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1月31日(火)放送のTBS『カルテット』第3話。視聴率は下がり続けて、ついに7.8%と今期民放GP帯ドラマの中でワースト5に入ってしまった。ところがデータニュース社「テレビウォッチャー」の満足度で見ると、初回3.49は2話目で3.67に上がっている。これは逆にベスト5の好成績だ。同ドラマは明らかに、「最大多数の人々に媚(こ)びず、分かる人にしみじみ共感してもらいたい」という姿勢を貫いている。それは「限りなく究極のシンプルな音楽」と「独奏曲のパフォーマンス力」に集約されているような気がする。

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Hikari Mitsushima, 73rd Venice Film Festival, Italy - 06 Sep 2016(写真:REX FEATURES/アフロ)


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■静謐(せいひつ)な音こそ雄弁に語る!

第1~2話では、カルテットの演奏とドラマ音楽のクオリティの高さを、これでもかと見せつけた。
一転して第3話では、すずめ(満島ひかり)の過去を中心にストーリーが展開していく中で、音楽は限りなく"沈黙"に近いほど控えめで、それが逆に登場人物の心情を雄弁に語る方向に設計されていた。4人の謎が少しずつ明かされていくスリルと、静かに展開していく映画のような作品。大衆向けのドラマではないが、好きになったらハマっちゃう。そんな上質な作品に仕上がっている。

音楽はストイックに無駄を削ぎ落とし、曲数も他のドラマに比べ圧倒的に少ない。例えば1時間のドラマで流れる曲は、一般的には20?30曲ある。ところがこの『カルテット』では、今回は10曲と半分以下だ。

冒頭のすずめが起きるシーンでは、爽快で軽快なジャズキューバンが流れ、リズミカルな朝が始まる。その後、すずめが軽井沢の4人の家で留守番するとき、アコーディオンのスローワルツが、静寂と孤独を邪魔することなく、空間を演出する。

すずめが、夜中に別府(松田龍平)の部屋で、彼のベッドに突然滑り込み、意味深な行動に出る。ここで、普通なら音楽がつくが、無音である。音楽がないことによって、演技に注目し、空気感を共有する感覚を視聴者に与える。20年も絶縁している父が死を前にしたことを知り、病院に向かうが、すずめは父に会いに行くことができない。"ロッカーの鍵"を持って、母の遺骨にお墓参りをする。ここでも、無音だ。

真紀(松たか子)は、軽井沢の家にかかってきた1本の電話で、すずめの父が千葉の病院にいることを知り、一人車を走らせる。病院で、すずめの過去をも知ることになる。偶然、すずめを見つけた真紀は、すずめの父が亡くなったことを伝える。すずめが、父について語り始めると、シンセサイザーのヒーリング系の音楽が、すずめを慰めるように奏でられ、まるで音楽が過去を受け止めた真紀の気持ちを反映しているようである。

真紀が心に響く一言、「泣きながらご飯を食べれる人は、生きていけます」をごく自然につぶやく時、バッグには懐かしい合唱曲のような編成で、4ビートでゆっくり和音を置くように弾くピアノの伴奏に、トランペットがメロディを歌う。

ようやく軽井沢に辿(たど)り着いた、真紀とすずめ。イルミネーションをともらせ、二人の帰りを待っていた、別府と家森(高橋一生)。4人が統合したところで、アコーディオンのスローワルツが、再びカルテットの絆をつなぎ合わせる。

■独奏曲のパフォーマンス力

そして、ラストシーンのレストラン"ノクターン"でのすずめのチェロ独奏シーンは圧巻。多くの視聴者が心を奪われたことだろう。まずバッハの無伴奏組曲を演奏し始めるが、途中で突然、演奏を辞めてしまう。短い緊張が流れた後、「ごめんなさい。もう1回、やり直します」と、心から演奏したい曲を弾きなおす。

そこで流れる曲は、スペインの作曲家、チェリストでもあった、ガスパール・カサドのチェロ組曲のプレリュード。
スペイン音楽独特の乾いた空気に鳴り響く、フラメンコの情熱を注いだ、どこか影のある音楽を特色として持ち、ラヴェルに見られる繊細で、一音残さず選び抜かれた和音構成が、芸術作品としてとても美しい曲だ。カサドは、19世紀末に生まれ、チェロ奏者として活躍し、作曲はラヴェルとファリャに学んだ。

ここで注目すべきは、すずめ役の満島ひかりの演奏だ。
音自体は、QUARTET PAPASのチェロ奏者の吹き替え演奏であろうことは予想できる。それでも満島ひかりのチェロの指板を持つ左手の形、指の立て方、弓を持つ右手、その弓の動き。これらはもはや、ニセのチェロ奏者のモノではない。
ビブラートも音とぴったり合っているし、何より、"音楽に命を吹き込む呼吸"が、彼女の演技力の高さを物語っている。音楽の専門家が見ても「圧巻で衝撃的」としか言いようがない。ドラマではほんの一部でカットされてしまっているが、「もっと聴きたい」と思った視聴者は、少なくなかったのではないだろうか。

今後の謎の展開と、音楽の使い方に期待して、このドラマファンの声を代弁しておこう。『カルテット』というドラマの名の通り、もっと弦楽器の音楽を"ふんだんに"盛り込んでいただきたい。

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文責:パリ帰りのピアニスト・はたじゅんこ
    次世代メディア研究所

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