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第34回モントリオール世界映画祭ワールドコンペティション部門最優秀女優賞をはじめ、日本アカデミー賞など国内外の映画賞を数多く受賞した2010年の『悪人』から6年。原作:吉田修一×監督:李相日が再びタッグを組んだ映画『怒り』が9月17日より劇場公開される。愛した人は、殺人犯なのか? 一つの殺人事件をきっかけに、"信じるとは何か?" という根源的な問いかけを投げかける、感動のヒューマンミステリーである。

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映画『怒り』9月17日より劇場公開


「物語の登場人物には、映画『オーシャンズ11』のようなオールスターキャストを配してほしい」という原作者・吉田修一からの要望により、渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、宮崎あおい、妻夫木聡ら主役級の豪華キャストが集結した。そんなキャスト陣をたばね、重厚な人間ドラマを紡ぎだした李相日監督に話を聞いた。

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映画『怒り』9月17日より劇場公開


「怒り」劇場予告編映像>>



――『悪人』の原作者・吉田修一さんと再びタッグを組むこととなりました。吉田さんが「李監督は自分と考え方が似ている」とおっしゃっていましたが、相性は?

李「そうですね。二人とも人間の嫌なところに注目してしまうのが、似ているというか(笑)。欠点だらけの人間にこそ愛すべき部分があるという、そういう視線は好きですね。登場人物たちを無理にヒーローに仕立てようとしないというか。」

――吉田さんが「怒り」という小説を書き終えた時に、真っ先に送本したのが李監督だったと聞きました。帯のコメントを書いてほしいということだったようですが、次はこれを一緒にやりませんか、というような吉田さんなりの思いもあったのではないでしょうか。

李「それは当然、ある程度は構えて読むんですけども(笑)。ただ、読み始めるとそんな意識は早々に消えて?み込まれるように夢中になりました。どのキャラクターも目には見えない複雑な感情を抱えていて、彼らの関係性が生む緊張感に息をのむ思いでした。当然、映画にしてみたい、という思いはありつつも、明らかに『悪人』を超える難易度の高さに最初は怯んでしまった。というのが正直なところです」

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李相日監督 映画『怒り』9月17日より劇場公開


――全国何百スクリーンという大規模でかかる作品でありながら、相当に骨太な物語となりました。この映画は、主役級の俳優たちが集まった豪華キャストも話題ですが、それはやはりこの作品をやりたいという彼らの思いもあったのではないかと。

李「確かに、残念ながら骨太なヒューマンドラマ的企画は少ない。でも本来、俳優たちはこういう作品を望んでいると思うんです。なかなか機会がないだけで。今回の企画が実現したのも、ひとえに吉田さんの原作の魅力が大きいわけですが、俳優にとっても、『怒り』に関わることで新しいチャレンジができる。きっと自分の違った一面に出会える、そんな思いがあったはずです。オーディションの場で見せた(広瀬)すずの気迫も強く印象に残ってますし。その気持ちは俳優陣だけでなく、僕ら作り手だって一緒。常に探しているんです」

――李監督といえば、俳優たちとリハーサルを何度も繰り返し、「とにかく粘る監督」と言われています。

李「吉田原作がそうさせるんです(笑)。『悪人』もそうでしたけど、『怒り』にしても人間の生の手触りが必要ですから。登場人物ひとりひとりの人生が忠実に描かれなければならない。つまり、少しでも嘘が混じってはいけないんですね。だからこそ、俳優にはその時抱いた感情だったり、互いへの思いだったり、存在含めて全て本物であることが求められるんです。言ってしまうとシンプルですが、じゃあ、それをどう芝居で表現するのか......わかりませんよね。そもそも「芝居を超えて欲しい」という無茶な要求をしてるわけですから。もちろん、その瞬間に到達する明確な方法論なんてありませんし。ない以上、粘るしかないんです」

――リハーサルは、俳優が演じる役柄を見つけていく作業であると。

李「そうですね。役同士の関係性や距離感をつかむためにリハーサルを丹念にやります。単純に台本に出ている事頃だけをうまくやることがテーマではない。その人はどんな背景を背負っているのか、台本や原作には描かれていない顔はどうなのか、人物の本質を見出すためにやるわけですよね。そのヒントを探すために、例えば取材が必要ならそこに行ってもらったり、人に会ってもらったり」

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李相日監督 映画『怒り』9月17日より劇場公開


――どれぐらいの時間をかけるんですか?

李「今回だと人数が多いので、東京、沖縄、千葉と、それぞれのチームでできる時間は多くはなかった。それぞれ1チーム、4、5日くらいですね。あとは個別にやってもらうという感じでした」

――例えばリハーサルでつかめないところがあったら宿題にして、現場に持ってきてもらうというようなこともあるのでしょうか?

李「むしろ感触として"何が足りないのか"ということをリハーサルでつかむことが大きいですね。そこで決めるというよりは、ある程度あぶり出す、という方が大きいかもしれません。当然、俳優だって現場で初めて生まれてくるものもあるわけですから。」

――「粘る」という表現はよく聞くのですが、実際にはどれくらい粘るものでしょうか?

李「僕も、他と比べたことがないんで分からないんですよね(笑)。感覚的に言うと、ここまでいったらいいよね、というところで終わっていないんです。そこまではいっているけど、その先を出せるのかという。粘っていると言われるのはそういうことなのかもしれません」

――もう少し頑張れば、もっといけるんじゃないかと。

李「それもこれも納得できればいいんです。
粘るというと、大変なシーンで粘っていると思われがちなんですが、実は一番粘っているのは、むしろそれぞれの登場シーンだったりします。初めてキャラクターとキャラクターが触れあうようなところ。例えば宮崎(あおい)さんと松山(ケンイチ)くんのところだと、リハーサルを一番多くやったのは、初めて愛子(宮崎)が『お弁当いる?』と聞くところです。完成版を見ても、むしろ何気ない日常の一コマを描いたシーン、特にどうということのないシーンだと思われがちですけどね。沖縄では、(広瀬)すずと佐久本(宝)君がボートで島に戻ってきて、そこに彼のお父さんが来て『どこに行くの?』と。あのやりとりに延々と時間がかかっているんです。感情を爆発させるような、エモーショナルなシーンではないんです」

――予算的なところはどうなんですか? 粘るということは時間がかかるわけで。時間がかかれば当然、予算も膨らむわけですが。

李「それは風評被害です(笑)。確かにスケジュールはオーバーしていますが、予算は常識の範囲内でしっかりとやっています(笑)」

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李相日監督 映画『怒り』9月17日より劇場公開


――それでは最後に座右の銘を教えてください。

李「これはケビン・コスナーが『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でアカデミー賞を取った時に言った言葉なんですが、『多くの人が不可能だということを、自らやろうとしない人間は不可能を可能にできない』という言葉が好きですね」


◆李相日(りさんいる)
1974年新潟県生まれ。大学卒業後、日本映画学校に入学し、映画を学ぶ。1999年に卒業制作として監督した『青chong』が、2000年のぴあフィルムフェスティバルでグランプリ他4部門を独占受賞してデビュー。その後、2002年には、ぴあスカラシップ作品として制作された『BORDER LINE』で、新藤兼人賞を受賞するなど高い評価を得る。2004年、村上龍原作・宮藤官九郎脚本の『69 sixty nine』で監督に抜てきされメジャー進出。2005年には、オリジナル脚本で現代の鬱屈(うっくつ)した若者たちをシニカルに描いた『スクラップ・ヘブン』を発表。2006年の『フラガール』は、日本アカデミー賞最優秀作品賞、監督賞を始め、国内の映画賞を独占し、第79回アカデミー賞の外国語映画賞の日本代表に選出された。2010年の『悪人』でも、キネマ旬報ベストテン日本映画第1位、日本映画監督賞、脚本賞に輝くなど、現代の日本映画界をけん引する監督のひとりとして注目されている。

座右の銘:人が不可能だということをやろうとしない人間は不可能を可能にできない

※文中の「宮崎」の「大」は「立」表記

(取材・文/壬生智裕)
(写真:トレンドニュース)
(C)2016「怒り」製作委員会


トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

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