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直木賞作家・黒川博行の小説を名匠・鶴橋康夫監督が豪華キャストで映画化した話題作『後妻業の女』(8月27日公開)。高齢化社会の結婚詐欺である"後妻業"をテーマに、シニア世代の孤立や現実を浮き彫りにしながらも、カラッと笑えて楽しめる人間喜劇に仕上がった。社会派の名手・鶴橋監督ならではのテンポの良さと爽快な台詞回しも圧巻だ。特に主演の大竹しのぶと豊川悦司の見事なまでのハマり役ぶりには、映画関係者からも称賛の声が多く飛び交っている。

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大竹しのぶ、豊川悦司出演『後妻業の女』8月27日公開


豪華な出演者たちの魅力を余すところなく引き出し、極上のエンターテインメントに仕上げた鶴橋監督に本作への思いや製作秘話を聞いた。

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鶴橋康夫監督『後妻業の女』8月27日公開


■小説2ページ目で小夜子役は「大竹しのぶ」と決めた

――以前から黒川氏のファンだったとお聞きしました。黒川作品のどこに魅力を感じますか?

「黒川さんの作品はほぼ全部読ませてもらっています。あるときは松本清張風であったり、あるときはレイモンド・チャンドラー風であったり......作風は変幻自在で、前からファンでした。登場人物たちの気持ちや背景の奥深い部分をうまく描いていて、ハードな内容の中に、そこはかとない人間臭さを感じることができるところが好きなんです。彼の作品には人間に対する深い愛がある。」

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『後妻業の女』8月27日公開


――映画化したいと思われた一番のポイントはなんだったのでしょう?

「小説『後妻業』をはじめて読んだとき、結婚相談所、高齢者、詐欺など、興味をそそられるキーワードばかりで『目のつけどころがさすがだな』と思いましたね。主人公の小夜子なんて、すごく想像力をかき立てられる。何よりも小説が非常に面白いから映像化したいと思いました。

僕は若い頃、少しだけ大阪に住んでいたことがあり、街への愛着もある。昔からずっと大阪を舞台にした作品を撮ってみたいと考えていましたが、たまたま機会がなかった。そういったこともあって、『ぜひこの奇想天外な面白い話を僕の手で映像化したい』と、原作を読みながら思ったわけです」

――キャスティングを思い浮かべながら読み進めていたと聞きました。

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『後妻業の女』8月27日公開


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『後妻業の女』8月27日公開


「そうですね。小説を読んで2ページ目ぐらいで、大竹しのぶさんと豊川悦司さんの2人が頭に浮かびました。僕は小説を読む時に、思ったことを書き込みながら読むクセがあるんです。主人公・小夜子のことを読んだら、そこに線を引いて"大竹しのぶ"と書いてしまう。それから、小夜子の被害者であろう男の横顔が描かれている印象的な表紙の裏には"津川雅彦"と書きました。津川さんに頭を少し角刈り風にしてもらって、ちょっとだけ痩せてもらえば、眼光鋭い表紙の老人になるはず......と思って。
読み終わる頃には、ほとんどのキャスティングを思いつくまま書き込んでいるんですが、その後にじっくりと現実的なことを考えながら絞り込んで配役をあてはめていく。キャスティングの打ち合わせをする前から、配役を思い描いているのはいつものことなんです」

――ストーリーもそのような感じで構成するのですか?

「はい。映画やドラマは、限られた時間の中で長い小説の世界を再現するわけだから、どうしてもいろいろと削ぎ落とすという作業が必要になってきます。それに合わせて登場人物も調整しながら、映画として一番面白いカタチになるようにする。本当ならば、小説としてどの場面も外せないのに、割愛して2時間に納めないといけないわけだから、ファンとしては『申し訳ないなぁ』と思いつつも、仕方がない。それでも、この出来上がった構成・脚本が、登場人物たちに寄り添ってくれるものになればいいなぁと思いながら作業しています」

■ 人生は「選ばれる恍惚、選ばれない絶望」の連続

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鶴橋康夫監督『後妻業の女』8月27日公開


――高齢者の婚活や結婚相談所という題材は興味深いですよね。

「結婚相談所という所は、とても人生の彩り豊かな場所だと思い。選んだり選ばれたり、つき合ったり振られたり、いろんなシーンが存在している。そんなことを考えながら映画の準備をして、自分でも脚本の内容やロケ地を選んだり削ぎ落としたりといった作業を繰り返していると、人生のすべては"選ばれる恍惚と選ばれない絶望"の繰り返しでできていると気づきました。この人だと思える人との出会いも一生に一度きりかもしれないし、次があるかもしれない。進学だって就職だってすべてそう。人は生きていく過程で、選ばれるか選ばれないかを通して、恍惚と絶望を繰り返している。結婚相談所はその縮図といってもいい。この面白い題材を目の前にして、ふとそんなことを延々と考えていました」

――選んだり選ばれたりにはエネルギーが必要ですね。

「誤解を恐れず言えば、歳を重ねていくと若い時と比べて、絶望、孤独、孤立なんていう言葉を身近に感じることが増えると思う。だけど結婚相談所は、そういったことと真逆に位置している気がする。うまくいくか否かは別にして。選んだり選ばれたりするためには、高い意欲と努力が必要。そんなところに優しくて小奇麗な女性が現れたら、そりゃもう一発でコロっとやられちゃうだろうね(笑)。後妻業のリアリティはそんなところからもきていると思います」

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『後妻業の女』8月27日公開


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『後妻業の女』8月27日公開


――実際の後妻業についてどう思われますか?

「僕の場合、まだまだ仕事もしているし、世間もいろいろ見てきたつもりだし、騙(だま)されないだろうと自負していたんだけれど、つい先日、何かの会話のタイミングで『監督の才能が欲しい』と言われて、コロッといきそうになったよ(笑)。口説き文句なんて、相手に合わせていくらでもあるなと思った。詐欺師の方々は言葉を巧みに使いこなしているわけで、自分だけは大丈夫と思っていても、あっという間に騙(だま)されてしまうんだなと」

■大阪は僕のセンチメンタルジャーニー

――大竹しのぶさんは『後妻業の女』というタイトルにふさわしい「女」でしたね。

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『後妻業の女』8月27日公開


「映画は大竹しのぶさんを主軸に、まさしく『大竹しのぶ讃歌』になりました。原作を読んで構想をめぐらせていたイメージどおり、寸分の狂いもなく大竹さんの小夜子ができあがっています。見てもらうとより一層『後妻業の女』というタイトルがしっくりくるんじゃないかなと思います」

――焼肉屋の乱闘シーンなど大阪のリアリティが出ていました。

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『後妻業の女』8月27日公開


「それは良かった。まずイメージしていた場所を探すのが本当に大変でした。あの乱闘シーンでは、2人の本気がぶつかっていた。尾野真千子さんは大竹さんのことを"大御所"と呼びますが、『大御所! 私、思いっきりいきますけどよろしく』と言うと、大竹さんは『どうぞ、小御所(こごしょ)』って(笑)。大阪の義理の親子の愛憎を暴力で表現してもらいたかったので、思いっきりやってもらって良かった。

リアリティに関して最も気をつけたことは、大阪弁を雑に扱わないということ。これはちゃんと指導をいただき、なんどもチェックしました。大阪は僕にとって本当に愛おしい街ですし、今も半世紀前の住んでいた頃の記憶が鮮明に蘇(よみがえ)ってくる。大阪は僕にとってはセンチメンタルジャーニーな土地だから(笑)」


■長寿化・核家族化に伴い、熟年婚活大国となったニッポン! この世相を背景に、金持ち男の後妻に入り、財産を狙うのが後妻業の女だ。結婚相談所主催のパーティで淑女然として老人たちの前に現れる小夜子(大竹しのぶ)。その魅力に老人たちはイチコロだ。80歳になる中瀬耕造(津川雅彦)もその一人。小夜子と耕造は惹(ひ)かれ合い、結婚。しかし、その背後には結婚相談所所長の柏木亨(豊川悦司)の陰があった......。共演は笑福亭鶴瓶、津川雅彦、永瀬正敏、尾野真千子、長谷川京子、水川あさみ、ほか。映画『後妻業の女』は8月27日より公開。

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鶴橋康夫(つるはし・やすお)
1940年生まれ、新潟県出身。中央大学法学部卒業後、1962年読売テレビに入社。その後一貫してドラマ演出を手掛ける。社会派ドラマの新分野を開拓し続け、多数の作品を生み出し、数々の賞も獲得。1981年芸術選奨文部大臣新人賞、2004年芸術選奨文部科学大臣賞。2007年紫綬褒章、2017年旭日小綬章。映画監督としては『愛の流刑地』(07)、『源氏物語-千年の謎-』(11)に次いで『後妻業の女』が3作目。今作では脚本も手掛け、卓越した人間喜劇を描いている。
座右の名:「半夏生」(はんげしょう:暦日の雑節のひとつで、田植えを終える節目の日をさす。また植物の名でもある。座右の銘を伺うと、「清流に一期一会の半夏生」と即興で一句詠んでくださいました)

(取材・文/たなべりえ@HEW

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