ここから本文です

羽海野チカの大ヒットコミックを神木隆之介主演で実写映画化した『3月のライオン』の後編が4月22日(土)に公開を迎える。前編では神木演じる桐山零をはじめ、登場人物のバックヤードが丁寧に描かれていたが、後編では、そんなキャラクターたちが、それぞれの思いを胸に大きく動き出す。前後編あわせて約4時間40分という大作に込めた思いを大友啓史監督に聞いた。

サムネイル

大友啓史監督、映画『3月のライオン』(前編絶賛公開中、後編4月22日公開)


【劇場予告編】『3月のライオン』(前編)>>


【劇場予告編】『3月のライオン』(後編)>>


■2部作にせざるを得ないほど魅力的なキャラクターたち

―― 非常に人気の高い原作コミックですが、読まれたときの率直な感想は?

大友: ただただ感動しました。長い時間をかけて綿密にリサーチして描いているということもあり、とても完成度の高い作品であるという印象でした。

―― そういった原作を映画化するのは大変なのでしょうか?

大友: 個性が強いキャラクターものではなく、僕らの日常の延長線上を描いている。地に足が着いている人を実写で描くのって違った意味で大変だなって思いました。

―― 本作は2部作でしたが、構想段階からすでに前後編というお考えだったのでしょうか?

サムネイル
映画『3月のライオン』(前編絶賛公開中、後編4月22日公開)


大友: いえ。途中までは1本で開発していたのですが、脚本を書いている途中で「これは1本じゃ収まらないな」って思ったんです。原作には、主人公の周りの人物もしっかり用意されているし、魅力的なキャラクターが多い。中途半端に出すのはまずいし、それぞれの物語をしっかりと着地させようとすると、2本はいるなって思い僕から提案しました。
当初のイメージは前後編というよりも、単独の映画2本というイメージでしたね。パート1、パート2、それぞれが単独で成立しているという。そういう映画を2本作ろうと。

■壁ドンばかりが青春物語じゃない

―― 素晴らしい原作を実写化する上で、どこに重点を置いて描こうとされたのでしょうか?

サムネイル
映画『3月のライオン』(前編絶賛公開中、後編4月22日公開)


大友: 零は孤独を抱えているのですが、その孤独がみんなに通用するものなのかを考えました。勝負師としての孤独というのは、誰もが共感できるものではないのですが、9歳で家族を事故で亡くしてしまった少年の、悲しみや孤独という部分には誰もが寄り添える。このスタート地点は大事にしました。その孤独によって、頼れるのは将棋だけになり、能力のすべてをそこに注ぎ込む。生きるために将棋を指すしかない。「将棋が好きか?」と聞かれれば「はい」というけれど、実は好きかどうかわからないという気持ちが、「僕は好きだ」と思えるまでになっていく物語をプランニングしようと思ったんです。

―― その部分が多くの人の共感を得られると?

サムネイル
映画『3月のライオン』(前編絶賛公開中、後編4月22日公開)


大友: そうですね。考えてみると、仕事って主体的に選ぶのではなく、いろいろな偶然が重なって導かれることってありますよね。僕自身も映画監督になるなんて思っていなかった。零にとっても、自分で選んだわけではないけれど、彼には将棋しかなくて、ある意味しょうがなく打ち込んでいくのですが、それをひたすら継続し、相対する棋士たちと戦うことによって、彼の才能が鍛えられ、遂に開花していく。僕は、人が天から与えられた才能がしかるべき場所で、しっかりと発揮される物語って好きなんですよね。そこに至る努力や苦労も含めて、見ていて気持ちいいと思うんです。

―― ある意味純粋な青春物語ですよね。

大友:そうなんです。壁ドンばかりが青春物語じゃない(笑)。青春時代って、異性の存在とか恋愛のことばっかり考えちゃうのかもしれませんが、青春は恋愛だけじゃないはず。「俺なにやっているんだろう」と葛藤とか不安に思うこととかもあって、古くはATG映画みたいな悶々(もんもん)と人生について考えるような映画ってたくさんあったのですが、いまはそういうのは暗くてダメなんだろうね。その意味では、こういうヒットしたコミックを題材に、心の奥底を丁寧に描く青春映画を作れるのはいいチャンスでした。

■神木隆之介は、アンビバレントな対立感情を表現するのがうまい俳優

―― 魅力的なキャラクターを魅力的なキャストが演じました。

大友: 脚本を作りながら紆(う)余曲折はありましたが、結果いいキャスティングになったと思います。細かい役も含め、すべて丁寧にキャスティングしてるんで。山形の記者役の芹澤さんなんかもいい味出していましたよね。

―― 染谷将太さん演じた二海堂晴信には驚きました。

サムネイル
映画『3月のライオン』(前編絶賛公開中、後編4月22日公開)


大友: 当初は太ってもらえる役者がいいかなとも思っていたんですね。みんなナチュラルメイクのなか、一人だけ特殊造形で作り上げると浮くのかなって思ったんです。でもテストしてみたら意外とはまるかなって勝算が見えてきて。時代物とかで徐々に老いていくのだと、あまり違和感はないのですが、ああいう形でポンと入ってくるとね。でも染谷君の場合は本当にうまくはまりました。

―― 神木さんはいかがでしたか?

サムネイル
映画『3月のライオン』(前編絶賛公開中、後編4月22日公開)


大友: 神木くんはもともと、好きだけど嫌いとか、悲しいけれどうれしいとか、泣きたいけど泣きたくないとか、アンビバレントな複雑な感情を表現するのがうまい俳優だと思っていたんですね。桐山零は小さいころに家族をなくし、言いたいことも言えずに相手の顔色をうかがいながら生きてきた子。そんな彼が、言葉を飲み込んで飲み込んで、普通の人ならもう吐き出してしまうところを、もう一回飲み込んで「もうダメだ」というところでようやく言葉を吐き出す......そんな芝居は神木君の真骨頂ですからね、ぜひ撮りたいと思っていたんです。

―― 前後編での零の表情も大きく変わっていました。

大友: 小さいころからプロとして活動しているというプロフィールが、零くんと神木くんに重なるんです。僕たちは子どものころから"神木隆之介"を見ているので、家族のように時代を一緒に生きている感覚を持っているんですよね。それが彼の強みでもある。今後"神木隆之介"を卒業して、どのように親離れしていくのか、世の中の期待を上手に裏切りながら、ますます面白い役者になっていくと思いますね。

―― 後編では、豊川悦司さん演じる幸田一家の話も原作以上にフィーチャーされています。

サムネイル
映画『3月のライオン』(前編絶賛公開中、後編4月22日公開)


大友: 脚本を作っていく段階で、幸田家の家族ドラマは原作より踏み込む必要があるって感じたんです。幸田は零くんのお父さんと親友で、亡くなったあと彼を引き取って育て、将棋の才能を引き出していくのですが、そのことによって幸田家が壊れていく。映画では、そんな幸田家をちゃんと救ってあげたいなって思ったんです。

サムネイル
映画『3月のライオン』(前編絶賛公開中、後編4月22日公開)


■映画を学習しながら撮っているが、まだまだやれることはある

―― これまで数々の人気コミックを実写化してきましたが、本作は一番大友監督のテイストにあっているように感じました。

大友: 久しぶりに人間ドラマを丁寧に撮りたいなと。『ミュージアム』や『秘密 THE TOP SECRET』はガジェットや未来設定など手が込んだ準備が必要でしたし、『るろうに剣心』シリーズはアクションのウエイトが大きかった。逆に『3月のライオン』のような作品は、そういった仕掛けが無い分まったくごまかしがきかない。将棋ですからね、基本的には動きがない。そんななか、どのように大画面に映えるドラマを作っていくのかは僕のなかでも挑戦でしたね。

―― こだわった部分は?

サムネイル
映画『3月のライオン』(前編絶賛公開中、後編4月22日公開)


大友: 「テレビでいいんじゃない?」って言われないようなものを作ること、ですかね。例えば、今回撮影監督の山本英夫さんの提案でアナモルフィックレンズで撮影をしたんですが、このレンズを使うとディテールの見え方が全然違う。それと、劇場の大画面で観ると将棋一コマが畳8畳分になることもある。つまり、普段何気なく観ているもののディテールが大画面では全然変わってみえるんですよね。駒一つや将棋盤の木目、そして戦う棋士たちの表情、眼の奥に潜む感情などのなかに、一人一人のお客さんが全く違った物語を読み込んでいけるというか。そういう豊かさが映画なのかなって思うんです。テレビから映画に移ってきて、僕はまだまだ映画を学習しながら撮っていますが、一つ一つ色々なことを覚えながら、自分の領域を広げていきたいですね。

―― 映画というジャンルに対して常にチャレンジしている印象の大友監督ですが、次の一手は考えているのでしょうか?

大友: この2年で4本も撮りましたからね。特に僕の場合、企画から脚本、ミックス作業の最後の一音一音まで、皆さん驚かれるくらい細かくやってきたので、正直少し休みたいかな(笑)。いろんな企画を頂きますが、温泉旅行にでも行きながら「長考」してね、次の一手をのんびり考えようかと(笑)。

「3月のライオン」(前編)特別映像>>


「3月のライオン」(後編)特別映像>>


(C)2017映画「3月のライオン」製作委員会
(取材・文・撮影:磯部正和)
----------------
大友啓史(おおともけいし)
1966年生まれ、岩手県出身。1990年NHKに入局。1997年から2年間ロサンゼルスに留学し、ハリウッドで脚本や映像演出について学ぶ。帰国後、連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ(01年)や、『ハゲタカ』(07年)、大河ドラマ『龍馬伝』(10年)の演出を務める。09年公開の映画『ハゲタカ』で映画監督デビューを果たすと、『るろうに剣心』シリーズ(12/14年)、『プラチナデータ』(13年)、『秘密 THE TOP SECRET』(16年)、『ミュージアム』(16年)など注目作を世に送りしている。

トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。

Facebookコメント
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。
PR

最新記事

rss

もっと見る

本文はここまでです このページの先頭へ