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「日経スペシャル ガイアの夜明け」はテレビ東京系列で毎週火曜日22時から放送されている経済ドキュメンタリー番組だ。
多くの銀行が大量の不良債権を抱え、日本経済は先行き不透明だった2002年。「夜明け=日本経済の再生」を目指し、さまざまな経済の現場で奮闘する人たちを追う番組としてスタートした。

サムネイル

江口洋介/Yosuke Eguchi, Jun 22, 2015 : 映画「天空の蜂」(堤幸彦監督)の完成報告会見(写真:MANTAN/アフロ)


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「ガイア」の部分には、"地球規模で経済事象を捉える"という意味を込めているという。ただし「夜明け」=【日本】経済の再生では、"地球規模"と矛盾するのでは、と性格の悪い筆者はツッコミを入れたくなってしまう(笑)。
それでも、ウィキペディアに「大企業ばかりでなく中小企業や地方自治体、あるいは個人にスポットをあてているのが特徴」とある。確かに各回のテーマのラインアップを見ると、とかくマクロ(大企業中心)で語られがちな経済を、アングル低めに構え、視聴者の立ち位置に近い視点で見せてくれる番組であることが分かる。その姿勢には、大いに期待できると感ずる。

■残念な現実


さて、今回のテーマは「密着!会社と闘うものたち 第2弾」。2016年2月9日に放送された「密着!会社と闘う者たち~"長時間労働"をなくすために~」の続編だ。
前回放送では、2015年4月に厚生労働省で発足した「過重労働撲滅特別対策班」通称「かとく」―――長時間労働が疑われる大手企業を対象に、全国にまたがる"大規模事案"を専門で取り締まり、悪質な場合は刑事事件として摘発する―――の実際の摘発の様子が紹介された。さらに全国チェーンの引っ越しサービス会社を現役社員でありながら訴えた、一人の男性のケースを追っていた。
この男性は裁判を起こし、裁判は経過に時間を要するため、続きは後日あらためて、となったのであろう。ところがこの男性は、裁判に持ち込んだ後でなんと懲戒解雇になっていた。

■後を絶たないブラックな現場


今回は2回目ということで内容に膨らみも持たせ、番組の前半では「社会人未満」あるいは「社会に出たて」の学生の、社会経験の浅さにつけ込むようなブラックバイトの例が3例紹介された。コンビニエンスストア、学習塾、飲食店である。

コンビニエンスストアでは、正時14分前にタイムカードを押させていた。15分前だと"15分"分の時給が発生するからである。着替え"6分"分も含めた合計"20分"分の賃金未払いが常態化していた。
個別学習塾では授業前の準備、授業後のテストの採点等の時間に対して賃金が支払われていなかった。
このようなごまかしにも似たやり口は、そこまでするかという呆(あき)れたネタだが、飲食店に関してはより悪質だった。
皿を割るなどのミスに対する罰金という名目のもと、1カ月に300時間以上働いたにもかかわらず、振り込まれた給与は16万円にも満たない。時給450円相当だ。
さらに1日12時間以上の勤務、あるいは4カ月以上の連続勤務といった"長時間労働"に加え、店長(それも女性!)による恐喝まがいの"パワハラ"が加わっていた。携帯に録音されていた罵詈雑言(ばりぞうごん)は聞くに堪えないもの。しかも業務時間外にかかってきている。

「就職活動に響く」と脅され、なかなか辞められなかったそうだ。このような経験や知識の浅さからくる思い込みにつけこむ横暴さや、立場の弱い者に腹いせをする幼稚さは、本当に最低である。

■個別ケースと全体総括


学生バイト専門の労働組合ブラックバイトユニオンによると、飲食業界では慢性的な人手不足により、学生に長時間労働や過重労働を強いるケースが多いそうである。また、労働問題の専門家である青山学院大学法学部の教授は、「フランチャイズという構造そのものに問題がある」と指摘していた。
このあたり、外食産業の営業時間(深夜営業)の増加、外食比率の増減、飲食店舗数の増減などのデータや、フランチャイズ店舗とそうでない店舗の労働問題の発生頻度の比較などのデータが見たかった。個々のケースの実情はとてもよく伝わっていたが、全体を総括して初めて腑(ふ)に落ちる大事なところでもある。識者の発言にもうひとつ補強材料があれば、より説得力が出たはずだ。

■ガイアの夜は容易に明けない


さて番組後半は、前回放送の引っ越しサービス会社の男性のその後。
裁判では、「長時間労働とそれに起因する事故の弁償」という名の下での賃金未払いよりも、営業からシュレッダー係への異動に関して、「制裁と受け取れる、いつまで続けるのか」と、裁判長より痛烈な批判が申し渡された。
会社側は既に懲戒解雇は取り消していたものの、1年半もオレンジ色の服を着せ、1日中書類をシュレッダーにかけ続けるという業務を担当させていた。裁判の直前、会社側はいったん営業部門への復職を提示したが、段ボールの配達を含む業務に、自転車または電車を使うように、という嫌がらせが含まれていた。
それでも男性は、最後は完全に復職を果たし、以前の同僚と楽しそうに仕事をしていた。男性の明るい表情と、この男性以外の人物が(モザイク付きで無音声であれ)この男性と会話している様子にホットした。

飲食店の経営者といい、引っ越しサービス会社の幹部といい、インタビュー時の見え透いた言い訳や大人気ない態度は本当に信じ難いことだ。こんなことがまかり通るなどありえず、炎上商法を狙っているのかと思われるほど呆(あき)れる。
一般に、会社は所属する社員一個人よりも強い。生殺与奪とまで言わなくとも、社員の当面の暮らしに大きな影響力を持つ。周りで理不尽なことが行われていても、他の同僚が異を唱えるのは難しい。
他人よりも自分や家族。数年後の未来よりも明日の食事。この人間の生存本能というべきものが、社会の進歩の足かせになる部分があるなぁと、怒りよりも先にやりきれなさが残った番組であった。
ガイアの夜は容易に明けない......。

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コラムニスト:小澤 森
監修:次世代メディア研究所

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