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『ハゲタカ』『るろうに剣心』の大友啓史監督の最新作は、清水玲子原作のサスペンス・コミックの映画化『秘密 THE TOP SECRET』。MRI捜査と呼ばれる手法で脳に残された死者の記憶を読み取り、迷宮入りした事件を解決しようとする警察庁の特殊脳内捜査チーム、通称「第九」の活躍を描いた作品だ。"脳内映像"という誰も見たことのないものを大友監督はいかにして映像化したのか、その裏側について聞いてみた。

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大友啓史監督 「秘密 THE TOP SECRET」(8月6日公開)
(c)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会


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■"誰も見たことのないもの"を見てみたかったんです

――かなり前からこの原作コミックを映像化したいとお考えだったと。どのあたりに魅力を感じたのですか?

 やっぱり"脳内映像"ですね。自分の頭の中にあるものは、タイトル(『秘密 THE TOP SECRET』)通り他人には見せたくない、それこそ墓の中にまで持って行きたいものじゃないですか。でも、それを見なきゃならない立場の人たちもいて、そのせめぎ合いの中で思いがけないものを発見していく物語というのは、すごく面白いな、と。
 他人には隠しておきたい姿や心の中の欲望を丸裸にしていくということは、どうしてもタブーの領域に踏み込まざるを得ない。ドラマとして、そういうシチュエーションをちゃんと用意しているマンガだったんです。少女マンガですからきれいなタッチで描かれてはいますが、清水玲子先生独特の鋭い切り口があって、これなら刺激的なものができるんじゃないか、と思ったんです。

――その脳内映像を見るMRI捜査のシステムはどう映画化していったのですか?

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清水玲子の大ヒットコミック「秘密 THE TOP SECRET」(8月6日公開)
(c)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会



 夢や記憶を描いた映画はありましたが、"死者の記憶"というのは、今まであまり映像で見たことがありませんよね。いろいろ調べると、そもそも脊髄から離れた瞬間に脳は死んじゃいますから、脳を取り出すという行為は設定上難しいんですよね。肉体と脳は、まず切り離すことができない。時間がたつと脳細胞も死んでいきますからね、脳内に残った記憶を見るためには、その死んでしまった部分を何かで肩代わりし、もう一度死んだ脳を活性化し、再生しなければならない。そこから、死者と直接繋(つな)げるガジェットを考えて、生きている人間の脳細胞の機能を借りて死者の脳細胞の補填をするシステムを考えました。視覚として見るのではなく、まず最初に脳の中で見る。それは他人の感情や経験を共有することでもある。この設定を思いつくことで、ドラマとしても強度を得ることができる、そう思いました。たとえば映画の中で死刑囚の記憶を見る場面がありますが、脳内で死刑台に向かうところまでを体験し、死の恐怖も共有することによって、若く希望に満ちた警察のエリートですら壊れそうになってしまう世界が見えたわけです。必ずしも実現化できない設定を徹底的に調査し、それをある程度のリアリティに落とし込みながら、清水先生が描こうとしていたことを具体的にビジュアル化していきました。

――その脳内映像ですが、いろいろと試行錯誤なされたとか。

 誰も見たことのないものをどう描くか、ということに刺激されましたね。人の記憶ですから、客観的に見ているようでも、そこに主観による演出が入ってきてしまう。美化したり、相手が悪魔に見えたり、といった部分ですね。脳の中をのぞいていけば本当のことがわかると思っていたら、のぞけばのぞくほどどんどんわからなくなっていくという......(笑)、そこがメタ構造として面白いな、とも思いました。これってある意味、情報が氾濫して、何が真実かわからなくなっている現代社会と同じじゃないか、とね。真実はどこにあるのか?あくまでも人の主観、視点が物事を決めていくのであって、しかもその視点が幾重にも存在している。映画のキーポイントでもある脳内映像をベースに考えることで、現代世界の構図が見えてくるような気がするんですよね。

 で、実際にやることになって、改めて人間の視界の広さを感じました。映画のフレームはシネマスコープですから、どうしても上下や左右が切れてしまい、視界すべてが表わせない。ワイドレンズを使ってみようか、でもワイドだと歪(ゆが)みが出てしまう。ならば歪(ゆが)まないワイドレンズを探そう、といった具合です。人間の主観を表わすために俳優にヘルメットに付ける小さなカメラを装着してもらい、その人の視点に近い映像を撮ることにしたんですが、そのために特殊なレンズを探してもらったりもしました。撮影監督の石坂拓郎さんを中心に、科学的な面も含めて相当にリサーチはしましたが、その作業自体が面白かったですね。

■ジェットコースターに乗る気分で楽しんでほしい

――マンガが原作ですが、『るろうに剣心』とは違い、原作のビジュアルにはこだわっていない感じを受けました。

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満足度97.3%「秘密 THE TOP SECRET」(全12巻)


『るろうに剣心』の場合は衣装なども特徴的だし、キャラ化しやすかったのですが、今回の場合は現代と地続きの話でもあるし、逆にキャラクター化するのは難しかった。少女マンガの設定をリアルに落とし込む上で、地に足が着いた、すなわち僕らと同時代に生きている生身の人間として描きたかったんですね。その上で、警察という、命を危険にさらして犯罪と向き合う組織の中のある機関のトップ、それも時代の最先端を行く捜査方法のすべてを握っている薪という役には、やはりそれにふさわしい俳優さんが必要だと感じました。生田斗真くんは今31歳なので、最初は(原作の薪のルックスに近い)もっと年下の俳優を使うという選択肢もあったんですが、演技力も含めて彼を上回る人はいませんでした。俳優の力、と言うんでしょうか......、役が持っている本質的な感情やバックグラウンドをリサーチしてアプローチすれば、その役として生きているように見えてくる。俳優の生身の身体感覚を重視するという意味では、自分の実写化へのスタンスとしては『るろうに剣心』も『秘密』も変わっていないんですよ。

――その生田さん演じる薪は、後ろに回した手を組む独特のポーズをとっていますね。

 あれは彼のアイディアですね。最初に薪が登場するシーンで、どう演じるのかな? と思っていたら、あのポーズを提示してきて。僕が指示したわけではないんです。おそらくは彼なりに室長というイメージでそうしたんでしょうね。その後もずっとあのポーズをとっていて、最後のシーンになって、フッと手を放す。それは薪が何かから解放されたことを表わしているのかもしれません。薪という人物の背負っているものや個性、考え方を具現化する、とてもよいアイディアだったと思います。

――岡田将生さんが演じる青木に関して、原作にはないオリジナルの設定が加えられていますが......。

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映画「秘密 THE TOP SECRET」(8月6日公開)
(c)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会


 岡田くんは『ST 赤と白の捜査ファイル』や「ゆとりですがなにか」などでわかるように、軽い役や今っぽい子がうまい役者さんで、硬軟で言うと軟の方。でも今回は"今まで見たことのない岡田将生"を出してもらいたかったんですね。
彼も最初の脚本の段階では青木の役がピンと来なかったみたいで、脚本に彼のバックグラウンド――家族が殺されたこととか、父親が寝たきりになっていることなど――を加えることによって、どんどん追い込んでいきました。言うならば"岡田シフト"ですね。複雑な、ほとんどアンビバレントとも言える感情を持つ青木を演じさせることで、岡田くんから骨太な部分を引きずり出したかった。ほんの1分ぐらいのシーンのために、2カ月間も柔道の特訓をしてもらったりもしましたけれど(笑)、これも同じ効果を狙ってのことです。

――大森南朋さんふんする真鍋刑事も映画オリジナルの登場人物です。

「第九」はあくまでも研究機関で捜査権がないので、外に出てストーリーをまわしていく役割の人物が必要だったんです。また、他人に自分の脳を見られることが前提の物語にあって、どうしてもそのことに耐えられない存在も描きたかった。人としての矜持(きょうじ)とでも言うべきもので、真鍋はこの題材に関する僕のスタンスを示しています。

――実力派のそうそうたるキャストが並ぶ中で、キーパーソンである絹子役にまったくの新人である織田梨沙さんを起用したのは?

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映画「秘密 THE TOP SECRET」(8月6日公開)
(c)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会


 絹子を演じる女優はなかなか見つからなくてオーディションを繰り返し、ひょっとしたら違う面が見えるかもと思って同じ子に何度も会ったりしました。そんな中で織田さんはなぜか心に残っていたんです。芝居の経験はなく、決してうまくはないんだけど、目が離せない。映像に愛されている、そう言っても過言ではない。オーディションが終わった後で偶然見かけたら、しゃがんで泣いていたりするギャップもあって気になる存在でした。もともと、この絹子という役はつかみづらい存在で、抱え込んでいる負のエネルギーの大きさや行動の理由も含めて、"わからない"要素が多いんです。だから演じる側にも「あの人、何者?」という匿名性が欲しかった、というのもあります。

――やはり映画オリジナルのリリー・フランキーさんの存在も含め、見終わった後もいくつかの謎が残っているような気がしますが......。

 鑑賞後に観客同士でいろいろ語りあってもらえたら、という願いがあります。映画はテレビとは違い、すべてを説明しなくても許されるメディアではないか、という気がしているんです。この映画は倫理観や道徳心の問題に踏み込んでいる一方で、「他人の心の中を見たい」というワイドショー的な欲望も描いています。そんな"聖"と"俗"の両方を、分け隔てなく見せきりたい。しかしそれを荘厳に描くのではなく、ジェットコースターに乗っている感覚のエンターテインメントとして楽しんでもらいたいんです。そして終わってみたら、より深いところにたどり着いていた、と感じてもらえたらなと......。ただ、それは観客の方それぞれが感じ取ることであって、送り手側が決めつけることではないですよね。とにかく楽しんでいただきたい、ただそれだけです。

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映画「秘密 THE TOP SECRET」(8月6日公開)
(c)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会



■映画『秘密 THE TOP SECRET』は清水玲子の人気コミックを、『るろうに剣心』の大友啓史監督が映画化した作品。死者の脳をスキャンし、迷宮入りした事件の解決につなげるという画期的な捜査方法が開発され、警察庁の特別機関・通称「第九」がその任に当たっていた。室長の薪(生田斗真)、新人捜査官の青木(岡田将生)らに与えられた任務は、家族3人を殺して死刑になった露口(椎名桔平)の記憶を読み取り、行方不明になっている娘・絹子(織田梨沙)を探し出すというもの。だが、そこから浮かび上がったのは史上最悪の凶悪犯・貝沼(吉川晃司)の影、そして薪の親友で「第九」創設者の一人・鈴木(松坂桃李)の死にまつわる疑惑だった。次々に連鎖していく謎は、薪や青木をどこへ導いていくのか......? 出演は他に栗山千明、大森南朋、リリー・フランキー。8月6日から公開。

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大友啓史監督 「秘密 THE TOP SECRET」(8月6日公開)


大友啓史(おおとも・けいし)
1966年生まれ、岩手県出身。慶応義塾大学卒業後、NHKに入局。秋田放送局、LA留学を経て、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズや土曜ドラマ「ハゲタカ」大河ドラマ「龍馬伝」などを演出、映画『ハゲタカ』で劇映画の監督に進出する。11年にNHKを退局。『るろうに剣心』(12)『プラチナデータ』(13)『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14)を監督。待機中の新作に『ミュージアム』(16)『3月のライオン』(17)がある。
座右の銘:「臨機応変」

(取材・文/紀平照幸)

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