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時代や状況を経済の視点で描く『未来世紀ジパング~沸騰現場の経済学~』。
経済的に沸騰している現場の取材から、世界の今を抉(えぐ)り、問題点や課題を提示している。その流儀で作るシリーズの中でも、「ありがとう!トランプ大統領」は、その皮肉なタイトルも含め極めて巧みな番組だった。

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U.S. President Donald Trump, West Virginia, U.S., July 24, 2017. (写真:ロイター/アフロ)


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■刺激的なオープニング

「トランプ大統領をどう思うか?」という問いに、「もう消えてほしいです。彼は自分のことしか考えていない。アメリカだけじゃなく、世界にとっても危険な存在だ」と答える中年の白人男性。中年の白人女性は、「嫌よ!......絶対に嫌。彼のせいで、世界から誤解されてしまう。アメリカを代表すべき大統領では本当にないのよ」。
いずれも全否定だ。

ところが、トランプ大統領のお陰で稼いでいる人々が続く。
70歳の白人男性は、小学校の先生だ。かつらをつけるとトランプ大統領にそっくりで、観光客などと一緒に写真に撮られ、チップを稼いでいた。「大統領には感謝だね。もう一つ仕事が増えて稼がせてもらっているよ」。
大繁盛の店も登場する。店内には、大統領の顔をプリントしたTシャツや、さまざまなグッズが大人気。「売れ行きは良いよ。トランプ大統領は大好きだ」と店員はニコニコ顔で働いている。

一体どっちが本当だろうか。
もちろん、両方とも事実だ。でも番組オープニングでのトランプ大統領の評価は両極端。ここから番組は、日本のメディアがあまり描かないトランプ大統領を支持する人々に密着する。

■逆風を蹴散らすトランプ

過激な発言で話題になることの多い大統領だが、2年前に共和党から大統領選挙への出馬を表明した瞬間から、実はその破天荒ぶりは変わっていない。
最初は「(メキシコからの移民は)ドラッグを持ち込む。犯罪を持ち込む。強姦犯だ」と言い切った。その後も「ムスリム入国禁止発言」など移民に関する極端な発言、女性蔑視発言などが続き、黒人・ヒスパニック系・人権団体など、多方面から反トランプの活動が始まった。
メディアの大半もトランプを支持せず、ついには共和党の中からも反支持の声が上がるほどだった。

それでも去年5月、共和党予備選で大統領候補指名を獲得し、11月には民主党指名候補のヒラリー・クリントンを接戦の末に破り、今年1月に第45代大統領に就任した。歴代で最も強い逆風を跳ね返し、しかも歴代最高齢で大統領に就任したのである。

■過去最低の支持率

大統領になっても、多方面からの反発が強まることはあっても、弱まることはなかった。
就任早々、一部諸国の外国人の米国入国を禁止する大統領令に署名。「アメリカ・ファースト」を掲げTPPからの離脱や、気候変動に関する国際的な協定・パリ協定からの脱退も表明した。

武力の面でも、強面ぶりは変わらない。
就任3カ月後、シリアに巡航ミサイルトマホーク59発を発射。さらにアフガニスタンISILの拠点に、核兵器に次ぐ最大級の破壊力も持つ大規模爆風爆弾兵器を使用した。
北朝鮮に対しては、武力行使も辞さない圧力優先の姿勢で臨んでいる。
原子力空母や原子力潜水艦の展開、実物のICBM迎撃実験、米韓や日米の共同軍事演習、韓国への終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備などだ。

舌戦も容赦ない。
北朝鮮のICBM発射に対しては、「金正恩は他にやることはないのか」「小さなロケットマン」などと悪態をついた。9月3日の水爆実験に対しては、国連総会で「北朝鮮を完全に滅ぼすことも辞さない」と演説。一触即発の危機となっている。

このように彼は常にニュースの中心にいる。
それでも「ロシアゲート」や人種差別的な発言など諸々の件で、大統領の支持率は37%(ギャラップ調べ)と低迷している。歴史的な低飛行だ。

■熱狂的な支持者たち

これだけ逆風がハリケーンのように吹き荒れても、それでも「ありがとう! トランプ大統領」と、熱狂的に支持し続ける人々もいる。白人を中心とした保守層だ。
『未来世紀ジパング』取材チームは、トランプ大統領を「支持する人々」に焦点を当てるロケを敢行。例えばかつてアメリカの産業の中心だった「ラストベルト(rust belt)」。中西部と大西洋岸中部に渡る脱工業化が進んでいるエリアだ。自動車産業など重工業と製造業の衰退で"忘れられた人たち"。寂れた炭鉱の町に住む人々など、劣悪な住環境やインフラ事情に喘(あえ)ぐ人々がいる。
そんな彼らの暮らしぶりをドキュメントし、ニュースが伝えないトランプ支持層のリアルな声を伝えている。

番組を見ていると、世界で何が起こっているのか、状況がなんとなく理解できて来る。
長く世界のトップを走ってきたアメリカ。ところがBRICsはこの20年で急激に豊かになり、先進国にとっては経済的な競争相手として無視できない存在になった。
より貧しい国々からは、難民移民として豊かな国に次々に移動が始まっている。こうした経済格差に対しては、テロという形で異議を唱える人々も後を絶たない。
そんな中、米国内にも格差が生じ、状況に不満を持つ人々が大量に発生していた。こうした層からトランプは、理念や理想ではなく実利で応え熱狂的な支持を得ていたのである。

番組では結論やどうあるべきかは一切言わない。
とにかく淡々と現実を紹介し、スタジオではその背景を粛々と説明する。ところが安易に意見を言わないために、かえって状況の深刻さが浮き彫りになる。
世界で何が起こっているのか。立ち止まって考えるには、最適の素材に番組はなっている。

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執筆:山下靖子(津田塾大学助教)
監修:次世代メディア研究所

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