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 巴亮介の戦慄(せんりつ)のサスペンス漫画を、映画『ハゲタカ』や『るろうに剣心』シリーズなどを手掛けた大友啓史監督が実写映画化した『ミュージアム』が公開中だ。「道徳的にみても救いがなく、後味が悪い」という原作を、いかにしてポジティブな意味を内在し、映画として成立させたのか――。大友監督に話を聞いた。

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大友啓史監督、小栗旬主演で実写映画化された『ミュージアム』


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■得体のしれない恐怖を描いてみたかった。

――いろいろな意味で、非常に難解な漫画の実写化だと思いますが、監督のオファーが来たとき、率直にどんな思いだったのでしょうか?

大友:道徳的にみたら相当キツい作品だし、読後感として後味も良くない。救いも用意されていない。今のご時世、救われたがっている人が多いと思いますからね、どういう風に映像化したらいいのか当初は正直悩みました。それと同時に、原作自体たぶん『セブン』や『ソウ』、『オールド・ボーイ』などの映画がルーツなんじゃないかなって思ったんですが、そういう映画に刺激された漫画を映像化するときに、どこに映像作品としてのオリジナリティを依拠すればいいのかなって。

――そんな思いのなか、どこに折り合いをつけて映像化に向かっていったのでしょうか?

大友:主人公が絶望的に追い込まれていくシチュエーションは、プロットとしては抜群に面白いですよね。危害を加える方の悪意がなかなか見つからない、被害を受ける側も、私刑と称して殺害までされる理由が思い当たらない。どこに因果関係があるのか、そもそも因果関係があるのかどうかわからない。なのに、突然降ってわいたように自分に不幸が襲いかかってくるかもしれない不安って、今の時代、多くの人が抱えているんじゃないかと思ったんです。ネット上で悪意なくつぶやいた一言が、見知らぬ人から総攻撃を受けて炎上するなんてしょっちゅうある。そういった、どこから矢が飛んでくるかわからない得体のしれない不安とか恐怖そのものを、カエル男という存在をメタファーとして描けるのではないかと。

――小栗さんの出演にもこだわったとお聞きしました。

大友:そうですね。小栗君が主人公の沢村を演じてくれるなら......という想いは強かったです。この作品は家族の物語であり、小栗君自身、お子さんが一番かわいい時期だろうし、沢村を演じる上でも、そういう想いが乗るんじゃないかなって思ったんです。まあそういったことを抜きにしても、彼とはこのタイミングで是非手合せしてみたかったですしね。

――いま大友監督がおっしゃったように、本作は家族の物語として、しっかりとした人間ドラマが根底にあるように感じました。

大友:この作品の場合どうしても突出した残酷描写に目が行きがちなのですが、僕はもともとドラマ屋なので、ジャンルが違えど、人間そのものと彼ら彼女らが繰りなすドラマに興味があります。小栗君や、尾野(真千子)さん、妻夫木(聡)君といった今まさに脂の乗り切った俳優たちに参加してもらうからには、彼らが全身全霊で演じるに値するモチーフを用意して、思う存分力を発揮してもらいたい。原作には、登場人物たちが限界まで追い詰められるシチュエーションが用意され、確かにその芽があると思いました。相当な荒治療だけれど、沢村はカエル男と対峙(たいじ)することによって、妻や子供との関係を見つめ直すきっかけを与えられた、そういったポジティブな解釈も可能ですからね。

■小栗旬は芝居の基礎体力がすごい!

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大友啓史監督、小栗旬主演で実写映画化された『ミュージアム』


――この作品はR指定やPG指定がついていませんが、描写についてはどこまで意識したのでしょうか?

大友:それがまったく意識していなかったんです(笑)。プロデューサーから映画化の話を頂きそれを引き受ける際に、「手抜きをしませんから、きっとR指定になります。覚悟していただけますよね」って、宣言していたくらいですから。実際現場で死体造形を見た小栗君や松重(豊)さん、野村(周平)君ら俳優たちは、「こんなの見たら飯食えないよ」って言っていました。でも映倫の基準では、直接的に残虐なシーンがない場合、造形物として大丈夫みたいですね。

――大友組と言えば、かなりハードな現場で有名とお聞きしていましたが、小栗さんは意外とスムーズだったと仰っていました。

大友:本当にスムーズだったんです(笑)。まあ『秘密 THE TOP SECRET』や『るろうに剣心』と違いシンプルな話ということもあるのですが、小栗君が「大友監督の現場が大変だ」といううわさを聞いていたおかげで、かなりハードルが上がっていたんでしょうね。それでも普通の現場に比べればハードだと思いますよ。でも、みんなしっかり準備をしてきてくれましたから。撮影監督始めスタッフとの呼吸もうまく行って、それほどテイクを重ねる必要がなかった。これで「僕の現場は大変だ」という風評被害も覆されると思いますね(笑)。

――小栗さんとの現場はいかがでしたか?

大友:小栗君は芝居の基礎体力がありますね。普通の役者だったら弱音を吐いてしまうようなところも、何度でもテイクを重ねられる。もちろん役者を追い込むことや何度も繰り返しテイクを重ねること自体が目的ではありませんから、良いものが早く撮れるに越したことはない。その意味では、僕の予想以上に小栗君はピークに持っていくのが早かったですね。

――妻夫木さんのカエル男にも驚きました。

大友:カエル男って、殺人をアートとして楽しんでいるような人間で、他の殺人者とは一線を画している。妻夫木君は、『怒り』では綾野君と同棲(どうせい)して同性愛者のキャラクターを創り上げていくような真っ当で誠実なアプローチをする役者なので、今回のようなキャラクターに正面からアプローチするのは、当初は逆に難しいと思ったかもしれませんね。僕自身、いつもは俳優たちを役柄に没入させるような追い込む演出を好むのですが、今回それをやってしまったら、どこか精神的におかしくなってしまう可能性もある。とにかく、傍目から見ると「愛情」と錯覚されかねない勢いで、小栗君演じる沢村刑事にこだわってほしいなと。と同時に、思いっきり振り切った演技でこの役を楽しんでほしいと伝えましたね。

■大きな舞台でも揺るがない力を蓄えたい

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大友啓史監督、小栗旬主演で実写映画化された『ミュージアム』


――非日常を舞台にした漫画原作の実写化が続いていますね。

大友:NHKを辞めたときに、まずはNHKじゃできなかったこと、できないことをやろうって思っていましたから。NHKって基本的にジャーナリズムをベースとした公共機関であり、真面目に効率的に作りこんで行くことが要求されますが、漫画って世界観自体がそもそも虚構の塊みたいなものじゃないですか。だから、そういった漫画原作の特性に乗っかれば堂々とうそがつけるし(笑)。今はフィクションであることを十分享受しながら、作品に取り組んで行きたいですね。

――大友監督はハリウッドで映像技術を学ばれたりしていますが、海外市場で戦うことには、どんな想いを抱いているのでしょうか?

大友:もちろん興味はあります。先日も『空海―KU-KAI―』(チェン・カイコー監督)のことが取り上げられていましたが、バジェットが150億とか書かれていましたけど本当ですか? ああいうネタを150億円かけてやるってのはとても贅沢ですね。バジェットが大きくなければできないネタって当然ありますから。僕自身まだそこまで考えが至ってませんが、そういうネタをやろうと思ったら、日本のマーケットだけでは成立しない。必然的に目は外に向けられますよね。

――そのためには何が必要なのでしょうか?

大友:海外で作りたいと思う素材があって、バジェット含め必然性があれば、世界規模のビジネス視点が必要でしょうね。でも、いざ大きな舞台が必要な企画にGOサインが出ても、小さな映画しか作ったことがなければ、逆にそのコンディションに戸惑ってしまうかもしれませんし、その環境を十分に活かせないかもしれない。そう考えると、日本映画の土俵で普遍的な題材に取り組みつつ、いつか来るかもしれない大きな舞台に備えて力を蓄えなくてはいけないと思いますね。僕もリドリー・スコットの『グラディエーター』みたいな歴史を舞台にしたスペクタクルヒューマンドラマとかやってみたい。そういうことが許されるような状況にアプローチできるところにはいたいと思っています。ま、無理をせず、やれるところから積み重ねていこうかと。

(取材・文・撮影:磯部正和)

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大友啓史(おおともけいし)
1966年生まれ、岩手県出身。1990年NHKに入局。1997年から2年間ロサンゼルスに留学し、ハリウッドで脚本や映像演出について学ぶ。帰国後、連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ(01年)や、『ハゲタカ』(07年)、大河ドラマ『龍馬伝』(10年)の演出を務める。09年公開の映画『ハゲタカ』で映画監督デビューを果たすと、『るろうに剣心』シリーズ(12/14年)、『プラチナデータ』(13年)、『秘密 THE TOP SECRET』(16年)など数々の話題作を世に送りしている。来年春には『3月のライオン』二部作の公開が控えている。座右の銘は「一期一会」

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