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 自主映画時代から注目を集め、大学院の修了制作作品『イエローキッド』が異例のロードショー公開、国際映画祭への作品出品歴も持つインディーズ映画界の雄・真利子哲也監督が満を持しての商業映画デビュー。その題材に選んだのが、理由なきストリートファイトに明け暮れる野獣のような若者を中心に、彼に引きずられるように暴力の渦に飲み込まれていく人々を描いた『ディストラクション・ベイビーズ』(5月21日公開)。この過激な衝撃作を完成させた監督に、その思いを聞いてみた。

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5月21日公開『ディストラクション・ベイビーズ』真利子哲也監督


■けんかに明け暮れる生き方をしていた人物は実在した!?

――監督への注目度からすると、もっと早くメジャーデビューしていてもおかしくなかったと思えるのですが? こんなに時間がかかった理由は?

 ちゃんとしたものが自分の中に浮かばなかった、というのが理由のひとつです。大きな作品を一本作ったからといって後が続かないというのを見てきていますので、持続可能な形で一本目を作れないかと試行錯誤していました。

――この映画の主人公にはモデルがいるそうですね。

 ミュージックビデオの仕事で愛媛県の松山に初めて行った時に、とあるバーのマスターの話を聞いて、その生きざまに感銘を受けたのがそもそものきっかけです。

――その話を聞いた瞬間に、「これは映画になる!」と思われたのですか?

 初めは映画の題材にしようとかではなく、単に興味を持ったというレベルでした。しかし取材を続けていくうちに、映画にしたいという思いがどんどん大きくなっていきました。実際、暴力の話って「ひどいことをしているな......」と思っても、気になって話に引き込まれてしまうんですよね。そんな、言葉で表現できないものと映像で真剣に向き合っていこうと考えたんです。『イエローキッド』がアメコミとボクシングを題材にした話で、その時の観客の反応もあって、暴力やアクションを選んだというのもあるかもしれません。

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5月21日公開『ディストラクション・ベイビーズ』真利子哲也監督


――『桐島、部活やめるってよ』の喜安浩平さんが共同脚本となっていますが、どのようなコラボレーションを?

『桐島~』のパンフレットを読んでいたら、喜安さんが松山出身と書いてあったのでお声をかけさせていただきました。「監督のオリジナル作品だから......」ということで、僕の原案は尊重してくださって、全体を俯瞰(ふかん)した上でズレた時に修正してもらうという形です。伊予弁に関しても直してもらいましたし。地方出身で東京にいる人の故郷に対する思いに関して、逆の立場にいる(東京から地方に撮影に行った)自分と比較できたのは大きかったですね。

――松山でオールロケされたんですよね?

 スタッフとキャストが同じ場所に泊まるというのは、大変望ましい撮影環境でした。ホテルから徒歩圏内で撮影していた場所も多く、夜のシーンも撮りやすかったですし、撮休の間も交流できますしね。映画に登場する祭り(みこしをぶつけ合う喧嘩神輿)のシーンは、三津にある厳島神社に行って撮影させてもらいました。「けんかに関する映画だ」というと役所の人は眉をひそめたかもしれませんが(笑)、祭りに関わっている人は興味を持ってくれました。

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主人公・泰良(たいら)役の柳楽優弥
(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会


――主人公・泰良(たいら)役の柳楽優弥さんは前半40分までほぼセリフなし。そんな中でどうやって役柄について表現するのか、お互いに話し合ったりされたのですか?

 言葉は交わしたのですが、頭の中では理解できてはいても実際にやってみないとわからない部分があって、松山市街でのはじめのけんかのシーンを撮った時にお互い「これだ」と掴(つか)める部分が見つかりました。

■"暴力とは何か"という問いを自分や観客に投げかけています

――泰良はなぜ暴力に向かうのか、という理由については監督の中に答えはあったのですか?

 それが掴(つか)みづらかったのが映画を撮った理由でもあります。取材した相手の方が「楽しければいい」と語ったのが「何なんだ? それは......」とずっと頭の中に残っていて、演じる上でもそこを大事にしてもらいました。
 暴力が世の中からなくなることはないし、実際問題としてなくすことも不可能だと思うんです。この映画で描かれるような理由のない暴力はどこかで起きるかもしれないし、自分にいつ降りかかるかもわからない。それをわかった上で生きていかなきゃいけないんじゃないか......。
先ほど祭りの話をしましたが、実際の祭りではみこしをぶつけ合う時にみこしの上に登った人だけじゃなくて下で担ぐ人同士でも怒鳴りあったりします。しかしそれを見ている警察も誰も止めたりはしない。社会や日常の中でけんかが発散の場として認められている空間があるわけです。人間の一浪には単なる暴力排除では片付けられない何かがある。そんなことを撮りながら考えていましたし、観客に対しても投げかけているつもりです。

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(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会


――泰良がけんかをするシーンはずっと引きの画で撮られていて細かいカット割りもありません。どのように撮影されましたか?

 殺陣はがっちりやりました。カメラの位置を説明し、それに見せるための動きをアクション・コーディネーターの方と練り上げていきます。普通のアクションとは違う"けんか"なので向き合った二人の間とか痛がり方などの反応にも気を遣いました。体力の問題もあるので、やっても3テイクがせいぜい。ほとんどがファースト・テイクを使っています。

――裕也(菅田将暉)の家庭環境など、キャラクターの背景がまったく紹介されていませんが......。

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(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会


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(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会



 実は、脇役に至るまで役柄のバックボーンは決めてありました。ただ、すべて決めてかからずに、ホン読みや衣装合わせの段階で向こうが聞いてきたら、一緒に考えようと。重要なのは、不自然なくそこにいること。それぞれが自分の役を飲み込んで、納得した上で出てもらいました。

――泰良と裕也に誘拐される那菜役の小松菜奈さんの視線が印象的でした。

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(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会


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(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会


 まさに彼女に関しては『渇き。』を見たときに、目の配り方が魅力的な人だと思ったのでキャスティングしたんです。

――商店街での襲撃シーンなどはどのように撮られたのですか?

 長い商店街だったので、全面封鎖などはできず、その一角の許可をとって撮影しました。もちろん襲われる人はこちらが用意した俳優ですが、遠巻きに眺めている人たちの中には、エキストラの他に実際に通りかかった人たちもいたかもしれません。本当に何が起こっているかわからずに見に来てリアルに驚いたりしているわけです。

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(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会


――ZAZEN BOYSの向井秀徳さんによる音楽も効果的ですね。

 冒頭から流れる曲は脚本を読んだ印象で作ってもらいましたが、見事に映画の雰囲気を象徴していましたね。エンディング曲の「約束」は完成した映画を見てもらった上で、何を言葉として残すべきか、向井さんの解釈で書いていただきました。

――真利子監督が映像作家になろうと思われたきっかけは?

 ただただ8ミリで撮るのが楽しかったんですよ。ぜんぜん映画を撮っているつもりはなくて、普段観ている映画と自分が撮っているものはまったくの別物だと思っていました。ある時、映画祭で上映してもらえる機会があって、そこで自覚しました。映画にのめり込んだ体験の一つに、ハーモニー・コリン監督の『ガンモ』(97)があります。特にストーリーもないのに世界観に引き込まれて、言葉にできない感情を覚えて。それからはコリンが好きだと言っている監督、(ジャン=リュック・)ゴダールや(ジョン・)カサヴェテス、(ヴェルナー・)ヘルツォークなどの作品をたどっていくうちに映画の世界にハマっていきました。10代の頃の話です。


■『ディストラクション・ベイビーズ』は真利子哲也監督(原案・脚本も担当)の商業映画デビュー作。愛媛県の松山を舞台に、強そうな相手を見付けてはけんかをふっかけるという無軌道な生き方をしている青年・泰良、彼に興味を持ってさらなる危険な遊びに泰良を誘う高校生・裕也、二人が強奪した車に乗っていたために拉致されてしまうキャバ嬢・那菜、泰良の行方を探し求める弟の将太らの姿を描く。相手が誰であろうとも構わず戦いを挑む、純粋な暴力の象徴とも言える泰良にふんする柳楽優弥の存在感が圧倒的。共演は菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、でんでん他。5月21日から公開。


真利子哲也(まりこ・てつや)
1981年、東京都出身。法政大学在学中に8ミリで自主制作した短編映画で2年連続ゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞。東京芸術大学大学院の修了作品『イエローキッド』(09)はバンクーバー国際映画祭などで高い評価を受け、学生映画としては異例の劇場公開もされた。ブレイク前のももいろクローバーが出演した中編『NINIFUNI』(11)はロカルノやロッテルダムの国際映画祭特別招待作品に。その後、ドラマやMVを経て、本作でメジャーデビューを果たした。
座右の銘:「凡そ汝の手に堪ふることは力をつくしてこれを為せ」(旧約聖書の一節で、「全力を尽くせ」ということ。高校か大学の頃に聞いて、ずっと心に引っかかっていた)


取材・文/紀平照幸

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