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「SENSORS(センサーズ)」は日本テレビ系列で毎月最終土曜日深夜放送の、さまざまな視点からイノベーションを紹介する番組。番組ホームページによれば、"SENSORS"とは、最先端のエンターテインメントやビジネスを創造/探知する感性、またはその感性を持つ人物と定義されるそうだ。

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イメージ画像(写真:アフロ)


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MCは、リオ五輪の閉会式の演出を手掛けたライゾマティクスの代表・アートディレクター齋藤精一と、新時代の表現活動を行う筑波大学学長補佐・助教のメディアアーティスト落合陽一。
放送開始は2014年、月一ペースの深夜枠ながら、定位置を勝ち取っている。"イノベーション"という言葉がすっかり耳になじみ、目新しくなくなった現在でも番組が続いているのは、地についた内容が視聴者、スポンサー、あるいは編成担当者の心をつかんでいるからであろう。筆者も好きな番組のひとつである。

■"ライブ"&"エンターテインメント"

今回のテーマは「ライブエンターテインメント」。そもそもテレビ自体が(報道の側面をのぞいては)エンターテインメントである。しかしテレビが提供するのは、映像と音声のみ。言ってみれば仮想現実の始祖であり、ライブイベントではない。そのテレビが、客を奪い合う関係になり得る「ライブエンターテインメント」を、どのように紹介するか興味がわいた。

今回のゲスト1人目は、サイエンス・テクノロジー・アートの境界を超えたソリューションを提供する専門家集団「チームラボ」代表猪子寿之氏。2人目はLeaR(リアル:ReaLをひっくり返したそうだ)株式会社代表取締役、音楽イベントプロデューサー小橋賢児氏。
エンジニア寄りの経歴の猪子氏に対し、小橋氏は俳優出身という違いはあるが、現在の立ち位置は似ている。猪子氏は、一昨年ミラノ万博において日本館の演出を行い、金賞を受賞。小橋氏は1999年マイアミに始まった世界最大級の音楽フェスティバルULTRAを日本に輸入、3日間で約12万人を動員した。やたら小橋氏をライバル視するかのような猪子氏の発言には、視聴者に対するサービス精神を感じた。

■"ライブ"の醍醐味(だいごみ)は空間を五感で感じること

今回は拡大版での放送とあり、ゲスト2人が手掛けたイベントが数多く紹介されていた。
例えば猪子氏が手掛けた「かみさまがすまう森のアート展」。佐賀県にある、江戸時代から続く御船山楽園にプロジェクションマッピングを施し、人々の存在によって変化する幻想的なデジタルアート空間を生み出した。来園者は空間を彷徨(さまよ)いながら、何十億年の連続の上に存在する自身を体感する、というコンセプトだそうだ。
確かに、そのような時間スケールは、写真を見たり、教科書で習ったりしても実感がわかない。

小橋氏が手掛けたのは、今年5月にお台場で開催された、未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND(スターアイランド)」。ショーパフォーマンスと3Dサウンドを駆使している。
かつては特別だったものも、恒例化することで最初の感動・忘我感は失われる。そこに新たな感覚を伴わせる、伝統の拡張ともいえるイベントだ。新たな感動を生むのが目的なら、ショーパフォーマンスだけで十分ではないかと一瞬思ったが、そこは空高く上がる花火を仰ぎ見ながら、波動を伴う花火の音を聞き、漂ってくる火薬の匂いを感じるという、DNAに刷り込まれた興奮が、基本にあるのかもしれない。

■"エンターテインメント=娯楽"とは限らない

"アート""エンターテインメント"は"娯楽""癒やし"をもたらすものであり、それゆえに人や社会にとって不可欠であると筆者は思ってきた。しかし今回番組を見て、それだけではないことを学んだ。
日テレと株式会社バスキュールによるイベント「TANABATARIUM~あなたの願いが星になる~」は、エモーションをコンテンツとして昇華し、ポジティブな空気を作ろうというインタラクティブ型イベント(参加者が自らの意思で起こしたアクションの相互作用がアートとなる)である。
参加者は、あらかじめ願い事を短冊に書く代わりにスマホに入力して、5メートル四方の空間に入る。正面にスクリーンがあり、側面にはハーフミラーが置かれていることで、暗闇のスクリーンに星を模した映像が映し出されると、まるで宇宙空間にいるような感覚になる。スクリーンには、その空間にいる人の願い事が文字で映し出され、何ともあたたかな感情が共有される。

バスキュールの朴正義氏によると、人の願いを見ることで気づきを得られることを期待しているという。エモーショナルな状況で得られた気づきは、魂の奥深くに刻み込まれるであろうし、やわらかな感覚の経験そのものが、共感や思いやり、転じて社会の成熟につながるであろう。なお、映し出された映像は、参加者のスマホに保存、シェアすることもできる。

■進化と退化、いつの時代も瑞々(みずみず)しい感性を!

社会が進化、複雑化すれば、エンターテインメントも進化しなければならないのかもしれない。
フロンティアの開拓は、いつの時代にも、どの分野にも必要である。ただ、テクノロジーの発展とともに、人間が本来備えていた能力が失われるという側面もある。刺激に慣れた人間は、より強い刺激を求める。かつては感動したものも、当たり前になってしまうというのは先にも言及した通りである。

筆者はライブパフォーマンスの中でも、マイク・スピーカーを使わないクラシック音楽に造詣が深いが、拡声器やアンプを通した迫力パフォーマンスの良さは良さとして、生音の繊細な表現を聞き分けられる耳が失われつつあることを残念に思っているし、VR・ARでよりリアルな表現を享受することが、一方では想像力を奪っていくと感じていた。

番組では「人間の感覚は衰えつつあるというが、実際は逆で、むしろ研ぎ澄まされており、全感覚でものを捉えるようになっている」と議論されていた。確かに、それまで存在しなかった刺激を感じられるようになった、という意味で感覚は進化している。それでも、かつての人間が備えていた能力が退化しているのは事実だが、テクノロジーを利用すれば、それらを再獲得することも可能かもしれないとふと思った。

テクノロジーの助けを得て感動体験が得られれば、脳内に回路が作られる。
プロジェクションマッピングで森の神の息吹を感じたら、別の機会に別の場所で、プロジェクションマッピングなしでも、何かを感じることができるかもしれない。
どんな体験もリアルにはかなわない。実態は連続体であり、デジタルで処理しきれない微妙なところに心を動かす要素が詰まっている。デジタルはリアルに限りなく近付くだけだ。それに、どんなにテクノロジーが発展しても、テクノロジーそのものが感動の対象であっても、感動する主体は私たち自身である。いつの時代もみずみずしい感性を持ち続けたいものだ。

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コラムニスト:小澤 森
監修:次世代メディア研究所

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