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 2009年に深夜ドラマからスタートした「深夜食堂」は、味わい深いストーリーと細部までこだわったセットや料理、そして人情味溢(あふ)れるマスターや常連客をはじめとする登場人物たちの魅力によって、日本ばかりではなくアジアでも大きな広がりを見せた。
そして2016年11月、待望の劇場版映画第2弾『続・深夜食堂』が11月5日(土)に全国公開を迎える。本作のメガホンをとるのは、ドラマ版から総監督的な立場で「深夜食堂」を牽引(けんいん)する松岡錠司だ。「続編って難しいよね」と苦笑いを浮かべた松岡錠司監督に、作品の見どころやこだわりを聞いた。

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松岡錠司監督 『続・深夜食堂』が11月5日(土)に全国公開


映画『続・深夜食堂』劇場予告編映像>>



■前作に続き、今回も「亡くなった人間たちに対する、生き残った人たちの立ち振る舞い」を描く

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11月5日(土)全国公開の映画『続・深夜食堂』
(C) 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会


――今回2度目の映画化。「深夜食堂」の世界観がどんどん広がっていっていますね。

松岡: 肝に銘じたのは、映像化された「深夜食堂」の世界観をすでに多くの人がわかっているので、どこまでその期待を外さずにやれるんだろうということですね。実は自分のキャリアのなかで、これまで続編というものを作ったことがなかったので難しさを感じました。その点、(『男はつらいよ』シリーズの)山田洋次監督はすごいなと思いました。続編ってハードルが高いです(苦笑)。

――そんななか、続編に臨む上で一番意識した部分は?

松岡: たくさんあるエピソードのなかで、どれをピックアップしても「深夜食堂」の形にはなるという理屈はあるんです。でも必然的に選び取ったものじゃないと、映画として厳しいと思ったんです。ただ単純に3つのエピソードを選んで、貼り付けるだけじゃダメなんです。

――どんなテーマで題材を選んだのでしょうか?

松岡: 前作は「骨壺(こつつぼ)」という共通のキーワードで作品をつないでいったのですが、今回もそれと似たような題材「亡くなった人間たちに対する、生き残った人たちの立ち振る舞い」といったテーマはないかってね。そこで「喪に服した人の話(焼肉定食)」が結びついた。そこから「焼きうどん」「豚汁定食」という3つの話になったんです。3つ目の「豚汁定食」は原作にないオリジナルなのですが、お品書きに唯一書かれている「豚汁定食」の謎をすこし解明してもいんじゃないかなって思って作った話なんです。」

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「焼肉定食」(出演:河井青葉、佐藤浩市)
(C) 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会


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「焼うどん」(出演:池松壮亮、小島聖)
(C) 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会


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「豚汁定食」(出演:井川比佐志)
(C) 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会



――深夜放送からスタートしたドラマが、ここまで大きな広がりを見せることを想像していましたか?

松岡: していないですね。していたらいやらしいよね(笑)。ハリウッドのプロデューサーだったらわかるけど、全然想像していませんでした。でも予算がない中、スタッフをはじめキャストがみんな「祭りだ」って面白がったんです。大変だけど「祭りなんだからやろう」って。

――みなさんの想いがあってここまで大きくなったんですね。

松岡: オダギリジョーがシーズン3の時に「こうして続くのってすごいことなんですよ。ましてや映画まで行くなんてなかなかありませんよ」って言うんです。そういうものかなって思っていたら「テレビドラマと映画を両方やるって最初から決まっている企画はあるけれど、そうじゃなくて、積み重ねていって可能性が広がっていくって本当にないことなんですよ」ってね。俺の先輩かよ!(笑)って思ったりしたのですが、確かに多くの現場を経験しているのは俳優のほうだからね。僕なんか10本ぐらいしか撮ってないからね(笑)。

■「めしや」という空間の調理室に立っている"マスター"の存在感

――小林薫さんとも長いお付き合いになりましたね。

松岡: 基本的に最初の頃と変わっていないよね。僕は見つめているだけだから演じる側とは立場が違うけれど、自分の中にもマスター像というのができてくるんですよね。新しいお客さんが来たときに、マスターはどんなトーンでどんな立ち振る舞いをするかということを想像するのですが、ほとんどがその通りの演技をされるんです。とてもリアリティがあります。

――主人公はお客さんだったり、料理だったりするのですが、マスターの存在感はすごいですね。

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11月5日(土)全国公開の映画『続・深夜食堂』
(C) 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会


松岡: そうですね。僕はマスターというのは、半分、幻(まぼろし)だと思っているんです。絶妙な距離感で人と接してくれるので、目の前にいると何も問いかけていないのに、自分から人生をしゃべりだしてしまうんです。マスターが現実にいるのか幻なのか......そんな存在がそうさせている。ありそうでなさそうなお店に、幻のような人がいる。それは「めしや」という空間の調理室に立っているマスターによって成立しているんです。

――「深夜食堂」というシリーズに共通するテーマとは?

松岡:おすそ分けという言葉があるけれど、今回の作品でいうと、人から受けた優しさを返したいけれど、すでに相手はこの世にいない。さあどうする? と考えたとき、自分の助けが必要な人が出てきた際に、その人に力を貸してあげればいい。これは、もっと単純に言い換えれば"人情"なんだよね。

――その"人情"が国を超えて多くの人々に伝わるんですね。

松岡:今の世の中って人情みたいなものを軽んじていないかって思うんです。少し恥ずかしいものみたいにね。でも人情がなくなってしまったら、社会は崩壊してしまう。啓発するわけじゃないけれど、人は寛容さを持たなければいけないと思うんです。不寛容になってしまうと、世の中全体がギスギスしてしまう。そのときに、わが身を振り返る謙虚さをぎりぎり持っていないとダメだよね。「深夜食堂」の世界観であれば、そういったことを根底に置きながら"人情"をふわりと描けると思ったんです。こう思えるようになったのは、この作品が長く続いたからなんだけどね。今の僕のキャリアだからできたものだと思うし、こういうテーマをやらなくてはいけないとも思ったんです。

(取材・文・撮影:磯部正和)

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松岡錠司監督 『続・深夜食堂』が11月5日(土)に全国公開


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松岡錠司(まつおかじょうじ)
1961年11月7日生まれ、愛知県出身。90年公開の映画『バタアシ金魚』で劇場用映画デビューすると、『きらきらひかる』(92年)、『さよならクロ』(03年)などを話題作のメガホンを取る。07年公開の映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン 』で第31回日本アカデミー賞最優秀監督賞を含む主要5部門を受賞する。09年にはドラマ「深夜食堂」では、ドラマの枠を超えた世界観を演出し、長きに渡るシリーズ化の礎を築く。座右の銘は「酒は飲んでも飲まれるな」

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