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 大ヒット作「ガールズ&パンツァー」の制作会社アクタスが手がけるテレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」(全13話予定)は、「既に放送・配信している話数において、本来意図していたクオリティーと相違があることを強く認識しました。制作体制およびスケジュールを仕切り直し、あらためてきちんとした形に仕上げた上で、9月1日より再度放送します」というメッセージを残し、4話を放送しただけで、放送を中断。「放送中のアニメを作り直す」という異例の事態に、多くのアニメファンが驚かされた。

 実際に現場では何が起こっていたのか。今回の決断に至るまでの現場の思いとは。そして新たに仕切り直しとなったリテイク版の出来はどのようなものなのか。9月1日の復活放送開始を前に、同作の企画を担当したインフィニットの永谷敬之プロデューサーに聞いた。

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テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」プロデューサー 永谷敬之氏


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■クオリティーが低いわけではない。ただ、制作現場の進言を尊重してリテイクを決断

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2016年9月1日より復活放送開始! テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」


――「本来意図していたクオリティーと相違があることを強く認識」というメッセージは驚きとともに受け止められました。そもそも今回のケースに至る経緯を教えてください。

永谷「皆さんが気にされているのは、いわゆる"クオリティー"という言葉だと思います。今回、作画と演出と音、という三つの側面でのクオリティーが低いのではないかという意見が、制作現場から出てきたことが発端でした。全13話でお話を完結させることが大前提の約束事ですが、放送に間に合わせて納品することを優先させるあまり、最終回までに情報として伝えなければならないこと、受け取ってほしかった部分の描写などが、少しおろそかになってしまったのではないかと。そういったことを制作会社であるアクタスが、製作委員会側に対してされました。」

――実際に放送されたものを見て、「どこが問題なのか分からない」というファンからの意見もありましたが。

永谷「オリジナル作品で比較がないので、分かりづらいかもしれません。今回の発表で、『予算に対して、製作委員会が制作サイドに求めるものの水準が高すぎるのではないか』とよく言われるんですが、そうではありません。限られた制作費の中で、現場が最大限できることは何なのかを優先させます。だから、インフィニットのプロデュース理論としては、『これが現場の100点です』と言われたら、基本的にはよほど大きなミスがない限りはそのまま納品してもらうようにしています」

――そのポリシーは「レガリア」でも変わらなかった?

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2016年9月1日より復活放送開始! テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」


永谷「もちろんです。現場から申し入れがなかったら、少なくとも放送延期するところまで足を踏み入れることはなかったですね。ただ、今回具体的に、ここと、ここと、ここの箇所を直したいというビジョンがあり、現場サイドが悪い箇所をしっかりと認識し、それを直す時間を作ってあげさえすれば、現場が思う100点のものがあがってくる、というならば、プロデュースサイドとしてはそれをかなえてあげるべきなんだろうと思ったんです。それこそ漠然と『リテイクしたいんですよね』としか言われなかったら、放送延期はしなかったですね」

――修正された1話から4話は何が変わるのでしょうか?

永谷「一部セリフを追加で収録したり、シーンを追加したり、演出面や作画面などに変更を加えました。1~4話放送時に見てくださった方は、追加されたセリフやシーンが分かるかと思います。その上で、各話数で伝えようとしていた意図やテーマがきちんと少しでも多く伝わるように修正を施しました」

――内容が変わるというということはあるんでしょうか?

永谷「例えばAという道筋の物語が、Bという道筋に行くということはありません。ただ受け手によっては大きく印象が変わったと感じることはあるかもしれませんし、制作側が『こういう風に見てもらいたかった』ということが分かるようになっているかもしれません」

――修正版が世に出るということは、放送版はお蔵入りになるのでしょうか?

永谷「これがまた不思議なことですが、GYAO! さんをはじめとしたインターネット上では今でも放送版を配信しているんです。(編集部注釈:8月インタビュー時は、配信をしておりました。現在、一部の配信事業者様では、配信を停止しております。ご了承ください)つまり、放送された1話から4話が決してダメなわけではないんです。これは結構重要なところで、その時の万全を期して出したものなので、恥ずかしいから引っ込めましょう、というものではない。ただ、今後パッケージになった際には、リテイク版の方が収録されることになるとは思いますが」

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2016年9月1日より復活放送開始! テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」


――ただファンの中には、放送版も記録用として残してほしい、という意見も出てくるかもしれません。

永谷「僕個人の意見としては、今のブルーレイの容量だったら両方入るわけだし、放送版が恥ずかしい出来だとも思っていないんで、入れてもいいんじゃないかとは思っています。ただ一方で、一生懸命頑張っている現場のスタッフの意見は尊重したい。つまり、彼らが作りたかったリテイク版のみを後世に残してあげるのもプロデューサーの役割じゃないかなと思うんです。だからそれに関して現場がどう言うか、それ次第かなと」

――制作時間に余裕ができて、現場の士気は高まっているのではないですか?

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2016年9月1日より復活放送開始! テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」


永谷「これは難しいところですね。1話から4話を直す時間ができたとしても、では5話以降のスケジュールはどうなるんだ、遅れないか、と(笑)。だからプロデュースサイドとしては、せっかく時間をもらったんだから慎重にねという気持ちと、2度目はないよ、と伝えています。ただ、やはり想像以上に手描きのロボットアニメってカロリーを消費するんですよ。現場のスケジュール調整は大変だと思うし、あとはもうスタッフに前向きにやってもらうしかないと思っています」

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2016年9月1日より復活放送開始! テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」


――ファンからは「アクタスなら延期するのもしょうがない。待ちます」と言った意見もあります。永谷さんとしても、やはり完成品のできがいいので、悔しいけど納得してしまうといった気持ちがあるんじゃないですか?

永谷「そうですよね......。アニメ制作というものは、限られた期間と予算の中でやりきることが大変なわけですが、そういったビジネス論とか世間一般の価値観というものに置き換えない人たちだからこそ、ピュアに放送を延期したいと言ってくれたわけだし。
もちろんそれを僕はアクタスの個性として受け入れたわけで、逆に言うと、メカものというと3DCGで描くことが多い時代の中で、手描きのロボットものがやれる数少ないスタジオとしてアクタスにがんばってほしい、という思いはあるわけです。そんな彼らが困っているなら、僕も助けてあげなきゃという気持ちになってしまったんです」

■プロデューサーと制作現場との関係とは

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テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」プロデューサー 永谷敬之氏


――永谷さんから見た現時点でのクオリティーはいかがですか?

永谷「結果的に世の中の人たちが5話目以降を見られるのはだいぶ先になってしまいました。でも僕が言うのも何ですが、現場はむちゃしてくれちゃってるな、というくらいのものが出来上がっているんです(笑)。やはり僕もサンライズが作っていたような手描きのロボットアニメを見て育ったわけですし、そうそう、みんなこういうのが好きであってほしいと思うようなワクワクするものが、コンテや作画であがってきているので、僕としてはやって良かったなと思いました。本当にいろいろと大変だったけど、放送時期をずらすことによって、現場が納得するクオリティーが守られるのであれば、そうしたい。これが結果的に打ち上げの時に、笑いながらあんなこともあったねと言えるようにまでになってくれたらいいなと思いながら、見てます。」

――それがプロデューサーの心意気だと。

永谷「世間ではプロデューサーという人たちは何をしている人なのか分からない部分ってあると思うんですけど、もしも現場に対してプロデューサーがかっこつけられるとしたら、こういうスケジュールの調整くらいしかないわけですよね。結局プロデューサーがやることってビジネスの責任をとることしかないわけですから」

――もちろん納品がずれるというのはあってはいけないことだとは思うのですが、一方で自分の納得ができるように作り直すことのできる環境をうらやましいと思うクリエイターもいるのでは?

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テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」プロデューサー 永谷敬之氏


永谷「確かにうらやましいと言われることも多かったですね。場合によっては1話が流れた段階で、なんとなく空気になってしまうような作品が多い中で、ここはこうするべきだったかなというポイントにもう1回トライしてみたい、というクリエイターは多いですから。今回のことは、業界の人にとって本当に衝撃だったようで、どうやってこの決定を通したのかということについてはよく聞かれました(笑)。ただこれはものすごく痛みを伴いますし、金銭や信用を失うという側面もあるわけだから、オススメはしません。確かに、これからのアニメ業界の移り変わりの中で、こういうことがあったねというような参考ケースにはなるのかもしれませんが、それでもビジネスの基本としての約束は守らなければいけないわけですし、いろいろな方に多大なるご迷惑をかけているわけなので、それを許してくださった関係者の方には、感謝しかないですね」

――ところで5話のタイトルは「反撃」。これはどのタイミングで決めたタイトルなのでしょうか?

永谷「それは中断が決まる前です。その話数タイトルが世間からどういう反応を受けているのかは聞いてますが、偶然です。狙ってつけたわけではありません(笑)」

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2016年9月1日より復活放送開始! テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」



テレビアニメ「レガリア The Three Sacred Stars」は、2016年9月1日より復活放送開始!


◆永谷敬之(ながたにたかゆき)
1977年広島県出身。スターチャイルド、バンダイビジュアルを経て、2010年にアニメーション企画制作会社「インフィニット」代表に。主なプロデュース作品として「もえたん」「花咲くいろは」「TARI TARI」「SHIROBAKO」「クロムクロ」「フリップフラッパーズ」など。

座右の銘:「一期一会」

(取材・文/壬生智裕)
(写真:トレンドニュース)
Photo:▽(C)Regalia Project

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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