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「シンギュラリティ」という言葉がある。
AI(人工知能)が人類の知能を超える転換点を指す。米国の未来学者レイ・カーツワイルによると、それは2045年に訪れるという。ところが将棋の世界では、30年ほど早く、人間よりAIの優位が確定してしまった。

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人口知能 イメージ画像(写真:アフロ)


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去年行われた第1期電王戦。山崎隆之叡王(八段)とPONANZA(山本一成)の戦いは、AIの完勝。朝日新聞は「ポナンザの2連勝で幕を閉じた。快勝した第1局に続き、第2局もつけいる隙を与えない完勝だった」と報じた。
そして今月決着した第2期電王戦。佐藤天彦名人とPONANZAの戦いも、AIの圧勝に終わった。この戦いをドキュメントした『情熱大陸』は、なぜ人知はAIに敵わないのか、そのメカニズムを伝える興味深い番組となった。

■AIはなぜ強い?

PONANZAをプログラムしたのは山本一成(31歳)。
1985年愛知県生まれ。9歳で将棋にハマった。中学高校は将棋部に所属し、今はアマチュア5段の腕前。東大で将棋部に籍を置き、2年生の頃からPONANZAを作り始めた。大学院卒業後、ゲームソフトの会社に就職した。スポンサーの支援を受けて、将棋ソフトの開発一筋でやってきたという。
実際に将棋プログラマーとして生計を立てているのは、世界で山本一成ただ一人。1日15時間はパソコンに向かう生活である。

「コンピューターは2つしかできない。計算することと、記憶すること」と山本は言う。
将棋に対して「やることは2つ。一つは先を読んでいくこと。一手30通りあり、30×30×30......と続くのでスゴイ数になってしまう。そこでテクニックで絞り込む作業が一つ」
もう一つは、読んだ局面の先が良いか悪いかの判断すること。一生懸命読むことと評価することは、人間がやっていることと全く同じだという。

1秒間に500万もの局面を読む能力があるPONANZA。これまで学習して来た局面の数は1兆にも及ぶ。
例えば山本は、3年前からスーパーコンピューターを使って、PONANZA同士を戦わせ経験値を高めている。
「プロ棋士が指しているよりも多くの将棋の棋譜が生まれている。今のところ500万棋譜ぐらい作っている」というが、プロ棋士は自分の脳一つだけで全てやっていることを考えると前提が違い過ぎる。

今年3月、山本は羽生善治と対談した。1996年に将棋界初の7タイトル独占を成し遂げた最強の棋士である。
この時羽生は、将棋ソフトは人間がプログラムを書いているので、山本がPONANZAの強さの秘訣(ひけつ)を知り尽くしていると思っていたようだ。
ところが山本の回答は意外だった。「(PONANZAの改善は)ブラックボックスの中に適当に手を入れて、適当に動かしているだけ。人間が入れたノウハウみたいなものって減らした方が良くなっている。いらないことをしないことが大事。すでにそういうレベル」というのである。
つまりAIが既に人知の及ばないところで、勝手に強くなり始めているというのである。

■AIの中での進化

AIが自走し人知の及ばないところで進化して行く様は、皮肉なことにPONANZAの敗北で実証されることになる。今月5日に開かれた第27回 世界コンピューター将棋選手権 決勝戦。
過去2年選手権を制して来た山本のPONANZAは瀧澤誠が開発したダークホース「elmo」に攻め立てられ、まさかの敗北をしてしまったのである。勝ったのは、強いソフトの長所ばかりを集め鍛え上げた新たなソフト。
この時山本は、肩を落としながらも落胆とは別の感慨を抱いていた「この負けは、人口知能がまだまだ強くなれる証」。ブラックボックスで改良の方向性が必ずしも見えていなくとも、人知の及ばないところにAIがもっと強くなる余地があるというのである。

さて第2期電王戦の最終戦は、日光での初戦から姫路に場所を移して『情熱大陸』放送前日に行われた。
予選で羽生三冠を破り勇躍コンピューターとの決戦に臨んだ佐藤天彦名人だったが、初戦の完敗に続いて最終戦も全く歯が立たなかった。5時間の持ち時間のうち佐藤名人はほぼ全てを使い切ったが、PONANZAは1時間ほどを消費しただけだった。
佐藤が長考している間にPONANZAも指し手を先読みしており、その予想がほぼ当たったためほとんど時間を使わずに次の一手を指した場面が多かったためのようだ。やはりスーパーコンピューターの助けを借り経験値を高め、500万以上の棋譜を作り上げてきた実績は伊達(だて)ではなかった。膨大な引出しから瞬時に計算して最適手を繰り出してくるAIに、人間の脳はもはや太刀打ちできない。

電王戦の前、山本は「どこかのタイミングで人間は絶対勝てなくなる。これがちょうど2017年に起ころうとしている」と言っていた。
その予言通りとなった今、山本は「AIが怖いというのは正にその通り。でもAIが今持っている人間のあらゆる問題を解決する可能性というものも本当にあると思っていて、私はそっちにかけたいなと思っています」という。
人知を超え始めたAIは、今後も荒涼としたAI同士の戦いに挑み続けなければならない。その果てに未知の可能性に行きつくことが出来るか否かは、山本のようなAI冒険者の情熱次第ということらしい。

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文責・次世代メディア研究所 鈴木祐司

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