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日本屈指のプログレ/ハードロック・バンド、人間椅子の和嶋慎治(ギター、ヴォーカル)が初の自伝本『屈折くん』(シンコーミュージック・エンタテイメント)を2月9日にリリースした。

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ロック・バンド 人間椅子の和嶋慎治、初の自伝本『屈折くん』(好評発売中)


弘前で過ごした幼少期からバンド結成、「イカ天」の成功とその後の苦難の日々を、赤裸々に告白。50歳にしてようやく食べられるようになった和嶋の生き方は、人間椅子ファンやバンドマンはもちろん、夢を追い求めている人や人生に行き詰まった人にとって、大きな励みやヒントになること必至だ。
人間椅子としては、2月1日にライブ盤『威風堂々~人間椅子ライブ!!』をリリースし、現在はリリース記念ワンマンツアー『威風堂々』の真っ最中である和嶋に、自伝を出すに至ったキッカケやその内容について、たっぷりと語ってもらった。

■今悩みを抱えている人たちに、自分の経験を通して言えることもあるんじゃないか

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ロック・バンド 人間椅子の和嶋慎治、初の自伝本『屈折くん』(好評発売中)


ー 自伝を書こうと思った経緯をお聞かせください。

和嶋: 僕は人間椅子というバンドのギタリストですが、エッセイというか、原稿を依頼されることが昔からありまして。自分自身についても書くことが多く、面白がってくれる人もけっこういたんです。昨年なかばに「今までのエッセイから抜粋した、自伝的なものを作ってみては?」というご提案があり、いい機会でしたのでお引き受けしました。

ー 最初は「エッセイ集」になる予定だったんですね。

和嶋: そうなんです。でもインターネットで読めるエッセイはありますし、そういった原稿を集めただけの本では、加筆をするにしてもどうなのかなと。それだったら書き下ろしの自伝を書いた方が良いんじゃないかというふうに、段々話が進んでいきました。

ー 生い立ちからこれまでの半生を書くことに、戸惑いのようなものはありましたか?

和嶋: そうですね。自伝を書く人というのは普通、何か一つ業績を成し遂げた人とか、ミュージシャンなら例えば東京ドーム公演を経験するくらいのビッグアーティストだと思っていたので(笑)。「自分でいいのか?」というプレッシャーがまずありました。でも、デビューから30年近くも続けているということは誇っていいことですし、活動が低迷した時期ももちろんあったんですけど、ここ数年はまた環境が上向きになっていたりして、自分自身もすごくいい状態なんです。その辺りのことをうまく書ければ、他のミュージシャンの方々の自伝とはまた違ったものになるんじゃないか、あるいは今悩みを抱えている人たちに、自分の経験を通して言えることもあるんじゃないか、という期待はありました。

ー 生い立ちからの50年が克明に書かれていて、とにかく「よく覚えているなあ」と驚きました。

和嶋: 自分でもビックリしました(笑)。実は当初、この本を「聞き書き」というスタイルにしようと思っていたんです。そのためにロングインタビューをしてもらったのですが、そこでかなり思い出すことができました。1日6時間ほどのインタビューを、5、6日おこなったのでヘトヘトでしたけど(笑)。で、それをテキストに起こしてもらって、自分の文体にリライトして完成させる......はずだったのですが、やっているうちに、「何かこれは違うな」と。

ー というのは?

和嶋: 文章っていうのは、やっぱりそれを書いた人のものになるんだなあと。いくら僕が喋(しゃべ)った言葉をなるべく忠実にテキストにして、最終的に自分が手直しを入れたとしても、やっぱり「聞き書き」をしてくれた人の視点だとか、文章のリズムだとか、細かいニュアンスとかが入ってしまう。100パーセント、僕の文章とは言えないわけです。

やはりファンの人たちは、僕自身が書いたものを読みたいって思ってくださるでしょうし、「自伝」でもあるわけですから、これは一から全部自分で書こうと決心した。とても大変な作業でしたね。ただ、インタビューをしてもらったからこそ、ここまで鮮明に自分の記憶を引き出せたわけで、そういう意味では何一つ無駄な作業はなかったと思います。

■苦しみをどう乗り越えたかについて書くためには、「どん底」の時期も克明に記す必要があった

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ロック・バンド 人間椅子の和嶋慎治、初の自伝本『屈折くん』(好評発売中)


ー 書きながら思い出すこともありましたか?

和嶋: ありました。自伝を書くというのは、いわば「追体験」なんですよね。自分の人生をもう一度体験するような気持ちになって、当然つらい作業でもありましたね。10日くらい集中して執筆していたので、ものすごく入り込んでいるわけですが、場面によっては泣きながら書いていました。もう本当に、ありありと思い出すわけですよ。「あの時、何てひどいことをしてしまったのだろう」とか、「なんて至らない人間だったのだろう」と。ただ、それと同時にすがすがしい気持ちにもなって。「自分が今こうあるのは、あの時の経験があったからなんだ」と、腑(ふ)に落ちる瞬間もあるわけです。これって、「精神療法」に近いのかなという気もしましたね、「浄化」されるというか。

ー 最もつらかったのは?

和嶋: やっぱりバンドのセールスが低迷している時。デビューして数年は良かったのですが、段々CDが売れなくなってきて。コンスタントに出せてはいたのですが、仕事も減るしバイトするしかなくて。それが10年以上続いた時が一番つらかった。

ー それこそ40歳過ぎてからのバイト生活や、結婚して離婚に至る経緯、かつての恋人にストーカーまがいのことをしてしまうエピソードなど、かなり「悲惨」な時期も正直に、赤裸々に書いているじゃないですか。そういう自分をさらけ出すことへの躊躇い(ためらい)はありませんでしたか?

和嶋: もちろんありました。でも、そこは避けて通れないと。なぜかというと、僕が書く「自伝」に求められていることは何かということを考えた時に、「輝かしいバンドの軌跡」では決してないじゃないですか。「どん底」の時期があって、それをどう乗り越えて今の自分があるのか、ということを説得力を持って書くためには、「どん底」の部分もちゃんと克明に書く必要があったんです。「ただ頑張って曲を作ってたら、自然とまた売れるようになりました」って、そんなわけがないんですよ。

ー 確かにそうですね。「売れるようになったから苦しまなくなった」のではなく、「苦しみを乗り越えたから、また仕事が来るようになった」ということが、この本を読んでよくわかりました。そして、乗り越えられるかどうかは、自分の気持ちの「ありよう」が大切なのだということも。

和嶋: まさにそこが、一番重要だったと思っているんです。ももクロさんからの仕事の依頼に関しても、自分の準備が整っていなかったら、おそらくなかったと思うんです。「どん底」でくすぶっている最中だったら、絶対にいい仕事なんてこない。本にも書きましたが、自分の人生を変えられると思ったキッカケがあって、他人のことを否定しないと決めて、世界に対してウェルカムな気持ちになったんです(笑)。そうしたらいろいろな仕事が舞い込んで来たんです。

ー 「40歳になって数年たったら、ようやくスタイルが決まってきた」「これまでの人生はそれを探す過程だったのかと」とも書いていて。いくつになっても人生はやり直せるのだという気持ちにもなれました。

和嶋: 本当にそうですし、そう思ってもらえたらうれしいです。

ー 人間椅子の結成時からのオリジナルメンバーは、和嶋さんと鈴木研一さんです。「イカ天」のブームを経験し、そこからの低迷期を経て今に至るまで、周囲の環境が激変してもなお30年近く変わらず続けてこられたのはなぜだと思いますか?

和嶋: それはやっぱり、子供時代からの友達だからというのが一番大きいかな。もちろん、好きな音楽のジャンルやそれ以外の趣味趣向が似ているというのもありますが、やっぱり「売れる」とか「売れない」とか、そういう損得勘定が発生する前からの友達だったからこそ、環境が変わっても関係が変わらずにいられたのかもしれないです。大人になってからだと、お互いのプライドなんかも「火種」になりやすいですよね。人気とか才能とか、そういうものを比べあったりして険悪になるバンドを、今までたくさん見てきました。

■いくら非常事態になっても芸術はなくならないと思う

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ロック・バンド 人間椅子の和嶋慎治、初の自伝本『屈折くん』(好評発売中)


ー あと、この本にも書かれていた「神秘体験」って、本当にあったのですか?

和嶋:ありました。本に書いていない神秘体験っていうのも、時々あるんです(笑)。それって、経験のない人からしたら「気のせいなんじゃない?」とか「頭おかしいんじゃない?」となるかもしれないですが、当人にとってはそれで人生観が大きく変わるし、教えられることもあるんです。

ー そうか、そうなるともう現実なのかそうじゃないかはあまり関係ないですよね。実際に人生変わっているわけだから。確かに「目に見えているものだけが真実ではない」し、曲作りもある意味「神秘体験」に近い気がします。

和嶋: そうなんです。曲を作っていると、時々「これは自分が書いたのだろうか」と思うことがあって。アーティストがよく、「自分を媒介して曲が降りてくることがある」といいますが、そういう境地になった時に書けた曲は、エゴが入ってなくて良かったりするんです(笑)。
以前は曲作りって「俺の個性を表現するため」「自己実現の手段」なんて思っていたんですけど、違うんです。僕という「媒体」を通して書かされている。その「媒体」としてのフィルターが、自分の個性につながっているだけなんだと。

ー なるほど。

和嶋: ちょっと話が飛躍しますが、人間という動物は、ご飯を食べて、ただ子孫を作るだけじゃなくて、そうやって生きていくために「芸術」って必要だと思うんですよね。いくら非常事態になっても芸術はなくならないと思う。

ー 「芸術は衣食住と違って、生きていくために必要ないもの」とよく言われますが、「芸術」がないと人は生きていけないのではないかと僕も思っています。クロマニヨン人が、わざわざ洞窟に潜って行って暗闇の中で絵を描いたのも、それをしなければ生きていられなかったからだと。

和嶋: そうですよ! しかも、その壁画を描いたところで何の足しにもならないわけですからね。それなのに、自分の生活する時間を削ってまでも描かずにはいられなかった。やっぱり、人間が人間らしくあるためには「芸術」は必要なんじゃないですかね。
そしてまた、おそらく、誰にとっても「神秘体験」というのはあって、大抵の人はそういうものを信じてないから、見なかったことにしているのかもしれない。僕は昔から超常現象とか大好きだったので(笑)、「神秘体験」に対してのチャンネルが常に開かれているんです。そのおかげで曲を作ったり、文章を書いたりするのが、他の人よりもちょっとだけ得意なのかもしれないですね。

ー とても興味深いです。

和嶋: 今、話しているようなことを自分の言葉で言えるようになったのは、この自伝に書いてある、人生を変えるキッカケがあってからなんです。

ー この本を読んで思ったのは、「誰もが自伝を書くべきでは?」ということなんです。

和嶋: あ、本当にそう思う。書くことによって自分の人生を追体験できる。そして、今自分がここにいるということに対して腑(ふ)に落ちるんです。人生を肯定できるようになるし、そのことで「過去」をポジティブに解釈することもできる。きっと多くの人は、「自分の人生なんて平坦(へいたん)だ」と思っているかもしれないけど、絶対それぞれの波乱万丈があるはずです。よく「誰でも一生に一冊は傑作が書ける。それは自伝だ」と言いますが、本当にそう思います。

ー どんな人たちに読んでもらいたいですか?

和嶋: 人間椅子のファンの方はもちろん、僕らを知らない人にも読んでほしいです。特に、自分の人生が袋小路にハマったように感じている人、煮詰まってしまったと思っている人に読んでいただきたいです。そういう人たちも、ちゃんと自分の中に「答え」があるということを、この本を通して伝えることができたらうれしいですね。

●ライブ盤リリース記念ワンマンツアー「威風堂々」

2月24日(金)宇都宮 HEAVEN'S ROCK
2月26日(日)仙台 CLUB JUNK BOX
2月28日(火)高崎 club FLEEZ
3月3日(金)博多 DRUM Be-1
3月5日(日)高松 Olive Hall
3月6日(月)高知 X-pt.
3月8日(水)神戸 Chicken George
3月10日(金)大阪梅田 AKASO
3月12日(日)名古屋 Electric Lady Land
3月14日(火)山梨 KAZOO HALL
3月17日(金)札幌 CUBE GARDEN
3月19日(日)青森 Quarter
3月22日(水)千葉 LOOK
3月25日(土)赤坂 BLITZ

人間椅子 「恐怖の大王」(from 「2016/7/10 新宿Reny」)を配信>>


人間椅子 「品川心中」(2010年7月「疾風怒濤」ツアーより)を配信>>


人間椅子 「どっとはらい」(2010年7月「疾風怒濤」ツアーより)を配信>>


人間椅子 「死神の饗宴」(2010年7月「疾風怒濤」ツアーより)を配信>>


人間椅子 「賽の河原」(2010年7月「疾風怒濤」ツアーより)を配信>>


そのほか、「人間椅子」これまでの楽曲はこちら>>

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ロック・バンド 人間椅子の和嶋慎治、初の自伝本『屈折くん』(好評発売中)


◆人間椅子
1987年に青森県弘前市出身の和嶋慎治と鈴木研一によって結成。ブラック・サバスなどの70年代ブリティッシュ・ハードロックのサウンドに、日本語の歌詞を載せた独特の音楽性を特徴とする。1989年、TBS系列で放送されていた深夜番組「三宅裕司のいかすバンド天国」に出演し話題に。1990年、メルダックより『人間失格』でメジャー・デビュー。「イカ天」ブーム終息後は浮き沈みを経験しつつ、マイペースに作品を作り続け、2013年5月12日、オジー・オズボーン主催のオズフェス2013に出演。昨年はROCK IN JAPAN FESTIVALにも初出演した。

和嶋の座右の銘:「人生に失敗はありません」

(取材・文・写真/黒田隆憲)

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
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作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

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