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 ジャズの名門レーベル Blue Note Recordsからリリースしたデビュー・アルバム『ノラ・ジョーンズ(原題:Come Fly Away With Me)』で、グラミー賞主要4部門を含む計8部門を受賞した女性シンガー・ソングライター、ノラ・ジョーンズ。以降もロックやソウル、R&Bにカントリーと、さまざまな音楽スタイルを取り入れながら進化を続け、前作『...Little Broken Hearts』ではなんと、ナールズ・バークレイとの仕事で知られる鬼才、デンジャー・マウスをプロデューサーに迎えるなど、枠にとらわれない活動を続けてきた彼女が、およそ4年半ぶりの新作『デイ・ブレイクス』を10月5日にリリースする。

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ノラ・ジョーンズ、『デイ・ブレイクス』10月5日リリース
(ライブ写真 濱谷幸江)


本作は、デビュー作以来15年ぶりにピアノで作曲をおこない、改めて「ジャズ」と向き合った「原点回帰」とも言える内容。ウェイン・ショーター(サックス)やドクター・ロニー・スミス(オルガン)ら、スウィング界のレジェンドたちをゲストに迎えたり、ホレス・シルヴァーの「ピース」やデューク・エリントンの「アフリカの花」、意外なところではニール・ヤングの「ドント・ビー・ディナイド」をカヴァーしたりと、「ジャズ色」を強めながらも、そこに収まりきれない内容に仕上がっている。

ノラ・ジョーンズ「キャリー・オン」>>




 そんなノラが、さる9月7日に「ブルーノート東京」にて一夜限りのスペシャル・ショーケースをおこなった。この日は「完全招待制」のクローズドなライブで、アルバムを予約するなどして応募した一般当選者と、マスコミや関係者などおよそ250名の観客が会場に集まった。

 19時半に客電が落ち、紺地に赤い花柄のワンピースを着たノラがステージに現れると、会場からは割れんばかりの拍手が響き渡る。司会進行役のクリス・ペプラーによる、新作についてのミニ・インタビューが終わると、おもむろにピアノに向かったノラが、今夜一緒に演奏する日本人ミュージシャンを呼び寄せた。ドラムスはSOIL&"PIMP"SESSIONSのみどりんで、ベースは黒田卓也やオレンジ・ペコー、山下洋輔など、さまざまなアーティストのサポートを務める小泉P克人。「みなさん、来てくれてどうもありがとう。今夜はニュー・アルバムから何曲か演奏します。気に入ってもらえるとうれしいな」とあいさつし、まずはリードシングルとなったブルース・ナンバー「キャリー・オン」を披露した。ブラシを中心としたシンプルなドラミングと、ウッドベースの温かい音色が曲の重心を支え、その上でノラのピアノが縦横無尽に転がる。少しラフなプレイと気だるくハスキーな歌声からは、今夜のステージを非常にリラックスした状態で迎えているのが伝わってくるようだ。

続く「イッツ・ア・ワンダフル・タイム・フォー・ラヴ」は、ピアノのリフにウッドベースがユニゾンで重なり、徐々に熱を帯びていくスリリングなナンバー。ささやくような低めの歌声は、4年前に武道館で観たときよりも「強さ」や「逞しさ」が増しているように感じる。出産や子育てを経験して、母親としての「強さ」や「優しさ」を身につけたから......などと、安易に結びつけてしまうのは無粋な気もするが、全てを包み込むようなスケールの大きな歌に、「母性」のようなものを感じたのは事実だ。

 ウッドベースからエレキベースに持ち替えてのグルーヴィーなベースラインと、ゆったりとしたビートに絶妙なバウンスを加えたドラムスが心地よい「トラジディ」は、個人的にアルバムの中でもっとも好きなソウルバラード。刻々と移り変わっていくコード進行の上で、「It's a tragedy」と繰り返すメロディがたまらなくセンチメンタルだ。随所に挿入される変拍子にもハッとさせられるし、メロディと絡み合うピアノも心憎い。さらに楽曲の後半、オクターヴ上へと跳ね上がるファルセット・ヴォイスが胸をぎゅっと締めつける。間違いなくこの瞬間が、この日のハイライトだった。

 再びウッドベースに持ち替えての「アンド・ゼン・ゼア・ワズ・ユー」。南の島で、海の向こうにゆっくりと落ちていく夕陽を眺めているような、ムーディーな楽曲。マレットを使ったパーカッシヴなドラムプレイも印象的だ。続く「フリップサイド」も「イッツ・ア・ワンダフル・タイム・フォー・ラヴ」と同様、ピアノリフとエレキベースがユニゾンするスリリングなナンバー。アップテンポなエイトビートと開放感あふれるサビに、客席からはひときわ大きな拍手が鳴り響いた。

 「友だちが東京に来ていて、明日から始まるキャンディス・スプリングスのライブに出演するのだけど、今日ここに遊びに来ているから最後に1曲、一緒に演奏するわね」
 そう言って迎えたのは、なんとジェシー・ハリス。彼女のファースト・シングルであり、その名を世界中に知らしめた名曲「ドント・ノー・ホワイ」の作曲者だ。

 「初めてジェシーとテキサスで会ったのって、1998年だっけ? それから私たちは友だちになって、それである曲を送ってくれたの。その後ニューヨークで一緒にバンドを組んで、ファーストアルバムをレコーディングすることになって、それも入れた。今から演奏するわね」

 そういって始めたのはもちろん、「ドント・ノー・ホワイ」。まさかノラとジェシーの共演を目撃することができるなんて。感激で胸がいっぱいになっていたのは筆者だけではないだろう。20年という歳月を経て、今なお固い友情で結ばれている2人の関係に思いをはせ、初めてこの曲を聴いてから、今日までの自分の14年間に思いをはせながら、いつまでも余韻に浸っていたくなるような、そんなすてきな一夜だった。

(取材・文/黒田隆憲)

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