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『半落ち』や『クライマーズ・ハイ』などの傑作を生み出してきた横山秀夫原作の同名ミステリーを前後編の大作として映画化した『64 ロクヨン』(前編5月7日、後編6月11日公開)。わずか7日間でその幕を閉じた昭和64年。その間に発生した少女誘拐殺人事件、通称「ロクヨン」が未解決のまま時が流れ、時効寸前となったある日、関係者を震撼(しんかん)させる出来事が発生する......。オールスターキャストで製作されたこの作品の瀬々敬久監督に話を聞いた。

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映画『64 ロクヨン』(前編5月7日、後編6月11日公開)瀬々敬久監督
(写真:トレンドニュース)


64-ロクヨン-前編 劇場予告編>>


■脇役のひとりひとりにもそれぞれの個性を持たせたキャラ作りを

――映画化の企画には最初から参加なさったのですか?

 途中からの参加です。その時に決まっていたのは前後編で作ることと、前編をどこで終わらせるかということで、その後、脚色にも参加して自分の意見を取り入れていきました。

――その際に最も重点を置いたことは何ですか?

 一人称の文学をどうやって映画にしていくか、ということですね。原作小説は基本、主人公・三上(佐藤浩市)の視点で描かれ、事件の真相に関しても彼の頭の中で「こうだったのではないか......?」と想像される様子が文章で描かれます。これはある意味ハードボイルド小説の特色ですが、そのままでは映画にはできません。映画とは行動があって、人と人とのぶつかり合いがあって、しかもそれを客観的に描くことによって成立するものですから、どうしたら映画的にできるかという部分が難しかったです。

――原作とは構成が変えられていて、昭和64年の事件(ロクヨン)が冒頭で描かれています。

 あそこは途中にフラッシュバックで入れると観客にわかりづらいんじゃないかと考えてオープニングに持ってきました。昭和最後の年に起こったあの事件がこの作品のキーであり、三上や被害者、関係者たちの思いを知ってもらうための大前提なので、きっちり描いておく必要があると考えたんです。

――原作は分厚い小説で登場人物も多いです。しかし、それぞれの個性や思いがちゃんと伝わってくる描かれ方をしていると感じました。

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映画『64 ロクヨン』(前編5月7日、後編6月11日公開)瀬々敬久監督
(写真:トレンドニュース)


 原作者の横山秀夫先生から最初に言われたのが「記者クラブの記者ひとりひとりをしっかり描いてください」ということだったんです。普通の映画でありがちな記者A、B、Cではなく、それぞれにキャラを付けておろそかにしないで欲しい、人物像が見えるようにして欲しい、と。そこは気を遣いましたし、演じてくれた役者さんたちもそれぞれのキャラを作ってがんばってくれました。彼ら自身の見えないパワーがあってのことだと思います。

――これだけのオールスターキャストで名だたる名優がそろっている場合、演技指導とかはどうされるんですか?

 基本、お任せですね。まず演じてもらって、必要があれば方向性を変えてもらいます。演技指導というよりは、配置や動きを考え、その場で指示を与えながら作り上げていくという感じですね。例えば、新聞記者たちが群がって三上に迫るシーンでは、意図して記者の側について(佐藤)浩市さんに圧をかけるように心がけました。基本的にこの話は三上が外敵と戦っていく話ですから、常に自分としては浩市さんと戦う側でやっていこうと思っていました。

――その佐藤浩市さんとは三上の役作りについてどんな話を?

 ちょうど撮影の中盤に、前編のクライマックスである記者クラブのシーンがあって、その演技がキモになるということはお互いにわかっていたので、いろいろと話し合いました。あそこはどのぐらいのテンションで行けばいいのか? ということですね。もっと感情を入れて泣きに行くことも可能で、実際にテストでは涙を流す演技もあったんですが、「もう少し抑えていきましょう」ということで、涙は寸止めの状態にしています。それで伝わるかどうかの挑戦でした。うまくいくことを願っています。

■映画の世界の境界を壊してやりたいという思い

――本作は前後編合わせると4時間の大作、『ヘヴンズストーリー』(4時間38分の長編)など監督には長尺の人というイメージがありますが、長い作品だと、個々のシーンと全体の構成とのバランスの計算が大変なのでは?

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映画『64 ロクヨン』(前編5月7日、後編6月11日公開)瀬々敬久監督
(写真:トレンドニュース)


 長尺の方が自分のリズムに合っているのかもしれません。全体のバランスの話ですが、逆に2時間に短くまとめる方が計算がいるんです。4時間でも6時間でも、ひとつひとつのシーンを丹念に撮って重ねていけば、なんとかなるものです。この映画も2時間の映画2本という考えではなく4時間の長編だと思って、できれば続けて見ていただきたいですね。

――今回は原作とは異なる映画ならではのエンディングということも話題です。

 最初にお話したように、映画には"行動"が必要なので、小説にはない部分を付け加えることにしました。原作者の横山先生から最初は反対意見もあって、それはもちろん先生にとっては何年もかかって書き上げられた作品なので強い愛着もあるでしょうから当然なのですが、こちらの想いをぶつけて何度も話し合いまして、最終的には双方が納得する最上の結果になったと思っています。

――『アントキノイノチ』もそうですが、瀬々監督はラストを原作と変えるのがお好きなのですか?

 それでよく叱られます(笑)。いつも「自分ならこうする」と思っちゃうんですかね......。『アントキノイノチ』の時なんか、実家の妹がわざわざ電話をかけてきて、「兄ちゃん、あれはないわ!」と文句を言われましたから(笑)。

――そんな監督が映像作家を目指した原点とは何ですか?

 高校生の時に見た『青春の殺人者』(長谷川和彦監督、水谷豊主演の76年作品)です。それまでは若者が目指すものは文学か政治だったのですが、この当時の大森一樹、石井聰互(現:岳龍)監督なんかの新しいムーブメントを感じて、自主映画からでも映画監督になれるんだと気づき、これからは映画だ、これで世界を変えられるかもしれない、と考えるようになったんです。

――監督はピンク映画で出発し、そこは早撮り低予算の世界だったと思うのですが、その経験から得たものは?

 とにかく貧しい現場でしたね。僕の時代はピンク映画の調子もあまり良くない頃で、ここを足がかりにのし上がっていくという階段もなくなりかけ、ある日突然電話がかかってきて「もうおしまいにする」と宣言されてもおかしくない状況でした。しかもピンク映画って、どうしても見下されがちなジャンルじゃないですか。しかし、映画には上下というものはないんだ。大きなスケールの映画も小さな映画もドキュメンタリーも、すべて映画という世界の中では同格で、そんな境界、ボーダーを壊してやりたい。そういう想いでいましたし、その気持ちは今も変わっていません。

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県警広報官・三上(佐藤浩市) 映画『64 ロクヨン』
(C)映画「64」製作委員会



『64 ロクヨン』は横山秀夫のミステリー小説の映画化。昭和64年、わずか7日間しかなかったその年は、未解決に終わった少女誘拐殺人事件(通称「ロクヨン」)の記憶とともに、県警広報官・三上(佐藤浩市)の心に苦い思いを残していた。現在彼は交通事故加害者の実名報道をめぐって記者クラブと警務部の板挟みになって対応に苦慮していた。しかもプライベートでは娘の家出失踪という家庭の問題も抱えている。そんな時、時効寸前の「ロクヨン」をめぐるさまざまな問題が持ち上がり、さらに当時の事件を模した誘拐事件が発生する......。主演の佐藤以下、綾野剛、榮倉奈々、夏川結衣、緒形直人、窪田正孝、坂口健太郎、椎名桔平、滝藤賢一、奥田瑛二、仲村トオル、吉岡秀隆、瑛太、永瀬正敏、三浦友和という豪華キャストが共演した前後編の超大作。ミステリーであると同時に登場人物それぞれの心情に迫った人間ドラマでもある。監督は瀬々敬久。前編は5月7日、後編は6月11日から公開。


瀬々敬久(ぜぜ・たかひさ)
1960年5月24日、大分県出身。京都大学在学中から自主映画を製作、助監督を経て89年『課外授業 暴行』で監督デビュー。ピンク映画で活躍した後、『MOON CHILD』(03)『フライング☆ラビッツ』(08)『感染列島』(09)『マリアの乳房』(14)『ストレイヤーズ・クロニクル』(15)などの劇映画、『ドキュマンタリー頭脳警察』(09)などのドキュメンタリーと幅広く活動。『ヘヴンズストーリー』(10)でベルリン映画祭国際批評家連盟賞と最優秀アジア映画賞を受賞。『アントキノイノチ』(11)でモントリオール映画祭イノベーションアワードを受賞している。
座右の銘:一生懸命やった成功があれば、一生懸命やった失敗もある(それでもやり続けていかなければならない)。

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(取材・文/紀平照幸)

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