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 120万部を超えるベストセラーで『せか猫』の愛称で親しまれた『世界から猫が消えたなら』が佐藤健の主演でついに映画化(5月14日公開)。試写会でも号泣者続出のこの感動作の原作者・川村元気と監督の永井聡に、製作の裏側を聞いてみた。

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5月14日公開『世界から猫が消えたなら』永井聡監督&原作者・川村元気氏
(写真:トレンドニュース)


■何かを得ることで、何かを失うこともある

世界から猫が消えたなら 特別映像>>


――映画化されるにあたって川村さんから永井監督に要望は出されましたか?

川村「もともと永井監督の作られた満島ひかりさんが出ているカロリーメイトのCMが好きだったんです。小説『世界から猫が消えたなら』が出た直後に人を介してお会いする機会があって、いつかは一緒に仕事をしてみたいと思っていました。ですから実際に映画化の話が出た時には、ぜひ永井さんで、とお願いしました。この小説は、普段は映画のプロデューサーをしている自分が『映画にならないことを書いてみよう』と思って書いたものなので、そのまま映画化してもうまくいかないんです。なので『こうして欲しい』ではなくて、『これは変えたほうがいいのでは?』ということを伝えました。具体的には悪魔(役)がアロハシャツを着ていることと、猫がしゃべること。その上で、どう映画的な発明をしてくれるのか、楽しみに待ちました」

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5月14日公開『世界から猫が消えたなら』


――その二つも含め、映画的に改変されたことがすべてうまく機能しているように感じられました。

永井「川村さんが文章でしかできない表現にこだわったように、映画でしかできない表現、文章だけでは伝えにくいことを見せていこうと、いろいろアイディアを加えていきました。"世界から何かが消える"ことをVFXを使って具体的に見せるのもそうですし、僕(佐藤健)と彼女(宮崎あおい)の出会いのエピソードも変えています」

川村「『僕が自転車の上で一回転するシーンが撮りたい』って、最初に言われた時には何のことだか想像もつかなかったんですよ(笑)。実際に映像を見てみて、なるほど、人が死ぬことを自覚する不思議さを表現するマジック・リアリズムみたいなものか、と感心しましたね」

永井「人が意識を失う瞬間に何が起きるんだろう? と考えたんです。この小説は自分で体験しづらいことばかりなので(笑)、いろいろ調べてみたら、その中に"体が宙に浮かんでいく感じ"というのがあったので、それを視覚的に表現してみました」

――そもそも川村さんが、この小説を思いつかれた原点は何ですか?

川村「三つのことが重なっているんです。一つ目は以前、携帯電話を落としたことがあって、公衆電話から家族や知人に電話をかけようとしたんですが、誰の番号も思い出せなくてショックを受けたんです。昔は好きだった子の電話番号は指で覚えていたのに......。それで電車に乗って、仕方がないので窓の外を眺めていたら、大きな虹が出ていた。でも他の乗客はみんな手元の携帯電話に夢中で、誰も気付いていない。この時に、"何かを得ることと失うことはセットなんだな"と思いました。

二つ目は『悪人』という映画の製作をして、原作者の吉田修一さんに脚本も書いていただいた時に、"小説と映画それぞれで表現できることの違い"を発見したこと。
三つ目は伯父さんが亡くなった時の思い出です。伯父は自分が高校生の時に病気で亡くなったんですが、死ぬ前に「俺が死んだら、みんな俺のことを忘れて、明日から何も変わらない生活を送っていくんだ」と言ったんです。大好きな伯父でしたが、その言葉を聞いた時、何も言えなくて......。そのことがずっとひっかかっていたんです。"伯父さんがいた世界"と"いなくなった世界"の差は何だろう? そんな積み残した思いのようなものが、ある日カチッとはまって物語ができたんです」

■佐藤健の持つ"透明感"がこの映画には必要だった

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世界遺産「イグアスの滝」でのシーンは圧巻


――小説を書かれた時から主役は佐藤健さんだというイメージはあったのですか?

川村「彼の魅力って、最初に見た時は顔が濃いのもあって"佐藤健"以外には見えないのに、だんだん透明になっていって見ている自分に重なっていくことだと思うんです。『バクマン。』のプロデュースをした時にも、初めは"佐藤健が演技している"と思って見ていたのが、いつしか自分の青春時代を見ているような気分になりました。もともと小説で登場人物に名前を付けなかったのは、読んでいるうちにその人の人生と物語が混ざるといいな、と考えたからです。彼ならば観客が自分を投影してくれる機能を果たしてくれるだろうと思ったし、実際に成功していると感じました」

――その佐藤さんですが、主人公の僕と悪魔の一人二役の撮影は大変だったのでは?

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主人公の僕と悪魔の一人二役に挑んだ、佐藤健


永井「理想を言えば、僕と悪魔を別々に撮れば演じる方も楽なんでしょうが、スケジュールの関係で行ったり来たりの撮影になりました。何度も同じシーンを繰り返すわけで、その度に気持ちのスイッチを切り替えなければならないから、彼は本当に大変だったと思います。しかも撮り終わった時に、そのシーンがいいシーンだったという手応えがない。編集して見るまでは出来栄えがわかりませんからね。そこで、彼とは事前にしっかり話し合って準備しました。ものすごく忍耐力のいる撮影でしたね」

――猫を撮影するのって大変じゃありませんでした?

永井「メインの猫はパンプくん(オス、10歳、サバトラ柄)というのですが、本当に天才だったので、まったく苦労はありませんでした。何事にも動じない猫で、むしろ人間の方がNGを出していました(笑)」

――宮崎さんふんする彼女が勤める映画館が雰囲気のある建物でしたね。

永井「あれは函館にある、歴史のある建物で、普段はギャラリーとして使っているものです。味があるので、お願いして映画館っぽく改装して使わせてもらいました」

――アルゼンチンでのロケはいかがでした?

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5月14日公開『世界から猫が消えたなら』


永井「佐藤さんはとてもたくましかったですね。初めての海外ロケだったそうで、思いっきり楽しんでいましたし、朝から元気で。元気な若い人を見ているとこっちも元気がもらえました。対照的だったのは宮崎さんで、1日目からホームシックになっていました(笑)。彼女は、いったん家に帰ってゆっくり休み、また新たな気持ちで現場に入りたいタイプみたいで......」

――お二方それぞれ、猫に関する思い出はありますか?

川村「子どもの頃に猫を飼っていて、劇中のキャベツはその猫がモデルです。好きな時に出て行って、好きな時に戻ってくるという猫だったんですが、ある日、出て行ったまま戻ってきませんでした。母はそれ以来、猫を飼うのをやめてしまったんです。そのことが自分の中でもずっと残っていて。急に猫がいなくなることで初めて感じた、日常の変化というか......。『世界から猫が消えたなら』というタイトルもそこから来ています」

永井「3匹飼っていました。みんな天寿を全うしたんですが、猫は散歩させたりしなくていいんで普段はあまりコミュニケーションをとっていなかったんですね。特に10代の頃は外で遊んでばっかりでしたし。でも猫が年老いて弱って、その傍にいるといろいろなことが思い出されてきて、あの時こうしておけば、ああしてやれば、と......。猫のおかげで家族が会話できていたし、家族をつないでくれた橋渡し的な役だったんだな、と思いました。そうした自分の体験をすべて、この映画には入れ込んでいます」

――タイトルにちなんで、"世界から消えてほしくないもの"は何ですか?

永井「映像の世界にいますので、最近なくなりつつあるフィルムにはやはり消えてほしくないですね。ひとつのメディアがなくなっていくのは悲しいですから」

川村「音楽ですね。小説を書いている時に、ラストで曲を流したくて仕方なかったんです。映画の武器は音楽が使えることで、映画のラストシーンには小林武史さんの素晴らしい音楽に合わせて自転車が走っていくという、小説では味わえない感動がありますから」

■『世界から猫が消えたなら』は、映画プロデューサーの川村元気が書いた初の小説を、CM監督として知られる永井聡が映画化したもの。猫のキャベツと暮らしている30歳の郵便配達員である僕(佐藤健)は、ある日、脳腫瘍で余命わずかと宣告されてしまう。そんな彼の前に、自分と同じ姿をした悪魔(佐藤の二役)が現れ、「世界から一つのものを消せば、1日分だけ命をやる」と告げる。ただし消すものは、僕にとって大切なものでなければならないらしい。こうして世界から電話が、映画が、時計が次々と消えていくが、それによって僕と周囲の人々との繋(つな)がりもまた消えていく。そして悪魔は次に消すのは猫だと宣言する......。共演は宮崎あおい、濱田岳、奥田瑛二、原田美枝子ほか。5月14日から公開。


川村元気(かわむら・げんき)
1979年生まれ。映画プロデューサーとして『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『バケモノの子』『バクマン。』などを製作。2011年には優れた製作者に贈られる藤本賞を史上最年少で受賞。初の小説となる『世界から猫が消えたなら』を発表、2013年度本屋大賞にノミネートされた。その他の著書に、宮崎駿、坂本龍一ら巨匠たちとの対話集『仕事。』、2作連続の本屋大賞ノミネート作品となった小説『億男』。近著に、養老孟司、若田光一、川上量生、佐藤雅彦、伊藤穣一ら理系人との対話集『理系に学ぶ。』、ハリウッドの巨匠達との空想企画会議本『超企画会議』などがある。
座右の銘:「優柔不断」(ネガティブな言葉として使われがちですが、優しく柔らかく、ギリギリまで考えることで、新しい発想を生むという前向きな言葉として捉えています)

理系人との対話集『理系に学ぶ』>>
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ハリウッドの巨匠達との空想企画会議本『超企画会議』>>
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永井聡(ながい・あきら)
1970年生まれ。CM監督として、サントリーBOSS「ゼロの頂点」、カロリーメイト「とどけ、熱量。」、サントリー「グリーン・ダカラちゃん」など数々の話題作を手がけ、2012年からACC CM FESTIVALディレクター賞を2年連続受賞。2014年『ジャッジ!』で長編映画監督デビュー。
座右の銘:「失敗に学ぶ」(CMで、うまくいかなかったものばかりを見直す。ダメだった理由を見付け、プロとして同じ失敗をしないために)

主題歌に17歳のHARUHIが抜擢「ひずみ」>>


※文中の「宮崎」の「大」は「立」表記
(取材・文/紀平照幸)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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