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第153回芥川賞を受賞、累計発行部数250万部を突破したお笑い芸人・ピース又吉直樹の著書「火花」が、全10話のNetflixオリジナルドラマとして初の映像化。6月3日より、日本を皮切りに全世界でストリーミング配信が開始される。

天才肌で人間味に富んだ先輩芸人・神谷(波岡一喜)と、彼にほれ込んで弟子入りを志願した後輩・徳永(林遣都)との日常と絆を描いた本作。彼らは夢と現実とのはざまで苦しみながらも、自分らしく生きていこうともがき続ける。本作の総監督を務めるのは、映画『さよなら歌舞伎町』『ストロボ・エッジ』の廣木隆一。白石和彌、久万真路、沖田修一、毛利安孝という個性豊かな監督たちとともに、原作の文章が持つ、間、テンポ、風景といった世界観を見事に映像に落とし込んでいる。

そこで今回は総監督を担当する一方で、自身も1話と9話、そして最終話のメガホンをとった廣木隆一総監督に、ドラマ版「火花」の魅力について聞いた。

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6月3日(金)よりNetflixオリジナルドラマとして初の映像化した『火花』廣木隆一総監督
(写真:トレンドニュース)


――原作を忠実に再現するというのはもちろんのこと、原作に描かれていなかった部分の膨らませ方のバランスが非常に絶妙だなと思ったのですが。

廣木「原作でも、少しだけ登場してその後は消えていくような登場人物がいて。彼らの人生はその後、どうなったのかというのが気になったんですよ。そういったエピソードも、どこまで入れようかというのはすごく話し合ったんですが、そのさじ加減は難しかったですね」

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『火花』6月3日(金)より、全世界同時配信
(C)2016YDクリエイション


――例えば徳永と同じバイト先で働いていた美容師(徳永えり)や、徳永の相方・山下の彼女・百合枝(高橋メアリージュン)、所属事務所の女性社員(菜 葉 菜)などもそうでしたが、男たちを見守る女性たちとのエピソードについては、原作小説ではほんの数行しか描かれていない部分なのに、確かに原作に描かれていたことだよな、というくらいに本編になじんでいました。

廣木「美容師の彼女と、徳永との距離感は難しかったんですが、あのもどかしいような微妙な距離感が良かったですね。彼女とのエピソードは徳永の性格をよく表している部分だと思うんですよ。それから高橋メアリージュンもすごく良かった。よく山下の彼女はなんでハーフなんですか? と聞かれたんですが、大阪だったらそういうこともありそうだし、いいじゃないかと(笑)。彼女も他の仕事を断ってこの仕事に専念してくれたのはありがたかったですね。(門脇)麦ちゃんも菜 葉 菜も本当に良かった」

――本当に豪華キャストですね。

廣木「一応、僕は総監督なので、主要キャストは自分で決めさせてもらいました。みんな希望通りのキャスティングです」

――脚本協力に、板尾創路さんのクレジットがあったんですが、漫才の監修をお願いしたのでしょうか?

廣木「むしろ板尾さんには、全体的な構成、芸人の生活について監修してもらいました。飲みに行ったら必ず先輩がお金を出す、とかそういったことですね。漫才のネタについては、大塚智仁さん、中村元樹さんという構成作家の方を、吉本興業さんから紹介してもらったんですが、この二人は非常に優秀で。彼らが書いてくれた漫才の完成度に本当に助けられましたね」

――林遣都さんにしても、波岡一喜さんにしても、彼らが披露した漫才が非常にテンポ良くて。相当練習をされたとか。

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『火花』6月3日(金)より、全世界同時配信
(C)2016YDクリエイション


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『火花』6月3日(金)より、全世界同時配信
(C)2016YDクリエイション


廣木「漫才というのは、普段からテレビなどで流れてくるものなので、だいたい皆、うまいか下手かは分かるじゃないですか。ドラマだからといってなめられるのも癪(しゃく)だなと思って。だから二人ともものすごく練習してくれました。ものすごい勢いがあって良かったですね」

――それがあるからこそ、クライマックスの漫才シーンは魂を揺さぶられるような迫力がありました。

廣木「あれはずるいですよね。芝居が本当に良かった。結局、徳永と神谷という二人のキャラクターがぶれていなかったから、10話を通して、映画のようにきちんと見ることのできるものになったんだと思います」

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『火花』6月3日(金)より、全世界同時配信
(C)2016YDクリエイション


――確かに手触りとしては映画ですね。

廣木「いつも一緒に映画をやっているスタッフですからね。キャメラマンの鍋島淳裕さんが全話をうまくまとめてくれました」

――原作者の又吉さんからはリクエストなどは?

廣木「特になかったですね。この間、沖縄国際映画祭で上映した際に会った時にガッツリと話をしたんですけど、その時は4話まで見てくれて。3話目を見た後の余韻がすごくあって、2時間くらい街を歩いちゃったと言ってくれたのがすごくうれしかったですね。その後に、4話も見ていただいたそうで。原作にないエピソードが良かったと言ってくださったのがうれしかったです」

――全体を通して徳永の走るシーンが印象的で。喜怒哀楽のほかに"走る"という感情があるんじゃないかというくらいでしたが。もともと廣木監督の映画には走るシーンや、自転車で疾走するシーンなどもよく登場します。そういった表現にこだわりがあるんですか?

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『火花』6月3日(金)より、全世界同時配信
(C)2016YDクリエイション


廣木「走るという芝居を通じて、悲しく見えたり、楽しく見えるということじゃないですかね。ある意味、『楽しいな』とセリフで言うよりも、自転車で楽しそうに走っていた方が気持ちいいよという気分が伝わるような気がしていているんですよ」

――廣木監督が手がけた第1話では、歩いたり、走ったりする徳永たちの後ろ姿を見守るように、ずっとカメラが追いかける描写が印象的でしたが、他の監督がメガホンをとった話でもそういった描写があったのが面白いなと思ったのですが。

廣木「もしかしたらみんながまねしてくれた部分もあったのかもしれません。実は僕が1話を撮っている時に、他の監督たちが現場に来てくれて。ここはこういう風に撮るんだとか、こういう風にダラダラ歩いたり、走ったりするのはこの作品ではオッケーなんだねとか。ある種の共通認識ができたんだと思います」

――先ほどの又吉さんではないですが、夜の街を歩くことがこんなにも気持ちがいいんだという気持ちにさせてくれるドラマでした。撮影前に、監督たちと主要スタッフが集まって、実際に原作通りに吉祥寺から上石神井まで歩こうとチャレンジしたこともあったそうですね。

廣木「酔っ払っていて何をしゃべっているんだか分からないんだけど、歩きたくなる気分ってありますよね。酔い覚ましというか」

――吉祥寺から上石神井まで歩く過程で、先輩の漫才哲学を浴びながら歩くことができる徳永の至福のひとときをじっくりと映し出していました。

廣木「最初は吉祥寺から上石神井までワンカットで撮ろうと思ったんですけど、実際に歩くとさすがにこれは無理だなと思って。ただ、ちょっと古い映画ですけど、森田芳光さんの『の・ようなもの』という映画では、主人公の落語家がブツブツ言いながら街を歩くシーンがあったじゃないですか。きっと又吉さんもきっと漫才のネタをブツブツ言いながら一人で歩くということはあるんだろうなと思いましたね」

――その歩いているシーンもそうですし、8話で、みんなが鍋を食べているところで徳永にとある感情がこみ上げてくるシーンは、徳永の表情を追い続ける長回しの圧巻のシーンがありました。あれは全10話の連続ドラマだからこそできるぜいたくな表現方法じゃないでしょうか。

廣木「最初にシナリオライターと話したのが、今回は1本の中編映画が10本できたらいいなということ。もしこれを2時間の映画にしたら、最初の15分で出会って、次の30分で......といった段取りを組んで、という感じになると思うんですが、『火花』ってそういうのとは違うんじゃないかなと思って。街を歩く時間の流れがうまく映像に出て、それが退屈しないのならば、それはいい作品なのかなという気がしたんですね」

――山下役の好井まさおさんは「『火花』は辞めていった芸人たちに向けて又吉さんが書いたものでもあるんじゃないか」とおっしゃっていたそうですが、夢を追いかけ、挫折を経験しながらも、それでも前に進もうとする人たちに向けた優しいまなざしがある作品だなと思ったのですが。

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『火花』6月3日(金)より、全世界同時配信
(C)2016YDクリエイション


廣木「自分に照らし合わせて考えてみても、映画業界で夢を諦めた人間って多いんですよ。助監督から監督になれなかった人もいますし、監督になっても次の作品が撮れなかったなんてことも日常茶飯事。それでも原作では、『淘汰(とうた)されたやつらの存在って絶対に無駄じゃない。これからのことに続いていくんだ』、というようなセリフがあって。それはすごいな、優しいなと思って。でもそういったことをベタベタにして描くと『火花』じゃなくなってしまう気がしたので、もちろんそこはそれほど強調はさせていないですが」

――原作は徳永と神谷という二人の男たちの関係性にスポットを当てた濃密な世界でしたが、このドラマ版では周辺の人物にもスポットを当てているのが印象的でした。

廣木「子ども時代から漫才をやっていた、徳永と(相方の)山下の関係性を軸にしました。あれは原作を読んだ時にも少なからず感じていたことだったんですけど、ドラマをやってみて、もしかしたらそういうことがドラマの軸として隠されている部分なんじゃないかと気付いたんです」

――そういう意味で、ドラマ版では徳永の組むコンビ、スパークスに対するまなざしが原作以上に優しいように感じたのですが。

廣木「ドラマでは子ども時代のスパークスを登場させたんで、そっちの思い入れもあったりもするんですよ。彼らを見ると、すごく身につまされる気がします。この作品でも、まだテレビに出ていないような芸人さんがたくさん来てくださったんですけど、そういう芸人さんを見ていると、なんだか胸が熱くなりましたね」

◆廣木隆一(ひろきりゅういち)
1954年生まれ。福島県出身。1982年に監督デビュー後、数多くの作品を発表する。2003年の『ヴァイブレータ』で第25回ヨコハマ映画祭の監督賞をはじめ5部門を獲得。その他、国内外40以上の国際映画祭で数々の賞を獲得した。その他の主な監督作品として『余命1カ月の花嫁』(09)、『雷桜』(10)、『軽蔑』(11)、『きいろいゾウ』(13)、『100回泣くこと』(13)、『さよなら歌舞伎町』(15)、『娚の一生』(15)、『ストロボ・エッジ』(15)、『オオカミ少女と黒王子』(16)などがある。
座右の銘:いつも平常心

(取材・文/壬生智裕)


トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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