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ほとんどのドラマが最終回を迎えた今クール。
GP帯(夜7~11時)では刑事ドラマが5本と目立ったが、その主要3本の終盤の見られ方を見ると、TBS『小さな巨人』がいかに秀逸だったかが見えて来る。
クール全体平均ではテレビ朝日『緊急取調室』が14.1%で全ドラマのトップとなったが、全体平均で0.5%の後塵(こうじん)を拝した『小さな巨人』は、終盤で逆転し最終回は2%上回った。

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刑事3ドラマ 終盤4話の視聴実態


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■ドラマの求心力

終盤から最終回にかけての見られ方をみても、『小さな巨人』にはドラマの力を感じさせるものがあった。
初回からずっと見続けた視聴者数では、最終回3話前時点では『緊急取調室』が最多だった。ところが最終回にかけて継続視聴者は徐々に減って行った。フジテレビ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』も同じ様な状況だった。要は「どうしても見続けたい」ほどの魅力には欠けたということだろう。
一方『小さな巨人』は、最初から見続けて来た人は最後4話でほとんど離脱しなかった。初回から見た人165人のうち、最終回まで全話見続けた人は43人。『CRISIS』34人、『緊急取調室』33人と比べ、ズッポリはまった人が格段に多かった(注)。

継続視聴者だけでなく、新たに見始める新規視聴者数でも『小さな巨人』は他を寄せ付けなかった。
通常、ドラマは初回から見始める人が最も多く、2話・3話......と途中から見始める人は、回が進むにつれて減って行く。例えば『小さな巨人』では、初回からが165人、2話からが56人、3話からが26人といった具合だ。『緊急取調室』でも初回155人、2話36人、3話23人、『CRISIS』も初回159人、2話44人、3話24人と、いずれもほとんど同じ状況だった。
ところが終盤での新規視聴者数は全く状況が異なった。ラスト4回の状況は、『CRISIS』が7人→4人→5人と推移して、最終回も5人だった。『緊急取調室』も8人→8人→11人と来て、最後7人とさほど多くない。ところが『小さな巨人』は、9人→9人→10人を経て、ラストは16人と一挙に増えた。視聴率も最終回で2.7%上昇したように、最後がどうなるかを見たい人がたくさん発生していたのである。

(注):視聴率はビデオリサーチ社関東900世帯調査から。継続視聴者・新規視聴者数・満足度などはデータニュース社「テレビウオッチャー」関東2400人調査から。

■ストーリー連続型の復権!

規格外のアクションと国家と正義を巡る揺れにスポットを当てた『CRISIS』も、一般的な刑事ドラマの定番を排してあえて密室の会話劇で勝負に出た『緊急取調室』も、切り口や演出の斬新さで今期は大きな話題となった。ところが視聴率を優先した多くのドラマがそうであるように、両ドラマも1話完結型の道を選んだ。中盤までそこそこ順調な数字を叩(たた)き出していたが、回を追うごとに物語が盛り上がるパターンでない分、終盤の数字は今一つだった。

ところが『小さな巨人』は、マーケティング優先に背を向け、本格的にストーリーテリングで勝負に出た。
物語としては、前半5話が「芝署編」、後半5話が「豊洲署編」と2つに分かれ、それぞれ刑事もの特有の"謎解き"で視聴者の関心をつなぎとめようとした。
さらに全10話で主人公・香坂(長谷川博己)と、捜査一課長・小野田(香川照之)との対決が続いた。"組織vs個人"という構図でも、視聴者を惹(ひ)き付け続けたのである。

■歌舞伎と現代ドラマの融合

しかも『小さな巨人』は、オリジナル脚本に挑むことで、さまざまな工夫を凝らし、結果としてより多くの関心を集めることに成功していた。まずは俳優の顔芸。

例えば最終回のヤマ場は、香川と長谷川の顔のドアップの切り替えしが繰り返される迫真のシーンだ。
金庫から証拠の書類を出した香川は、涙を流しながら「よく見ろ! これが捜査一課長の私の正義だ!」と声をふり絞る。さらに「殺人犯は逮捕されなければならない!」と苦渋の表情で叫ぶ。その2度とも、発言が終わるか終わらないかのタイミングで長谷川の顔のアップに切り替えられる。しかもその直後に香川の表情に戻ると、香川はステージを上げた別の表情を見せる。
この間何度も「澤瀉屋(おもだかや)!」と叫びたくなってしまう。ほとんど歌舞伎の大見得合戦を見ているような迫力と言わざるを得ない。日本の伝統芸を、TBSはこんな風に現代のドラマに取り込んでしまった。

■秀逸な構図

"組織vs個人"という構図の扱いも秀逸だった。
警察組織の巨悪に、個人の正義で立ち向かう。判官びいきの日本人の多くが、必ず引き込まれる仕掛けだ。
しかも内閣官房副長官・山田勲(高橋秀樹)→元捜査一課長・富永(梅沢富美男)→現捜査一課長・小野田(香川照之)という"縦の関係"が腐敗構造を完成させ、個人の正義の前に立ちはだかる。

これに対して、主人公・香坂(長谷川博己)~部下・山田春彦(岡田将生)~同期・藤倉(駿河太郎)~捜査一課長付運転担当・渡部(安田顕)という"横の絆"が対峙(たいじ)する。時には寝返ったように振る舞うため、どんでん返しを演出していたが、回を追うごとに各人が巨悪を倒すために結集して行く。
しかも各人が問われたのは、"縦の関係"に逆らう"覚悟"だった。組織内での立場を捨てるのは、大半のサラリーマンにはできない。そこを超えて行く強靭(じん)さを一人ずつが見せ、結果として巨悪を暴いていったため、視聴者は快感を得て行ったのである。

■最終回の問題

ところが「テレビウオッチャー」の満足度では、最終回の満足度は少し下がってしまった。
7話3.90→8話3.89→9話4.04と盛り上がっていたが、最終回は3.89に戻ってしまった。特にF3(女50歳以上)が3.63と極端に低くなったのが興味深い。

「正義が勝って欲しかった」女51歳(満足度3)
「結局17年前の事件はあやふやにされ、それを皆が納得しているのは理解できない」女53歳(満足度3)
「ドラマなんだからもっとスッキリした終わり方であって欲しかったが、この終わり方の方がリアルなのかも知れないと思った」女61歳(満足度3)

同番組のプロデューサーは、「『小さな巨人』は『水戸黄門』のように毎回正義が悪に勝つ話ではない」と、雑誌のインタビューで答えている。物語としての"どんでん返し"が繰り返された同ドラマだが、最後の最後に"縦の関係"と"横の絆"のあり方にも"どんでん返し"を用意した点は興味深い。
ここに視聴者はどんなメッセージを読み取るのか。
いずれにしても予定調和を排して、ちょっとザラザラした余韻を残す。最後の最後まで目の離せない、優れたドラマだったと言えよう。

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文責・次世代メディア研究所 鈴木祐司

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