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 日本で今、もっともノっている俳優の一人である綾野剛が、『凶悪』で日本映画界にセンセーションを巻き起こした白石和彌監督とタッグを組んだ注目作『日本で一番悪い奴ら』が6月25日に公開する。実在した悪徳警官の26年にも及ぶ壮絶な生きざまを演じきった彼に、その演技への姿勢について聞いてみた。

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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛
(写真:トレンドニュース)


綾野剛 主演「日本で一番悪い奴ら」劇場予告編>>


■白石監督から次々に出てくるアイディアに感嘆!

――この作品に出演を決めた経緯は?

 僕が日本アカデミー賞の新人俳優賞をいただいた時に、白石和彌監督も『凶悪』で会場にいらっしゃっていて、リリー・フランキーさんに紹介してもらいました。その時に「ぜひ一度ご一緒したいです」という話はしていたので、白石監督から出演依頼があったと聞いて、台本もプロットももらっていない段階で「やります!」と即答しました。

――この映画は実話で、モデルになった方もいらっしゃいますが、その方にお会いしてご自身と役柄との共通点を探したりしましたか?

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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛
(写真:トレンドニュース)


 ご本人にはお会いしましたが、そもそも僕は自分と役を比べるということをしたことがないんです。演じる役の中にまったく自分自身を出すことはありません。あくまでも"綾野剛"は裏方で、演じている役が主役なんです。もちろんアイディアはいろいろ現場に持っていきますが、事前に頭の中で考えて固めてしまうのが嫌なんです。役柄は「ヨーイ、スタート!」から「カット!」までの間に監督やいろいろなスタッフさんたちの考えによって形成されていくものであって、決して一人で作り上げていくものではないんだと思っています。

――主人公・諸星の四半世紀にも及ぶ歩みを演じ分けられましたが、ご苦労などは?

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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛
(写真:トレンドニュース)


 確かに容易ではありませんでした。しかし、ある程度は順を追って撮影していただきましたし、そこは丁寧にやってもらったなという感覚です。優秀なスタッフがそろっていたのでメイクや髪形、衣装の力を借りて気負いなくできました。物語が進むにつれ、役職や関わる人が変わることによって諸星の声のトーンも変わっていくし、姿勢や歩き方も違っていきます。その表現はできたのではないかと思います。

――先ほど、「白石監督の作品だから出演を決めた」とおっしゃいましたが、実際の現場での監督の演出はいかがでしたか?

 いい監督って、持っているアイディアが秀逸ですよね。白石監督はとんでもないセンスの塊みたいな人で、それにひたすらついていった感じです。僕は台本を読んだ時に考えたり悩んだりしても、「こういう風にやろう」とは決めないで現場に行くんです。そうすると、みんなで作り上げていく中で「ああ、こうだよな......」と感じる喜びがあります。白石監督はその喜びを毎日与えてくれました。

――具体的に、それを感じたシーンはどこですか?

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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛
(写真:トレンドニュース)


 資金がなくなって拳銃を買えなくなった時に(諸星たちは押収する拳銃がない場合にはヤクザに現金を払って拳銃を買い取ることまでしていた)、(中村)獅童さんふんする黒岩が「じゃあ、シャブ(覚せい剤)でもさばくか」と言い出すシーンですね。あそこで監督が「皆さん、綾野さんを高校野球の監督だと思ってください。皆さんは球児です」とおっしゃったんです。そして「この場面は『一緒に甲子園を目指しましょう、監督!』というテンションでやってください」と。もう大爆笑でした(笑)。

――かなり大胆なラブ・シーンも登場します。

 台本に書いてある以上、やるだけです。ただ、性的描写のシーンは相手役の女優さんに敬意を持ってやらなきゃいけないので、そこは気を遣いました。ノリでやるわけにはいかないんです。まずは服を着たまま確認作業を何度もして、手探りでシーンを作り上げてから本番に入ります。実際の撮影は1テイクでも、その確認作業だけで3~40分ということもありました。

――撮影はかなりスムーズに進んだようですが、アドリブなどは多かったのですか?

 撮影はとても順調に進みました。アドリブと言うか......、突然そこらのものを蹴飛ばしたり、という即興演技はありました。正直、どこまでが即興かは覚えていないんです。「カット!」の声がかかるまでは諸星でい続けているわけですから。"演じている"という感覚はなくなって、"諸星を生きている"という感覚です。頭で考えるのではなく、その人になりきっていました。

■自分の代表作になるのは常に"ネクスト・ワン(次回作)"

――数々の映画賞に輝いた綾野さんですが、ご自身のキャリアでターニングポイントだと考えているのは?

 過去のことはあまり振り返らないし、よく覚えていないんです(笑)。常にネクスト・ワン、次回作が自分の代表作になる、という思いで自分自身を鼓舞していますので、そういう意味では全部がターニングポイントなんです。ただ、あえて言えばやはりデビュー作の『仮面ライダー555(ファイズ)』での石田(秀範)監督との出会いでしょうか。この作品がなければ自分は今ここにはいないので、それは胸を張って言えます。

――もともと俳優志望ではなかったんですよね?

 小遣い稼ぎでやっていたモデル事務所を辞めたあと当時の事務所にスカウトされまして、「モデルだったらやってもいいですよ」と事務所に行ったら「『仮面ライダー』のオーディションに行ってきて」と言われたんです。「話が違うじゃないか......」と思いながらも流れで行ってみたところ、決まったという話をいただいたんですが、本当は嫌で嫌でしょうがなかった。
しかも初日の撮影では、なんとファースト・カットで23テイクもかかってしまったんです。常識ではありえないですよね。時間も押しまくるし、普通なら2~3テイクであきらめるじゃないですか。その時に、こんな生意気な子供(当時21歳)に対して、こんなにも大人が一生懸命向き合ってくれるのかというところに愛を感じて、役者になろうと思いました。石田監督の作品に対する愛ですよね。二次元の仕事であるモデルよりも三次元の俳優の方が、結果としては自分に合っていたな、というのもあります。

――今回の映画を一観客として見た場合、お気に入りのシーンは?

 中村獅童さんふんするヤクザの黒岩と初めて会うシーンです。出てきた瞬間に空気が変わりますから。獅童さん、ホンモノすぎますよね(笑)。この役者はすごいぞ、と感じさせてくれるシーンです。あと、太郎(YOUNG DAIS)が子供と奥さんに会いにいくシーンには泣けました。ここには白石監督のこの映画に対する愛情がほとばしっている、と思います。

――これからご覧になられる方々にひとこと。

 こういう題材だからといって構えないで見て欲しいです。やっていることは犯罪行為ですが、大の大人が必死に、元気にやっている姿は笑えますし、そうした人間の生きざまを描くのがエンターテインメントだと思っています。途中、諸星が覚せい剤に手を出してからは映画のトーンが一気に変わっていきますが、それまではすごく笑える映画です。また、映画館という環境は、居合わせた赤の他人と笑いや感動といった感情を共有できる貴重な空間でもあるので、ぜひ映画館で見てそれを感じていただきたいです。

――白石監督のことがお気に入りのようですが、またオファーが来たら出演されますか?

 もちろん、必ずやります! この映画がクランクアップした瞬間には「監督、次は何をやりますか?」という話をしたぐらいですから。

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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』
(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会


■『日本で一番悪い奴ら』は、北海道警察で実際にあった"日本警察史上最大の不祥事"と呼ばれた事件をもとに映画化したドラマ。"正義の味方、悪を断つ"という信念を持っていた新人警官・諸星要一(綾野剛)は、道警が進めていた違法拳銃摘発に邁進(まいしん)するあまり、裏社会に接近し、S(エス)と呼ばれる捜査協力者(スパイ)たちを抱えるようになる。やがて成績を上げるために摘発拳銃をヤクザから買い取ったり、でっち上げ、やらせ逮捕を繰り返すうちに、覚せい剤の密輸や密売にまで手を出してしまい......。監督は『凶悪』の白石和彌。共演は中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、ピエール瀧ほか。6月25日から公開。

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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛
(写真:トレンドニュース)


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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛
(写真:トレンドニュース)


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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛
(写真:トレンドニュース)


綾野剛(あやの・ごう)
1982年1月26日、岐阜県出身。2003年テレビ『仮面ライダー555(ファイズ)』で俳優デビュー。テレビでは『Mother』(10)『カーネーション』(11)で人気を博し、『八重の桜』『最高の離婚』(13)『S―最後の警官―』『すべてがFになる』(14)『コウノドリ』(15)などに出演。映画は『横道世之介』『夏の終り』(13)で日本アカデミー賞新人俳優賞に選ばれたほか、『そこのみにて光輝く』(14)でキネマ旬報ベスト・テン、毎日映画コンクールなどの主演男優賞に輝いた。最近の主な出演作に『白ゆき姫殺人事件』『ルパン三世』(14)『新宿スワン』『ピース オブ ケイク』『天空の蜂』(15)『64 ロクヨン/前編・後編』『リップヴァンウィンクルの花嫁』『怒り』(16)などがある。6月末に開催される「第15回ニューヨーク・アジア映画祭」にてライジング・スター賞を受賞する。
座右の銘:なし(あえて言えば「表現することをあきらめない」だが、言葉に縛られたくない。言葉をなりわいにしている仕事ゆえ、時には呪文にも武器にもなる言葉の力を知っているので、あえて座右の銘は持たないことにしています)

「日本で一番悪い奴ら」解説つき特別映像>>


(取材・文/紀平照幸)

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