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2013年の『凶悪』で一躍注目の監督になった白石和彌が再び放つ衝撃作『日本で一番悪い奴ら』(6月25日公開)。綾野剛を主演に迎え、"日本警察史上最大の不祥事"と呼ばれた実話を映画化した作品だ。さまざまな悪徳や危険な香りに満ちた本作に賭けた意気込みを白石監督に聞いた。

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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌監督
(写真:トレンドニュース)


綾野剛 主演「日本で一番悪い奴ら」劇場予告編>>


■暴走する主人公には助監督時代の自分がダブって見えた

――この作品の企画は脚本の池上純哉さんから持ち込まれたと伺いましたが?

 池上さんとは助監督時代から20年近いお付き合いがあります。僕が若松(孝二)組、彼が(高橋)伴明組で、ある意味親戚みたいなものですから、よく飲んで騒いでいましたが、一緒に仕事をしたことはなかったんです。ちょうど『凶悪』の直後ぐらいに会う機会があって、「ちょっと読んで欲しい本がある」と見せられたのがこれでした。

――この題材のどこに魅力を感じましたか?

 元になった事件はもちろん知っていましたが、とにかくやったことが破天荒じゃないですか。普通のマル暴(警察の暴力犯係の通称)の優秀な刑事でも生涯で押収する拳銃なんて4~5丁がせいぜいですよ。それが100丁オーバーですからね! ありえないですよね(笑)。で、その原動力が何だろうかと考えた時に、「きっと捜査そのものが楽しかったんだろうな」と思いついたんです。違法なこともやっていたけど、"S"(スパイの略、捜査協力者のこと)たちとチームを組んで、豊かな時間を送っていたんだろうな、と。

 彼は警察官だったからヤクザと関わって犯罪者になってしまいますが、これって助監督として僕らが映画に関わっているのと同じじゃないか? とすごくシンパシーを感じたんです。僕が若松プロで映画を撮りはじめた頃は、世界は映画のことしかなかったですからね。さすがに法に触れるようなことはしませんでしたが、「映画を撮ることが正義、映画を撮るためなら何をやってもいい」と勝手に思い込んでいたので(笑)、そんなに遠い話じゃなかったんですよ。

――実際に他の世界にも置き換えられる話ですからね。

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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌監督
(写真:トレンドニュース)


 そういう意味では、諸星(綾野剛が演じる映画の主人公)は成績優秀な営業マンですよね。採点主義の世界では彼は決して組織から逸脱しているわけではないし、むしろ組織自体が逸脱しているわけですから、共感してもらえる方も多いと思います。

――最初から主人公の諸星役に綾野剛さんを考えていたのですか?

 原作者で諸星のモデルでもある稲葉圭昭さんにお会いするまでは、まったくそのイメージはなかったです。大学の柔道部出身で、ロシアへ行ってサンボの世界大会に出てプロ格闘家を目指そうかと考えたなんていう話を聞いていて、どんなにごつい人だろうと想像していたら、全然筋肉質ではなくて、シュッとされていた方だったんですよ。それでいて、色っぽさというか、マメなところもあって、「この人はモテたろうな......」という魅力を感じさせてくれました。そんなところから、綾野さんが浮かんできたんです。

――他の出演者、特にSたちはバラエティに富んでいます。

 彼らはチームを組んでいくわけですが、実際にもヤクザやミュージシャン、パキスタン人などがいたわけで、そういう雑多な空気を出したかったんです。ですから、"This Is 俳優"という人ではなく、歌舞伎役者(中村獅童)、アーティスト(YOUNG DAIS)、お笑い芸人(デニスの植野行雄)と多国籍軍な感じでキャスティングしました。

――お笑いと言えば、TKOの木下隆行さんもヤクザ役ですごみを見せていますね。

 どうも『凶悪』の監督と聞くと身構えてしまうみたいで(笑)、木下さんも現場でかなり緊張していたんですよ。だから「この役は、過去に2人殺してきたということで」「えっ、そうなんですか!?」「......今、思いつきました」というやりとりがあって、うまく撮影ができました。

■あえて『凶悪』とは違うトーンの作品にしたんです

――約25年に渡る年代記のような作品ですが、この"少し前の時代を描く"ロケ地を探すのはとても難しいのでは?

 舞台は北海道ですが、当時のススキノの街並みは実際に札幌に行っても再現できないですからね。有名な交差点とかは一部使ったりしていますが、あとは古い街並みを探して、三重県の四日市でなんとか撮影しました。しかし、その景色を北海道らしく見せるのには苦労したんです。というのも、北海道の家には屋根瓦がないんですよ(積雪が多いため)。まあ、自分が北海道出身なので、自分が見て違和感がなければOKを出しましたが。

――時代背景のせいか、昭和の日本映画にあった「子供は見ちゃいけない」感が漂っているような気がしました。

 確かに濡れ場のシーンとかはなくそうと思えばなくせるし、実際にプロデューサーから「長すぎるから切れ」と言われたりもしたんですが、かたくなに残しましたからね(笑)。「インモラルな映画なんだ、これは」と思って作っていました。
原作には主人公の女性関係はほとんど描かれていませんが、稲葉さんのお話を聞くと、逮捕された時には付き合っている女性警官が2人いて、他に6人も愛人がいたと(笑)。しかも、常時そういう状態だったそうです。実際には結婚も何度もなされていますが、そういう家族関係をリアルに描くよりも、本質的なテーマに沿うような形で女性たちはほぼ想像でフィクションとして作り上げています。初稿は4時間あって、そこには女性たちのドラマがあったり、警察署長の娘が登場したりもして面白かったんですが、さすがに長すぎるのでカットしました。稲葉さんからは、原作本にも書いていない裏話もいっぱいお聞きしたんですが、これは映画に描いたら本当にヤバいぞと......(笑)。

――この作品を構想されている時に、マーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』などを意識されたとお聞きしましたが?

 スコセッシは偉大な監督で大好きですが、同じことはできないし、日本で「ギャング映画」を作ろうとしても「ヤクザ映画」になってしまう。それは少し違うので「日本ではギャング映画は無理かな?」と思っていた時にこの作品に出会ったんです。そうか、警察をギャングに置き換えればできるんだ、という発想ですね。

――しかしスコセッシ映画に特徴的なボイスオーバー(ナレーション)は使われていませんね。

 もともと僕は回想やモノローグが好きじゃないんです。時代を曲げないでストレートに描きたいし、役者の芝居と芝居の行間で見せるべきだと思ったんです。だから警察組織の裏側について解説する部分も主人公のモノローグではなく、ピエール瀧さんふんするキャラクターを作って彼の口から説明させるようにしています。

――同じ"実録もの"といっても『凶悪』とは雰囲気がかなり違います。

 エンターテインメントで楽しい映画にしようと思って意図的に変えています。同じトーンでやろうと思えばできたとは思いますが、この話には合わないと考えましたから。見ていて楽しいけれど、同じ"楽しいこと"をやり続けているはずなのに、いつの間にかその"楽しさ"が消えて全然違う風景の中にいる。そんな感覚を持ってもらえたらと思って作りました。『凶悪』やこの作品があるので、「こういうの(実録路線)が好きなんだな」と思われていますが、そもそもは「何でもできる人になりたい」と思っているんですよ。

――そんな白石監督が映画に興味を持たれたきっかけは?

 実家がバス通りで食堂をやっていまして、バス停にポスターを貼りにくる人が映画のチケットを置いていくんです。それで月に1~2回は映画館に行っていて、中学生の時にこっそりロマンポルノを見たら予想以上に面白かった。それから邦画を見始めて監督になりたいと思うようになったんです。しかし田舎の子ですから、どうしたらいいのかわからない。とりあえず監督協会の会長が大島渚という人だそうだからと、高校生の時に『日本の夜と霧』を見て、「ああ、映画監督がこういうことをする仕事なら、オレには無理だ......」と挫折して(笑)、スタッフになろうと決意。20代の頃は監督になるとは思ってもいませんでしたからね。そして中村幻児さんの映画塾に通っていた時に、講師として来ていた若松監督が「今、助監督がいないから、誰かやらないか?」とおっしゃった時に立候補して、それがすべての始まりでしたね。

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6月25日公開『日本で一番悪い奴ら』
(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会


■『日本で一番悪い奴ら』は、北海道警察で実際にあった"日本警察史上最大の不祥事"と呼ばれた事件をもとに映画化したドラマ。"正義の味方、悪を断つ"という信念を持っていた新人警官・諸星要一(綾野剛)は、道警が進めていた違法拳銃摘発に邁進(まいしん)するあまり、裏社会に接近し、S(エス)と呼ばれる捜査協力者(スパイ)たちを抱えるようになる。やがて成績を上げるために摘発すべき拳銃をヤクザから買い取ったり、でっち上げ、やらせ逮捕を繰り返すうちに、覚せい剤の密輸や密売にまで手を出してしまい......。監督は『凶悪』の白石和彌。共演は中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、ピエール瀧ほか。6月25日から公開。

白石和彌(しらいし・かずや)
1974年生まれ、北海道旭川市出身。若松孝二監督に師事し、同監督の作品や行定勲、犬童一心などの映画に助監督として数多く参加。2009年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編監督デビュー。13年の『凶悪』で日本アカデミー賞優秀監督賞ほか数多くの映画賞に輝いた。ネット・ドラマの世界でも『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』(15)『花火』(16)などで活躍中。
座右の銘:「守りに入らない。捨て身で攻めて攻めまくる」(その姿勢は変わっていませんが、あまり調子に乗ってやりすぎるのも良くないですね......。しかし今後もあえて「こんなことはやらないだろうな」と思われていることをやり続けます)

「日本で一番悪い奴ら」解説つき特別映像>>


(取材・文/紀平照幸)

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