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戦国末期、織田信長と豊臣秀吉という二人の天下人の心を奪った池坊専好という花僧の人生を描いた映画『花戦さ』(6月3日公開)。本作について「日本人がみたことのない、もう一つの戦国時代をみせてくれた」と絶賛したのが歴史学者の磯田道史氏だ。彼自身、著書が『武士の家計簿』や『殿、利息でござる!』という名で映画化されるなど、歴史と映画という視点ではしっかりとしたビジョンを持っているが、そんな磯田氏が本作の魅力を大いに語った。

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歴史学者の磯田道史氏が映画『花戦さ』(6月3日公開)を語る


【劇場予告編】出演:野村萬斎  映画『花戦さ』>>


■日本人がみたことのない"生かす戦国"時代!

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天才花僧・池坊専好を演じる野村萬斎 映画『花戦さ』(6月3日公開)


――本作をご覧になってどんな感想をお持ちになったのでしょうか?

磯田: 映画は「切り口」。"ある視点"というものが大事だと思っています。この映画は戦国時代を描くなかで、とても、切り口が新しいと思ったんです。

――新しい切り口とは?

磯田: 戦国時代といえば、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などは、大河ドラマなどでも数多く描かれてきましたが、基本的には"殺す戦国"なわけです。天下人は、むき出しの暴力で、人を簡単に殺してしまう。映画などはデフォルメされている部分はありますが、実際大げさではない。戦国大名というものは本当に簡単に人を殺していたんです。
でも一方で、戦国時代には自然の美や生命の美しさを歌い上げるような芸術も生まれました。そういった視点で"生かす戦国"を描いた本作は、日本人がみたことのない、もう一つの戦国を描いてくれたと思ったんです。

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カリスマ戦国武将・織田信長を演じる中井貴一 映画『花戦さ』(6月3日公開)


――池坊専好という人物の歴史的評価というものはどんなものなのでしょうか?

磯田:もともと仏様にお花を供えること自体は飛鳥奈良時代からあったのですが、この時代になって、花が民衆にまで一般化、同時に芸術化し、いけばなの思想が創られていったんです。神仏や権力者のものだった花を、一般の人に広めていった、いわゆる花の民衆化、芸術化、思想化を行った人物という評価ですね。

■歴史映画は史実でなくとも「起きうる出来事」を描いていればいい

――ご自身の著書も映画化されていますが、歴史学者として事実とフィクションのさじ加減はどのように考えていますか?

磯田:活字には歴史小説と時代小説というジャンルがあると思っています。歴史小説は、読めばその時代がある程度理解できるもの。一方、時代小説というのは、その時代の設定を借りるだけで中身は歴史ではない。同じように映画にも、歴史映画と時代映画があると思っています。歴史映画の事実とフィクションのさじ加減ですが、みればその時代のエッセンスがわかるということは重要ですが、必ずしも史実にのっとっている必要はないと思っています。

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映画『花戦さ』(6月3日公開)


――具体的にはどういうことでしょうか?

磯田:例えば、秀吉は"猿"と言われただけで、人は処刑していません。でも秀吉の権力の横暴で虐殺された人は何人もいる。それは事実。具体的な事象は事実じゃないかもしれませんが「横暴で虐殺していた」というのが事実ならば、実際起きていなくても、起きうる出来事を描いていれば、それは歴史映画だと言っていいと思います。

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時の最大権力者・豊臣秀吉を演じる市川猿之助 映画『花戦さ』(6月3日公開)


――『花戦さ』はどちらに属するものなのでしょうか?

磯田:この映画は歴史映画だと思っています。いくつかの脚色は当然ありますが、この作品は起きうることを書いている。また日本の歴史映画が生き残っていくべき方向性をきちんと示している作品だと思うんです。こういった新しい切り口で歴史像をみせるという意味では理想的な作品。自分でも描きたい視点ですね。

――映画に出てくる生け花や装飾品も見事ですよね?

磯田:本当にそうです。織田信長に献上した大砂物なんかすごかったし、歴史的におもしろいものがいっぱい出てきます。

■知られていない事実、千利休は魚屋の田中さんだった!

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茶人・千利休を演じる佐藤浩市 映画『花戦さ』(6月3日公開)


――専好の同士という意味合いで登場している千利休という茶人は非常にメジャーな芸術家ですよね。

磯田:あまり知られていないかもしれませんが、千利休なんて名前で語られていますが、もともとは魚屋(ととや)の田中さんという町の倉庫業者なんですよ。しかもとても背が高い人なのです。海辺の堺で魚のタンパク質をしっかりとっていたからでしょうか(笑)。専好は無邪気な人に描かれていますが、利休は大人びたプロデュース力がある人。好対照ですよね。

――劇中では専好を野村萬斎さん、利休を佐藤浩市さんが演じていますね。

磯田:良いコントラストでしたよね。専好という人は萬斎さんじゃなければ成立しなかったと思います。僕も映画の話が来るときは、主演や、その周囲の人はしっかり決めて、スケジュールがとれたら監督にOKを出して進めるようにしています。『武士の家計簿』なら仲間由紀恵さんと堺雅人さん、『殿、利息でござる!』だったら阿部サダヲさんや山崎努さんは必須でした。

――磯田先生ならではの本作の見どころを教えてください。

磯田:みたことのない戦国映画だと思います。歴史がわからなくても、出てくるお花をみているだけで得した気分になれますし、お花以外にも、日本文化を知ることができる博物館のような映画です。ある種の歴史を目撃したいなら、この作品をみるといいと思います。

――最後に座右の銘をお聞かせください。

磯田:「歴史は人を自由にする」です。歴史学者としては、体験のみで判断するよりは、時空を超えた人たちの経験を参考にして生きると、より良く生きられるというのが僕のテーマなんです。ほんものの歴史は人の発想を自由にします。いい歴史映画をみると、人格が高まる。本当です。大袈裟じゃありません。

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出演:野村萬斎 市川猿之助 中井貴一 佐々木蔵之介 佐藤浩市、映画『花戦さ』(6月3日公開)


映画『花戦さ』は、野村萬斎、市川猿之助、中井貴一、佐々木蔵之介、佐藤浩市が豪華競演した、痛快時代劇エンターテインメント。これまであまり知られることのなかった初代・池坊専好という花の名手と千利休の友情、そして、戦国時代において京都の町衆である六角堂にいる花僧が、彼らの代表者として、時の権力者である豊臣秀吉の乱心に、刃ではなく、花をもって仇討するこの物語。長く日本人の心に息づく「いけばな」に焦点を当てた。6月3日公開。


(取材・文・写真:磯部正和)
(c)2017「花戦さ」製作委員会
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磯田道史(いそだみちふみ)
1970年生まれ、岡山市出身。歴史学者。2004年、茨城大学人文学部助教授。16年5月現在は国際日本文化研究センター准教授。03年「武士の家計簿―『加賀藩御算用者』の幕末維新」が新潮ドキュメント賞を受賞、10年に『武士の家計簿』として映画化。「無私の日本人」(12年)の1編目の「穀田屋十三郎」も『殿、利息でござる!』のタイトルで映画化、16年に公開。日本エッセイストクラブ賞を受賞した「天災から日本史を読みなおす 先人に学ぶ防災」(15年)など著書多数。NHK・BSプレミアムの歴史番組「英雄たちの選択」(13年~)、テレビ朝日「サタデーステーション」(17年~)などにも出演中。

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