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「SENSORS(センサーズ)」は日本テレビの関東ローカルで、毎月最終土曜日深夜に放送されている。
番組ホームページには、「SENSORSプロジェクトでは、"SENSORS"を最先端のエンターテインメントやビジネスを創造/探知する感性、またはその感性を持つ人物、と定義づけ、さまざまな視点から未来を切り開くイノベーションを紹介していきます」とある。
MCはリオ五輪の閉会式の演出を手掛けたライゾマティクスの代表・アートディレクター齋藤精一。もう一人は「デジタルネイチャー」を提唱、新時代の表現活動を行う筑波大学学長補佐・助教のメディアアーティスト落合陽一が務めている。2014年に放送開始、2016年には虎の門ヒルズで「SENSORS IGNITION」と題するイベントも開催されていた。

サムネイル

イメージ画像(写真:アフロ)


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■先端技術紹介番組

いきなりで恐縮だが、通常、筆者はこの手の番組を好まない。テクノロジーが魔法のつえのように紹介されるか、この波に乗り遅れたらもはや旧世界の人間だとレッテルを貼るかのような煽(あお)りトーンになることが多いからだ。番組で紹介されるのは、現実に達成できたベストシーン。「本当の将来はバラ色でもホラーでもなく、突然やって来るものでもない」「将来のある点まで間を埋めていくのは私たち一人ひとりの時間」というのが、IT業界に身を置き、AIをなりわいとしている人間として思うところである。しかしながら、今回の番組は、地に足がついた感じがしていて、とても好感が持てた。

■番組の前提

さて、今回のテーマは「シェアリングエコノミー」。
番組では「個人や企業が持っている"遊休資産"を、インターネットを通じて貸し出し収益を得るサービス」と紹介された。遊休資産に含まれるものは、空間、モノ、人、時間、スキルなど多岐にわたり、有名なものとしては、空き部屋を宿泊施設として提供するサービス「Airbnb」、手持ちの服・雑貨を売り買いするフリマアプリ「メルカリ」などがある。他にも家事や組立作業等ご近所で時間やスキルを提供、お困りごと解決を行う、ご近所助け合いアプリ「ANYTIMES」といったサービスもある。
スタジオにはゲストとして、UBER Japan株式会社執行役員社長の高橋正巳氏。シェアリングエコノミー協会代表理事で株式会社スペースマーケット代表取締役の重松大輔氏が招かれ、事業の紹介とトークが行われた。

■ゲスト紹介

「UBER」は日本ではタクシーアプリのイメージが強いが、世界では、むしろRideShareとしての利用が多いそうだ。つまり自分の所有する車を時間貸しする、あるいは同乗者を募って目的地へ行くということもあるようだ。世界74カ国450都市で展開されており、世界中どこへ行っても、UBERのアプリさえあれば同じようにタクシーを呼ぶことができる安定感が一つの強みになっているという。その他でも、地域によっては、非スマホユーザーのために代理配車のシステムや、現金決済のシステムを導入するなど、「維持可能」なビジネスモデルを展開している。

スペースマーケットは会議や撮影会を含めたイベントスペースの貸し借りのプラットフォームを運営しているが、球場やお寺、廃虚(廃ビル)も扱っているところがユニークだ。夜は肌寒く雨が降りがちな花見をインドアで行う"インドア花見(エア花見)"が今春ははやったそうだ。天井いっぱいに敷き詰められているのは造花のように見えたが、春の到来の時期に集って楽しく心地よく過ごすことが目的であれば、騒音問題もゴミ問題もおきないこの方法は合理的だ。同サービスは貸出対象のストックの幅広さが強みとなっているようだ。

MCとともに、ゲストの人選も非常にバランスが取れていた。誠実路線を行くUBERの高橋氏、発想で勝負の重松氏、と筆者は捉えた。

■シェアリングエコノミー

シェアリングエコノミーの最大の特徴は、課題解決のために、新たな何かを作るのではなく、手持ちのもので補い合うことで、低コストで資源の有効活用を行うということ。もはや経済成長が右肩上がりでなく、フロンティアが消失したかに見える現在。新たなビジネスチャンスは身近なところにある。
新たな資源を求めて壮大な宇宙を目指すのもありだが、限りある資源を大切に使うスマートな社会を目指すのもクールな進化だ。誰もが情報発信が可能になり、時間と空間の制約を飛躍的に削減したITの恩恵は計り知れないが、その使い道を考え出す人のアイディアこそ面白い。

シェアリングエコノミーでは、マッチングの要素の占める割合も大きい。消費者が商品の選択をする自由はこれまでもあったが、あくまで、提供側が提示したものの中から選択する、というのがインターネット以前の売買のありようであった。ところが、ユーザーがニーズを発することで、それに応じてビジネスが成立するということも行われるようになり、ユーザーとオーナーは対等になった。こんなものが売れるのか、というものが売れたりするのである。このこと自体は、もう一つ重要な意味を担っていると筆者は考えている。それは、多様な価値観の表面化と認知である。社会が成熟段階に入ると、人々の思想や感覚は多様化する。多様な価値観に触れ、互いに認め合い受け入れ合うことが、スマート社会の形成のひとつの条件でもある。

■提供者と利用者の評価

シェアリングエコノミーでは、企業だけではなく、個人がオーナーとなることも多い。ではサービスの質は、どのように担保されるのか。
その最大のよりどころは、サービス利用後に行われる、提供者と利用者双方による評価。利用者の提供者に対する評価がサービスの品質を保ち、提供者の利用者に対する評価が、利用者の信用、クレジットヒストリーになる。
「この人はキレイに部屋を使ってくれた」というお墨付きで、その利用者は他の場所でもサービスを利用しやすくなる。「遠からず、全く異なる業界の、全く異なる種類のサービスに対しても、その信用情報が連携されるようになるだろう」とは重松氏の発言である。

■日本はどうする?

番組を通してシェアリングエコノミーのすばらしさが語られていたが、日本では海外に比べてシェアハウスも少なく、文化的になじまないのではないかという懸念も出された。
これに対してゲストやMCは、「江戸時代は長屋に住んで醤油(しょうゆ)を貸し借りする習慣があった」「英語に訳せない"もったいない"という文化がある」などの根拠を挙げ、「実は日本に向いている」という論調だった。ぜひそうあってほしいと願わずにはいられない。

"もったいない"文化は一面において真実だが、一方で「新しいこと」「手付かずであること」に重きを置く風潮は時代を問わず確かにある。石造りではなく、木と紙の家に住む文化だからという説もある。
きっかけは「必要に迫られて」かもしれないが、長い目で見た時の価値、自分個人にとっての価値、他人にとっての価値を想像または認識する力が養われ、なるべく多数がスマート社会を享受できることを切に願う。

■未来の起業家へのメッセージ

番組は、ゲストの紹介の後、海外の事例、日本の事例、地域創生とテンポよく進み、飽きることなくラストを迎えた。「未来の起業家に対するメッセージを」と促され、スペースマーケットの重松氏は、「海外で面白そうなことを見つけたら、その本質を解釈してブラッシュアップすること」と発言し、UBERの高橋氏は、「利便性、コスト、安全性を追求した結果行きついたのがシェアリングエコノミー。課題解決のモチベーションを大切に」と答えた。先から見るか、現在から発展させるか。しかし両者とも、何かを希求し続けた結果であることは同じだ。さわやかな視聴了感を得られる番組だった。

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コラムニスト:小澤 森
監修:次世代メディア研究所

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