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名取裕子は今年還暦を迎える。つまり40年以上に渡り、第一線で活躍する大女優である。
ところが芸能界入りは、アクシデントみたいな偶然だった。
青山学院大学1年の時、広告研究部の先輩の命令で、「ミス・サラダガール・コンテスト」に人数合わせのために出場。そこで準優勝(優勝は古手川祐子)し、芸能界入りすることになったと本人は語る。
初めて出演した際、撮影の度に照明など仕込みに時間がかかり、「へえ~こんなことしてたんだ。1時間のドラマは1時間で撮ると思っていた......」と、撮影の大変さに驚き、芸能界で仕事を続けたいとは全く思わなかったという。

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名取裕子, Nov 29, 2016 : 東京都内で行われた「万年筆が最も似合う著名人」を選出する「万年筆ベストコーディネイト賞2016」表彰式(写真:MANTAN/アフロ)


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■2時間ドラマの顔

しかし現実は、大女優の道をトントン拍子に上って行くことになる。
19歳で半年続くポーラテレビ小説『おゆき』の主演に抜擢(ばってき)された。20歳の時には、『黄金の日々』でNHK大河ドラマの出演を果たす。
さらに22歳で出演した『3年B組金八先生』。美術教師で生徒たちのマドンナ役・田沢先生を演じ、一役有名になった。
いっぽう映画では、『序の舞』『吉原炎上』などで、過激な濡れ場やヌードを厭(いと)わない体当たりの演技が話題になった。

しかし何と言っても名取裕子の代名詞は"2時間ドラマの顔"。
"2時間ドラマの女王"というと片平なぎさが出て来るが、実は同一シリーズの2時間ドラマでは、片平の『赤い霊柩車シリーズ』(フジテレビ)は全部で36作しかない(1992~2016年)。いっぽう名取の『法医学教室の事件ファイル』(テレビ朝日)は全42作(1994~2016年)で、全ての2時間ドラマの中で断トツの1位となっている。
他にも『早乙女千春の添乗報告書』(TBS)が全17作(1995~2005年)。『地獄の花嫁シリーズ』(フジテレビ)が全5作(1999~2004年)。『葬儀屋松子の事件簿』(テレビ東京)が全4作(2012年~)。多くの2時間ドラマのシリーズで主役を演じてきた。
さらに1時間ドラマでも、テレ朝の木曜ミステリー『京都地検の女』(03年~)、テレ東開局50周年特別企画『マルホの女~保険犯罪調査員~』(2014年)など、GP帯(夜7~11時)のドラマで今も主役を張る押しも押されもしない存在なのである。

■サワコとの絶妙なトーク

こんな大女優が、阿川佐和子の『サワコの朝』に出演した。
ともに業界の大御所的存在だが、さすが重鎮2人の会話は洗練されている。
阿川の「気風が良いけど、色っぽい、艶っぽい」という前振りで登場した後、「この方、お姉さんに見えるんですけど......(阿川の)4つ下」と紹介されると、
「なんでお姉さんに見えるのよっ(怒)」「着物着ているだけでしょっ!」と切り返す名取。
「そうそうそうそう、人生の(お姉さん)よ!」「大人っぽいっていうか......還暦になる......」とフォローされると、
「(還暦に)なってないっ(怒)」と間髪を入れずに返す。
阿川「あっ、まだ? 済みません」、名取「もう直ぐだけど......(笑)」。
このやりとりのスピード感は、漫才かと思えるほど早い。ボケとツッコミ、そして巧妙なフォロー合戦。
「芸能界で大成する知恵かくありき!」と言った感じだ。

阿川の名司会ぶりも天晴だ。
ミス・サラダガール・コンテストの頃、名取が「この頃は新鮮なグリーンサラダだったけど、今はなんかヒジキとちりめんじゃこと豆のサラダみたいな感じになっちゃいますね」と自虐ネタで来ると、つかさず「好みが?」と切り返す。名取も「そうですね。好みが......」と言いかけると、「体のために思いますもんね」と阿川は素早くまとめる。笑いがまぶされる中にも、ゲストを立てる姿勢は徹底している。

話が私生活に及んだ際の名取は、かわいい女の一面も見事に演じ切る。
名取「(結婚)したいなって思うことはあったんだけど......」
阿川「しそうになったことは?」
名取「そんな......良しっと思ったら、向こうにぴゅーっと逃げられちゃった」「どうすれば良いんですか?」
阿川「する気があるんですか?」
名取「あります あります あります」と目を見開き、前のめりに顔を近づける。還暦間近にも関わらず恥じらいと情熱を一瞬で表現する。
「なるほど、これじゃ並みの男は太刀打ちできない」と名取が結婚しなかった理由を、変に納得してしまう会話でもある。

■年を重ねた美しさ

番組では毎回、ゲストに2曲選んでもらい流している。
名取が選んだのは、芸能界入りのきっかけとなったミス・サラダガール・コンテストのテーマ曲・GODIEGO「僕のサラダガール」と、竹原ピストル「Forever Young」。特に後者のテーマは、「若い頃にあって、今(年を経て)ないものなどない」という趣旨。還暦を迎える名取の今後の可能性を歌っているようにも聞こえる。

名取本人も、「ちょっと目が悪くなったり、もちろん、肌とか髪とか健康とか、いろんななくすものボロボロ落としていく」。それでも「年をとるのも悪くないと思えた曲」だと言っている。説得力のある言葉だ。

そして最後の会話は、再び結婚の話に戻った。
阿川「どういうタイプの人が良いんですか? 年下? 上はもう介護要員ですね?」
名取「(アハハと笑いつつ)いいですよ、介護だって」
義母の介護をし、しかも犬やメダカの面倒をみて来た名取には、介護はお手の物のようだ。
名取「私が介護したら長生きしちゃうと思いますよ」
阿川「一応タイプは?」
名取「(犬・メダカなど)育てるのが好きだから、そういうのを楽しんでくれる人だったら良いですね。全部重ならなくても良いから、一つぐらい重なると良い。お互いの全然違うところが許せる範囲なら......」
阿川「分かりました」
名取「(澄まして)よろしくお願いします」
阿川「はい」
名取「(大仰に)ありがとうございます」
大切な話をしているが、対応能力の幅を見せつつ、最後まで見る人に楽しんでもらおうという気持ちが前面に出る会話だ。
文字で読むだけで多少は伝わるかもしれないが、やはり大女優の所作・振る舞いである。ちなみに"2時間ドラマの顔"名取裕子の『法医学教室の事件ファイル』43作目が今月末に放送される。最長不倒距離がどこまで伸びるのか。こちらの興味も尽きない。

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文責・次世代メディア研究所

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