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電車内で痴漢を疑われた男が線路に逃走するなど、通常では考えられない行動が報道されるたび、痴漢はれっきとした犯罪であり、それと同じように起こりうる痴漢冤罪(えんざい)のことを考えざるを得ない。それに対する反応からも、社会的に痴漢および痴漢冤罪に対する関心が高いこともわかる。そんな今あらためて見たい映画が、2007年公開の『それでもボクはやってない』(監督:周防正行)だ。

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加瀬亮/Ryo Kase, Sep 02, 2014 : the movie "Jayueui onduk" (Hill of freedom) at the 71st Venice Film Festival. REUTERS/Tony Gentile (ITALY - Tags: ENTERTAINMENT)(写真:ロイター/アフロ)


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■「裁判官ならわかってくれると信じていた」

『それでもボクはやってない』は、痴漢冤罪をテーマとした物語。就職活動中の金子徹平(加瀬亮)は、面接に向かう途中の満員電車で、女子学生から痴漢に間違えられて、現行犯逮捕されてしまう。金子が裁判で争う姿を通じて、日本の刑事裁判制度の問題が浮き彫りになっていく――。

金子の言う「裁判官ならわかってくれると信じていた」というセリフは、多くの人々が共感するものではないだろうか。たとえぬれぎぬを着せられたとしても、取り調べや裁判の中で誤解とわかってもらえるはず。漠然とそのような考えを抱いている人間にとって、劇中で飛び出す「無罪というのは検察と警察を否定すること。つまり国家に盾突くことです。無罪判決を書くには大変な勇気と能力がいる」「裁判官は、『被告人にだけは騙(だま)されない』と思っている。恥だからね」といった言葉は大変ショッキングなものだろう。

もちろん綿密なリサーチを重ねて制作しているとはいえ、10年も前に公開された作品であるだけに映画のすべてを鵜呑(うの)みにすることはできない。しかし、『それでもボクはやってない』が、男性にとって生々しい恐怖を感じさせる作品であることは今も昔も変わらない。ネット上では、「電車内で痴漢に間違えられないための方法」を男性向けに指南するサイトがいくつも存在する。日常的に電車、とくに満員電車を利用する男性にとって、痴漢冤罪をかけられるというのは、明日は我が身とも言えるリアルな危険なのだ。

■痴漢/痴漢冤罪の2択なのか?

ところで、『それでもボクはやってない』で注目したいのは、金子を痴漢と訴える女子学生が、けっして金目当てや面白半分でわざと無実の人間を罪に陥れようとしているわけではないところだ。彼女が電車内で痴漢に遭い、多大な恐怖を感じたのは事実。苦しみ、悩み、勇気を振り絞って、痴漢と思われる男性をついに駅員に突き出した。しかし、それが間違っていた......。

Twitterを中心にネット上では、痴漢および痴漢冤罪をめぐる議論が活発になっている。しかし、その中には、痴漢vs.痴漢冤罪のようになってしまっているものも正直少なくない。痴漢冤罪の問題を訴える意見の中には「痴漢冤罪を生まないために痴漢くらいで騒ぐな」と言うようなものもあり、一方で、男性側が感じている痴漢冤罪への恐怖をあまりに軽視するような女性の意見もある。

「痴漢を捕まえるためには痴漢冤罪が起きるのも致し方なし」「痴漢冤罪を生まないためには痴漢が野放しになるのも致し方なし」という2択になるのは、議論が建設的な方向に進んでいるとは言えない。痴漢も痴漢冤罪もどちらも問題なのだ。やはり何か司法のシステムから改革が必要なのではないか......。『それでもボクはやってない』を見ると、そんなふうに考えさせられる。

■10年たった今でも熱のこもったユーザーレビューが寄せられる

映像配信サービス「GYAO!」では、6月9日までの期間限定で『それでもボクはやってない』を無料配信中。注目度の高いテーマを扱った作品であるため、熱のこもったユーザーレビューも多く寄せられている。

「刑期を終え、世間の冷たい環境で生きていく中で絶対復讐してやると、恨みを持つようになってもおかしくないな」
「良識ある国民でこのようなシステムの不備と人間性の欠如した法曹者を出さないようにしなければならないと痛感しました」
「なくならない痴漢。他人に罪を擦り付けることが可能な状況での卑怯極まる犯罪。取り締まりを強化して撲滅するべき犯罪。しかし、強化すればするほど、生じてしまう冤罪」

『それでもボクはやってない』は、見る者に明確な答えを与えるわけではなく、あくまで問題を投げかけるだけ。しかし、だからこそ公開から10年たった今でも人々の心に刺さるものがある。

(文/原田美紗@HEW

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