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「プロ野球とお金」。そんな身もふたもない、しかしリアルで切実な切り口で人気の野球漫画がある。その作品の名は『グラゼニ』。これは「グラウンドには銭が埋まっている」というプロ野球の実力主義・成果主義を表す言葉を略したものだ。

その原作者である森高夕次と、元プロ野球選手で野球評論家の前田幸長が初めて対談。前田幸長といえば、華奢(きゃしゃ)な体ながら先発にリリーフにとフル回転に活躍した投手で、ロッテ→中日→巨人とさまざまな球団を経験している。森高は作品の裏側を、前田はプロ野球界の裏側をこっそり教えてくれたが、やはり話は"お金"のことが中心だったようで......。

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野球評論家・前田幸長氏&『グラゼニ』原作者・森高夕次氏の対談


■某球団の選手は推定年俸より実際の方が多い?

プロ野球選手の実力・実績を計る指標のひとつに"年俸"がある。毎年シーズンオフになると選手の契約更改のニュースで"推定年俸いくら"なんてことが注目を集めるが、選手の間でも年俸のことは話題になるらしい。

森高「新聞に出る"推定年俸"はどのくらい正確なものなんですか?」

前田「あれ、ほとんど合ってます(笑)。もちろん全部が全部正しいわけではないですけど。僕は聞かれたら『そんな感じですよ』って答えちゃってたので、だいたい合ってましたね。ただ、あからさまに人の財布のことなんで言いたくない選手は多いです」

森高「普通聞かれるの嫌ですよね。長者番付も廃止されましたし」

前田「某球団の高額年俸の選手で、新聞に出る推定金額よりはるかに多くもらっている人がいました。それこそ、うそでしょっていうくらい。実際より多く書かれることもあるんですが、メディアと仲良い人なんかはやっぱり『あんまり多めに書かないでね』ってお願いするんです」

■契約交渉の裏側

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『グラゼニ』原作者・森高夕次氏


森高「契約更改ってどんな感じなんですか?」

前田「球団の事務所に指定された日時に行って、だいたい査定担当とか代表さんとか副代表さんが出てきて3対1くらいでやるんですよ。若い時なんか特に、自分で『今年はちょっと頑張ったな』ってときにあれこれ主張しようと考えますよね。でもいざ交渉の席に着くと、あちらはもうベテランなので、言いたいことを言えずに終わるということが多い」

森高「部屋に入って席に着いて、まず何を言われるんですか?」

前田「『今年もお疲れさん。トレーニングはやってるかい?』みたいな世間話から始まり、5分10分話をしてから、『じゃあ』って言って査定担当の方が契約書を出します。それにサインをして印鑑を押してという形なんですけど、そこに金額が書かれているんです」

森高「『あれ? ちょっと低いな』って思ったときのための材料は用意してるんですよね。それを言って金額が変わることはあるんですか?」

前田「覆ることありますよ。一番強気で押せる材料は、ケガをしなかったときです。1年間フルにどれだけやれたか、それが重要。一番押せますね。あとテクニックで、100万200万上げる交渉はしたことがあります。野球選手の給料って、年俸を12で割った金額を1月から12月でもらうんです。だから、例えば『来年の年俸は3,500万ね』と言われたとして、頑張ったのでもうちょっとでも上乗せがほしいじゃないですか。そんなとき、『12で割れるようにしてください』って言うんです。月額をキリのいい数字にしてもらえませんかって。そうすると、じゃあって3,600万円の交渉ができる。100万200万であればこの手でなんとかなります(笑)」

■凡田のモデルは実は......

日本のプロ野球界が舞台の『グラゼニ』で描かれるのは、いわゆる漫画的な超人的な選手ではなく、いかにもどこかの球団にいそうな選手たち。なかには実在の選手がモデルと思われるキャラクターも登場する。高橋ノブヨシやコージ・ウエハラなんかは"モロ"なのでわかりやすいが......。

前田「主人公の凡田夏之介には実在のモデルがいるんですか? 凡田選手に限らずなんですけど、特に凡田は左投げの中継ぎってことで僕とかぶる部分もあるので、聞きたいなと」

森高「凡田のラフスケッチは僕が描いたんですが、当時ヤクルトスワローズにいた佐藤賢投手に似てるとはよく言われました。確かに左投手でメガネかけてヒゲですからね。ただ、特に佐藤投手をイメージしたわけではないんです。そのラインの選手っていると思うんですよ。今で言えば巨人の戸根千明投手は、リアル凡田ですよね。あと、もう引退されて今広報されてますけど、中日の小林正人投手はご本人が『俺がリアル凡田だ』っておっしゃってます。でも、本当にこれという選手がいるわけではなく、いろんな投手を想像できるような感じで描いています。

あとは、この選手とこの選手をハイブリッドした、とか、いろんな選手の特徴を合わせて描いている部分があるので、やっぱりジャスト誰というのはなかなかいないですね。逆に、あからさまにモデルがわかるキャラは、実際にご本人にお会いして『描いてもいい』と言われたケースです。前田さんも今後漫画に登場していただけますか?」

前田「ぜひお願いします!」

■グラゼニの影響!? 年俸当てクイズ

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野球評論家・前田幸長氏


森高「『グラゼニ』で凡田は選手名鑑を読むのが好きで、他の選手の年俸も覚えるくらい気にしているんですが......」

前田「選手名鑑は本当にロッカーに置いてあったりします。今ヤクルトでコーチをやってる斉藤宜之はそれこそ凡田みたいに、選手の出身高校や年俸といったプロフィールを覚えてるんです。例えば◯◯チームの◯◯選手は? って聞くと、出身地や高校など、それが有名どころじゃない選手でも答えられるんですよ」

森高「年俸当ても?」

前田「やりますよ(笑)」

森高「リアル年俸当てクイズじゃないですか(笑)。でも、そういった年俸のこととかも含め、僕は本当にいろんな野球選手を描きたかったっていうのがあるんですね。だから主人公は凡田ですが、あえて凡田を狂言回しにしていろんな選手の人生を描いています。僕はそれこそセカンドキャリアまで含めて、野球選手の人生自体に興味がある。引退後に野球に携われるごく一部の人たちから、野球界から離れた人の人生も描いてみたいですね」


今日も年俸数億円の選手と数百万円の選手が同じグラウンドで戦っている。超格差社会だが、3年後の自分がどうなっているかなんてどの選手にもわからない。そんな厳しい世界だからこそ、グラウンドの外のことでも人を惹(ひ)きつけてやまないのだ。

プロ野球インセンティブ契約の内容とは>>


契約更改前に下交渉を行う理由とは?>>


プロ野球選手が実際に使う交渉術を披露>>


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選手が震えた星野仙一元監督の呼び出し>>


その他の出演番組>>

・漫画「グラゼニ」の主人公が地味な理由
・元プロ野球選手のルーキー時代のモテ伝説
・プロ野球選手と女子アナの出会いの場は
・漫画「グラゼニ」登場人物の意外なモデル
・プロ野球のコーチ人事はどう決まるのか

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森高夕次(もりたかゆうじ)(写真右)
漫画家、漫画原作者。1963年生まれ。長野県出身。『総理を殺せ』『おさなづま』『ショー☆バン』など野球に限らずさまざまな題材の原作を手がける。『グラゼニ』で第37回講談社漫画賞受賞。漫画家としてのペンネームはコージィ城倉で、代表作は『砂漠の野球部』『おれはキャプテン』など。

前田幸長(まえだゆきなが)(写真左)
1970年8月26日生/身長179cm/体重70kg/投手/左投左打/福岡一高―ロッテオリオンズ・千葉ロッテマリーンズ(ドラフト1位89~95年)―中日ドラゴンズ(96~01年)―読売ジャイアンツ(02~07年)―オクラホマ・レッドホークス(08年)/日本通算78勝110敗9セーブ12ホールド、防御率4.17


(文/大木信景@HEW
(写真:トレンドニュース)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

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