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 坂西伊作監督による1992年公開のドキュメンタリー映画、『SUPER FOLK SONG - ピアノが愛した女。』が、現代技術でレストア&リマスタリングされ、四半世紀の時を経て期間限定で劇場上映される(2017年1月6日より15日間限定ロードショー)。

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矢野顕子 『SUPER FOLK SONG ~ピアノが愛した女。~』[2017 デジタル・リマスター版]
(2017年1月6日より15日間限定ロードショー)


『SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女。~』[2017デジタル・リマスター版]劇場予告映像>>


この映画は、矢野顕子のピアノ弾き語りシリーズの第一弾、カバー・アルバム『SUPER FOLK SONG』のレコーディング現場を捉えたもの。自らの限界に挑むかのごとくピアノに向かう、矢野の表情だけをアップで映した映像は、極度に緊迫したスタジオの様子をかえってリアルに浮き上がらせている。「レコーディング後の編集を一切加えない」というルールのもと、途中でつまずきながら何度もなんどもテイクを重ねていく姿は、まるでストイックなアスリートのように鬼気迫るものがあった。
 四半世紀を経て、この伝説の作品が世に出されることについて、矢野本人はどのように感じているのだろうか。当時の制作エピソードや裏話とともに聞いた。

劇場予告の'92年ver./'17年ver.のレストア(修復)前後を比較>>


■ 「絶対に邪魔になるようなことをしないで」と重々釘(くぎ)を刺し(笑)、撮影を渋々受け入れた。

ー『SUPER FOLK SONG』は個人的にも大好きで、当時から愛聴しています。

矢野:わあ、そうですか。ありがとうございます。

ー今、またこのアルバムの同名ドキュメンタリーがリマスターされて公開されることを、矢野さんご自身はどのように感じていらっしゃいますか?

矢野:「うれし恥ずかし」っていう感じかな(笑)。私にとっては、ピアノと歌だけで作る初めてのアルバムでしたから、気負いも相当あったし、「絶対に最高の作品を作らねばならぬ!」って、自分で自分に対して高いハードルを課して臨んだんです。通常の、バンド編成で作るアルバムとは全く違う「心構え」が必要だと、作る前から思っていました。

ーそんな緊迫したレコーディングに、ドキュメンタリー用のカメラが入るっていうのも前代未聞でした。

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矢野顕子 映画『SUPER FOLK SONG ~ピアノが愛した女。~』Pby伊島薫
(C)映画『SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女。~』[2017デジタル・リマスター版]


矢野:そうなんです。だから、私はよくOKしたものだなって今振り返っても思いますよ。

ー(笑)。そこはやっぱり、監督である坂西伊作氏の熱意があってこそ?

矢野:いやあ、すごかったですね。毎日まいにち、私のところに来ては、お散歩に連れ出されるのを待つ犬状態になっていました(笑)。ずっとスタジオの隅で待機していて、こっちとしては「また来たのか......」って感じ。私が「YES」というまで帰らないつもりなんです。だから、「絶対に邪魔になるようなことをしないで」と重々釘(くぎ)を刺し(笑)、渋々受け入れた覚えがあります。

ーレコーディング後の編集を一切しない、「一発録り」というスタイルは相当ハードかと想像します。

矢野:私にもっとピアノの技術があればいいのだけど......。なんせ、「自分との戦い」になってきますから。

ー映画の中では、途中で失敗しながら何度もなんどもテイクを重ねていくシーンがありますが(楽曲は「それだけでうれしい」)、それを見ていると、まるでアスリートが限界に挑戦しているように感じました。

矢野:うん、そうですね。ピアノを弾いている時の私にとって、周りの人は「いない」も同然。録音している人たちは別のブース(コントロール・ルーム)にいて、私はコンサートホールのステージ上で演奏しているのだけど、まるで一人で山登りをしているような状態。その時はカメラのことなんか、全く忘れてしまいました。

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(C)映画『SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女。~』[2017デジタル・リマスター版]


ーきっと、撮影する側も相当苦労したのでしょう。

矢野:そうなんです。伊作があれをどうやって撮ったのか......。当時はフィルムを回していますからね、絶対に音が出ちゃうのに、それをどうやって抑えたのだろう。

ー「ノイズが入るから」という理由で、真冬に空調を止めて、指をお湯で温めながらピアノを弾いていたんですよね。そんな中、本当に不思議です。

矢野:ねえ? ちゃんと聞いておけばよかった(笑)。

■ 自分をストイックに追い込んでいくことを、なかば楽しんでいた


ー映画の中で、しきりに「(録音用の)テープがもったいない」っておっしゃっていたのが、なんだかかわいらしくて印象に残りました。

矢野:それは別に、優しさとかそんなつもりはなくて(笑)。どうせボツになるテイクを残しておいても仕方ない、「大根買ったら丸ごと使いたい」みたいな感覚だったんです。

ー(笑)。

矢野:今はデジタルだから、いくらでも録音することができますけど、当時はテープ1本で何万円ってしましたし、あんまり録り過ぎるとどこにOKテイクが入っているのか分からなくなっちゃう。後の作業のことだけ考えると、いいところだけパッパッと録ってあるのが一番良くて。

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(C)映画『SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女。~』[2017デジタル・リマスター版]


ーあと、好きだったのは「中央線」のレコーディングシーンでした。間奏の途中で失敗して、泣く泣くボツになってしまいましたが、ああいう時って「いいや、つないじゃえ」っていう気分にはならなかったのでしょうか。

矢野:そこは意地じゃないですか?(笑)当時は若くて体力もあったし、明敏だったし、自分をストイックに追い込んでいくことを、なかば楽しんでいたんでしょうね。

ーあの映画の中にいるご自身を、今どんなふうに感じますか?

矢野:「よくやっているなあ」って(笑)。

ー見ていて思うのは、こちらも一緒に作っている気持ちになるというか。

矢野:そうね、うん。

ー弾き終えた後の、矢野さんの達成感がこちらにも伝わってきたり、あるいはコントロール・ルームで、すごい傑作が生まれつつある瞬間を目撃しているスタッフたちの興奮を共有したり。

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(C)映画『SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女。~』[2017デジタル・リマスター版]


矢野:でも、レコーディングエンジニアの吉野(金次)さんには随分犠牲を強いていて。『Home Girl Journey』(2000年リリース)の時だったかな。ニューヨークの自宅スタジオでレコーディングしたんですけど、コントロール・ルームは2階にあって、そこからトイレに行くには私がピアノを弾いている部屋を、横切って行かなければならない間取りになってたの。で、私はピアノに集中し始めると、その部屋には誰一人入れなくなって、あっという間に3時間とか4時間とかたってしまうんです。その間、吉野さんは、ずーっとトイレを我慢してるんです。

ーうわあ(笑)。

矢野:おそらく『SUPER FOLK SONG 』のレコーディング中も、そういうことがあったに違いないんです。でも、ピアノを弾いているときの私としては、そんなの知ったこっちゃない!(笑)とにかく演奏中は、「矢野顕子」という山を登っている最中なので、「休憩してみんなでご飯食べよう」みたいなことはできなかったですね。

ーさて、今年でデビュー40周年を迎えた矢野さんですが、今後はどんな展望をお持ちですか?

矢野:特にこれといった展望はないんですけど、歳を重ねていくにつれて体力も落ちてくるし、それに見合った活動をしていけたらいいなって思っています。今後も弾き語りのアルバムは作りたいですけど、『SUPER FOLK SONG』みたいなやり方はしないです!(笑)

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矢野顕子 映画『SUPER FOLK SONG ~ピアノが愛した女。~』Pby伊島薫
(C)映画『SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女。~』[2017デジタル・リマスター版]


ドキュメンタリー映画『SUPER FOLK SONG - ピアノが愛した女。』[2017 デジタル・リマスター版]は、新宿バルト9ほか全国の劇場にて、2017年1月6日より15日間限定で公開。

【映画収録楽曲】
・SUPER FOLK SONG (糸井重里のカバー|作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子)
・横顔 (大貫妙子のカバー|作詞・作曲:大貫妙子)
・夏が終る (小室等のカバー|作詞:谷川俊太郎 作曲:小室等)
・それだけでうれしい (THE BOOMとの矢野の共同名義による曲のカバー|作詞:矢野顕子 作曲:宮沢和史)
・塀の上で (はちみつぱいのカバー|作詞・作曲:鈴木慶一)
・中央線 (THE BOOMのカバー|作詞・作曲:宮沢和史)
・PRAYER (セルフカバー|作詞:矢野顕子 作曲:Pat Metheny)

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矢野顕子 『SUPER FOLK SONG ~ピアノが愛した女。~』[2017 デジタル・リマスター版]
(2017年1月6日より15日間限定ロードショー)


◆矢野顕子
世界的ミュージシャンであり2児の母。76年ソロデビュー。YMOでの活動を経て、90年から音楽の拠点をニューヨークへ。独特な歌声と天才的な演奏は唯一無二の個性。2016年に40周年を迎え、11月にオール・タイム・ベストアルバム『矢野山脈』を発売、恒例のTIN PIN(細野晴臣/林立夫/鈴木茂)との「さとがえるコンサート」で全国5都市を周った。
座右の銘は、「自分にしてもらいたいことをほかの人にも同じようにしなさい。」(聖書の黄金律)

(取材・文・撮影/黒田隆憲)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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