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『ポケットモンスター』シリーズの湯山邦彦監督と『パックワールド』の榊原幹典監督がタッグを組んだ3DCGアニメーション映画『ルドルフとイッパイアッテナ』が8月6日に公開される。小さな黒猫ルドルフが、迷い込んだ知らない町でボス猫のイッパイアッテナや仲間たちと出会い、ノラ猫としてたくましく成長していく......。リアルな日本の街並みを猫の視線でとらえ、四季折々の美しい風景を描きだす映像も必見。この作品を完成させた両監督に、その製作の裏側について聞いてみた。

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3DCGアニメーション映画『ルドルフとイッパイアッテナ』8月6日公開
『ポケットモンスター』シリーズの湯山邦彦監督と『パックワールド』の榊原幹典監督


映画「ルドルフとイッパイアッテナ」劇場予告編>>


■リアルな風景を求めて、猫目線でロケハン

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8月6日(土)全国東宝系公開
(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会


――お二方の共同監督、しかも日本にいらっしゃる湯山監督とアメリカ在住の榊原監督のコラボということで、分担などはどのようになさったんですか?

湯山「シナリオや絵コンテなどのお話の部分は僕、画作りに関しては榊原さん、という感じですが、特に取り決めはせずに進めていきました」

榊原「最近はスカイプやメールで普通にやりとりできるので、そんなに距離感は感じなかったですね。始める前に実際にお会いして、どういうビジョンでいくのかは伺っていましたし」

湯山「最初に1分ぐらいのプロモーション映像を作ったのが大きかったと思います。そこでお互いにキャラや背景の感じなどの方向性がつかめましたから」

――企画から完成までにどのぐらいの時間がかかったんですか? 湯山監督は毎年夏に『ポケモン』の映画があるので大変だったのでは?

湯山「まる2年かかりましたね。これを作っている間に『ポケモン』映画を2本作っちゃいましたから(笑)」

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8月6日(土)全国東宝系公開
(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会


――背景がまるで実写のようにリアルなのに驚かされました。

榊原「自分がLAにいるという理由で日本の風景をちゃんと描けなかったらカッコ悪いな、との思いもあって、その部分にはより力を入れました。日本に戻って下町を"映画を作る"という目で見た時に、その"町のカオス"とでもいうようなパワーに圧倒されたんです」

――実際に映画に登場する場所でロケハンしたんですか?

湯山「岐阜と北小岩には行きました。映画には水路のある通りが何か所か出てくるんですが、あれは実際にそういう場所があって、"ここは使えるな"とロケハンの時から思っていました」

榊原「僕は湯山監督たちとは別の日に、地図をもらって一人で見て回りました。まるで傷心旅行ですよね(笑)。その地図には湯山さんが、ここぞという所に印を付けてくれていたので、じっくりと観察することができました」

――ルドルフとイッパイアッテナがねぐらにする神社が印象的でしたが?

湯山「実際にはあの場所には神社がないので、あれは映画用のオリジナルです。いろいろな所で取材したものを組み合わせて作り上げています」

――普段われわれが町を見る視線と違って、猫ならではの低い視線で描かれています。ロケハンもその猫目線で?

湯山「スタッフがぞろぞろと低い位置にカメラを構えて歩く、傍から見たら非常に怪しい集団でしたね(笑)。普通の商店街や住宅地にそんな一団が出現したんですから......」

榊原「僕はその後で一人で回ったんですから、もっと勇気がいりましたよ(笑)。ただ商店街って実際に行って猫目線で見るといろいろと発見があるんですね。そこにいる人の服装とか、自転車に付いている荷台とか、子供を乗せているな、とか......。おかげでかなりリアルなものができたと思います」

■アニメでも実写でもない世界を目指して......

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8月6日(土)全国東宝系公開
(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会


――主役の猫のキャラクターですが、原作の挿絵とはずいぶん雰囲気が違いますね。

湯山「アートとしてはあれで成立するんですが、あのままではアニメにならないんです。アニメはキャラクターが世界観を決めていくものなので、どこまでリアルにしてどこまでマンガにしていくのか、キャラクターデザインはいろいろ試行錯誤しました。最初はすごくリアルな等身の猫も考えて、2Dの手描きで何パターンも描いてもらいましたね。イッパイアッテナは最初はもっと怖くて、子供が見たら泣いちゃうようなキャラだったんですよ。そこを微妙に調整しながら、猫らしさとアニメらしさの境界線を探っていき、動かした時にどう見えるかを常に考えていました」

――3Dキャラならではの難しさというのはあるのでしょうか?

榊原「ルドルフって実は見た目のバランスが悪いんです。頭が大きくて、その付き方もグラグラして見えちゃう。猫独特のしなやかで一つながりになっている感じがないんですね。しかしその反面、キャラとしては強い。だからルドを猫として成立させるための体の動かし方には力を入れました。表情を殺さないように、目を生き生きさせる、とかですね」

湯山「あとはライティングですね。3Dだと光の加減で色が変わってしまうんです。特にルドのような黒猫は、ちょっと暗いと背景に溶け込んで表情がつぶれちゃうんで苦労します。これが実写だとライトを当てるだけで済みますが、CGの場合はコンピューターの設定から全部変えなければなりません。ライティングアーティストがそれぞれのカットを担当していて、各々のやり方は違っても最終的な見た目は合わせなければなりませんでしたから」

――猫の毛のフサフサ感を3DCGで再現するのも大変だったのでは?

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8月6日(土)全国東宝系公開
(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会


榊原「イッパイアッテナは特にフサフサですよね。彼の場合は振り向いたりする時にここまでしか動かないという可動範囲の制限があって、その部分の質感を出すのに注意しました」

湯山「猫の毛の動きを制御するためのソフトを本番に入りながら開発したりもしています。ハード面の進化によって、昔に比べたら作りやすくなっているのは確かですね」

――湯山監督は2Dのセルアニメ時代からアニメに関わっていらっしゃいますが、3DCGを作るにあたっての違いや今後の課題は感じられましたか?

湯山「5分ほどの短編は作ったことがあるんですが、長編の3D映画は初めて。ずっとやりたかったので、ようやく念願が叶(かな)いました。35年目のデビュー作です(笑)。具体的に言うと、この映画はカット数が少ないんです。長回しを多用しています。冒頭のシーンなんかは2分ちょっとのワンカット。これ、セルアニメだと止まってしまいますから、カット割りで見せなきゃならない部分。実写の撮影とも違いカメラの動きを自由にできるので、カメラワーク的にも楽しませてもらいました。実写でも2Dアニメでもできない、3DCGならではのものの可能性や道が見えてきたかな、という気がしています」

榊原「技術的な面だけで言えば、ピクサーのアニメなんかはとんでもない次元まで行ってしまっているわけです。しかし、そこばかりを見るのではなく、日本人として日本の感性を持ったCGをどう育てるかが課題だと思っています。この作品は国内向けに作ってはいますが、海外でも評価されればうれしいですね」

――声優を務められた井上真央さんと鈴木亮平さんについては?

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8月6日(土)全国東宝系公開
(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会


湯山「お二人の役に対するアプローチは対照的でしたね。鈴木さんはわりとすんなりとイッパイアッテナの役に入っていかれたんですが、井上さんは悩んで悩んでルドルフ役を作っていった感じです。何日かに分けて録音したんですが、最初の方に録ったテイクは後で録り直ししたり、井上さんの方から『もう一回やらせてください』とお願いされたりもしましたから。そうそう、鈴木さんに『普段の声より野太い感じで』とオーダーしたら、『シティーハンター』で海坊主の声をアテた玄田哲章さんを意識して演じられたそうです(笑)」

――最後に、この映画でのお二方の個人的なお気に入りシーンを教えてください。

湯山「ルドルフが旅立つ直前に『ボクはもう大人だよ』と言うシーンですね。ここは3Dならではのゆったりとしたカメラワークで情感が出せましたから。これは2Dだとアクションシーンで使うカメラワークなんですが、うまく生かすことができました」

榊原「ルドルフが橋から家を見るシーンです。ワイドショットで山や川を映す情景なんですが、そこに生きた感じが欲しくて後ろに車を走らせたんです。その出来上がりを見たら、音楽が付いたこともあって、グッときてしまいました。CGなのにちゃんと映画になっている、と思えたんです」

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8月6日(土)全国東宝系公開
(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会


■『ルドルフとイッパイアッテナ』は1987年の刊行以来愛され続けている斉藤洋原作の児童文学を3DCGアニメーションで映画化したもの。岐阜県で暮らしていた黒猫のルドルフ(声・井上真央)はひょんなことから長距離トラックの荷台に迷い込み、東京の江戸川区北小岩に来てしまう。そこでボス猫のイッパイアッテナ(鈴木亮平)と出会ったルドルフは、ノラ猫としての生活を始めるが......。声の出演は他に八嶋智人、古田新太、水樹奈々ら。脚本を『妖怪ウォッチ』シリーズの加藤陽一が執筆し、監督は『ポケットモンスター』シリーズの湯山邦彦と『ファイナルファンタジー』の榊原幹典が共同で手がけている。8月6日から公開(3D /2D)。

湯山邦彦(ゆやま・くにひこ)
1952年生まれ、東京都出身。アニメーターを経て78年、テレビ『銀河鉄道999』で演出家デビュー。総監督を務めた82年の『魔法のプリンセス ミンキーモモ』で一躍有名に。97年スタートの人気番組『ポケットモンスター』シリーズの総監督、98年の第1作以来の劇場版『ポケットモンスター』シリーズでは監督を務めている。最新作『劇場版ポケットモンスターXY&Z ボルケニオンと機巧のマギアナ』が現在公開中。
座右の銘:「臨機応変」

榊原幹典(さかきばら・みきのり)
1964年生まれ、愛知県出身。ゲーム「ファイナルファンタジーVII」「ファイナルファンタジーVIII」でムービーディレクターを務め、映画『ファイナルファンタジー』(01)を共同監督。2002年に独立し、米国にてSprite Animation Studiosを設立、『パックワールド』『スシニンジャ』(ともに14)といったアニメを監督している。
座右の銘:「一期一会」(今回の映画で集まったアニメーターたちも今は散りぢりに。だから出会いは大切にしたい)

(取材・文/紀平照幸)

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