱大陸」のトレードマーク"テーマ曲""ナレーション"

――『情熱大陸』といえば、葉加瀬太郎さんのテーマ曲と窪田等さんのナレーションが特色ですが。

福岡「実は僕がプロデューサーに就任した時はテコ入れも期待されていて。まわりの人が、無責任にも"葉加瀬さん演奏のオープニング曲だって、変えたっていいんだぞ"と言う人もいたんです(笑)。でも、すぐにやはり窪田等さんのナレーション・葉加瀬太郎さんの曲は番組の顔であり、唯一無二のもの、いたずらに変えちゃダメだなということに、僕も周囲も気づきました。」

――フィリピン進出のきっかけになった猪子さんもそうですし、羽生さん、葉加瀬さんの音楽などもそうですが、「情熱大陸」が進化するきっかけとして「人の縁」があることが多いように思うのですが。

福岡「やはり番組を大事にしてくれてかつ時代の変化にもついてきてくれる人と一緒にやっていくのが一番良いんです。それはいくらお金を積んだところで成り立つものではない。結局人とのつながりでやっていくしかないんです。もちろんマンネリにするという意味ではなく、刺激はどんどんととり入れていきますけどね」

■900回記念に羽生結弦が出演するきっかけ

――そして4月10日放送予定の900回記念にはフィギュアスケーターの羽生結弦さんが登場します。

情熱大陸「フィギュアスケーター 羽生結弦」予告映像(2016/4/10放送分)>>


福岡「羽生さんにはずっと出ていただきたいとラブコールを送っていました。羽生さんはまだ21歳で、これからもっと伸びていく人。『情熱大陸』も成長していきたいという意味では、900回記念の放送にこれほどマッチする人はいないと思いました」

――とはいえ、なかなか取材を受けてくれる人ではないと思うのですが。

福岡「いつかは羽生さんにも出ていただけたらなと数年前から思っていました。やはり『情熱大陸』の歴史の深さも感じていただきましたし、『情熱大陸』なら大丈夫であろうという信頼関係のもとにスタートしたという感じですね」

――しかも今回は営業マンがディレクターを務められたのだとか。

福岡「MBSの広告営業部署に宮瀬永二郎という、子どもの頃からフィギュアスケートをやっていた男がいまして。今回の羽生選手の密着に関しては彼じゃないと絶対にできない、良い画が撮れないという状況なので、彼に演出もやってもらうことにしました。MBSは650人くらいの会社で部署ごとにわかれ、今回も本来なら制作局、スポーツ局の人間が担当するべき案件ですが、そんなことを言っていてどうするんですか、と。」

――900回記念番組を営業の方に任せようというのも面白いですね。

福岡「これは彼のスケート連盟への真摯な交渉の結果でもあるし、彼は業界にも明るい。彼のコミュニケーション能力がなければ、結実しなかった企画ですからね。会社としても杓子(しゃくし)定規じゃない状況を作り上げて、挑むという感じでした。選手のこともよく分かっているので、そこの距離感が非常によくとれています。」

――今回の番組テーマの一つとして「孤独」といったものも挙げられているようですが。

福岡「彼はアイドルのようなカリスマ的な人気もあるので、正直、今の羽生選手ならスケートリンクの外で何をしている場面でも見たい、という人は多いと思います。なんならただ歩いているだけでもいい。となると、どこにスポットを当てていくかが大事になる。そんな時に本人の口から出た言葉が"孤独"。ディレクターもそのように感じたんです。もちろん"超一流の絶対王者が世界に挑みました、やはり強いです"といった番組を作ることはできますが、それだと表面的すぎるかなと思って。それよりも一見、華やかに見えるような世界においても、その影は孤独に練習を積み重ねて、それでようやくみんなの前で花開くというか、そういう部分を見せられたらと思ったんです」

■海外展開が始動「アジアのナンバーワンドキュメンタリーになりたい」

――今後の展開についてお聞きしたいのですが。5月6日からフィリピンで『情熱大陸』が放送されるそうですね。

福岡「フィリピンにGMAネットワークという代表的な地上波放送局があるんですが、そこでのレギュラー放送が決まりました。(『情熱大陸』に登場した)チームラボ代表の猪子(寿之)さんから現地のIT企業であるハロハロ社を紹介いただきまして。そこで番組をローカライズ化し配信すると共に地上波放送も決定したため、「情熱大陸」の英語版を作ることになったんです」

――ローカライズはどのような作業を?

福岡「字幕とナレーションを両方英語に変更します。フィリピンで作業するため、今、僕は月に1泊2日や2泊3日のペースで現地に行っています。1回の出張で4本ぐらい完成させたいと思っていたんですが、この間行ったら1.5本ぐらいしかできなくて、初の試みなのでまさに試行錯誤を続けているところです(笑)」

――英語版があるなら他国にも展開できるのでは?

福岡「2、3年後にはアジアのナンバーワンドキュメンタリーになりたいと密かに思っています(笑)。ただ、フィリピンでの放送が決まったのもそうですが、基本的には人と人とのつながりですからね。そこを足がかりに、シンガポールやインドネシアなど東南アジアなどにも広げていけたらいいなと思います。海外で「情熱大陸」を広めることに
同意していただけそうな現地スポンサーさん、テレビ局さんご連絡待っております。(笑)」


福岡 元啓(ふくおか もとひろ)
1974年東京都出身。早稲田大学法学部卒業後1998年毎日放送入社。ラジオ局ディレクターとして「MBSヤングタウン」を担当後、報道局へ配属。神戸支局・大阪府警サブキャップ等を担当。「TBS報道特集」などを担当した後、2006年に東京支社へ転勤。2010年秋より『情熱大陸』5代目プロデューサーに就任した。
座右の銘「信用は無限の資本なり」

(取材・文/壬生智裕)
(写真:トレンドニュース)

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4月10日放送「情熱大陸」はフィギュアスケーター・羽生結弦に密着


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4月10日放送「情熱大陸」はフィギュアスケーター・羽生結弦に密着


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4月10日放送「情熱大陸」はフィギュアスケーター・羽生結弦に密着


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4月10日放送「情熱大陸」はフィギュアスケーター・羽生結弦に密着


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